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33 君が膝枕をしてくれるなら

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 昼食をとった後、二人は珈琲を飲みながらソファでくつろいでいた。

 ダニエルがあくびを噛み殺す。

「ダニエル様、眠そうですね」

 すっと距離を縮めたダニエルが、顔を近づけてきた。

「ダニエル! 眠そうですね!」

 慌てて”様”抜きで呼ぶエリカ。

「ああ、少し疲れた」

 彼は顔を離しながら、残念そうな顔をする。

(確かにお兄様の言っていた通り溺愛で、……友愛ではないような気がする……)

「す、少しお眠りになってください。昼休憩の間だけでも」

「いいや、今日はもう仕事に戻らないと」

「少し眠ったほうがすっきりして、仕事が捗りますよ?」

「君が膝枕をしてくれるなら」

 見つめられて……、胸が高鳴り、頬にも熱が上ってくる。
 
(どうしよう。きっと今、顔が赤い)

 以前のエリカなら、気にせず『どうぞ!』と膝を差し出したはずだ。

 それなのに妙に恥ずかしくてもじもじしてしまい、その言葉が言えないでいる。

(女神役の件以来、妙に意識してしまって……)

 返事をしないエリカに”嫌がっている”と思ったようで、表情を和らげた王子が話題を変えようとした。

「もう十分休んだから大丈…」

「どうぞ……」

 とても小さな声で、エリカが応じた。

 ダニエルが微笑んだ。

「エリカ、無理をしなくても、嫌なことは嫌と言っていいんだ」

「いいえ、わたくしの膝でダニエルが少しでも休めるならどうぞ。でもかえって落ち着かないと思いますよ……?」

「君の膝以上に、落ち着くところなんてないさ」

 エリカはうるさく鳴る胸の鼓動を意識しながら、ソファの上で座り直し、スカートをフンワリとさせた。

「わたくしの膝が落ち着くかどうかなんて、ご存じないではありませんか」

「知らなくても分かる」

 王子がソファに横たわり、エリカの膝に頭をのせた。

(良かった。あちら向きで横になってくれて。お腹にダニエル様の顔が当たったら、どうしようかと思った)

「やはり寝心地がいい」

 初めはカチコチに固まっていたエリカだが、暫くすると力が抜けた。

 王子がいつの間にか寝息を立てていることに気づく。

「疲れていたんですね……」

 呟いて膝の上のダニエルを見下ろす。

 長いブロンドの髪を束ねている紐が、解けかけていた。

 結婚が決まるまで髪を切ってはいけないという、王家のしきたり。

 女性である事を公表するまで長い髪でいられるよう、ゲームの製作者が考えた設定なのだろう。

(結び直してあげよう) 
 
 紐の端を摘んでシュルっと解き、濃いブロンドの髪にそっと触れる。
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