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第二章

2 溺愛? 執着?(改)

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「従兄だけあって、デイヴィッドはクリスに似ていますね」

 二人共、銀灰色の瞳にダークブロンドの髪をしている。クリスの髪はストレートだが、デイヴィッドの髪の毛は僅かにウエーブがかかっていて、少し長めの髪型である。

「幼い頃はもっと似ていたんだけど、成長するにつれて違いがはっきりしてきたんだ。クリスが女性に変化・・・」

 いきなり隣に座っているグリフィスの肘が、デイヴィッドの脇腹にめり込んできた。

「ゲホッ・・・」

 察しのいいデイヴィッドは、プリシラが両性具有の話を聞かされていない事を理解したが・・・

「もう少し優しく教えてくれよ」
「もう少し考えてから口にしろ」

 プリシラはよく分からずに`これが男同士というものかしら? ‘ と首を傾げ、クリスは`これで本当にデイヴィッドはやっていけるのかしら? ‘ と、心配で頭を悩ませた。

 城に着くと、アーネストとハンナが出迎えてくれた。

「お久しぶりです。デイヴィッド様!」
「アーネスト、ハンナ! 元気そうで良かった」

 デイヴィッドは盛大にハグをする。そしてアーネストの耳元で声を落として伝えた。

「あの、可愛らしいプリシラの姿絵はお前が送りつけてきたんだろう? 流石だな! あれにはノックアウトされたよ!」
「大変嬉しいのですが、グリフィス様のお仕事が如何に素晴らしくて、遣り甲斐があるかという詳しいレポートにも目を通して頂けましたでしょうか?」
「・・・・・・もちろん読んださ! だからここにいるんじゃないか」

 読んでねーな・・・

 アーネストとグリフィスは二人共気持ちを同じくした。

「そうでなくても、グリフィスの後釜なら、遣り甲斐のある仕事に決まっているさ」

 デイヴィッドがウィンクをする。

 そうだ、こういう奴だった――
 グリフィスは学生時代を思い出した。細かい事には拘らず、しかし芯の部分をしっかりと把握していて、真実を見極める目を持っている。

 グリフィスはデイヴィッドの肩を叩いた。

「期待しているぞ――。まずは部屋に案内させよう」
「プリシラの部屋の近くがいいな」
「却下だ」

 部屋に落ち着いたところで、ドアにノックの音がした。

(メイドが、持って来た荷物をクローゼットに収納しにきたな)

 ドアを開けると、クリスが立っている。

「デイヴィッド、相談に乗ってほしいの」
「どうしたんだい・・・? まあ、入りなよ」

 デイヴィッドが部屋にクリスを招き入れると、ちょうどお茶を持ったメイドと、荷物を収納をするためのメイドが現れた。
「えーと、荷物は少ないから自分で片付ける。お茶だけ置いていってくれ」
 メイド達は膝を折って了解の意を示すと、お茶の用意を手際よくテーブルの上にしつらえて退室した。

「さて、我が従妹殿は何をお悩みだい?」
「私、一回ヘルマプロディトスに帰りたいの・・・」
「帰ればいいじゃないか」
「グリフィスが帰してくれないの」
「本当か? あのグリフィスがねぇ・・・」

 学生時代のグリフィスといえば、女性にあまり関心が無いように見えた。いや、クリスに示していたか・・・。しかしあの頃のアクエリオスはまだ弱小国で、箸にも棒にも掛からなかったから、大国の跡継ぎ候補であったクリスに近付くことすらできずにやきもきしていたっけ。

 デイヴィッドはその頃のグリフィスを思い出して、笑みを零す。
あの容姿だし、スポーツ万能で成績優秀だったから女にはもてていた。言い寄られて付き合ってもいたが、心ここにあらずという感じだったな~。

「アーネストからの書状を読んだけど、暫く留まる事に決めたんだろう?」
「でも、その期間がどんどん延びていくのよ? それに、私の身体の女性化が進んでしまって、ドレスの胸の辺りがもう限界なの! 国に帰って新しいドレスをオーダーしたいのよ!」

「ここの王室お抱えの仕立て屋に頼めばいいじゃないか」
「私の身体はまだ完全には変化していないし、もし、万が一秘密が知れたらと思うと・・・。その点、ヘルマプロディトスのお抱えの仕立て屋は事情も知っているし、今後の変化にも対応して、いい感じに作ってくれるの」

「そうか・・・それをちゃんとグリフィスに伝えたのか?」
「伝えたわ、そうしたら『その王室御用達をお針子ごと呼び寄せるから、ここで仕立ててもらえばいい』って」
「すげーな、随分と金が掛かるんじゃないか?」

「そうなの! たかがドレスのために、そんなにお金をかけたくないって言ったら、『こちらで出す』って、いま資金が必要なアクエリオスに出してもらう訳にはいかないって言ったら、『ポケットマネーだから大丈夫』って」

 うわぁ・・・実際に見聞きするまでは信じられなかったが、あのグリフィスがベタ惚れだ。一時も離れたくないわけか。

「じゃあ、いいじゃないか。グリフィスも忙しくて、他に自分の金を使うところもないんだろう。呼び寄せて作ってもらえば」
「私は一回帰りたいの。女性化した妹達に色々と聞きたいこともあるし、こんな長期滞在になるとは思わなかったから、こちらに持ってきたい物もあるの」

「まあ、気持ちは分かるな。行って帰って、三週間あれば間に合うし・・・駄目なのか?」
 クリスは首を振った。
「『長い』って・・・二週間では?って聞いたんだけど」
「二週間って、行った、帰った、で終わるじゃないか」
 クリスは頷いた。
「でも駄目って」

 ――もう溺愛・・・っていうか、執着・・・?

「だからこの前、強行手段に出ようとしたんだけど・・・」
 クリスはその時の出来事を話し始めた。
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