57 / 94
第二章
32 息子が一番手強い #
しおりを挟む
「こんな訓練場があるなんて、この城の中はちょっとした要塞だな」
「ああ、篭城もできるようになっている……今回はそちらの動きが早すぎて、準備もできなかったが……それにしても早かったな。どうやって移動したんだ?」
「とても腕のいい乗組員つきの小型帆船をチャーターしたんだ。興味があるなら今度紹介をする」
「それはぜひ頼みたい」
グリフィスはロングソードを肩に担ぎ上げた。
「さて、一戦交えようか――」
両者とも剣を立てて右顔の高さで掲げ、構える。
「始め!」
号令と共に、アレクサンダーが先手必勝! とばかりに飛び込んできて勢い良く切りつけた。グリフィスはその勢いを殺すため、前方に踏み出しながら、斜めに切り下げ剣を交える。
交わった剣の押し合いになり、交わらせたまま刃を滑らせて、アレクサンダーは切っ先をグリフィスの喉に突き入れた。
咄嗟に彼は間合いを取り、その交わりから剣を外す。瞬時に刃先を相手の剣の反対側に移すと、彼の剣を音高く弾き、左足を踏み出しながら頭に向かって振り下ろした。
周りが息を止めたのと、刃先をぎりぎりで止めたのが同時であった。
アレクサンダーが長い諦めの息と共に言葉を吐く。
「負けを認めるよ」
「ああ、これで少しは溜飲が下がる」
「俺は下がらないがな」
グリフィスが片眉を上げる。
「そうか? 勝つチャンスを与えられたのだから、無血開城だけで終わるよりも良くはないか?」
「確かにそうだが……本当に頭のいい奴だな」
「何が『頭のいい奴』なの?」
クリスが傍にいたダリウスに聞いた。
「今回のこの件は、傭兵たちの口から広く知れ渡る事になるでしょう。『無血開城を行ったのに、略奪を行わなかった希代の指導者』と」
「でも、略奪をしない代わりにクロノスが報奨金を支払うんでしょう?」
「そんなこと、傭兵達には関係ありません。給料が尻すぼみになっているところに、グリフィス王子のお陰で、戦ってもいないのに金が手に入ります。おまけに、ロングソードでの一騎打ちにも彼は勝利しました。`あのクロノスのアレクサンダーが、開城した挙句、剣でも勝てなかった ‘ と、あっという間に他国まで噂は広がるでしょう。そしてその噂とこの事実によって、アクエリオスはクロノスに対してこれから優位に立てる訳です。戦争に勝利したのと同じ事なのですから。クロノスだけではありません他国もアクエリオス国に一目を置くようになるでしょう」
「何か……凄いのね……」
「本当はクリス様を攫われて、アレクサンダーの首を刎ねたいほどのお気持ちだと思います。しかし今回はクリス様を早らかに取り戻すのが目的でした。グリフィス様にとっては、涙を呑んで、敢えての作戦なのでしょう」
「そう? この作戦のほうが、アレクサンダーには痛手のような……」
「ところで、大司教を見つけて保護しているのだが、もう必要ないだろう? 連れて行ってもいいか?」
「構わない。早速式を挙げるのか?」
「お前みたいな奴が手出しできないようにな……ついでに、ここの教会を借りてもいいか? 用意をしていたんだろう?」
「駄目にきまっているじゃないか! デリカシーの無い奴め」
「しようがない。国に帰ってからにするよ」
グリフィスが折れて、クリスが驚きで目を丸くした。
「婚約の発表が三ヵ月後でしょう!?」
「この期に及んでまだそんな事を言っているのか?」
「だって、約束だったじゃない! それに結婚前に私は色々としたい事があるの!」
「何を……?」
クリスは周りの人間を見て、言いにくそうにグリフィスを端に連れて行くと、耳打ちをした。
「何だ、それなら俺が教える」
真っ赤になったクリスは食い下がる。
「式には家族も出たがるわ!」
「大丈夫。盛大な結婚式はやり直しをすればいい。その時は結婚証明書を形だけの物にする」
アレクサンダーと、グリフィスは似たもの同士だとダリウスは思う。
「それに、もう許可を得た」
「まさか、結婚の?」
「それだけじゃなくて、君の父上がまだ隠居は早いから、あと二年はアクエリオスに居てもいいと仰ってくれた。勿論、君もだ」
「ええ――!?」
「君の妹さん達には遊びに来てもらえばいいし、これで万事解決だ」
「じゃあ、私は今回帰国できないの……?」
「当然だ」
「そんな……楽しみにしていたのに」
クリスの哀しそうな表情にグリフィスの心は一瞬揺らいだ。しかし、ここで折れては、と踏みとどまる。
「俺に時間ができたら、一緒に帰ろう。しかし、何で攫われることになったんだ? 無防備過ぎるんじゃないか? 後でじっくりその辺の事情を聞かせてもらう」
「確かに彼女は無防備かもな。自分が狙われているとは思ってもいないから、まあ、今回で学んだんじゃないのか?」
「アレクサンダー、お前が言うな」
「呼び捨てか?」
アレクサンダーは面白そうな顔をする。
「そういえば、彼女の身体は戻りつつあるぞ、腹が立つ事に俺を拒否してだがな。しかし唇は柔らかったし、問題なくその身体も美しかった――」
途端にその場の空気が一変して凍りついた。グリフィスは彼がふたなりの事を指しているのを理解できる。しかし、それをどうやって確かめた? 美しいだと――?
