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76 密偵から報告を受けた

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 密偵から報告を受けた。

 ”強引に婚約を押し進めたダニエル殿下は、エリカ嬢に対して、良心の呵責を感じているようです”

 オズワルドの口が弧を描く。

(うまく突けば、婚約解消へと導けそうだ)

 実際には突く必要もなく、ダニエルの気持ちは嬉しいことに、破談へと動いた。

 後は傷心のエリカを手に入れさえすればいい。

「それを……」

 ぎりっと奥歯を噛みしめる。 

「モーガンの阿呆め……」

 あいつが私怨に走らなければ、二人の仲は壊れたものを――。

 進行係が声を張り上げた。

「決勝戦を開始します!」

***

 ダニエルとオズワルドは激しく剣を交え、睨み合う。

 鬼気迫る二人の様子に観客が息を呑んだ。

 キ――ンッ!

 ダニエルがオズワルドの剣を音高く弾き飛ばし、剣先を心臓の上にピタリと当てる。

「そこまで! ダニエル殿下の勝利!」

 緊張感溢れる試合が決し、観客がワァッと沸いた。

「ダニエル、おめでとう!」

 剣を鞘におさめたダニエルに向かって、勢いよく駆け寄ってきたエリカが抱きつく。

 二人は興奮した観衆から、盛大なスタンディングオベーションを受けた。

 エリカの身体を抱き締めながらも、なぜかダニエルの表情は硬い。

「どうしたの、ダニエル?」

「……かちを譲られた気がする」
 
 歓声にかき消され、ダニエルの呟きはよく聞き取れなかった。

「”勝を……” 後は何て言ったの?」

 こてんと首を傾げ、見上げてくるエリカは愛くるしく、ダニエルは緊張を解いて微笑む。

(俺の考えすぎか――)

 表彰式では跪いたダニエルに、エリカが月桂樹の冠を被せ、頬にキスをした。

 観客は二人に盛大な拍手を送る。

 ダニエルも立ち上がってエリカと並び、観客に手を振った。笑顔で手を振りながら、そっとエリカに囁く。

「祝勝会で、正式に君との結婚を発表する。式は一か月後だ」


 
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