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38 その天使はダニエル様だ

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 ダニエルの姿が小さくなり、馬車が門を潜り抜けた。

 エリカは座席に腰を落ち着けて今日の出来事を思い返す。

 フォルカーの様子がゲームと違っていたのも気になるが、頭に浮かんでしまうのはダニエルとのくちづけである。

 指先でそっと自分の唇に触れてみた。

 すぐ我に返り、頭をぶんぶんと横に振る。

「だめよ、百合ルートは!」

 しかしダニエルに惹かれる自分がいる。ダニエルといるのは心地よく……自分の女の部分も意識させられるのだ。

 エリカの頬がかーーっと熱くなる。
 
 大きな手に捕らわれて逃げられなかったキスや、ソファに押し付けられた身体も身動きできなくて…………ん?

 鍛錬の時の研ぎ澄まされた剣捌きに、鍛えられて堂々とした体躯が…………ん?

 いくら鍛えていても、あの大きな手とか、なんだか身体や力も強すぎない?

 女性でも鍛えるとそうなるものなのか?


 ***

 
 夕食の席でも、エリカは一人で考え込んでいた。
 
 以前から頭の片隅では、ダニエルの広い背中や逞しい身体つき、精悍な面持ちに疑問を抱いていたのだ。

 男性に見える……と。

 でもこの後に攻略相手と上手くいったら、顔つきや身体つきもゲーム補正されて、女性らしく変化するのだろうか……。

 夕食を終え、居間で寛ぎながらエリカがぼそっと呟いた。

「ダニエル様って、本当に女性なのかしら……」

 口に出したことに気づかないエリカは、家族が固まっているのにも気づかない。

 すかさずフィリップが突っ込んだ。

「何おかしなことを言ってるんだ」

「えっ、……わたし声に出てた?」

「ああ、”ダニエル様は女性なのかしら”って、」

「ええっと、時々女性っぽい時があるから」

「はあ? あんな可愛げがなくて、情け容赦なくて…………優秀な女性がいるか」

(兄さま何気にディスってますね)

「ダニエル様が女性であるはずがないだろう……」

 重ねて言うフィリップは何を思い出したのか、げっそりとする。どうやらダニエルと何事かあったらしい。

(もしゲームと違って、兄さまの言う通り男性だとしたら――)

 男性かもしれないと思うだけで、エリカの胸は高鳴った。

 胸が期待で熱くなったところに、父のバーナードが水を差す。

「女性かもしれないぞ?」

「「えっ!?」」

「フィリップ、覚えてないか? 幼い頃、王子の親戚でダニエラっていう女の子がいただろう」

「覚えてるさ! パーティーで何回か会った子だろう? ふわふわの真っ白なドレスを着て、金髪に同じ目の色をした天使のような女の子。男の子たちに大人気だった」

「その天使はダニエル様だ」
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