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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 53 フランのぶっといヒール
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「スティーブ放すなよ。そうだフラン、16歳のリリアーナに戻っている。だけど久しぶりなんだから、二人きりにさせてやれ。さっ、見守りはここまでだ。使った者は双眼鏡を箱に戻せ」
アレクセイの言葉に、みな笑顔で`良かった良かった ‘ と口にしながら、双眼鏡を戻していく――サファイアを除いては……
「わっ、今カイトに睨まれた! やっぱり分かるのね。凄いわぁ……」
「サファイア、双眼鏡を箱に戻すんだ」
「兄様お願い、ちょっと待って?」
サファイアは10m程、ととと、と移動をすると、また双眼鏡を覗き込んだ。
「うん、ここなら見える! カイトったら見えない位置に移動しちゃうんだもの」
「サ~ファ~イ~ア~~~」
「兄様もうちょっとだけ! だってカイトが情熱的で、まるでロマンス小説を読んでいるみたいなの……あっ……!」
「どうした!?」
「カイトが激しすぎるのかしら? リリアーナが嫌がっているみたい……」
「――っ! ふんっ!!」
フランがそれを聞いた途端、スティーブの足をぶっといヒールで踏みつけて、渾身の一撃をみぞおちに食らわせた。
「ぐぇっ!!」
一瞬緩んだ手を振り払い、一目散に駆けて行く。しかし、不意を突かれたとはいえ、スティーブも(優秀な)騎士。すぐに体勢を立て直し、後を追った。
***
「リリアーナ……? リリアーナ!?」
はぁ~、とカイトは深い溜息を吐く。
(やってしまった……)
久しぶりに愛しい恋人を腕の中にして、かぐわしい花の香りに――甘い唇に――愛らしい反応も相まって、どうにも抑えが効かなくなってしまった。
ベンチに座り直しながら宝物を扱うように、優しく自分へと寄りかからせる。顔に落ちてきた艶やかな髪を、指先で後ろに梳き流して、そっと額にキスを落とした。
「リリアーナ様――!!」
顔を上げると、石造りの手摺りにフランチェスカが噛り付き、それをスティーブが引き剥がそうとしている。
「すまん、カイト。努力はしたんだが、邪魔したか?」
髪や衣服の乱れ、他にも噛み跡やら引っ掻き傷がスティーブからは見て取れた。
「いや、ありがとうスティーブ。幸か不幸かちょうど気絶中だ」
「ああ……! リリアーナ様が元の姿に……カイト! あんた一体何を!」
「あっ、こら、フラン! スカートで手摺りを乗り越えるな! 見えるだろ! 入り口まで回れ!」
「スティーブのケチ! あちらを見ていてくれればいいのに!」
「二人共、その入り口から出るぞ」
カイトはリリアーナを抱き上げると、すたすたと入り口に向かった。
すぐに回り込んできたフランとスティーブと共に、石畳でできた小道を歩き始める。フランがカイトの腕の中にいるリリアーナを覗き込んだ。
「さっきも言ったけど、貴方リリアーナ様に何をしたの? まあ……大体想像はつくけど……」
「面目ない」
「あら、素直」
「いいじゃないかフラン。カイトはリリアーナ様が元の姿にお戻りになるのを、一日千秋の想いで待ち焦がれていたんだから」
「別に責めている訳じゃな……」
三人の掛け合いが騒がしかったのか、リリアーナがうっすらと目を開けた。
「リリアーナ様!」
「……フラン?」
フランチェスカはリリアーナの手を両手で包み、涙をぽろぽろと零し始めた。
「良かったです……! 元の姿にお戻りになって――あっ……」
フランがカイトを見上げると、彼は頷きながら答えた。
「大丈夫だ。5歳児だった時の記憶があるから、話は通じる」
「フランはこの頃泣いてばかりね」
「リリアーナ様~~~!」
そこにバラバラと見学者……もとい二人を心配していたアレクセイ達が駆け寄ってきた。
「アレクセイ兄様!」
「リリアーナ……!」
カイトが腕から下ろした途端、リリアーナは駆け寄ってきた兄姉達に取り囲まれる。
「リリアーナ、良かった……!」
アレクセイから順番に次々と抱きしめられ、リリアーナも嬉しそうに笑顔を見せた。
喜びはしゃぐ二人の姉にリリアーナを任せて、アレクセイがカイトへと踵を返す。カイトとスティーブが背筋をぴんと伸ばし、アレクセイに向かって敬礼をした。
「カイト――リリアーナをよくぞ元の姿に戻してくれた。礼を言う」
「ありがとうございます。ただ――意図したものではなく、偶然の産物なのです」
さすがに王族の前で`くちづけただけです ‘ とは言い難い。
「それでもだ」
アレクセイがカイトの肩を叩いた。
「褒美を与えよう。何が欲しい?」
「本当に意図したわけではないので、そのようなお気遣いは必要ありません」
「これはリリアーナをルイスから取り返した褒美も兼ねている。遠慮をするな」
「褒美はもう……休暇を頂きました」
「それはリリアーナの申し出で、実は正式なものではない。これは私と国王である父上からの褒美だ。返事は今でなくてもいいから、ゆっくり考えろ」
サイラスが東屋から偽の魔法の杖を拾ってきて、アレクセイに手渡した。
