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後日談
16 ひ、ひ、ひとまず落ち着きましょう!?
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耳元で囁くように言われ、逞しい胸に抱き締められて……クリスの胸の鼓動が早くなる。
「クリス……?」
グリフィスに促されて、クリスは胸の内を考えつつ、正直なところを口にした。
「………戻ってほしいわ。愛した人だもの。でも、もし戻らなくても平気よ。だってどちらもグリフィスで、考え方とか、根本的なところは変わらないし……きっと愛せるようになると思うの」
「それって、”今の俺の事は愛していない”って言ってるんだよね?」
「あれ………」
"わたし、やってしまいました?"というクリスの顔とは対照的に、グリフィスの瞳が悲し気に翳る。
「中身が俺だと、やはり頼りないのか……」
「えっ、違う! 好きよ、大好き!」
「でも愛してはいない」
辛そうに顔を背け、グリフィスがクリスから離れていく。
クリスは軽はずみな発言で純真な彼を傷つけてしまい、後悔して縋り付く。
「待ってグリフィス!」
「だから俺がキスしようとすると避けるんですね……」
「避けてないわよ?」
寧ろ恥ずかしがるグリフィスを捕まえて、積極的にキスしていた覚えが……
「頬ではなくて、唇へのキスです」
「それはだって、今の貴方は私より、精神的には年下で、(大人)グリフィスと違って純情で……何かこう、子供をかどわかしているような気分になるの」
グリフィスがすっと目を細めて、縋り付いているクリスを見下ろした。
「子供じゃない――」
「え……」
グリフィスの纏う雰囲気が変わり、クリスの背筋に悪寒が走る。
咄嗟に彼女は本能的に、グリフィスから離れて後ずさった。
彼は口を引き結ぶと、僅か一歩で距離を縮める。
クリスの身体をひょいと抱き上げ、寝室に向かって歩き始めた。
「グリフィス!?」
「じっとしていて下さい」
クリスは慌ててじたばたしたが、抱き上げる手に力がこめられ、益々身動きができなくなった。
グリフィスは見た限りでは、普段通りに落ち着いて見える。
しかし彼女をきつく抱く腕や、険しい横顔からは、彼の怒りと固い決意がひしひしと伝わってきた。
寝室に運ばれ、毎夜二人が離れて眠る大きなベッドに、とさっとクリスは下ろされた。
彼が扉を閉めに行こうとした隙に、反転したクリスは、ベッドの反対側から逃げ出そうとする。
気付いたグリフィスがすかさず振り返り、大きな手でクリスの足首を掴んだ。
「ひっ、」
「なぜ逃げるんですか。部屋の中で追いかけっこなんてごめんです」
「グリフィス、何をするつもりなの?」
グリフィスは足首を掴んだまま、ギシッとベッドに片膝をついた。
「いま貴方が、その可愛い頭の中で考えている事を」
「ひ、ひ、ひとまず落ち着きましょう!?」
「落ち着いたほうがいいのは、貴方のほうなのでは?」
彼の露わな上半身が引き締まり、マットレスを軋ませてベッドに上がってくる。
クリスは焦って後ずさるが、足首を引っ張られてずるずると引き戻されてしまった。
もがくクリスを逃さぬよう、グリフィスは彼女に跨って膝立ちになる。
クリスは為す術もなく、呆然とグリフィスを見上げた。
「何で急に? ずっとベッドの端で寝ていたじゃない……!」
「全く分かっていないんですね」
右手を伸ばしてクリスの額にかかっていた髪の毛を、そっと耳に撫でかける。
そのまま指先を滑らせて白く滑らかな頬に、ひんやりとした大きな手の平を押し当てた。
「どれだけ俺が我慢をしていたのかを……」
月の光が部屋を満たし、グリフィスがまっすぐにクリスを見つめる。
彼の表情に息を呑んだクリスが、こくり…――と喉を鳴らした。
アイスブルー瞳の奥に、熱く孕んだものを見てしまったから。
「クリス……?」
グリフィスに促されて、クリスは胸の内を考えつつ、正直なところを口にした。
「………戻ってほしいわ。愛した人だもの。でも、もし戻らなくても平気よ。だってどちらもグリフィスで、考え方とか、根本的なところは変わらないし……きっと愛せるようになると思うの」
「それって、”今の俺の事は愛していない”って言ってるんだよね?」
「あれ………」
"わたし、やってしまいました?"というクリスの顔とは対照的に、グリフィスの瞳が悲し気に翳る。
「中身が俺だと、やはり頼りないのか……」
「えっ、違う! 好きよ、大好き!」
「でも愛してはいない」
辛そうに顔を背け、グリフィスがクリスから離れていく。
クリスは軽はずみな発言で純真な彼を傷つけてしまい、後悔して縋り付く。
「待ってグリフィス!」
「だから俺がキスしようとすると避けるんですね……」
「避けてないわよ?」
寧ろ恥ずかしがるグリフィスを捕まえて、積極的にキスしていた覚えが……
「頬ではなくて、唇へのキスです」
「それはだって、今の貴方は私より、精神的には年下で、(大人)グリフィスと違って純情で……何かこう、子供をかどわかしているような気分になるの」
グリフィスがすっと目を細めて、縋り付いているクリスを見下ろした。
「子供じゃない――」
「え……」
グリフィスの纏う雰囲気が変わり、クリスの背筋に悪寒が走る。
咄嗟に彼女は本能的に、グリフィスから離れて後ずさった。
彼は口を引き結ぶと、僅か一歩で距離を縮める。
クリスの身体をひょいと抱き上げ、寝室に向かって歩き始めた。
「グリフィス!?」
「じっとしていて下さい」
クリスは慌ててじたばたしたが、抱き上げる手に力がこめられ、益々身動きができなくなった。
グリフィスは見た限りでは、普段通りに落ち着いて見える。
しかし彼女をきつく抱く腕や、険しい横顔からは、彼の怒りと固い決意がひしひしと伝わってきた。
寝室に運ばれ、毎夜二人が離れて眠る大きなベッドに、とさっとクリスは下ろされた。
彼が扉を閉めに行こうとした隙に、反転したクリスは、ベッドの反対側から逃げ出そうとする。
気付いたグリフィスがすかさず振り返り、大きな手でクリスの足首を掴んだ。
「ひっ、」
「なぜ逃げるんですか。部屋の中で追いかけっこなんてごめんです」
「グリフィス、何をするつもりなの?」
グリフィスは足首を掴んだまま、ギシッとベッドに片膝をついた。
「いま貴方が、その可愛い頭の中で考えている事を」
「ひ、ひ、ひとまず落ち着きましょう!?」
「落ち着いたほうがいいのは、貴方のほうなのでは?」
彼の露わな上半身が引き締まり、マットレスを軋ませてベッドに上がってくる。
クリスは焦って後ずさるが、足首を引っ張られてずるずると引き戻されてしまった。
もがくクリスを逃さぬよう、グリフィスは彼女に跨って膝立ちになる。
クリスは為す術もなく、呆然とグリフィスを見上げた。
「何で急に? ずっとベッドの端で寝ていたじゃない……!」
「全く分かっていないんですね」
右手を伸ばしてクリスの額にかかっていた髪の毛を、そっと耳に撫でかける。
そのまま指先を滑らせて白く滑らかな頬に、ひんやりとした大きな手の平を押し当てた。
「どれだけ俺が我慢をしていたのかを……」
月の光が部屋を満たし、グリフィスがまっすぐにクリスを見つめる。
彼の表情に息を呑んだクリスが、こくり…――と喉を鳴らした。
アイスブルー瞳の奥に、熱く孕んだものを見てしまったから。
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