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47 ダニエル様は恥ずかしくないのですか!?

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「いま、扉が開いて、フォルカー様の声がしませんでしたか?」

「フォルカーだった」

「………え?」
 
 エリカはダニエルの胸を強く押しやり、信じられないといった様子で彼を見やる。

「なぜ、言って下さらなかったんですか……!」

(どうしよう……フォルカールートは風前の灯だというのに。いや、それよりも……)

 見下ろす彼の目が細められ、周囲の温度がヒヤリと下がった。

「フォルカーに見られて、なぜそこまで狼狽える?」

「扉が開いて、見られたのはフォルカー様だけではないでしょう!? むつみ合っているところを、皆に見られたんですよ! ダニエルは恥ずかしくないのですか!」

 奥手で(実は)慎み深く、元は日本人でもあるエリカは、羞恥心に押しつぶされそうだ。
 
「睦み………」

 ぷっとダニエルが吹き出した。

「な、なにを笑って……もうわたし、馬車から降りられないわ!」  

 ワナワナ震えて立ち上がり、離れようとするエリカの腰に、ダニエルの両腕が巻き付いた。

「離して!」

 ぽかぽかと彼を叩くエリカを、痛くも痒くもないといった風情で、ダニエルは腰掛けたまま、両腕を外さずに彼女を見上げる。

「大丈夫だ。見たのはフォルカーだけだ。彼の大きい身体が邪魔をして、他の奴らは見られなかった」

 頬を膨らませたエリカは、ダニエルを見下ろした。

「でもフォルカー様には見られたのでしょう?」

「牽制のためだ。しかたがない」

「牽制?」

「”君は俺のものだ”と」

 エリカは紅く頬を染めて黙り込む。

「そんな目くじら立てなくても大丈夫だ。俺も君が愛らしく喘ぐ姿を他の男には、もう見せたくない」

「喘いでません!」

 くすくす笑いながら、腕を回したままでダニエルが問う。

「この間は先見さきみの話が出てはぐらかされたが……、なぜフォルカーの部屋にいたんだ?」

「私があまりに動揺していたので、”殿下と喧嘩したのですか?”って、匿ってくれたのです」

「俺がフォルカーの執務室を覗いた時は、隠れていたのか――」

 エリカを見つめる瞳が陰り、エリカは何だか申し訳ない気持ちになる。

「気持ちを落ち着ける時間がほしくて……」

 ダニエルは彼女の後ろめたそうな気持ちを察し、”ここが引き際”と話題を変えた。

「分かった。もうこれ以上は詮索しないからキスしてくれ」

「え……」

 顎を上げてエリカを見つめ、催促をする。

「なぜそういう話になるんですか」

 頬を赤らめてワタワタするエリカに、ダニエルは再び迫った。

「さあ、してくれ」

「まるで子供みたいですよ?」

 引かないダニエルに微笑むエリカ。こうしたちょっとしたやり取りをエリカは楽しいと感じる。

「分かりました。目を瞑ってください」

 目を閉じたダニエルの頬を、エリカが両手で優しく包んだ。

(この人が…好き……)
 
 身をかがませて、そぅっと、柔らかく……ダニエルの目元に唇を押し当てた。

 ダニエルが残念そうに溜息を吐く。

 少々大げさなその溜息は、ダニエルなりの気遣いかもしれない。

 エリカが気まずい思いをしないで済むよう、『残念、やはり唇ではないのか』と笑いに変えれるように。

(ダニエルが女性でもやはり好き)

 一度唇を離し、顔を傾けて……唇にくちづけた。

 彼の身体が固くなり、微かに息を呑む。
 
 顔を離し、エリカは静かに上体をもとに戻した。

(だからわたしは、貴方から離れなければならない――)
 

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