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14 先触れです! 早!

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***再び昼下がりのティールーム***


(まだ記憶を取り戻していなかったから、ダニエルのことを男性だと思って、ドキドキしたんだった……)
 
「あの時のエリカ、本当に格好良かった」

「そう言ってくれて嬉しいけど、頬に傷がついていたら取り返しのつかないことになっていたわ」

「でも上手くいったじゃない! あの後から嫌がらせもパッタリやんだし、みんなエリカのお陰よ! 傷がつくかもしれないのに、私の為にあそこまでしてくれて……、本当にありがとう!」

「もう泣かなくていいのに、ミランダったら……美人が台無しよ?」

 エリカに抱きついて滝のような涙を流すミランダに、ハンカチを差し出した。

 ハンカチでミランダは顔をふきふきする。

「話が逸れちゃった……だからダニエル様、絶対エリカに気があるわよ」

「頬に触れたこと? あれは心配して下さったのよ」

「だって王子が公衆の面前で、年若い女性の肌に触れたのよ!? 今まで女性に興味が無くて、ゲイ疑惑まで浮上していたダニエル様がよ!?」

「待って。前半の言い方は誤解を招く」

「エリカ様!」

 ミランダが握り拳で熱弁を振るっている最中に、侍女が飛びこんできた。

「今日は何だか騒がしいわね。どうしたの?」

「先触れです! ダニエル王子がいらっしゃるそうです!」

「……は?」

「エリカ様!」

 開いたドアから二人目の侍女が飛びこんできた。

「今度はなに?」

「お着きになりました。いま執事がお迎えしています!」

「早! 先触れの意味ないじゃない!」

 ミランダが荷物をまとめてすっくと立つ。

「それじゃあエリカ、わたしはこれで失礼するわ。あっ、送らなくていいから。裏口の場所分かるし」

「なんで裏口!? それより一緒にいてよ!」

「人の恋路を邪魔したくないもの」

「ダニエル様はお友達だってば!」

「お嬢様! 殿下には客間でお待ち頂いてます! 10分で身なりを整えますよ!」

 侍女長のメアリーが鼻息も荒く、その他大勢を引き連れて、部屋になだれ込んできた。

 それぞれが手に、ドレスやメイク道具やブラシやらを持っている。

「10分は無理ぃいいいい!」

 叫ぶエリカの声は完全に無視され、嵐のように身なりは整えられていった。

 整えられると同時に、またもや客間に問答無用で連れて行かれる。
 
 ドドドと後からついてきた侍女たちが、エリカの周りを取り囲んでチェックした。

「髪は?」
「よし!」

「香りは?」
「よし!」

「メイクは?」
べにがまだです! エリカ様。こちらを向いて唇を突き出して……、それではゴリラです! キスする時みたいに愛らしく出して下さい!」

「キスなんて(前世でも殆ど)したことないから分からない」

「家族にするキスでいいんですよ」

 初心なエリカに侍女たちが朗らかに笑い、エリカは恥ずかし気に頬を赤らめる。

「ウエストのリボンが曲がっています! ……なおしました! よし!」

「さぁ、抜かりはない!?」

「イエスマム!」

 確認を入れる(鬼教官)メアリーに侍女たちが返事をし、ぽんっと部屋の中に放り込まれた。
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