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77 目を大きく、口もあんぐり

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「……………へ?」

 目を大きく、口もあんぐりと開けて、ダニエルを見上げるエリカ。

 ダニエルが思わせぶりにエリカの手を取り、くちづける。

「一か月だと早すぎるか? なら、三か月後にしよう」

「ああ、良かった! 一か月だとドレスが間に合わ……じゃない!」

「ん?」

「婚約を解消するかどうかって話だったのに、結婚って!」

「まずいのか?」

 屈んで今度はエリカの目元にくちづけた。

 くすぐったそうに身をよじるエリカを見て、観客は喜び、ヒューヒューと冷やかし始める。

 これでは冷静に考えられないし、何より恥ずかしい。羞恥プレイですか?

「ダ、ダニエル、やめて!」

「なぜ嫌がる?」

 さすが王族。見られるのは慣れているらしい。

「だって恥かしいし、考えられなくなるし、いきなり挙式も早過ぎ…、」

 まくしたてるエリカを、琥珀の瞳が愛を湛え、見つめていることに気づいた。

 エリカの声は段々と小さくなっていき、代わりに胸の奥底から、ある想いが湧き上がってくる。

 この人とずっと一緒にいたい――

 喧噪の中、ダニエルはエリカをかさず、次の言葉を待っていた。

 愛おしそうにエリカを見つめたまま……。

 エリカは拳をキュッと握り、ダニエルを見つめ返した。

「話したいことがあるの」

 澄んだ瞳で、真っ直ぐに見つめる。

「ここでは話せない内容か?」

 エリカがこくんと頷く。

 結婚するならば、正直に女性である事を打ち明けてほしい。ゲームのエリカルートでは、女性である事を隠して、一生国王として生きた。そんな不自由な生活をダニエルにはさせたくない。

 女王として胸を張り、私と結ばれてほしいのだ。

「……分かった。祝勝会の前に、時間を作ろう」

 ほっと安堵したエリカが嬉しそうに微笑んだ。それはまるで、春の訪れを告げる、スノードロップのつぼみが花開くように、清楚で愛らしく……    

「ダニエル。ありがぁっ!?」

 可愛い! とばかりに抱き締められ、ぐるぐる回され、ふらふらになったところで、ぎゅうっとまた抱き締められた。

 観客は沸き返り、エリカの顔じゅうにキスするダニエルを囃し立てる。

「ダニエル様。それ位にして下さい。表彰式が終わりません」

 傍に控えていたヨハンに促されて、ダニエルはくたっとしたエリカを片腕に抱いたまま、観客に手を振る。

 大歓声を浴びながら、武闘大会の幕は閉じた。


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