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後日談
9 貴方は私を、とても愛しているから……
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「ずっと、辛かったのね……? その部下を亡くして」
「確かに辛くはあったが…」
「そして、それを自分のせいだと思っている」
「………」
ふいにグリフィスが顔を横に逸らす。クリスは片手を伸ばし、頬に優しく手のひらを当てて、彼の顔を戻した。アイスブルーの瞳を見つめ、話しの続きをそっと促す。
「グリフィス……?」
「――俺のせいだ」
吐き捨てるようにグリフィスが言った。
「俺があんな作戦を立てて、だから彼が、……無理をして……亡くなったんだ」
唇を、辛そうに噛みしめ、グリフィスは尚も自分を責める。
「奥さんと、まだ幼い娘から、残酷に彼を奪った」
「違うわ」
「俺の立てた作戦のせいで……!」
「違う」
「違わない! 他にもっとやりようがあったのに! 浅はかだった俺の考えで……全て俺のせいだ!!」
「グリフィス――!」
クリスが両手でピシャリ、と叩くようにグリフィスの両頬を挟んだ。グリフィスがぴくっと身体を揺らし、驚いた様子でクリスを見る。
「私はその話を知っているわ。以前、護衛についてくれた騎士から聞いたの。貴方は”無理をするな”って言ったって」
「それは言い訳にしか…」
「”取引の日にちだけ掴めればいい”と指示を出したのに、彼は帳簿と証拠の品も手に入れようとしたって」
「そんなことは、言い訳にしかならない。あの作戦を実行すべきではなかった」
グリフィスはまた顔を逸らそうとした。すかさず強い口調でクリスが言う。
「グリフィス、貴方は悪くない――」
小さく息を呑んで動きを止め、グリフィスはクリスを見返した。
「”絶対に無理はするな。危険を感じたら任務を放棄しろ、家族がいる身だから”って、伝えたのでしょう?」
「それはそうだが、」
「貴方は最善を尽くした。指示に従っていれば、彼は助かったわ」
クリスは言い募る。
「私は ”指示に背いた彼が悪い” とも言わない。痛いほど彼の気持ちが分かるから。彼は貴方の事を慕っていて、恩に報いたいと、良い結果を出したいと、心から思ったのね……。でも、――」
揺るぎない瞳を、クリスはグリフィスに向けて言う。
「貴方は悪くないわ」
「………」
グリフィスの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。クリスは呆然としているグリフィスの頭を、抱え込むように自分の肩口に埋もれさせ、慈しみを込めて頭を撫でる。
「大丈夫?」
「えっ」
涙が頬を伝っている事に、グリフィスは初めて気が付いた。
「私に辛く当たっていたのは、知らず知らずのうちに自分を罰していたのね? 彼は死んでしまったのに、自分だけ幸せなのが心のどこかで許せなくて。貴方が一番辛い事は、私が悲しむ事だもの」
「クリス……」
「貴方は私を、とても愛しているから……」
クリスは身体を離して、はにかんだ笑顔を見せた。グリフィスはそんなクリスを、見つめていたが……
「クリス……!」
「きゃっ、」
いきなり強い力で、きつく抱き締められてクリスは驚く。
「愛している――」
目を細めて、愛おしそうにクリスを見つめる。
「この一か月は……死ぬほど辛かった」
よっぽど辛かったのか、”今グリフィスの顔、青ざめた”と、クリスが思った途端、唇を奪われた。
「君無しで、生きてこられたのが信じられない」とか、「まるで地上に降りた女神のようだ」とか、「永遠に触れていたい」とか、恥ずかしい言葉を口にしながら、何度も角度を変えて、貪るようにくちづけられる。
一か月ぶりの情熱的なキスは、クリスも嬉しくはあるのだが、人前での過剰な愛情表現は本当にやめてほしいと思う。ばんばんと背を叩きながら、すぐ離れるように訴えているが、グリフィスは一向に離してくれない。
「始まってしまいましたね……」
「ああ」
騎士団の隊長が、諦め顔でグリフィス達を見て呟き、アーネストが朗らかに笑った。
「まあ、いいじゃないか。一か月ぶりでもあるし、……私は20分は離れないと見た」
「そうですね。私共の前では、”知略に秀でた冷徹王子”の仮面を外しませんから、こうやってクリス様に甘えさせて頂くのは、グリフィス様にとって良い事だと思います……私は30分かと」
(クリス様は襲われてるのではなく、甘えさせているのか?)
