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第二章
14話 決意
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その日の夜に、エリーゼから報告を受けてアレクサンダーは瞠目した。
「ジェラルドがそんな事を……」
「はい、私も今まで気が付いておりませんでした」
「フローラを亡くした時は絶望のあまり、俺も自分のことで手一杯だったからな……」
今更ながら幼いジェラルドに対して、心を砕いてやれなかった事を後悔する。
「私も……`まだ幼いし、言葉が分からないから 、理解できないから ‘ と考えておりました。分からなくても、ちゃんと伝えていくべきだったのに! 亡くなった王妃様に『くれぐれもジェラルドのことをお願いね』と言われていたのに! 自分の情けなさに涙が出ます……!」
「気にするな。私も同罪だ……せめて今後はこういう事がないように心がけていかなければ――」
部屋を出ようとしたエリーゼが入口で足を止めて振り返った。
「クリス王女は、素晴らしい方だと思います」
その言葉は、アレクサンダーの決心を更に強いものとした。アレクサンダーの部屋にノックの音が響く。
「入れ」
「アレクサンダー様、お呼びと伺って参りましたが」
宰相のダリウスが一礼をして入った来た。
「クリスを国に、我が国クロノスに連れて帰る」
ダリウスが眉間に皺を寄せて、困惑の表情を浮かべる。
「一体何を仰っているのですか、クリス王女はご婚約なさっているのですよ? 指輪もカモフラージュではなく、本物だったではありませんか。それに昨夜の件で、もう懲りたと思っていたのですが。我々にできる事は、急いでヘルマプロディトスに求婚の申し入れをする事位です」
「そんな事をやっていては間に合わない。クリスはグリフィス王子との結婚を決めているし、申し出ても一蹴されてしまうのがオチだろう。手に入れるなら今しかない」
「アレクサンダー様……」
不安げなダリウスを他所に、アレクサンダーの決意は揺るぎそうにない。
「何を考えていらっしゃるのですか……?」
「明日、我らが下船する停泊地、クロノス・・・そこで降ろして一緒に連れて行く」
「無理です!! アーネスト殿が、いや、ヘルマプロディトスの者達や、船長も許しはしません! 第一クリス様が承知しないでしょう」
「説得は城に連れ帰ってからだ」
「……!?」
この状態のアレクサンダーには何を言っても無駄なのをダリウスはよく知っている。
「無理強いをしても、クリス様の心は手に入りませんぞ――」
その言葉には答えずに、アレクサンダーは明日の手筈を説明し始めた。
「クリス様、何も朝食を一緒にとらなくても」
「いいじゃない。10時にはクロノスに着くんだから、食べたらすぐにさよならよ、こうして貴方もついてきてくれているんだし。それに……ジェラルドとはこれが最後なんですもの……」
「本当に何事もなければよいのですが」
「ここにきて……今更それはないでしょう?」
「どうでしょうか――」
アーネストが顔を顰めたが、クリスは疑いもしないでいる。念のために自国の騎士を二人、扉の前に待機させて特等室をノックする。
途端に扉が勢いよく開いて、ジェラルドが抱きついてきた。
「クリス!!」
本当に本当に可愛くて、将来ジェラルドのような子供が生まれるといいな、と考えてしまったりもする
興奮をしたジェラルドに手を引っ張られて、食事の席に案内された。もちろん、彼の隣である。
反対側にはアーネストが座り、クリスはアーネストとジェラルドに挟まれる形となった。ジェラルドの隣にはアレクサンダーが座り、その隣にはダリウス、その隣にはアーネスト。丸いテーブルなので、これで一周りする形になる。
食卓での会話は、ジェラルドが主役であり、クリスともうすぐ別れなければいけないせいか、ずっと喋りっぱなしであった。