「お前……!! クリスに一体何をした!!」
クリスとデイヴィッドが慌ててグリフィスを押さえつける。
「触られただけで、何もなかったわ!!」
「どこだ?」
「え……?」
「どこを触られた?」
「……そんな事、言えない……」
「………言えないところなのか!!」
今ではデイヴィッドとダリウスとアーネストの三人がかりでグリフィスを止めている。
「放せ!! さっき、あのままぶった斬ってやれば良かった!!」
「アレクサンダー様、いい加減にして下さい……!!」
ダリウスが注意をすると、アレクサンダーがニヤリとした。
「悪かった。剣で負けた上に結婚式当日に花嫁を連れ去られるんだ。ちょっと愚痴が言いたかったんだよ」
まだ怒り狂っているグリフィスをデイヴィッドに言われてクリスが宥めにかかる。
「グリフィス、アクエリオスに帰りましょう。ね?」
デイヴィッドに言われた通り、その胸に身を寄せて下から上目遣いで見上げる。クリスは気付いていなかったが、頬を染め唇を開いて賢明に宥めようとしているその表情は、可愛らしい上にキスを強請っているようにみえた。
彼の怒りは直ちに治まった……が、別の欲求に駆られてしまい痛いほどに抱き締められ、また唇を貪られることになる。
『見せつけないでとっとと帰ってくれ』と訓練場から追い立てられ、庭園へと進む途中でヘルマンに声を掛けられた。
「クリス様――」
「ヘルマン……!」
嬉しくて、ついその胸に飛び込むと、ヘルマンに肩を掴まれお願いをされた。
「クリス様、身の危険を感じるので離れて下さい」
その視線を追って振り返ると、グリフィスとアレクサンダーが不機嫌な顔つきで彼を睨みつけている。
クリスは小さく溜息をついて身を離した。
「牢屋から出られたの?」
「はい。先輩が出してくれようとしたところに、ヘルガやおばちゃん達がなだれ込んできて、いつの間にか外に出されていました。クリス様のお相手でなかった事も分かっていて、やたら同情もされました」
クリスがくすくす笑うとヘルマンが目の前に、ある物を差し出した。
「これは……あの時流されてしまったのに」
それは、紫水晶のネックレスで、アレクサンダーが排水溝に投げ捨てた物だ。
「受け取って下さい」
「でも――」
「先輩が、俺達が逃げるための資金源になると、拾ってくれていたのです。でも俺にはもう必要がないから」
クリスはそのネックレスを見つめていたが、首を振ってヘルマンの手を押し返した。
「その先輩達とついている宝石を分けて頂戴。私も必要がないから」
クリスはアレクサンダーに了承を得る。
「いいかしら……?」
「構わない。どうせ捨てたものだ」
「ヘルマンを、また牢屋に戻さない?」
「ああ。寧ろ彼の正直なところや、その人間性が気に入った。近く側近の一人に取り立てるつもりだ」
「良かった……!」
クリスがヘルマンの両手を握ろうとしたところで、グイッと後ろに引き戻された。いつの間にか腰にグリフィスの腕が回っている。
「他の男とあまりくっつくな」
「グリフィス、手を握ろうとしただけよ……」
「それだけ、嫉妬深いと次のあれは苦労するぞ」
アレクサンダーの言葉に`え……?‘と二人が顔を上げると、ジェラルドが走ってくるところだった。
「ジェラルド!!」
気付いた時にはグリフィスの腕の中はからっぽで、破顔した彼女がジェラルドを抱き上げるところだった。
「俺の息子が一番手強い」
確かに今まで見た事がないほどのいい笑顔で、ほっぺたを擦り合わせている。
「クリス、行っちゃうの……?」
悲しそうに上目遣いで見つめられ、クリスの胸はひりひりと痛んだ。思わずグリフィスを見返すと
「駄目だから。もう出発しないといけないし、人様の子供を連れて行く事もできないから」
しゅんとしながらクリスが答える。
「ごめんなさい。もう行かないといけないの」
「僕、クリスのところに遊びに行ってもいい……?」
「もちろんよ! 当たり前じゃない、大歓迎するわ!」
息子が嬉しそうに抱きつくのを見てアレクサンダーが言った。
「俺も行くから」
「何でお前がくるんだ!! 息子オンリーだからな!」
「とうとうお前呼ばわりか」
「前言撤回して何もかも略奪してやろうか」
二人の宰相とデイヴィッドは思った。この二人、結構気が合っていると――
