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第二章
8話 飛び込んで、助けられて(改)
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急いで船べりから川を見下ろすと、子供が溺れかけている。この時代に泳げる者はそうそういない。クリスも達者には泳げないが、子供はもう見えなくなりそうな上に、船もその位置から離れつつある。
「船を止めろ!」
「誰か泳げる者は!?」
船員が来るまで待ってはいられない――!!
クリスは意を決して、上着を脱ぎ捨てると飛び込んだ。子供のところまで泳ぎつき、必死にその体を掴む。それまで殆ど意識を失っていた子供が、ハッとして急にしがみ付いてきた。
「だめ、しがみ付いたら、泳げなくなるから!」
溺れかけている子供には何を言っても無駄だ。益々しがみ付かれ、ただでさえ泳ぎが達者でないクリスは沈みそうになる。それでも必死に立ち泳ぎをし、子供の顔を水面上に出すようにしていたが、やがて力尽きて共に沈んでいった・・・
グリフィス――
脳裏にグリフィスの顔が浮かぶ。
途端に力強い腕が身体に巻きつき、ぐんぐんと浮上し始めた。クリスは意識を失いそうな中、子供と離れてしまわないようにしっかりと抱きしめる。水面に出た時に、心からほっとして気を失った。
「君か――!」
という言葉を聞きながら。
目覚めたのは、一等船室の自分のベッドの上であった。
「あ……れ……?」
「クリス様ーーー!!」
ハンナとアーネストのアップが迫る。
「――お願い、嬉しいけどちょっと離れて……という事は、私は助かったのね……?」
「そうでございますよ!! でも、本当に危ないところだったんですよ! そんなに泳げないのに、無理をなさるから~~~!!」
ハンナの涙が止まらない。
「子供は――!?」
慌ててベッドの上に起き上がると、アーネストが直ぐに答えてくれた。
「助かりました。あの後に子供の父親がすぐに飛び込んだのです。姿が見えなくなったクリス様とお子様を腕にして、川の中から見事に浮かび上がってきた時には、もう船上は歓声の嵐でした! 船員もその時には何人か飛び込んでおり、身体を甲板に引き上げる作業は比較的楽にできました」
「その後は……? 記憶にない……あ……」
助かった後に、グリフィスに会ったような気がして、首を傾げた。やけに鮮明な記憶である。
「はい、お子様は引き上げている途中で自然と水を吐き出しまして、船上に引き上げた時にはもう意識を取り戻しておりました。クリス様は、甲板で父親が水を吐き出させた後に、少しだけ意識を取り戻して、呼吸も安定していたので、大丈夫だろうと……そういえば子供の父親に向かって『グリフィス』と呼びかけておりましたぞ」
「私、間違えたのね」
クリスが頬を赤らめた。
「ようございましたな! もし人工呼吸をあの父親がしていたら、グリフィス様が出てきて殺生沙汰になるところでした」
ガハガハ笑っているアーネストにハンナが釘を刺す。
「何言ってんの! 人口呼吸が必要になったら、アーネスト、貴方にやらせていたわよ!」
途端にアーネストが顔色を変えた。
「本当に……! 人工呼吸をせずに済ん――いえ、助かって、本当にようございました……!」
ハンナがクリスの様子をみながら、気遣わしげに伺いを立てる。
「クリス様、船長が`目覚めたらすぐにお会いしたい ‘ と仰っていて、お呼びしても大丈夫でしょうか?」
「ええ、いいわよ」
ハンナが居間にいる従者に伝え、呼びに出たと思ったら`あなた、扉の外で待機していましたね!? ‘ という速さで船長が現れた。
「クリス様! この度は大変申し訳ございませんでした!! 船員を甲板の要所要所に配置していなかった私の落ち度です! こうなったらこの皺腹を掻っ裁いてお詫びを!!」
クリスが笑顔で答える。
「アーネスト、止めてちょうだい」
「かしこまりました――。船長、貴方が死んでも何もなりません! 現にみんな無事ではないですか!」
アーネストに羽交い絞めにされ、船長が膝から崩れ落ちた。
「クリス様。船長は駆けつけてすぐ、川に飛び込もうとして、周りの者達に(二次災害になるからと)止められたのです。子供のことも心から心配しておいででした」
「そう……貴方は本当に良い船長なのね。それではお願い。もうお分かりだとは思うけど、船員の配置を考えて下さい。それでこの件はおしまい」
「クリス様……」
まるで、女神を見るような目つきでクリスを見つめ、差し出した手の甲に恭しくくちづけた。何回も振り返りながら、退出していく。
「クリス様、あの子供の父親が、是非お礼を言いたいといらっしゃっていますが」
ハンナが頬を染めて居間から入ってきた。
「どうぞ、入って頂いて……ハンナ、一体どうしたの?」
ハンナが小声で囁く。
「それが、とても素敵な方……いい男なのですよ……!」
飛び跳ねるようにハンナが居間へと向かい、入れ替わりにあの大柄な男性が入ってきた。
「船を止めろ!」
「誰か泳げる者は!?」
船員が来るまで待ってはいられない――!!
