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5 うちの娘の脳内がお花畑だった件

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「え?」

「大丈夫だ。君の気持ちはきちんと理解している」

 ダニエルがそっと唇を寄せて、手の甲にくちづけた。

「!」

(ド、ドキドキする……女性だと分かっているのに。美形って罪ね……)

「今日は泊まりなさいと言いたいところだが、そんなことをしたら、私との婚約が決まったと周囲に勘違いされそうだ。残念だが控えるとしよう」

「そうですね。それだけは絶対に避けないといけませんね」

 拳を握り締めて言うエリカに、なぜかダニエルは肩を落とした。

「馬車を玄関に用意させる。一休みしてから帰るといい……」

「ありがとうございます」

 ぱたんと扉が閉まると同時に、父が詰め寄ってきた。

「あれはないだろう」

「なにがです?」

「”なにがです”って、ダニエル様はどう見てもお前に惚れてるぞ? それなのに”絶対に避けないといけませんね”って、私はお前をそんな薄情な娘に育てた覚えはない!」

「違いますお父様! だって、……」

「だって?」

 ここでエリカはある事実に気づく。

 ダニエルが女性だという事は、王妃と王子とほんの一握りの人しか知らないトップシークレットだ。

 ”ダニエル様は実は女性なんです”とは、簡単に話せない。

「だって王子は女性としてではなく、わたしをお友達として見ているんだもの」

「……………お前、それ本気で言っているのか?」

 うちの娘の脳内はお花畑だったのか………と表情が言っている。

(――ですよね。いい歳して健康な男性が、適齢期の女性を捕まえて”友達でいたい”とは普通思いませんよね)

「冗談です。本当は引く手あまたのダニエル様が、わたしを望んでいるなんて、にわかには信じ難くて」

「うむ――その気持ち分からないでもないが、わたしにはダニエル様がお前を好ましく思う理由が分かるぞ」

「へ?」

「お前はどんな相手でも同じ態度で接する。高貴な方でも、貧しくても一緒だ」

「そんなことはないわ。高貴な方にはへりくだるし」

「高貴な方を敬い、自分を控えめにすることは必要だからな。でも、貧しい者を見下したりはしないだろう? 同等な態度で応じるじゃないか」

「……うん。相手の性格が悪くない限り。人は平等だと思うから」

 父は頷く。

「ダニエル様は、お前のそんなところが気に入ったのだろう」

 不器用で仕事一辺倒の父が、自分をきちんと見ていてくれたなんて思ってもいなかった。

「お父様……ありがとう」

 エリカは嬉しそうに、顔をほころばせた。

「うむ――。まぁ、わたしに似て顔が平凡な分、良いところもないとな」

 はっはっはと笑う父。

 この親父は……一言多い。

 ジト目で見ているエリカに気づかず、父は帰り支度を始め、エリカも溜息を吐いてベッドから出た。

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