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第二章
15話 どこに?
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「アーネスト……アーネストさま……」
誰かに揺り動かされている・・・多分これは配下の者の声だ。
「アーネスト様!!」
警護をしていた騎士達に起こされて、アーネストが薄らと目を開けた。
「お前達……どうした? 何事だ……?」
「何事だ? ではありません! クリス様はどちらですか!?」
途端にガバッと跳ね起きる。アーネストは特等室の居間のソファに寝かされていた。
「何故ここに……クリス様は!?」
「それを私共が聞いていたのです! 時間になっても貴方様方が出てこない上に、アレクサンダーの一行が荷物を運び出したから」
「アレクサンダーはどこにいる!?」
「今は荷物を船から降ろす為に、港で指示を出しています」
アーネストが甲板へ駆け上がると、アレクサンダーが港で降ろした荷物を指図して馬車に積み込ませている。
中でも大きな長櫃が目に付いた。急いで船を降り、アレクサンダーの元へ駆け寄る。騎士達もそれに続いた。
「アレクサンダー!!」
「何かと思えばアーネスト殿、一国の王である私を呼び捨てですか……まあ、貴方はクリスのお気に入りの重臣だ。特別に許可しましょう」
「そのクリス様をどこにやった!?」
「何の事ですか? 私にはさっぱり分かりません」
肩をすくめる姿がまた白々しい。
「食事に薬を盛ったな!! クリス様を自分の城に連れ去るつもりだろう!」
「憶測だけでものを言うと後で後悔をしますよ」
「じゃあ、食事の後にクリス様はどこに行ったというんだ!?」
「貴方が眠り込んでしまわれたので『誰か人を連れてくる』と言って、部屋に帰られましたが……暫く待っても戻ってこないので、仕方なく貴方をソファに・・・」
「嘘をつけ!! 扉の外では我が国の騎士が見張っていたんだ! 彼らがクリス様は出てこなかったと言っている!!」
「真実です。我々は忙しいんだ。これ以上相手をしてはいられない」
背を向けるアレクサンダーにアーネストが言い放つ。
「荷物を改めさせてもらう!!」
「――どうぞ、ご自由に」
アーネストはまず長櫃を開け、中に入っていた衣装を引っ掻き回した。しかし、そこにはいなかった。他にも、少しでも人を隠せそうな荷物は全部開けてチェックをする。
「アーネスト様、どこにも見当たりません」
「そんな馬鹿な……絶対にこの中のどこかに、隠されている筈なのに――!」
アーネストは荒らした荷物の山を呆然と見上げた。
「荒らしてくれましたね……まあ、特別に許しましょう」
アーネストが思いついたように辺りを見回す。ジェラルドを見つけ出すと、すぐ傍に駆け寄った。アーネストの迫力に、乳母の後ろに隠れるジェラルドに跪いて質問をする。
「ジェラルド様、クリス様をご存知ないですか……?」
おずおずと顔を出したジェラルドが答える。
「クリスがいないの?」
「そうなのです。どこに居るかご存じないですか?」
子供なら、嘘をついたら挙動で分かる。特にジェラルドのような素直な子供なら――。何か反応を示してくれるよう、祈るような気持ちで観察をする。
「僕、下りる用意でさよならしてから、会っていないんだ。居間にアーネストが寝ているのは見たけど……」
「そうですか――」
がっくりと肩を落としたアーネストは失意に襲われた。
「アーネスト殿、よろしいのですか? 船が出てしまいますよ」
「………」
ぎりぎりと奥歯を噛み締めるが、クリスが見つからない事にはどうしようもない。
「お前達、このままアレクサンダーの後を追うんだ。俺は念のために船の中を探す。長期戦になるかもしれないから、この金を持って行け……とにかく貼り付け! そして何か掴んだらこの港で連絡を取れるようにするんだ。俺は次の港から折り返しここに戻ってくる事になると思う」
「かしこまりました!」
(騎士の中でも優秀な三人だ。何か有力な情報を掴むだろう)
アーネストは急いで船に戻り、船長にも訳を話し手分けをして船内の捜索に取り掛かった。
「邪魔な蝿がついてくるな……」
アレクサンダーが馬車の窓から背後をチラリと窺った。距離を開けてついてはきているが、周りに身を隠す物がないので丸分かりだ。ダリウスも確認をする。
「次の村で散らしましょう――」
ダリウスは警護に付いている馬上の騎士を、馬車を走らせたまま窓口まで呼び寄せて、指示を与える。
「かしこまりました」
その騎士は先に馬を走らせ、村に入り指示を伝えた。ここいら辺は全てクロノスの所領になる。
アレクサンダーの馬車が村に入ると、村人達が一斉に手を振ってきた。賢王であるアレクサンダーは村人達に愛されている。
アレクサンダーの馬車が通り過ぎてすぐに、道を家畜で埋め尽くす。後ろから来たヘルマプロディトスの騎士達は慌てて手綱を思い切り引いた。
「邪魔だ!! すぐにどけろ!!」
「は~、すんませんな、今すぐにどけますんで」
「ねえねえ、素敵なお兄さん方、うちのお店でランチはどう?」
「それよりも、うちの土産屋を――」
「邪魔だと言っているだろう!!」
アレクサンダーの四頭立ての馬車はみるみる遠ざかって行く。
「あー!! 畜生!!」
一人の騎士が毒づいた。
「落ち着け、どうせ行く先はクロノス城だ。それにこうして邪魔してくるという事はクリス様はやはり連れていかれたんだ」
「しかし、どうやって・・・? 一体どこに隠したんだ?」
「今は議論しても始まらない。取り敢えず……」
その騎士は馬から下りた。
「家畜をどけよう」
「そうだな……」
ダリウスが後ろを窺う。
「上手く足止めできたようです」
「うむ――」
がくん、と馬車が大きく揺れ、片側に傾いだ。屋根の上の荷台から、荷物が大きな音を立てて、立て続けに崩れ落ちていく。馬車が停まらないうちにアレクサンダーが、血相を変えて飛び降りた。
すぐに長櫃に駆け寄ると、蓋が開いて中から白い手が覗いて見えた。
「クリス!!」
アレクサンダーがぐったりとしたその身体を腕の中に抱え込んだ。
誰かに揺り動かされている・・・多分これは配下の者の声だ。
「アーネスト様!!」
警護をしていた騎士達に起こされて、アーネストが薄らと目を開けた。
「お前達……どうした? 何事だ……?」
「何事だ? ではありません! クリス様はどちらですか!?」
途端にガバッと跳ね起きる。アーネストは特等室の居間のソファに寝かされていた。
「何故ここに……クリス様は!?」
「それを私共が聞いていたのです! 時間になっても貴方様方が出てこない上に、アレクサンダーの一行が荷物を運び出したから」
「アレクサンダーはどこにいる!?」
「今は荷物を船から降ろす為に、港で指示を出しています」
アーネストが甲板へ駆け上がると、アレクサンダーが港で降ろした荷物を指図して馬車に積み込ませている。
中でも大きな長櫃が目に付いた。急いで船を降り、アレクサンダーの元へ駆け寄る。騎士達もそれに続いた。
「アレクサンダー!!」
「何かと思えばアーネスト殿、一国の王である私を呼び捨てですか……まあ、貴方はクリスのお気に入りの重臣だ。特別に許可しましょう」
「そのクリス様をどこにやった!?」
「何の事ですか? 私にはさっぱり分かりません」
肩をすくめる姿がまた白々しい。
「食事に薬を盛ったな!! クリス様を自分の城に連れ去るつもりだろう!」
「憶測だけでものを言うと後で後悔をしますよ」
「じゃあ、食事の後にクリス様はどこに行ったというんだ!?」
「貴方が眠り込んでしまわれたので『誰か人を連れてくる』と言って、部屋に帰られましたが……暫く待っても戻ってこないので、仕方なく貴方をソファに・・・」
「嘘をつけ!! 扉の外では我が国の騎士が見張っていたんだ! 彼らがクリス様は出てこなかったと言っている!!」
「真実です。我々は忙しいんだ。これ以上相手をしてはいられない」
背を向けるアレクサンダーにアーネストが言い放つ。