本来だったら少しお喋りを控えるように注意すべきかもしれないが、これが最後なのだ。いくらでも話させてあげたい。
アレクサンダー達も同じ事を考えているようで、ジェラルドの好きにさせていた。
「ジェラルド様、もうそろそろ下船の用意をしませんと」
乳母のエリーゼが迎えにきた。
「やだ! まだクリスと一緒にいるんだ!」
エリーゼの困り顔にクリスが手を広げると。ジェラルドはすぐに腕の中におさまった。
「いつでも、私のところに遊びに来てね」
「うん……クリスは僕のところに来てくれないの?」
「ごめんなさい。私は婚約中の身だから行けないの」
「……分かった。必ず遊びに行くからね」
「ええ、待っているわ」
エリーぜに手を引かれて、何度も後ろを振り返りながら、奥の部屋へと消えていった。
「さあ、私達もそろそろ失礼致しましょ……か…」
アーネストが言葉の途中でいきなりゴトン、と頭をテーブルに打ちつけ突っ伏した。
「アーネスト、どうしたの!?」
彼の身体に手をかけたところで、クリスも目眩に襲われる。
「な……に……」
クリスが意識を失って椅子から滑り落ちそうになるのを、アレクサンダーが抱きとめた。すぐ愛おしげに抱き締め、それから横に抱き上げる。
「アレクサンダー様、やはり中止に致しませんか? クリス様は大国の王女です……絶対にただでは済みません。もし国同士の争いにでも発展したら……」
「大丈夫だ。覚えているだろう? クリス王女との縁談なら以前に打診があった。その頃、私はまだフローラのことを忘れられずに断ってしまったが……ヘルマプロディトスの国王も、アクエリオスの若造とクロノスの王であれば、こちらを選ぶに決まっている」
「しかし、それは婿入りが条件でしたよね。それに昨日も申しましたが肝心のクリス様のお心が……」
「くどい……!」
ダリウスは溜息をついた。
「かしこまりました。毒を食らわば皿まで……貴方様がそこまで仰るなら、私も覚悟を決めましょう」
大切そうにクリスを運ぶアレクサンダーの後ろに、ダリウスは付き従った。
「ジェラルドがそんな事を……」
「はい、私も今まで気が付いておりませんでした」
「フローラを亡くした時は絶望のあまり、俺も自分のことで手一杯だったからな……」
今更ながら幼いジェラルドに対して、心を砕いてやれなかった事を後悔する。
「私も……`まだ幼いし、言葉が分からないから 、理解できないから ‘ と考えておりました。分からなくても、ちゃんと伝えていくべきだったのに! 亡くなった王妃様に『くれぐれもジェラルドのことをお願いね』と言われていたのに! 自分の情けなさに涙が出ます……!」
「気にするな。私も同罪だ……せめて今後はこういう事がないように心がけていかなければ――」
部屋を出ようとしたエリーゼが入口で足を止めて振り返った。
「クリス王女は、素晴らしい方だと思います」
その言葉は、アレクサンダーの決心を更に強いものとした。アレクサンダーの部屋にノックの音が響く。
「入れ」
「アレクサンダー様、お呼びと伺って参りましたが」
宰相のダリウスが一礼をして入った来た。
「クリスを国に、我が国クロノスに連れて帰る」
ダリウスが眉間に皺を寄せて、困惑の表情を浮かべる。
「一体何を仰っているのですか、クリス王女はご婚約なさっているのですよ? 指輪もカモフラージュではなく、本物だったではありませんか。それに昨夜の件で、もう懲りたと思っていたのですが。我々にできる事は、急いでヘルマプロディトスに求婚の申し入れをする事位です」
「そんな事をやっていては間に合わない。クリスはグリフィス王子との結婚を決めているし、申し出ても一蹴されてしまうのがオチだろう。手に入れるなら今しかない」
「アレクサンダー様……」
不安げなダリウスを他所に、アレクサンダーの決意は揺るぎそうにない。
「何を考えていらっしゃるのですか……?」
