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60 仮面舞踏会から三日が過ぎ………
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***仮面舞踏会から更に三日が過ぎ………
執務室の扉がノックされた。
「ダニエル様。よろしいでしょうか」
「入れ」
大きな執務机の上には書類が広げられていて、ダニエルと何人かの文官は、立ってそれらを見下ろしながら議論していた。
ダニエルがヨハンに顔を向ける。
「少し待っていて…くれ……」
ヨハンの深刻な表情に、ダニエルが言葉を切り、文官達に向き直った。
「仕事はこれくらいにして昼食にしよう」
お辞儀をして、文官達は部屋から出ていく。
「どうした?」
「そっくりさんの令嬢方に使いを出し、招集の件を伝えました。その際にダニエル様のご指示通り、仮面の有無を確認しましたところ……」
言いにくそうなヨハンに、”ん?”と目を眇めるダニエル。
「全員が、仮面を所持しておりました」
「全員が? ――まさか、」
「はい。すぐエリカ様にも確認したほうが…」
ドンドンドンと扉が激しく叩かれた。
「ダニエル様! オズワルド様が!」
***
エリカは舞踏会以来の登城で、その足取りは重かった。
(オズワルド王子に助けられた事を伝えないと……)
俯き加減で廊下を歩く。
舞踏会の日に手当を受けた後は、すぐ自宅に帰されてしまい、その後もダニエルが忙しく、今日まで話せていないのだ。
片手にランチ入りのバスケットを持ったラファエルが、声を掛けてきた。
「エリカ様。何か憂い事でも?」
「えっ、いいえ、別に何でもないの」
首を振るエリカに、ラファエルの顔が曇る。彼の顔が曇るのも当然で、エリカは馬車に乗った時から言葉少なく、城に着いた途端、頭からすっぽりとヴェールを被り、ひたすら下を向いて歩いていた。
エリカがヴェールで顔を隠しているのは、もちろんオズワルドに見つからないためである。
舞踏会の夜。あのベンチでの彼の態度が気になった。
(考えすぎかな……。ゲームでエリカは、オズワルドから見たらモブのような相手だし、もう私のことも忘れているかもしれない)
途中、中庭を囲む回廊でぞろぞろと歩いてくる文官達と出くわした。
「エリカ様」
頭を下げる文官達に、エリカもヴェールを上げ、顔を覗かせて挨拶をする。
「お仕事が終わったのですね」
「はい。殿下ですが、ヨハンと深刻そうな話を始めたので、少し遅れて行ったほうがいいかもしれません」
「まぁ……、教えてくれてありがとう。そうするわ」
「中庭で休んでいかれますか?」
ラファエルの言葉に、エリカと護衛騎士達は、中庭へと続く階段を下りた。
石でできたベンチの上に、ラファエルがハンカチを敷く。
「エリカ様。こちらへどうぞ」
「ありがとう。バスケットも重いでしょう? どうぞこちらに置いて下さい」
エリカがベンチに座り、横を示す。
「お言葉に甘えさせて頂きます」
ラファエルにとっては重くもないのだが、エリカの好意を受けて、バスケットを横に置いた。
「あら、あなた達」
早速リスが数匹、エリカのスカートを登ってきた。
「匂いを嗅ぎつけてきたのね。待って、今分けてあげる」
リスが待てを出来るはずもなく、催促なのか、エリカのヴェールを引っ張り始めた。クスクス笑いながらエリカはバスケットの蓋を開ける。
「ほら、リンゴをあげるから…」
リンゴを取り出し、ナイフで切り分け始めた。嬉々としたリス達がエリカの手元に殺到する。
「ナイフを使っているから危ないわよ」
リスが待ちきれずにまた引っ張り、ヴェールが頭から滑り落ちてしまった。
「お前達……」
溜息を吐いたラファエルがヴェールを拾い上げる。リンゴを配り終えたエリカが微笑んでラファエルを見上げ、受け取ろうと手を差し伸べた。