ギュッとジェラルドを抱き締めて、渋るクリスをジェラルドから引き剥がし、グリフィス達はやっとの思いで帰路についたのであった。
お読み頂きありがとうございます。#マークですが、R抜きで読もうのムーンライトと内容が違う回についてます。こちらだけ読んでも問題ない内容なので、興味のない方はスルーして下さい。(可愛くて純真なジェラルド君が好きな人は、ムーンは読まないほうがいいです)
「ああ、篭城もできるようになっている……今回はそちらの動きが早すぎて、準備もできなかったが……それにしても早かったな。どうやって移動したんだ?」
「とても腕のいい乗組員つきの小型帆船をチャーターしたんだ。興味があるなら今度紹介をする」
「それはぜひ頼みたい」
グリフィスはロングソードを肩に担ぎ上げた。
「さて、一戦交えようか――」
両者とも剣を立てて右顔の高さで掲げ、構える。
「始め!」
号令と共に、アレクサンダーが先手必勝! とばかりに飛び込んできて勢い良く切りつけた。グリフィスはその勢いを殺すため、前方に踏み出しながら、斜めに切り下げ剣を交える。
交わった剣の押し合いになり、交わらせたまま刃を滑らせて、アレクサンダーは切っ先をグリフィスの喉に突き入れた。
咄嗟に彼は間合いを取り、その交わりから剣を外す。瞬時に刃先を相手の剣の反対側に移すと、彼の剣を音高く弾き、左足を踏み出しながら頭に向かって振り下ろした。
周りが息を止めたのと、刃先をぎりぎりで止めたのが同時であった。
アレクサンダーが長い諦めの息と共に言葉を吐く。
「負けを認めるよ」
「ああ、これで少しは溜飲が下がる」
「俺は下がらないがな」
グリフィスが片眉を上げる。
「そうか? 勝つチャンスを与えられたのだから、無血開城だけで終わるよりも良くはないか?」
「確かにそうだが……本当に頭のいい奴だな」
「何が『頭のいい奴』なの?」
クリスが傍にいたダリウスに聞いた。
「今回のこの件は、傭兵たちの口から広く知れ渡る事になるでしょう。『無血開城を行ったのに、略奪を行わなかった希代の指導者』と」
「でも、略奪をしない代わりにクロノスが報奨金を支払うんでしょう?」
「そんなこと、傭兵達には関係ありません。給料が尻すぼみになっているところに、グリフィス王子のお陰で、戦ってもいないのに金が手に入ります。おまけに、ロングソードでの一騎打ちにも彼は勝利しました。`あのクロノスのアレクサンダーが、開城した挙句、剣でも勝てなかった ‘ と、あっという間に他国まで噂は広がるでしょう。そしてその噂とこの事実によって、アクエリオスはクロノスに対してこれから優位に立てる訳です。戦争に勝利したのと同じ事なのですから。クロノスだけではありません他国もアクエリオス国に一目を置くようになるでしょう」
「何か……凄いのね……」
「本当はクリス様を攫われて、アレクサンダーの首を刎ねたいほどのお気持ちだと思います。しかし今回はクリス様を早らかに取り戻すのが目的でした。グリフィス様にとっては、涙を呑んで、敢えての作戦なのでしょう」
「そう? この作戦のほうが、アレクサンダーには痛手のような……」
「ところで、大司教を見つけて保護しているのだが、もう必要ないだろう? 連れて行ってもいいか?」
「構わない。早速式を挙げるのか?」
「お前みたいな奴が手出しできないようにな……ついでに、ここの教会を借りてもいいか? 用意をしていたんだろう?」
「駄目にきまっているじゃないか! デリカシーの無い奴め」
「しようがない。国に帰ってからにするよ」
グリフィスが折れて、クリスが驚きで目を丸くした。
「婚約の発表が三ヵ月後でしょう!?」
「この期に及んでまだそんな事を言っているのか?」
「だって、約束だったじゃない! それに結婚前に私は色々としたい事があるの!」
「何を……?」
クリスは周りの人間を見て、言いにくそうにグリフィスを端に連れて行くと、耳打ちをした。
「何だ、それなら俺が教える」
真っ赤になったクリスは食い下がる。
「式には家族も出たがるわ!」
「大丈夫。盛大な結婚式はやり直しをすればいい。その時は結婚証明書を形だけの物にする」
アレクサンダーと、グリフィスは似たもの同士だとダリウスは思う。
「それに、もう許可を得た」
「まさか、結婚の?」
「それだけじゃなくて、君の父上がまだ隠居は早いから、あと二年はアクエリオスに居てもいいと仰ってくれた。勿論、君もだ」
