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73 愛している――

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 エリカのまなじりにじわっと涙が滲んだ。

「うそよ……」

「うそじゃない」

「うそ! だって、婚約を解消するのでしょう……?」

 ダニエルの腕の中から逃れようと、うつむいて固い胸を押し返す。 

 彼はエリカの肩を掴み、強引に視線を合わせた。

「エリカ、うそじゃない」

「ならなぜ、私を避けていたの?」

「それは……、決勝戦が終わったら、君を自由にしてあげたかったから」

「”自由にしてあげたい”なんて、ずるい言い方。やっぱり解消するんじゃない……!」

 正しいルートに入り、別れを覚悟していたところに、”愛している”と、なぜ希望を持たせるような事を言うのだろう。

 涙は溢れ、エリカはたかぶった負の感情を抑える事ができなかった。

「離して!」

 身を引こうとするエリカの、背中に回していた腕に力がこもる。

 力一杯押し返すエリカを、ダニエルは難なく抱き締めた。

「愛している――。愛しているからこそ、辛くとも、君を手放さなくてはと考えたんだ」

「………」

 エリカが潤んだ瞳で、おずおずとダニエルを見上げる。

 ダニエルの言葉が信じられず、苦し気に、小さく唇を震わせていた。

(全く……彼女は分かっているのだろうか。切なそうな表情や、震える唇が、いかに男の欲望を掻き立てるかを……)

 理性が崩れそうになるのをグッと抑えながら、ダニエルは話を続ける。

「オズワルドが君に、俺に対する気持ちを聞いた時、答えるのを躊躇っただろう? それでなくても普段から君は、婚約解消をすぐ口にしていたし望みはないと思ったんだ。俺が王子だから断れずにいるのだと……でもさっき闘技場で、君は身体を張って俺を――」
 
 わざと言葉を切るダニエルに、エリカの頬が紅く染まっていく。

「――君は俺のことを愛しているね?」

「わ、わたしは……」

 ダニエルが顔を近づけた。ハッとしたエリカは顔を背ける。

 笑みをもらしたダニエルが、桜色に染まった耳朶に唇で触れ……、甘く噛んだ。

「――っ!?」

 ピクっと身体を揺らすエリカの耳元に顔を埋め、かすれた声で囁く。

「愛している、だろう?」

「そ、そんなハスキーな声で、耳まで噛ま……やっ!」

 再び噛まれ、真っ赤になってじたばた離れようとするエリカに、ダニエルがクスリと笑って、捕らえる力を強くする。

「今更”愛してない”と言われても、信じられないし、もう君を離してもやれない」

 じっと見つめられ、手のひらで頬を包まれ、唇を重ねられた。

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