「ラファエル、ありが…」
「エリザベス!!」
天から声が降ってきた。
執務室の扉がノックされた。
「ダニエル様。よろしいでしょうか」
「入れ」
大きな執務机の上には書類が広げられていて、ダニエルと何人かの文官は、立ってそれらを見下ろしながら議論していた。
ダニエルがヨハンに顔を向ける。
「少し待っていて…くれ……」
ヨハンの深刻な表情に、ダニエルが言葉を切り、文官達に向き直った。
「仕事はこれくらいにして昼食にしよう」
お辞儀をして、文官達は部屋から出ていく。
「どうした?」
「そっくりさんの令嬢方に使いを出し、招集の件を伝えました。その際にダニエル様のご指示通り、仮面の有無を確認しましたところ……」
言いにくそうなヨハンに、”ん?”と目を眇めるダニエル。
「全員が、仮面を所持しておりました」
「全員が? ――まさか、」
「はい。すぐエリカ様にも確認したほうが…」
ドンドンドンと扉が激しく叩かれた。
「ダニエル様! オズワルド様が!」
***
エリカは舞踏会以来の登城で、その足取りは重かった。
(オズワルド王子に助けられた事を伝えないと……)
俯き加減で廊下を歩く。
舞踏会の日に手当を受けた後は、すぐ自宅に帰されてしまい、その後もダニエルが忙しく、今日まで話せていないのだ。
片手にランチ入りのバスケットを持ったラファエルが、声を掛けてきた。
「エリカ様。何か憂い事でも?」
「えっ、いいえ、別に何でもないの」
首を振るエリカに、ラファエルの顔が曇る。彼の顔が曇るのも当然で、エリカは馬車に乗った時から言葉少なく、城に着いた途端、頭からすっぽりとヴェールを被り、ひたすら下を向いて歩いていた。
エリカがヴェールで顔を隠しているのは、もちろんオズワルドに見つからないためである。
舞踏会の夜。あのベンチでの彼の態度が気になった。
(考えすぎかな……。ゲームでエリカは、オズワルドから見たらモブのような相手だし、もう私のことも忘れているかもしれない)
途中、中庭を囲む回廊でぞろぞろと歩いてくる文官達と出くわした。
「エリカ様」
頭を下げる文官達に、エリカもヴェールを上げ、顔を覗かせて挨拶をする。
「お仕事が終わったのですね」
「はい。殿下ですが、ヨハンと深刻そうな話を始めたので、少し遅れて行ったほうがいいかもしれません」
「まぁ……、教えてくれてありがとう。そうするわ」
「中庭で休んでいかれますか?」
ラファエルの言葉に、エリカと護衛騎士達は、中庭へと続く階段を下りた。
石でできたベンチの上に、ラファエルがハンカチを敷く。
「エリカ様。こちらへどうぞ」
「ありがとう。バスケットも重いでしょう? どうぞこちらに置いて下さい」
エリカがベンチに座り、横を示す。
「お言葉に甘えさせて頂きます」
ラファエルにとっては重くもないのだが、エリカの好意を受けて、バスケットを横に置いた。
「あら、あなた達」
早速リスが数匹、エリカのスカートを登ってきた。
「匂いを嗅ぎつけてきたのね。待って、今分けてあげる」
リスが待てを出来るはずもなく、催促なのか、エリカのヴェールを引っ張り始めた。クスクス笑いながらエリカはバスケットの蓋を開ける。
「ほら、リンゴをあげるから…」
リンゴを取り出し、ナイフで切り分け始めた。嬉々としたリス達がエリカの手元に殺到する。
「ナイフを使っているから危ないわよ」
リスが待ちきれずにまた引っ張り、ヴェールが頭から滑り落ちてしまった。
「お前達……」
溜息を吐いたラファエルがヴェールを拾い上げる。リンゴを配り終えたエリカが微笑んでラファエルを見上げ、受け取ろうと手を差し伸べた。
「ラファエル、ありが…」
「エリザベス!!」
天から声が降ってきた。
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