「ええ――!?」
「君の妹さん達には遊びに来てもらえばいいし、これで万事解決だ」
「じゃあ、私は今回帰国できないの……?」
「当然だ」
「そんな……楽しみにしていたのに」
クリスの哀しそうな表情にグリフィスの心は一瞬揺らいだ。しかし、ここで折れては、と踏みとどまる。
「俺に時間ができたら、一緒に帰ろう。しかし、何で攫われることになったんだ? 無防備過ぎるんじゃないか? 後でじっくりその辺の事情を聞かせてもらう」
「確かに彼女は無防備かもな。自分が狙われているとは思ってもいないから、まあ、今回で学んだんじゃないのか?」
「アレクサンダー、お前が言うな」
「呼び捨てか?」
アレクサンダーは面白そうな顔をする。
「そういえば、彼女の身体は戻りつつあるぞ、腹が立つ事に俺を拒否してだがな。しかし唇は柔らかったし、問題なくその身体も美しかった――」
途端にその場の空気が一変して凍りついた。グリフィスは彼がふたなりの事を指しているのを理解できる。しかし、それをどうやって確かめた? 美しいだと――?
「お前……!! クリスに一体何をした!!」
クリスとデイヴィッドが慌ててグリフィスを押さえつける。
「触られただけで、何もなかったわ!!」
「どこだ?」
「え……?」
「どこを触られた?」
「……そんな事、言えない……」
「………言えないところなのか!!」
今ではデイヴィッドとダリウスとアーネストの三人がかりでグリフィスを止めている。
「放せ!! さっき、あのままぶった斬ってやれば良かった!!」
「アレクサンダー様、いい加減にして下さい……!!」
ダリウスが注意をすると、アレクサンダーがニヤリとした。
「悪かった。剣で負けた上に結婚式当日に花嫁を連れ去られるんだ。ちょっと愚痴が言いたかったんだよ」
まだ怒り狂っているグリフィスをデイヴィッドに言われてクリスが宥めにかかる。
「グリフィス、アクエリオスに帰りましょう。ね?」
デイヴィッドに言われた通り、その胸に身を寄せて下から上目遣いで見上げる。クリスは気付いていなかったが、頬を染め唇を開いて賢明に宥めようとしているその表情は、可愛らしい上にキスを強請っているようにみえた。
彼の怒りは直ちに治まった……が、別の欲求に駆られてしまい痛いほどに抱き締められ、また唇を貪られることになる。
『見せつけないでとっとと帰ってくれ』と訓練場から追い立てられ、庭園へと進む途中でヘルマンに声を掛けられた。
「クリス様――」
「ヘルマン……!」
嬉しくて、ついその胸に飛び込むと、ヘルマンに肩を掴まれお願いをされた。
「クリス様、身の危険を感じるので離れて下さい」
その視線を追って振り返ると、グリフィスとアレクサンダーが不機嫌な顔つきで彼を睨みつけている。
クリスは小さく溜息をついて身を離した。
「牢屋から出られたの?」
「はい。先輩が出してくれようとしたところに、ヘルガやおばちゃん達がなだれ込んできて、いつの間にか外に出されていました。クリス様のお相手でなかった事も分かっていて、やたら同情もされました」
クリスがくすくす笑うとヘルマンが目の前に、ある物を差し出した。
「これは……あの時流されてしまったのに」
それは、紫水晶のネックレスで、アレクサンダーが排水溝に投げ捨てた物だ。
「受け取って下さい」
「でも――」
「先輩が、俺達が逃げるための資金源になると、拾ってくれていたのです。でも俺にはもう必要がないから」
クリスはそのネックレスを見つめていたが、首を振ってヘルマンの手を押し返した。
「その先輩達とついている宝石を分けて頂戴。私も必要がないから」
クリスはアレクサンダーに了承を得る。
「いいかしら……?」
「構わない。どうせ捨てたものだ」
「ヘルマンを、また牢屋に戻さない?」
「ああ。寧ろ彼の正直なところや、その人間性が気に入った。近く側近の一人に取り立てるつもりだ」
「良かった……!」
クリスがヘルマンの両手を握ろうとしたところで、グイッと後ろに引き戻された。いつの間にか腰にグリフィスの腕が回っている。
「他の男とあまりくっつくな」
「グリフィス、手を握ろうとしただけよ……」
「それだけ、嫉妬深いと次のあれは苦労するぞ」
アレクサンダーの言葉に`え……?‘と二人が顔を上げると、ジェラルドが走ってくるところだった。
