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70 あんた、バッカじゃない!?

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 ダニエルの背後でモーガンが剣を振りかざす。

「ダニエル危ない!」

「!!」

 一気に振り下ろされた剣を、皮一枚でかわしてダニエルは叫ぶ。

「エリカ、来るな!」

「ちっ!」

 モーガンは舌打ちをして、剣を抜く隙を与えず、ダニエル目がけて斬り込んできた。

 攻撃を躱し、ダニエルはモーガンの背後に回り込もうとする。

 すかさずダニエルの長い髪を掴み、力いっぱい引っ張るモーガン。

「放せ!」

 身動きが取れなくなり怒鳴るが、モーガンはニヤニヤしながら距離を縮めていった

 客席からはブーイングが上がり、非難の声がモーガンに集中する。

「モーガンやめるんだ! 剣を下ろしなさい!」

 止めに入った審判を切りつけて、腕に傷を負わせた。

 女性客の間からは悲鳴が上がり、ダニエルは隙を見て腰のダガーを抜く。

 自分の髪を掴むと、根元からバッサリ切り落とした。

「ひいぃいいいいい!」

(ダニエルの髪が、艶やかでコシのあるブロンドがぁああああ!)

 驚愕のあまり、淑女らしかぬ叫び声を上げるエリカ。自由になったダニエルが長剣を抜く。

 しかしその時にはモーガンが、真っ直ぐに刃先をダニエルに向け、攻撃を仕掛けていた。

 ダニエルはぎりぎり避けそこない、頬に傷を負う。

(傷う! 白い頬に傷うぅうううう!!)

「モーガン剣を捨てろ! 何が望みだ!? 優勝はもう望めないぞ!!」

「お前に何が分かる! 何でもできて、優秀なお前に!!」

 ダニエルが訝し気な目でモーガンを見やる。

「幼い頃からずっと比べられてきた! 何をやっても、成果を上げても!”ダニエルは凄い、お前も見習え”と……」

 憎々し気にダニエルを睨みつける。

「騎士になり、剣では団長、副団長に次いで三番目の実力にまで上り詰めたのにダニエル、お前には敵わない。武闘大会ではお前がいつも優勝するんだ」

 モーガンは剣をきつく握り、構えた。

「俺はこれでお前から、解放されるんだ――!」

 モーガンの異様な形相に、ダニエルが呟く。

「まさか刺し違える気か?」

「そうでなければ、お前に勝てない」

 言うと同時にダニエルめがけて、モーガンが突っ込んできた。

 ダニエルが剣を構えた刹那、バシャアア!と、モーガンに水がぶちまけられる。

「―――――は?」

 何が起こったか分からずに硬直する二人。

 エリカが半泣きして大声で言い放った。

「バッカじゃない!? あんた、逆恨みするんじゃないわよ!!」

 防火用の木のバケツを片手にぶら下げて、いつの間にか二人の傍でエリカが仁王立ちしていた。 

 
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