クリスは意を決して、上着を脱ぎ捨てると飛び込んだ。子供のところまで泳ぎつき、必死にその体を掴む。それまで殆ど意識を失っていた子供が、ハッとして急にしがみ付いてきた。
「だめ、しがみ付いたら、泳げなくなるから!」
溺れかけている子供には何を言っても無駄だ。益々しがみ付かれ、ただでさえ泳ぎが達者でないクリスは沈みそうになる。それでも必死に立ち泳ぎをし、子供の顔を水面上に出すようにしていたが、やがて力尽きて共に沈んでいった・・・
グリフィス――
脳裏にグリフィスの顔が浮かぶ。
途端に力強い腕が身体に巻きつき、ぐんぐんと浮上し始めた。クリスは意識を失いそうな中、子供と離れてしまわないようにしっかりと抱きしめる。水面に出た時に、心からほっとして気を失った。
「君か――!」
という言葉を聞きながら。
目覚めたのは、一等船室の自分のベッドの上であった。
「あ……れ……?」
「クリス様ーーー!!」
ハンナとアーネストのアップが迫る。
「――お願い、嬉しいけどちょっと離れて……という事は、私は助かったのね……?」
「そうでございますよ!! でも、本当に危ないところだったんですよ! そんなに泳げないのに、無理をなさるから~~~!!」
ハンナの涙が止まらない。
「子供は――!?」
慌ててベッドの上に起き上がると、アーネストが直ぐに答えてくれた。
「助かりました。あの後に子供の父親がすぐに飛び込んだのです。姿が見えなくなったクリス様とお子様を腕にして、川の中から見事に浮かび上がってきた時には、もう船上は歓声の嵐でした! 船員もその時には何人か飛び込んでおり、身体を甲板に引き上げる作業は比較的楽にできました」
「その後は……? 記憶にない……あ……」
助かった後に、グリフィスに会ったような気がして、首を傾げた。やけに鮮明な記憶である。
「はい、お子様は引き上げている途中で自然と水を吐き出しまして、船上に引き上げた時にはもう意識を取り戻しておりました。クリス様は、甲板で父親が水を吐き出させた後に、少しだけ意識を取り戻して、呼吸も安定していたので、大丈夫だろうと……そういえば子供の父親に向かって『グリフィス』と呼びかけておりましたぞ」
「私、間違えたのね」
クリスが頬を赤らめた。
「ようございましたな! もし人工呼吸をあの父親がしていたら、グリフィス様が出てきて殺生沙汰になるところでした」
ガハガハ笑っているアーネストにハンナが釘を刺す。
「何言ってんの! 人口呼吸が必要になったら、アーネスト、貴方にやらせていたわよ!」
途端にアーネストが顔色を変えた。
「本当に……! 人工呼吸をせずに済ん――いえ、助かって、本当にようございました……!」
ハンナがクリスの様子をみながら、気遣わしげに伺いを立てる。
「クリス様、船長が`目覚めたらすぐにお会いしたい ‘ と仰っていて、お呼びしても大丈夫でしょうか?」
「ええ、いいわよ」
ハンナが居間にいる従者に伝え、呼びに出たと思ったら`あなた、扉の外で待機していましたね!? ‘ という速さで船長が現れた。
「クリス様! この度は大変申し訳ございませんでした!! 船員を甲板の要所要所に配置していなかった私の落ち度です! こうなったらこの皺腹を掻っ裁いてお詫びを!!」
クリスが笑顔で答える。
「アーネスト、止めてちょうだい」
「かしこまりました――。船長、貴方が死んでも何もなりません! 現にみんな無事ではないですか!」
アーネストに羽交い絞めにされ、船長が膝から崩れ落ちた。
「クリス様。船長は駆けつけてすぐ、川に飛び込もうとして、周りの者達に(二次災害になるからと)止められたのです。子供のことも心から心配しておいででした」
「そう……貴方は本当に良い船長なのね。それではお願い。もうお分かりだとは思うけど、船員の配置を考えて下さい。それでこの件はおしまい」
「クリス様……」
まるで、女神を見るような目つきでクリスを見つめ、差し出した手の甲に恭しくくちづけた。何回も振り返りながら、退出していく。
「クリス様、あの子供の父親が、是非お礼を言いたいといらっしゃっていますが」
ハンナが頬を染めて居間から入ってきた。
「どうぞ、入って頂いて……ハンナ、一体どうしたの?」
ハンナが小声で囁く。
「それが、とても素敵な方……いい男なのですよ……!」
飛び跳ねるようにハンナが居間へと向かい、入れ替わりにあの大柄な男性が入ってきた。
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