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第二章
4話 身を引いたほうが(改)
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ノックをすると、若い男が顔を出した。
「グリフィスにデイヴィッドが用事があると伝えてくれ」
「すいません。今は誰にもお会いになりーーーグェッ」
みなまで聞かず、若者を押しのけて部屋に入る。
「グリフィス!!」
グリフィスが書類から顔を上げた。しかしその目の焦点は合っていないように見える。思わず心配して気遣いの声をかけた。
「お前、大丈夫か……?」
「あ、ああ……デイヴィッド。悪い、何か用か?」
「『何か用か』って……お前が姿を現さないから、クリスがしゅんとしてしまって、俺の従妹を哀しませるなよ! と言いにきたんだけど……お前、本当にどうしたんだ?」
「あのキスは誤解だったんだろう?」
「唐突に聞いてくるな――あれは相談に乗ったお礼に`頬にキスしてくれ ‘ って頼んだ時に、クリスがよろけて支えただけだ」
「やっぱり殴ってもいいか?」
「悪かった。でも頬のキスだぜ? 俺達兄妹みたいなもんだし」
「なぜあの時は説明をしてくれなかったんだ」
「うん……その相談ってのが『国に帰りたいのに帰してくれないから、どうすればいい?』って相談だったから、お前に知られたらまずいだろ?」
「そうだったのか――」
グリフィスが溜息をついた。
「どうしたんだよ」
「俺のクリスへの執着って異常だと思わないか?」
「思う――」
「フォロー無しかよ」
「事実だからな――っていうか、自覚があったんだ?」
「ああ。婚約が確定したら、この気持ちもある程度収まるかと思ったんだが……駄目だ。全然収まらない。彼女に対する気持ちは俺の性格と相容れないんだ」
「確かに。お前って執着のしの字も無い奴だったもんな」
「今でも彼女以外はそうだ」
「へー、クリスってすげー、じゃなくて、お前何で部屋から出てこないんだよ。クリスが心配しているぞ。出てきて仲直りしろ」
「いや、今回の事でこんな異常な俺が、このままクリスと結婚してもいいのかと考え始めて」
ぶはっ――!!
「吹き出すな――」
「だって、お前に似合わないよ、そのセリフ」
「似合わなくても、彼女の幸せを考えたら、そうすべきかも」
「じゃあ、どこかの国の王子とクリスが結婚しても、耐えられるのか?」
ぼきっと音がして、グリフィスの手元を見ると、ペンが真っ二つに折れている。
「グリフィス、ペンが……」
「ああ……折れたな」
(無理だよ、こいつ絶対に耐えられない)
とは思ったが、そこは可愛い従妹の味方。クリスに報告して彼女に決めてもらうことにした。
クリスの部屋で、執務室での内容を詳細に話す。
「どうする? クリス。今ならまだ婚約もしていないし、すぐ白紙に戻せるけど」
「私の気持ちは変わらない。でもグリフィスは、そんな……私に囚われているような状態で幸せなのかしら? よく`結婚は二番目に好きな人とするといい ‘ と言うじゃない? 彼の為を思ったら、私が身を引いたほうが幸せかも」
「う~ん、その考えは捨てたほうがいいと思うけど。それに彼はクリスと結婚できなかったら、誰ともしないと思うよ」
クリスは暫く考えていたが……
「取り合えず、国に一回帰るわ。その前に、グリフィスに私の気持ちを伝えて、いない間に私との婚約を考えてもらう」
グリフィスは食事に顔を出すようになった。部屋に送ってくれなくなり、お茶もしなくなったが、見かけはいつもと変わらない。デイヴィッドとの仕事が始まったが、クリスと結婚しなかったら、この引継ぎは無駄になる。
その疑問をデイヴィッドにぶつけてみたら、クリスと結婚しなくても、デイヴィッドさえ良かったら仕事をこのまま手伝ってほしいと言われたそうだ。
ヘルマプロディトスの跡継ぎ候補も他にいるし、デイヴィッドには自分でなくても大丈夫と言われた。
クリスが国に帰るという噂が流れ始めたが、グリフィスは特に何も言ってこない。もしかして、もう私に関心はないのだろうか? その事を考えると、ちくりと胸が痛んだ。帰国する前日の晩にグリフィスの執務室を訪れる。ノックをして、部屋に入った。
「クリス……」
グリフィスが書類の間から顔を出した。
「グリフィス、まだお仕事をしていたのね」
「ああ、山積みでね」
彼が書類を叩く。
「聞いてると思うけど……明日、国に帰るの」
グリフィスが一瞬、顔を引きつらせたように見えたが、それは気のせいだったのかもしれない。
「それで、貴方に決めてもらいたいと思って。私との婚約のことを」
「もう、白紙に戻すつもりなんじゃないのか?」
「いいえ。私は貴方を愛しているもの……でも、貴方は私に囚われてしまっているように感じるの。だから、貴方の為にも、別れたほうがいいかと思って。私が国に帰っている間に考えてほしいの、この婚約をどうするべきか。一月後に帰ってきた時に、返事がほしいの」
「本気で言っているのか?」
「ええ、本気よ」
「君は……最後に失敗をしたね」
「失敗って?」
戸惑いの表情を浮かべる。