「明日、我らが下船する停泊地、クロノス・・・そこで降ろして一緒に連れて行く」
「無理です!! アーネスト殿が、いや、ヘルマプロディトスの者達や、船長も許しはしません! 第一クリス様が承知しないでしょう」
「説得は城に連れ帰ってからだ」
「……!?」
この状態のアレクサンダーには何を言っても無駄なのをダリウスはよく知っている。
「無理強いをしても、クリス様の心は手に入りませんぞ――」
その言葉には答えずに、アレクサンダーは明日の手筈を説明し始めた。
「クリス様、何も朝食を一緒にとらなくても」
「いいじゃない。10時にはクロノスに着くんだから、食べたらすぐにさよならよ、こうして貴方もついてきてくれているんだし。それに……ジェラルドとはこれが最後なんですもの……」
「本当に何事もなければよいのですが」
「ここにきて……今更それはないでしょう?」
「どうでしょうか――」
アーネストが顔を顰めたが、クリスは疑いもしないでいる。念のために自国の騎士を二人、扉の前に待機させて特等室をノックする。
途端に扉が勢いよく開いて、ジェラルドが抱きついてきた。
「クリス!!」
本当に本当に可愛くて、将来ジェラルドのような子供が生まれるといいな、と考えてしまったりもする
興奮をしたジェラルドに手を引っ張られて、食事の席に案内された。もちろん、彼の隣である。
反対側にはアーネストが座り、クリスはアーネストとジェラルドに挟まれる形となった。ジェラルドの隣にはアレクサンダーが座り、その隣にはダリウス、その隣にはアーネスト。丸いテーブルなので、これで一周りする形になる。
食卓での会話は、ジェラルドが主役であり、クリスともうすぐ別れなければいけないせいか、ずっと喋りっぱなしであった。
本来だったら少しお喋りを控えるように注意すべきかもしれないが、これが最後なのだ。いくらでも話させてあげたい。
アレクサンダー達も同じ事を考えているようで、ジェラルドの好きにさせていた。
「ジェラルド様、もうそろそろ下船の用意をしませんと」
乳母のエリーゼが迎えにきた。
「やだ! まだクリスと一緒にいるんだ!」
エリーゼの困り顔にクリスが手を広げると。ジェラルドはすぐに腕の中におさまった。
「いつでも、私のところに遊びに来てね」
「うん……クリスは僕のところに来てくれないの?」
「ごめんなさい。私は婚約中の身だから行けないの」
「……分かった。必ず遊びに行くからね」
「ええ、待っているわ」
エリーぜに手を引かれて、何度も後ろを振り返りながら、奥の部屋へと消えていった。
「さあ、私達もそろそろ失礼致しましょ……か…」
アーネストが言葉の途中でいきなりゴトン、と頭をテーブルに打ちつけ突っ伏した。
「アーネスト、どうしたの!?」
彼の身体に手をかけたところで、クリスも目眩に襲われる。
「な……に……」
クリスが意識を失って椅子から滑り落ちそうになるのを、アレクサンダーが抱きとめた。すぐ愛おしげに抱き締め、それから横に抱き上げる。
「アレクサンダー様、やはり中止に致しませんか? クリス様は大国の王女です……絶対にただでは済みません。もし国同士の争いにでも発展したら……」
「大丈夫だ。覚えているだろう? クリス王女との縁談なら以前に打診があった。その頃、私はまだフローラのことを忘れられずに断ってしまったが……ヘルマプロディトスの国王も、アクエリオスの若造とクロノスの王であれば、こちらを選ぶに決まっている」
「しかし、それは婿入りが条件でしたよね。それに昨日も申しましたが肝心のクリス様のお心が……」
「くどい……!」
ダリウスは溜息をついた。
「かしこまりました。毒を食らわば皿まで……貴方様がそこまで仰るなら、私も覚悟を決めましょう」
大切そうにクリスを運ぶアレクサンダーの後ろに、ダリウスは付き従った。
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