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50 騎士の顔ぶれはよく変わる

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 玄関では副団長のラファエルが、馬車の前で待機していた。

「エリカ様。今日は一段とお美しい」

「ありがとう」

 コルセットの締めすぎで死にそう……と思いつつ、周囲を見回す。

「最近、騎士の顔ぶれがよく変わるわね。ラファエル様は変わらないでいてくれるけど」

「エリカ様のせいですよ」

 ラファエルが微笑んだ。

「わたくしの?」

(我儘でも言って嫌われたかしら……いや、言うような度胸ないし)

 不安げな顔をすると、ラファエルが笑いながら説明をしてくれた。

「お考えになっているような事ではありません。この間、下町の視察に行かれましたよね? 貴族のご令嬢だったら卒倒しそうな場所も、丹念に見て回られて、下水道についても熱心に意見を述べていらっしゃったと、その日の護衛担当から聞きました。国民の、それも下町の平民のためそこまでされたことに、わたくし共は感激しているのです。それからエリカ様の護衛の志願者が急増いたしまして、特に下町出身の騎士の熱意は凄まじいものがあります」

 ラファエルが後方を見ると、ガチガチに固まった短髪赤毛の若い騎士が進み出てきた。

「彼も下町出身者の一人です」

「ひ、一言よろしいでしょうか!」

 騎士はエリカの前で真っ赤になり、直立不動のまま話し始めた。

「下町の住民を気にかけて下さった貴族のご令嬢は初めてです! 貴方のような方が王子妃になることを、我々は大変誇らしく、かつ嬉しく思います! どうか俺、じゃなくてわたくしに忠誠を誓わせてください!」

「……え、」

「いきなり何を言う!」

「ラファエル団長。いきなりは不敬ですか? 上にお伺いを立ててからじゃないとだめでしょうか?」

「私が先だ」

「ずるいっすよ! じゃあその次で」

「あっ、俺もお願いします!」

 青ざめるエリカ

(フォルカー様で手一杯なのに、これ以上増えたら……)

「ほ、ほら、もう城に向かわないといけないでしょう? だから、」

(取り敢えずこの場をやりすごして、うやむやにするしかない)

「分かりました。後日、忠誠の誓いの場を設けましょう」

「……………え?」

近衛このえ以外にも忠誠を誓いたい奴がきっといるぜ」

「人数が増えそうだな」

 騎士達の不穏な言葉を聞きながら、肩を落としたエリカは馬車に乗るのであった。 


***


「こちらになります」

 城では控室に通された。

 客室を控室として使っているそこは、調度品なども上級である。エリカは座り心地のいい豪奢なソファに腰を落ち着けた。

 もとはダニエルの乳母であった侍女長が、紅茶や軽食を用意してくれる。

 姿見が備え付けてあったので、前に立って全身を映してみた。

 本当に美しいドレスだ。チョコレート色の生地に、手の込んだ金の刺繍。

 パニエは控えめだが、幾重にもドレープが重ねられているために、スカートがふんわりと膨らんでいた。

 侍女長が紅茶を入れながら、エリカの様子にほほ笑んだ。

「深いブラウンの色が、エリカ様の髪の色と一緒ですね」

 エリカがくるっと回転してみせる。

「まあっ、」

 侍女長が顔を赤くして声を上げ、慌てて口を塞いだ。

「と、取り乱してしまい申し訳ございません……!」

「え……?」

 侍女長は顔を逸らしてぶつぶつと呟く。

「殿下ったら独占欲が強い……いえ、それ以前にこれを人前で着て踊るのは……」

「どうかして?」

「いえ、とてもお似合いですし、ドレスも大変素晴らしいです……」

(どこかおかしいのかしら?)

 エリカはドレスを見下ろしたり、鏡を覗いたりしてみる。

 別段おかしいところは見当たらない。

 襟ぐりの開き具合も控えめである。

 首を傾げているところにダニエルが迎えに来た。

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