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42 あるんだな?
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猛禽ルクレツィアの話の後は、ダニエルもエリカも肩の力が抜けて、冷静に話すことができた。
プロポーズにはまだ早いと思ったようで、小箱もズボンのポケットにしまってくれた。
”先見の力”は一応認めてくれたものの、まだ信じ難い様子である。
「隣に立つ女性が君でないなんて、俺は信じられないし、断じて受け入れられない」
「…………」
「その力は間違うことはないのか?」
「あ、」
(そういえば、ちょこちょこと違うところがある……)
「あるんだな?」
念を押されて素直に頷くと、ダニエルの身体から力が抜けた。
明らかにほっとしたようである。
エリカも”これ以上、事を荒立てないほうが良さそうだ”と口を噤むと、彼女をじっと見つめたダニエルの口の端が上がった。
「フォルカーの件は、おいおい教えてもらおうかな?」
「………はい」
そこからは逃げられないようだ。
***
オズワルド王子とルクレツィア王女がコンラート城に到着したのは、三日後の夕暮れ時だった。
「まぁ……なんて素敵なお城かしら」
馬車から降りたルクレツィアが、夕暮れに映える白亜の城に見惚れる。
小高い丘に建つ城は、緑の山々や森に囲まれ、優美で神秘的なたたずまいを見せていた。
麓にはおとぎ話に出てくるような、可愛らしい街並みが広がっている。
玄関前には召使や騎士、兵士がずらっと立ち並んでいた。
中央に立っていたダニエルが、近づいてきたオズワルドに挨拶の言葉を述べた。
「遠いところをようこそいらっしゃいました。さぞやお疲れでしょう、部屋へご案内いたします」
ダニエルが握手のために右手を差し出した。
「礼儀作法書まんまの言葉を、ありがとうダニエル」
差し出された手をオズワルドが握る。
苦い顔をしたダニエルが、握手した手にググっと必要以上の力を込めた。
「エドワード王子はどうした? お前が何故ここにいる?」
オズワルドも負けじと力を込めて握り返す。
「何故とはご挨拶だな。兄上は出発寸前に体調を崩したんだ。俺は代理だ有難く思え」
「いっそ、来ないほうが良かったんじゃないか?」
「なんだと! お前な!」
どんどん握る力が強くなっていく二人の間に、ルクレツィアが割って入る。
「ダニエル様!」
「お久しぶりです。ルクレツィア王女」
一応女性には愛想よく応じるダニエル。
「ダニエル様。部屋まで案内してくださいな」
「大変申し訳ありませんが、オズワルド王子と話すことがあるのです」
「ええー」
「わたくしが代わりにご案内いたします」
すっと進み出たのはフォルカー騎士団長。
突然出てきた強面の大男に、悲鳴を上げそうになったルクレツィアに向かって、フォルカーが歓迎の笑みを浮かべた。
その笑みはとても自然なもので、彼が内に秘めている優しさや、大らかさが滲み出ていた。
出迎えの人々も驚いたのだが、自然な笑みを浮かべたフォルカーは大層な美丈夫であり、魅力的であった。
ルクレツィアが思い直したように微笑む。
「仕方がありませんわね。貴方でもよろしくってよ」
「光栄です」
差し出したルクレツィアの手の甲にフォルカーが軽くキスをした。
「お宅の騎士団長って、あんなに男前だったか?」
「多分、俺のフィアンセが、良い影響を与えたのだと思う」
「何でそんな渋い顔をしながら説明するんだ? 素晴らしいフィアンセじゃないか」
オズワルドは紅い瞳を細めてダニエルを見た。
「いつ会わせてくれる?」
プロポーズにはまだ早いと思ったようで、小箱もズボンのポケットにしまってくれた。
”先見の力”は一応認めてくれたものの、まだ信じ難い様子である。
「隣に立つ女性が君でないなんて、俺は信じられないし、断じて受け入れられない」
「…………」
「その力は間違うことはないのか?」
「あ、」
(そういえば、ちょこちょこと違うところがある……)
「あるんだな?」
念を押されて素直に頷くと、ダニエルの身体から力が抜けた。
明らかにほっとしたようである。
エリカも”これ以上、事を荒立てないほうが良さそうだ”と口を噤むと、彼女をじっと見つめたダニエルの口の端が上がった。
「フォルカーの件は、おいおい教えてもらおうかな?」
「………はい」
そこからは逃げられないようだ。
***
オズワルド王子とルクレツィア王女がコンラート城に到着したのは、三日後の夕暮れ時だった。
「まぁ……なんて素敵なお城かしら」
馬車から降りたルクレツィアが、夕暮れに映える白亜の城に見惚れる。
小高い丘に建つ城は、緑の山々や森に囲まれ、優美で神秘的なたたずまいを見せていた。
麓にはおとぎ話に出てくるような、可愛らしい街並みが広がっている。
玄関前には召使や騎士、兵士がずらっと立ち並んでいた。
中央に立っていたダニエルが、近づいてきたオズワルドに挨拶の言葉を述べた。
「遠いところをようこそいらっしゃいました。さぞやお疲れでしょう、部屋へご案内いたします」
ダニエルが握手のために右手を差し出した。
「礼儀作法書まんまの言葉を、ありがとうダニエル」
差し出された手をオズワルドが握る。
苦い顔をしたダニエルが、握手した手にググっと必要以上の力を込めた。
「エドワード王子はどうした? お前が何故ここにいる?」
オズワルドも負けじと力を込めて握り返す。
「何故とはご挨拶だな。兄上は出発寸前に体調を崩したんだ。俺は代理だ有難く思え」
「いっそ、来ないほうが良かったんじゃないか?」
「なんだと! お前な!」
どんどん握る力が強くなっていく二人の間に、ルクレツィアが割って入る。
「ダニエル様!」
「お久しぶりです。ルクレツィア王女」
一応女性には愛想よく応じるダニエル。
「ダニエル様。部屋まで案内してくださいな」
「大変申し訳ありませんが、オズワルド王子と話すことがあるのです」
「ええー」
「わたくしが代わりにご案内いたします」
すっと進み出たのはフォルカー騎士団長。
突然出てきた強面の大男に、悲鳴を上げそうになったルクレツィアに向かって、フォルカーが歓迎の笑みを浮かべた。
その笑みはとても自然なもので、彼が内に秘めている優しさや、大らかさが滲み出ていた。
出迎えの人々も驚いたのだが、自然な笑みを浮かべたフォルカーは大層な美丈夫であり、魅力的であった。
ルクレツィアが思い直したように微笑む。
「仕方がありませんわね。貴方でもよろしくってよ」
「光栄です」
差し出したルクレツィアの手の甲にフォルカーが軽くキスをした。
「お宅の騎士団長って、あんなに男前だったか?」
「多分、俺のフィアンセが、良い影響を与えたのだと思う」
「何でそんな渋い顔をしながら説明するんだ? 素晴らしいフィアンセじゃないか」
オズワルドは紅い瞳を細めてダニエルを見た。
「いつ会わせてくれる?」
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