「――そうしましたら、一つお願いがあります」
「何だ?」
「今宵一晩、リリアーナ様の寝室で共に過ごすことをお許し下さい――」
アレクセイが偽物の杖を取り落とし、周囲にいた者達も息を呑み、落ちた杖が石畳の上で乾いた音を響かせた。
アレクセイの言葉に、みな笑顔で`良かった良かった ‘ と口にしながら、双眼鏡を戻していく――サファイアを除いては……
「わっ、今カイトに睨まれた! やっぱり分かるのね。凄いわぁ……」
「サファイア、双眼鏡を箱に戻すんだ」
「兄様お願い、ちょっと待って?」
サファイアは10m程、ととと、と移動をすると、また双眼鏡を覗き込んだ。
「うん、ここなら見える! カイトったら見えない位置に移動しちゃうんだもの」
「サ~ファ~イ~ア~~~」
「兄様もうちょっとだけ! だってカイトが情熱的で、まるでロマンス小説を読んでいるみたいなの……あっ……!」
「どうした!?」
「カイトが激しすぎるのかしら? リリアーナが嫌がっているみたい……」
「――っ! ふんっ!!」
フランがそれを聞いた途端、スティーブの足をぶっといヒールで踏みつけて、渾身の一撃をみぞおちに食らわせた。
「ぐぇっ!!」
一瞬緩んだ手を振り払い、一目散に駆けて行く。しかし、不意を突かれたとはいえ、スティーブも(優秀な)騎士。すぐに体勢を立て直し、後を追った。
***
「リリアーナ……? リリアーナ!?」
はぁ~、とカイトは深い溜息を吐く。
(やってしまった……)
久しぶりに愛しい恋人を腕の中にして、かぐわしい花の香りに――甘い唇に――愛らしい反応も相まって、どうにも抑えが効かなくなってしまった。
ベンチに座り直しながら宝物を扱うように、優しく自分へと寄りかからせる。顔に落ちてきた艶やかな髪を、指先で後ろに梳き流して、そっと額にキスを落とした。
「リリアーナ様――!!」
顔を上げると、石造りの手摺りにフランチェスカが噛り付き、それをスティーブが引き剥がそうとしている。
「すまん、カイト。努力はしたんだが、邪魔したか?」
髪や衣服の乱れ、他にも噛み跡やら引っ掻き傷がスティーブからは見て取れた。
「いや、ありがとうスティーブ。幸か不幸かちょうど気絶中だ」
「ああ……! リリアーナ様が元の姿に……カイト! あんた一体何を!」
「あっ、こら、フラン! スカートで手摺りを乗り越えるな! 見えるだろ! 入り口まで回れ!」
「スティーブのケチ! あちらを見ていてくれればいいのに!」
「二人共、その入り口から出るぞ」
カイトはリリアーナを抱き上げると、すたすたと入り口に向かった。
すぐに回り込んできたフランとスティーブと共に、石畳でできた小道を歩き始める。フランがカイトの腕の中にいるリリアーナを覗き込んだ。
「さっきも言ったけど、貴方リリアーナ様に何をしたの? まあ……大体想像はつくけど……」
「面目ない」
「あら、素直」
「いいじゃないかフラン。カイトはリリアーナ様が元の姿にお戻りになるのを、一日千秋の想いで待ち焦がれていたんだから」
「別に責めている訳じゃな……」
三人の掛け合いが騒がしかったのか、リリアーナがうっすらと目を開けた。
「リリアーナ様!」
「……フラン?」
フランチェスカはリリアーナの手を両手で包み、涙をぽろぽろと零し始めた。
「良かったです……! 元の姿にお戻りになって――あっ……」
フランがカイトを見上げると、彼は頷きながら答えた。
「大丈夫だ。5歳児だった時の記憶があるから、話は通じる」
「フランはこの頃泣いてばかりね」
「リリアーナ様~~~!」
そこにバラバラと見学者……もとい二人を心配していたアレクセイ達が駆け寄ってきた。
「アレクセイ兄様!」
「リリアーナ……!」
カイトが腕から下ろした途端、リリアーナは駆け寄ってきた兄姉達に取り囲まれる。
「リリアーナ、良かった……!」
アレクセイから順番に次々と抱きしめられ、リリアーナも嬉しそうに笑顔を見せた。
喜びはしゃぐ二人の姉にリリアーナを任せて、アレクセイがカイトへと踵を返す。カイトとスティーブが背筋をぴんと伸ばし、アレクセイに向かって敬礼をした。
「カイト――リリアーナをよくぞ元の姿に戻してくれた。礼を言う」
「ありがとうございます。ただ――意図したものではなく、偶然の産物なのです」
さすがに王族の前で`くちづけただけです ‘ とは言い難い。
「それでもだ」
アレクセイがカイトの肩を叩いた。
「褒美を与えよう。何が欲しい?」
「本当に意図したわけではないので、そのようなお気遣いは必要ありません」
「これはリリアーナをルイスから取り返した褒美も兼ねている。遠慮をするな」
「褒美はもう……休暇を頂きました」
「それはリリアーナの申し出で、実は正式なものではない。これは私と国王である父上からの褒美だ。返事は今でなくてもいいから、ゆっくり考えろ」
サイラスが東屋から偽の魔法の杖を拾ってきて、アレクセイに手渡した。
「――そうしましたら、一つお願いがあります」
「何だ?」
「今宵一晩、リリアーナ様の寝室で共に過ごすことをお許し下さい――」
アレクセイが偽物の杖を取り落とし、周囲にいた者達も息を呑み、落ちた杖が石畳の上で乾いた音を響かせた。
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