「ジェラルド!!」
気付いた時にはグリフィスの腕の中はからっぽで、破顔した彼女がジェラルドを抱き上げるところだった。
「俺の息子が一番手強い」
確かに今まで見た事がないほどのいい笑顔で、ほっぺたを擦り合わせている。
「クリス、行っちゃうの……?」
悲しそうに上目遣いで見つめられ、クリスの胸はひりひりと痛んだ。思わずグリフィスを見返すと
「駄目だから。もう出発しないといけないし、人様の子供を連れて行く事もできないから」
しゅんとしながらクリスが答える。
「ごめんなさい。もう行かないといけないの」
「僕、クリスのところに遊びに行ってもいい……?」
「もちろんよ! 当たり前じゃない、大歓迎するわ!」
息子が嬉しそうに抱きつくのを見てアレクサンダーが言った。
「俺も行くから」
「何でお前がくるんだ!! 息子オンリーだからな!」
「とうとうお前呼ばわりか」
「前言撤回して何もかも略奪してやろうか」
二人の宰相とデイヴィッドは思った。この二人、結構気が合っていると――
ギュッとジェラルドを抱き締めて、渋るクリスをジェラルドから引き剥がし、グリフィス達はやっとの思いで帰路についたのであった。
お読み頂きありがとうございます。#マークですが、R抜きで読もうのムーンライトと内容が違う回についてます。こちらだけ読んでも問題ない内容なので、興味のない方はスルーして下さい。(可愛くて純真なジェラルド君が好きな人は、ムーンは読まないほうがいいです)
0
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
オオカミの旦那様、もう一度抱いていただけませんか
梅乃なごみ
恋愛
犬族(オオカミ)の第二王子・グレッグと結婚し3年。
猫族のメアリーは可愛い息子を出産した際に獣人から《ヒト》となった。
耳と尻尾以外がなくなって以来、夫はメアリーに触れず、結婚前と同様キス止まりに。
募った想いを胸にひとりでシていたメアリーの元に現れたのは、遠征中で帰ってくるはずのない夫で……!?
《婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?》の番外編です。
この話単体でも読めます。
ひたすららぶらぶいちゃいちゃえっちする話。9割えっちしてます。
全8話の完結投稿です。
子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。
※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。
※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。
伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。
すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。
我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。
※R18に※
奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました
灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き?
僕はレイチェルのこと大好きだよ。」
没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。
それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。
けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。
なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。
あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。
奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる