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68 マウントを取られはしたが
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”ああ、またか”とエリカは思う。
”ダニエルは勝って当たり前”と思う人々。
エリカが気に入らずにマウントを取ってくる人々。
(この緑の髪の女性、侯爵家の令嬢よね。ダニエルがどうこうより、平凡で、爵位も下の私が王子の婚約者なのが気に食わないんだわ。でもダニエルのことを言われて黙っているほど、私はお人よしじゃないの)
「ダニエル様は努力しています」
エリカは背筋を伸ばし、緑の髪の女性を見据えて言う。
「ダニエル様はわたくしが”休んで”と言っても聞きません。皆の期待に応えるために、日々努力をしているのです。それともあなたはこの大会を、努力をしなくても簡単に優勝できるような類のものだとお考えなのですか?」
「あっ、いえ……」
大人しそうなエリカが言い返してくるとは、思っていなかった令嬢は口ごもる。
「あなたの剣士様も、上位にいらっしゃるのよね? その剣士様も努力をしないで勝ち進んでいらしたのかしら? 天才だから上手くやれるし、勝って当たり前だとでも?」
「か、彼はダニエル様と違って、普通の人だから…」
「ダニエルもその彼と同じです。優勝するために血の滲むような努力をして、今の地位に就いたのです。何も知らないあなたが、どうこう言う権利はありません」
言い切った後にエリカは、ふと本音を漏らす。
「寧ろ無理をし過ぎなくらいで、負けたっていいと思うのに……」
その呟きを聞いた緑髪の女性は、膝に置いた手をギュっと握り締めて黙り込んだ。
「次の試合が始まりましたよ」
金髪の女性が雰囲気を変えようと声をかけてくれた。
「実は彼、わたくしの婚約者ですの」
「………え、あなた大人しくしている場合じゃないでしょう! 応援しないと!」
「は、はい! 頑張ります!」
金髪の女性の婚約者は見事に勝ち、緑髪の女性の剣士は負けてしまった。
エリカは緑髪の女性の剣士が負けたことを、いい気味だとは思わない。
言うべきことは言ったし、闘技場にいる剣士が皆頑張っていることを知っているからだ。
ダニエルは順当に勝ち進み、準決勝まで駒を進めた。
「隣国のオズワルド様もお強いのですね。このままいけば、ダニエル様とオズワルド様の一騎打ちが拝めますよ」
そうなのだ。
オズワルド王子も参加しているのだ。
オズワルドが訪れた当初に組み込まれ、公式パンフレットに名前が載っているのもあり、取り消しができなかったのだ。
それも勝ち進んでいて、このままだとダニエルと決勝戦で当たる。エリカは心中穏やかでない。
ちなみに彼の女神は妹のルクレツィア王女だ。
「ルクレツィア王女って、本当に天使のようにお可愛らしい方ですね」
(うん、見かけだけわね)
ルクレツィアは新たなるターゲットを物色中のようで、周囲に愛嬌を振りまいていた。
ちなみに騎士団長のフォルカーと、副団長のラファエルは、強さが別格なので試合には参加しない。
「次は騎士団期待のモーガン様が相手ですわ。ダニエル様は苦戦するかもしれませんわね」
「そうね」
ダニエルの二歳年上の従兄で、騎士団に在籍しているモーガン。
脳筋のモーガンは、ダニエルに対して勝手にライバル心を燃やしている。
騎士でないダニエルに敵わない上に、彼が武闘大会で優勝するのが許せなくて何かと絡んでくるのだ。
子供の頃から優秀なダニエルとずっと比べられてきた辺りに、積年の恨みがあるのかもしれない。
今年のモーガンは剣の腕を上げたようで、エリカから見てもダニエルと遜色ない。
エリカは木の階段を下り、ダニエルのもとへ向かった。
ダニエルは今まで試合前に、勝利宣言をしてエリカに捧げてきたが、今回だけは違った。
エリカの頬に両の手のひらを当てて、優しく微笑みながら彼女を見下ろす。
