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59 どちらのご令嬢だ?

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 ***仮面舞踏会の翌朝

「ダニエル様、おはようございます」

「おはようルクレツィア王女に……オズワルド、王子……?」

 朝日が射すダイニングルーム。

 オズワルドは席に着き、食事をしないでくうを見て、ほう―……と溜息を吐いている。

「今朝から……ううん、昨夜からずっとあんな感じなの」

 ルクレツィアは、エリカに対するダニエルの絶大なる溺愛ぶりにドン引きして、早々に身を引いた。

 猫を被るのもやめて、今ではタメ口なのである。

「頭でも打ったのか?」

「私もそう思ったんだけど、どうも違うようで……あっ、ほら見て、何か出したわよ!」

 オズワルドが懐からハンカチにくるんだものを取り出して目の前に置き、丁寧に広げ始める。

 中から出てきたそれは……

「仮面だわ」

 オズワルドは魅せられたように、仮面を取り上げてそっとくちづけた。

「兄さまキモい……」

「あれは……、」

「えっ、ダニエル様、何を!?」

 ダニエルはつかつかと近づき、オズワルドの手から仮面を取り上げてまじまじと見る。

「返せ!」

 ひったくるように仮面を取り戻すオズワルド。
 
「そっくりさんの仮面か?」

「そうだ。素晴らしい女性だった……。お前の婚約者のように絶世の美女ではないが、絶世の、可愛さだった――」

 夢見るように、手の中にある仮面を見つめた。

「どちらのご令嬢だ?」

 オズワルドが首を振る。

「飲み物を取りに行っている間に消えてしまったんだ。詳しい身元は分からない……でも名前は聞いているぞ! エリザベスだ」

「エリザベス……。そんな名前の令嬢は、そっくりさんにいないはずだが」

「えっ、」

「ヨハン」

「はい」

 朝食を取りながら成り行きを見ていたヨハンが、席を立って近づいてきた。
 
「オズワルド様。そっくりさんはわたくしが手配したのですが、エリザベスという名前のご令嬢はいらっしゃいませんでした」

「馬鹿な……、そうだこの仮面はどうだ! これで誰か分からないか!?」

「仮面は残念ながら、全員同じものを用意しました。ドレスなら一着ごとに、刺繍の図案を少しずつ変えてありますが……」

「そこまで意識しては見ていなかった」

「そんなに会いたいのか?」

「会いたい」

 きっぱりと言い切ってダニエルを見つめる。
 
「分かった。ヨハン、いつなら令嬢方を集められる?」

「そうですね、舞踏会の後片付け。馬鹿子息たちの廃嫡処理に、令嬢方もいきなりでは難しいでしょうから……、5日後でしたら全員集められるかと」

「それで頼む」

「ダニエル、恩に着る……! お礼に何でもするから言ってくれ!」

 オズワルドは立ち上がり、ダニエルの両手を掴んで破顔した。

「”気に入った娘がいたら仲を取り持つ”と言ったじゃないか。でも、そう言ってくれるなら、あれが欲しい。お前名義の銀鉱山」

「俺名義とかよく知ってるな。やるもんか、図々しい。あれは無理だ」 

「残念。貨幣を造る材料にしたかったのに」

 肩をすくめるダニエルに、オズワルドが笑い声をあげた。

「それでは早速手配いたします」

「ヨハン、訪問時に確認してほしい事がある。令嬢方に出す使いに伝えてくれ。舞踏会で……」

「かしこまりました」

 ダニエルの支持に頭を下げ、ヨハンは退室した。
  
「ダニエル様もお兄様もいいわねぇ」

 ダニエル狙いでやって来たルクレツィアは、自分だけ相手がいなくて面白くない。

 しかしオズワルドのあんな嬉しそうな顔を見るのは初めてで……

「まぁ、いいか。奥手の兄さまにやっと思い人ができたのだし」

 何やかや言って、兄想いなルクレツィアであった。
 
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