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第二章
12話 婚約してると言ったでしょう!?
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アレクサンダーが近付いてきて、自然にクリスの背に手を回した。エスコートも堂に入り、女性慣れしていそうだ。ソファに導かれながらも視線を注がれて落ち着かない。
「ジェラルドが面倒をお掛けしました」
「面倒なんてとんでもない。素直だし、可愛くて、それにベッドに入れたら直ぐに寝入ってしまいました」
アレクサンダーはソファにクリスを座らせて、自分も隣に腰をかけた。
「それにしては帰ってくるのに時間が掛かりましたね」
「エリーゼから、奥様の話しが出て……色々と伺っていたのです」
「ああ――」
「優しくて、お美しい方だったそうですね……本当に残念で悲しい出来事です」
「はい、素晴らしい女性でした。私なんかには勿体ないぐらい――」
アレクサンダーが表情を陰らせ肩を落とし、クリスが慰めの気持ちでそっとその肩に手を置いた。彼はその優しい手に気付く。
「ありがとうございます。しかし、もう三年経ちましたし、妻に対する気持ちの区切りもつきました」
彼は肩に置かれたクリスの左手を取る。
「貴方も私の妻に負けないくらい、美しくて、素晴らしい女性だ」
アレクサンダーは身を屈め、その手に嵌っている指輪にわざとくちづけた。
「昨日は嵌めていませんでしたね……?」
上目遣いに見つめられ『牽制しているだろう? 』と言われたようで、クリスはぴくりと反応した。
「この指輪は少し大きいのです。昨日はマスト登りの時に失くしてしまいそうだったから、外していただけです」
「サイズが大きいとは、本当に婚約指輪ですか?」
「急遽決まったから間に合わせで、後日サイズが合ったものを改めて贈られる予定です」
「お相手は?」
「アクエリオス王国の第二王子、グリフィスです」
クリスが毅然とした態度でアレクサンダーに告げる。
「婚約したという話を聞いておりませんが」
「急に決まったことだったから……三ヵ月後に発表をします」
「三ヵ月後……? 長いですね。私だったら何をおいても直ぐに発表をします。貴方を他の輩に奪われないように」
アレクサンダーの唇は指輪にくちづけた後に、段々と上がってきて、今は手首に押し付けられている。力を入れ引っ張って、自分の手を取り返す。
「彼もそう言いましたが、私が待ってほしいと懇願したのです」
「婚約に迷いがあったのですか?」
「違います! 事情があって……」
クリスははっとした。言い争いで興奮したら相手の思う壷だ。
「私に事情があったのです」
「どんな?」
「プライベートなことなのでお答えできません」
「そうですか」
「身体が近くありませんか? 少し離れて下さい」
「嫌だと言ったら……?」
「大声を上げます」
一瞬の沈黙の後に、アレクサンダーが大きな声で笑い出した。
「何を笑っているんですか!? 叫んだら、私の臣下が直ぐに踏み込んでくるんですよ!」
「ではその口を塞がないと」
怒っているクリスをいきなり抱き寄せてくちづけた。『うーーー!』と抵抗するクリスを他所に、激しく貪りながらその甘い唇に夢中になり、華奢でたおやかな身体をきつく抱きしめる。
もっと深くくちづけようと、身体を離した隙に、クリスから顎にパンチを食らった。これがなかなかの衝撃でアレクサンダーが呆然としている間に、クリスは必死で拘束から抜け出す。そしてアレクサンダーに向かって仁王立ちになった。
「馬鹿!! 大っ嫌い! 婚約してると言ったでしょう!? 彼以外とキスする気はないんだから!!」
涙が次から次へと零れ出る中、クリスは腹立ちが収まらないのか。傍にあった瓶の中のお酒をアレクサンダーにぶちまけた。そのまま瓶も投げつけて、泣きながら部屋を走り出て行った。
ダリウスとエリーゼが遠慮がちに顔を出す。
「大丈夫ですか……? 何やら大荒れでしたが……」とダリウス。
「今、タオルをお持ちいたします」とエリーゼ。
「完全にやられた――」
「え……?」
二人がアレクサンダーを注視する中、彼はクッと笑い出した。
クリスが泣きながら飛び込んできて、叫び声が聞こえたら直ぐに飛び出ようとしていたハンナとアーネストが驚く。
「どうなさったんですか!?」
「ア、アレクサンダーが私に、キス――」
「なんですと!?」
腹を立てながら出て行こうとしたアーネストをハンナが引き止める。
「アーネスト! 落ち着いて!! まずはクリス様の話を聞きましょう!」
ハンナからタオルを渡され、顔を拭きながら話し始めた。
「……それで『大声を上げる』って言ったら『口を塞がないと』ってキスで塞がれて、一瞬離れたから、殴って逃げてきたの」
クリスが俯く。
「私が馬鹿だったわ、ソファなんかに座らずに直ぐに帰ってくればよかった。今まで男性に言い寄られたことなんか殆ど無かったから、まさか私がってどこかで油断していたの」
「そのことですが……」
アーネストがコホンと咳払いをした。
「今までのクリス様は、結婚相手として相応しいかどうかで男性を見ていましたし、グリフィス様にお会いするまでは歯牙にも引っ掛けませんでしたから、相手も寄ってこなかったのです。今はグリフィス様に恋をして、人当たりが柔らかくなりました。近付きやすくなった上に、元からの魅力も増し、異性に目を付けられて当然なのです」
クリスは話を聞きながら、指先で唇に触れた。その顔は部屋に帰ってきた時は悔しそうだったが、今では悲しみに満ちている。グリフィス以外にキスされたくはなかった。