「ダニエル……?」
「大会が終わったら、婚約を解消しよう」
”ダニエルは勝って当たり前”と思う人々。
エリカが気に入らずにマウントを取ってくる人々。
(この緑の髪の女性、侯爵家の令嬢よね。ダニエルがどうこうより、平凡で、爵位も下の私が王子の婚約者なのが気に食わないんだわ。でもダニエルのことを言われて黙っているほど、私はお人よしじゃないの)
「ダニエル様は努力しています」
エリカは背筋を伸ばし、緑の髪の女性を見据えて言う。
「ダニエル様はわたくしが”休んで”と言っても聞きません。皆の期待に応えるために、日々努力をしているのです。それともあなたはこの大会を、努力をしなくても簡単に優勝できるような類のものだとお考えなのですか?」
「あっ、いえ……」
大人しそうなエリカが言い返してくるとは、思っていなかった令嬢は口ごもる。
「あなたの剣士様も、上位にいらっしゃるのよね? その剣士様も努力をしないで勝ち進んでいらしたのかしら? 天才だから上手くやれるし、勝って当たり前だとでも?」
「か、彼はダニエル様と違って、普通の人だから…」
「ダニエルもその彼と同じです。優勝するために血の滲むような努力をして、今の地位に就いたのです。何も知らないあなたが、どうこう言う権利はありません」
言い切った後にエリカは、ふと本音を漏らす。
「寧ろ無理をし過ぎなくらいで、負けたっていいと思うのに……」
その呟きを聞いた緑髪の女性は、膝に置いた手をギュっと握り締めて黙り込んだ。
「次の試合が始まりましたよ」
金髪の女性が雰囲気を変えようと声をかけてくれた。
「実は彼、わたくしの婚約者ですの」
「………え、あなた大人しくしている場合じゃないでしょう! 応援しないと!」
「は、はい! 頑張ります!」
金髪の女性の婚約者は見事に勝ち、緑髪の女性の剣士は負けてしまった。
エリカは緑髪の女性の剣士が負けたことを、いい気味だとは思わない。
言うべきことは言ったし、闘技場にいる剣士が皆頑張っていることを知っているからだ。
ダニエルは順当に勝ち進み、準決勝まで駒を進めた。
「隣国のオズワルド様もお強いのですね。このままいけば、ダニエル様とオズワルド様の一騎打ちが拝めますよ」
そうなのだ。
オズワルド王子も参加しているのだ。
オズワルドが訪れた当初に組み込まれ、公式パンフレットに名前が載っているのもあり、取り消しができなかったのだ。
それも勝ち進んでいて、このままだとダニエルと決勝戦で当たる。エリカは心中穏やかでない。
ちなみに彼の女神は妹のルクレツィア王女だ。
「ルクレツィア王女って、本当に天使のようにお可愛らしい方ですね」
(うん、見かけだけわね)
ルクレツィアは新たなるターゲットを物色中のようで、周囲に愛嬌を振りまいていた。
ちなみに騎士団長のフォルカーと、副団長のラファエルは、強さが別格なので試合には参加しない。
「次は騎士団期待のモーガン様が相手ですわ。ダニエル様は苦戦するかもしれませんわね」
「そうね」
ダニエルの二歳年上の従兄で、騎士団に在籍しているモーガン。
脳筋のモーガンは、ダニエルに対して勝手にライバル心を燃やしている。
騎士でないダニエルに敵わない上に、彼が武闘大会で優勝するのが許せなくて何かと絡んでくるのだ。
子供の頃から優秀なダニエルとずっと比べられてきた辺りに、積年の恨みがあるのかもしれない。
今年のモーガンは剣の腕を上げたようで、エリカから見てもダニエルと遜色ない。
エリカは木の階段を下り、ダニエルのもとへ向かった。
ダニエルは今まで試合前に、勝利宣言をしてエリカに捧げてきたが、今回だけは違った。
エリカの頬に両の手のひらを当てて、優しく微笑みながら彼女を見下ろす。
「ダニエル……?」
「大会が終わったら、婚約を解消しよう」
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