「荷物を改めさせてもらう!!」
「――どうぞ、ご自由に」
アーネストはまず長櫃を開け、中に入っていた衣装を引っ掻き回した。しかし、そこにはいなかった。他にも、少しでも人を隠せそうな荷物は全部開けてチェックをする。
「アーネスト様、どこにも見当たりません」
「そんな馬鹿な……絶対にこの中のどこかに、隠されている筈なのに――!」
アーネストは荒らした荷物の山を呆然と見上げた。
「荒らしてくれましたね……まあ、特別に許しましょう」
アーネストが思いついたように辺りを見回す。ジェラルドを見つけ出すと、すぐ傍に駆け寄った。アーネストの迫力に、乳母の後ろに隠れるジェラルドに跪いて質問をする。
「ジェラルド様、クリス様をご存知ないですか……?」
おずおずと顔を出したジェラルドが答える。
「クリスがいないの?」
「そうなのです。どこに居るかご存じないですか?」
子供なら、嘘をついたら挙動で分かる。特にジェラルドのような素直な子供なら――。何か反応を示してくれるよう、祈るような気持ちで観察をする。
「僕、下りる用意でさよならしてから、会っていないんだ。居間にアーネストが寝ているのは見たけど……」
「そうですか――」
がっくりと肩を落としたアーネストは失意に襲われた。
「アーネスト殿、よろしいのですか? 船が出てしまいますよ」
「………」
ぎりぎりと奥歯を噛み締めるが、クリスが見つからない事にはどうしようもない。
「お前達、このままアレクサンダーの後を追うんだ。俺は念のために船の中を探す。長期戦になるかもしれないから、この金を持って行け……とにかく貼り付け! そして何か掴んだらこの港で連絡を取れるようにするんだ。俺は次の港から折り返しここに戻ってくる事になると思う」
「かしこまりました!」
(騎士の中でも優秀な三人だ。何か有力な情報を掴むだろう)
アーネストは急いで船に戻り、船長にも訳を話し手分けをして船内の捜索に取り掛かった。
「邪魔な蝿がついてくるな……」
アレクサンダーが馬車の窓から背後をチラリと窺った。距離を開けてついてはきているが、周りに身を隠す物がないので丸分かりだ。ダリウスも確認をする。
「次の村で散らしましょう――」
ダリウスは警護に付いている馬上の騎士を、馬車を走らせたまま窓口まで呼び寄せて、指示を与える。
「かしこまりました」
その騎士は先に馬を走らせ、村に入り指示を伝えた。ここいら辺は全てクロノスの所領になる。
アレクサンダーの馬車が村に入ると、村人達が一斉に手を振ってきた。賢王であるアレクサンダーは村人達に愛されている。
アレクサンダーの馬車が通り過ぎてすぐに、道を家畜で埋め尽くす。後ろから来たヘルマプロディトスの騎士達は慌てて手綱を思い切り引いた。
「邪魔だ!! すぐにどけろ!!」
「は~、すんませんな、今すぐにどけますんで」
「ねえねえ、素敵なお兄さん方、うちのお店でランチはどう?」
「それよりも、うちの土産屋を――」
「邪魔だと言っているだろう!!」
アレクサンダーの四頭立ての馬車はみるみる遠ざかって行く。
「あー!! 畜生!!」
一人の騎士が毒づいた。
「落ち着け、どうせ行く先はクロノス城だ。それにこうして邪魔してくるという事はクリス様はやはり連れていかれたんだ」
「しかし、どうやって・・・? 一体どこに隠したんだ?」
「今は議論しても始まらない。取り敢えず……」
その騎士は馬から下りた。
「家畜をどけよう」
「そうだな……」
ダリウスが後ろを窺う。
「上手く足止めできたようです」
「うむ――」
がくん、と馬車が大きく揺れ、片側に傾いだ。屋根の上の荷台から、荷物が大きな音を立てて、立て続けに崩れ落ちていく。馬車が停まらないうちにアレクサンダーが、血相を変えて飛び降りた。
すぐに長櫃に駆け寄ると、蓋が開いて中から白い手が覗いて見えた。
「クリス!!」
アレクサンダーがぐったりとしたその身体を腕の中に抱え込んだ。
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