「喉が渇ききった男の前に、冷たい水を差し出すなんて――」
自分を見つめる彼の瞳に残忍な色が宿るのを見た。
「グリフィスにデイヴィッドが用事があると伝えてくれ」
「すいません。今は誰にもお会いになりーーーグェッ」
みなまで聞かず、若者を押しのけて部屋に入る。
「グリフィス!!」
グリフィスが書類から顔を上げた。しかしその目の焦点は合っていないように見える。思わず心配して気遣いの声をかけた。
「お前、大丈夫か……?」
「あ、ああ……デイヴィッド。悪い、何か用か?」
「『何か用か』って……お前が姿を現さないから、クリスがしゅんとしてしまって、俺の従妹を哀しませるなよ! と言いにきたんだけど……お前、本当にどうしたんだ?」
「あのキスは誤解だったんだろう?」
「唐突に聞いてくるな――あれは相談に乗ったお礼に`頬にキスしてくれ ‘ って頼んだ時に、クリスがよろけて支えただけだ」
「やっぱり殴ってもいいか?」
「悪かった。でも頬のキスだぜ? 俺達兄妹みたいなもんだし」
「なぜあの時は説明をしてくれなかったんだ」
「うん……その相談ってのが『国に帰りたいのに帰してくれないから、どうすればいい?』って相談だったから、お前に知られたらまずいだろ?」
「そうだったのか――」
グリフィスが溜息をついた。
「どうしたんだよ」
「俺のクリスへの執着って異常だと思わないか?」
「思う――」
「フォロー無しかよ」
「事実だからな――っていうか、自覚があったんだ?」
「ああ。婚約が確定したら、この気持ちもある程度収まるかと思ったんだが……駄目だ。全然収まらない。彼女に対する気持ちは俺の性格と相容れないんだ」
「確かに。お前って執着のしの字も無い奴だったもんな」
「今でも彼女以外はそうだ」
「へー、クリスってすげー、じゃなくて、お前何で部屋から出てこないんだよ。クリスが心配しているぞ。出てきて仲直りしろ」
「いや、今回の事でこんな異常な俺が、このままクリスと結婚してもいいのかと考え始めて」
ぶはっ――!!
「吹き出すな――」
「だって、お前に似合わないよ、そのセリフ」
「似合わなくても、彼女の幸せを考えたら、そうすべきかも」
「じゃあ、どこかの国の王子とクリスが結婚しても、耐えられるのか?」
ぼきっと音がして、グリフィスの手元を見ると、ペンが真っ二つに折れている。
「グリフィス、ペンが……」
「ああ……折れたな」
(無理だよ、こいつ絶対に耐えられない)
とは思ったが、そこは可愛い従妹の味方。クリスに報告して彼女に決めてもらうことにした。
クリスの部屋で、執務室での内容を詳細に話す。
「どうする? クリス。今ならまだ婚約もしていないし、すぐ白紙に戻せるけど」
「私の気持ちは変わらない。でもグリフィスは、そんな……私に囚われているような状態で幸せなのかしら? よく`結婚は二番目に好きな人とするといい ‘ と言うじゃない? 彼の為を思ったら、私が身を引いたほうが幸せかも」
「う~ん、その考えは捨てたほうがいいと思うけど。それに彼はクリスと結婚できなかったら、誰ともしないと思うよ」
クリスは暫く考えていたが……
「取り合えず、国に一回帰るわ。その前に、グリフィスに私の気持ちを伝えて、いない間に私との婚約を考えてもらう」
グリフィスは食事に顔を出すようになった。部屋に送ってくれなくなり、お茶もしなくなったが、見かけはいつもと変わらない。デイヴィッドとの仕事が始まったが、クリスと結婚しなかったら、この引継ぎは無駄になる。
その疑問をデイヴィッドにぶつけてみたら、クリスと結婚しなくても、デイヴィッドさえ良かったら仕事をこのまま手伝ってほしいと言われたそうだ。
ヘルマプロディトスの跡継ぎ候補も他にいるし、デイヴィッドには自分でなくても大丈夫と言われた。
クリスが国に帰るという噂が流れ始めたが、グリフィスは特に何も言ってこない。もしかして、もう私に関心はないのだろうか? その事を考えると、ちくりと胸が痛んだ。帰国する前日の晩にグリフィスの執務室を訪れる。ノックをして、部屋に入った。
「クリス……」
グリフィスが書類の間から顔を出した。
「グリフィス、まだお仕事をしていたのね」
「ああ、山積みでね」
彼が書類を叩く。
「聞いてると思うけど……明日、国に帰るの」
グリフィスが一瞬、顔を引きつらせたように見えたが、それは気のせいだったのかもしれない。
「それで、貴方に決めてもらいたいと思って。私との婚約のことを」
「もう、白紙に戻すつもりなんじゃないのか?」
「いいえ。私は貴方を愛しているもの……でも、貴方は私に囚われてしまっているように感じるの。だから、貴方の為にも、別れたほうがいいかと思って。私が国に帰っている間に考えてほしいの、この婚約をどうするべきか。一月後に帰ってきた時に、返事がほしいの」
「本気で言っているのか?」
「ええ、本気よ」
「君は……最後に失敗をしたね」
「失敗って?」
戸惑いの表情を浮かべる。
「喉が渇ききった男の前に、冷たい水を差し出すなんて――」
自分を見つめる彼の瞳に残忍な色が宿るのを見た。
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