「やはり、ここは私が意見して参りましょう」
その様子を見て、アーネストが立ち上がり、部屋から出て行った。
「ジェラルドが面倒をお掛けしました」
「面倒なんてとんでもない。素直だし、可愛くて、それにベッドに入れたら直ぐに寝入ってしまいました」
アレクサンダーはソファにクリスを座らせて、自分も隣に腰をかけた。
「それにしては帰ってくるのに時間が掛かりましたね」
「エリーゼから、奥様の話しが出て……色々と伺っていたのです」
「ああ――」
「優しくて、お美しい方だったそうですね……本当に残念で悲しい出来事です」
「はい、素晴らしい女性でした。私なんかには勿体ないぐらい――」
アレクサンダーが表情を陰らせ肩を落とし、クリスが慰めの気持ちでそっとその肩に手を置いた。彼はその優しい手に気付く。
「ありがとうございます。しかし、もう三年経ちましたし、妻に対する気持ちの区切りもつきました」
彼は肩に置かれたクリスの左手を取る。
「貴方も私の妻に負けないくらい、美しくて、素晴らしい女性だ」
アレクサンダーは身を屈め、その手に嵌っている指輪にわざとくちづけた。
「昨日は嵌めていませんでしたね……?」
上目遣いに見つめられ『牽制しているだろう? 』と言われたようで、クリスはぴくりと反応した。
「この指輪は少し大きいのです。昨日はマスト登りの時に失くしてしまいそうだったから、外していただけです」
「サイズが大きいとは、本当に婚約指輪ですか?」
「急遽決まったから間に合わせで、後日サイズが合ったものを改めて贈られる予定です」
「お相手は?」
「アクエリオス王国の第二王子、グリフィスです」
クリスが毅然とした態度でアレクサンダーに告げる。
「婚約したという話を聞いておりませんが」
「急に決まったことだったから……三ヵ月後に発表をします」
「三ヵ月後……? 長いですね。私だったら何をおいても直ぐに発表をします。貴方を他の輩に奪われないように」
アレクサンダーの唇は指輪にくちづけた後に、段々と上がってきて、今は手首に押し付けられている。力を入れ引っ張って、自分の手を取り返す。
「彼もそう言いましたが、私が待ってほしいと懇願したのです」
「婚約に迷いがあったのですか?」
「違います! 事情があって……」
クリスははっとした。言い争いで興奮したら相手の思う壷だ。
「私に事情があったのです」
「どんな?」
「プライベートなことなのでお答えできません」
「そうですか」
「身体が近くありませんか? 少し離れて下さい」
「嫌だと言ったら……?」
「大声を上げます」
一瞬の沈黙の後に、アレクサンダーが大きな声で笑い出した。
「何を笑っているんですか!? 叫んだら、私の臣下が直ぐに踏み込んでくるんですよ!」
「ではその口を塞がないと」
怒っているクリスをいきなり抱き寄せてくちづけた。『うーーー!』と抵抗するクリスを他所に、激しく貪りながらその甘い唇に夢中になり、華奢でたおやかな身体をきつく抱きしめる。
もっと深くくちづけようと、身体を離した隙に、クリスから顎にパンチを食らった。これがなかなかの衝撃でアレクサンダーが呆然としている間に、クリスは必死で拘束から抜け出す。そしてアレクサンダーに向かって仁王立ちになった。
「馬鹿!! 大っ嫌い! 婚約してると言ったでしょう!? 彼以外とキスする気はないんだから!!」
涙が次から次へと零れ出る中、クリスは腹立ちが収まらないのか。傍にあった瓶の中のお酒をアレクサンダーにぶちまけた。そのまま瓶も投げつけて、泣きながら部屋を走り出て行った。
ダリウスとエリーゼが遠慮がちに顔を出す。
「大丈夫ですか……? 何やら大荒れでしたが……」とダリウス。
「今、タオルをお持ちいたします」とエリーゼ。
「完全にやられた――」
「え……?」
二人がアレクサンダーを注視する中、彼はクッと笑い出した。
クリスが泣きながら飛び込んできて、叫び声が聞こえたら直ぐに飛び出ようとしていたハンナとアーネストが驚く。
「どうなさったんですか!?」
「ア、アレクサンダーが私に、キス――」
「なんですと!?」
腹を立てながら出て行こうとしたアーネストをハンナが引き止める。
「アーネスト! 落ち着いて!! まずはクリス様の話を聞きましょう!」
ハンナからタオルを渡され、顔を拭きながら話し始めた。
「……それで『大声を上げる』って言ったら『口を塞がないと』ってキスで塞がれて、一瞬離れたから、殴って逃げてきたの」
クリスが俯く。
「私が馬鹿だったわ、ソファなんかに座らずに直ぐに帰ってくればよかった。今まで男性に言い寄られたことなんか殆ど無かったから、まさか私がってどこかで油断していたの」
「そのことですが……」
アーネストがコホンと咳払いをした。
「今までのクリス様は、結婚相手として相応しいかどうかで男性を見ていましたし、グリフィス様にお会いするまでは歯牙にも引っ掛けませんでしたから、相手も寄ってこなかったのです。今はグリフィス様に恋をして、人当たりが柔らかくなりました。近付きやすくなった上に、元からの魅力も増し、異性に目を付けられて当然なのです」
クリスは話を聞きながら、指先で唇に触れた。その顔は部屋に帰ってきた時は悔しそうだったが、今では悲しみに満ちている。グリフィス以外にキスされたくはなかった。
「やはり、ここは私が意見して参りましょう」
その様子を見て、アーネストが立ち上がり、部屋から出て行った。
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