と騎士、兵士達は思う。
「よし! (30分待つ間を利用して)出発の用意に取り掛かる!」
「はい!」
隊長の号令を元に、皆がR商会捕縛の準備に取り掛かったところで、…
「ちょっと優しくしただけで、しな垂れかかってきた尻軽女が……」
しゃがれた声が聞こえてきた。
昨日はすいませんでした。<(_ _)>
「確かに辛くはあったが…」
「そして、それを自分のせいだと思っている」
「………」
ふいにグリフィスが顔を横に逸らす。クリスは片手を伸ばし、頬に優しく手のひらを当てて、彼の顔を戻した。アイスブルーの瞳を見つめ、話しの続きをそっと促す。
「グリフィス……?」
「――俺のせいだ」
吐き捨てるようにグリフィスが言った。
「俺があんな作戦を立てて、だから彼が、……無理をして……亡くなったんだ」
唇を、辛そうに噛みしめ、グリフィスは尚も自分を責める。
「奥さんと、まだ幼い娘から、残酷に彼を奪った」
「違うわ」
「俺の立てた作戦のせいで……!」
「違う」
「違わない! 他にもっとやりようがあったのに! 浅はかだった俺の考えで……全て俺のせいだ!!」
「グリフィス――!」
クリスが両手でピシャリ、と叩くようにグリフィスの両頬を挟んだ。グリフィスがぴくっと身体を揺らし、驚いた様子でクリスを見る。
「私はその話を知っているわ。以前、護衛についてくれた騎士から聞いたの。貴方は”無理をするな”って言ったって」
「それは言い訳にしか…」
「”取引の日にちだけ掴めればいい”と指示を出したのに、彼は帳簿と証拠の品も手に入れようとしたって」
「そんなことは、言い訳にしかならない。あの作戦を実行すべきではなかった」
グリフィスはまた顔を逸らそうとした。すかさず強い口調でクリスが言う。
「グリフィス、貴方は悪くない――」
小さく息を呑んで動きを止め、グリフィスはクリスを見返した。
「”絶対に無理はするな。危険を感じたら任務を放棄しろ、家族がいる身だから”って、伝えたのでしょう?」
「それはそうだが、」
「貴方は最善を尽くした。指示に従っていれば、彼は助かったわ」
クリスは言い募る。
「私は ”指示に背いた彼が悪い” とも言わない。痛いほど彼の気持ちが分かるから。彼は貴方の事を慕っていて、恩に報いたいと、良い結果を出したいと、心から思ったのね……。でも、――」
揺るぎない瞳を、クリスはグリフィスに向けて言う。
「貴方は悪くないわ」
「………」
グリフィスの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。クリスは呆然としているグリフィスの頭を、抱え込むように自分の肩口に埋もれさせ、慈しみを込めて頭を撫でる。
「大丈夫?」
「えっ」
涙が頬を伝っている事に、グリフィスは初めて気が付いた。
「私に辛く当たっていたのは、知らず知らずのうちに自分を罰していたのね? 彼は死んでしまったのに、自分だけ幸せなのが心のどこかで許せなくて。貴方が一番辛い事は、私が悲しむ事だもの」
「クリス……」
「貴方は私を、とても愛しているから……」
クリスは身体を離して、はにかんだ笑顔を見せた。グリフィスはそんなクリスを、見つめていたが……
「クリス……!」
「きゃっ、」
いきなり強い力で、きつく抱き締められてクリスは驚く。
「愛している――」
目を細めて、愛おしそうにクリスを見つめる。
「この一か月は……死ぬほど辛かった」
よっぽど辛かったのか、”今グリフィスの顔、青ざめた”と、クリスが思った途端、唇を奪われた。
「君無しで、生きてこられたのが信じられない」とか、「まるで地上に降りた女神のようだ」とか、「永遠に触れていたい」とか、恥ずかしい言葉を口にしながら、何度も角度を変えて、貪るようにくちづけられる。
一か月ぶりの情熱的なキスは、クリスも嬉しくはあるのだが、人前での過剰な愛情表現は本当にやめてほしいと思う。ばんばんと背を叩きながら、すぐ離れるように訴えているが、グリフィスは一向に離してくれない。
「始まってしまいましたね……」
「ああ」
騎士団の隊長が、諦め顔でグリフィス達を見て呟き、アーネストが朗らかに笑った。
「まあ、いいじゃないか。一か月ぶりでもあるし、……私は20分は離れないと見た」
「そうですね。私共の前では、”知略に秀でた冷徹王子”の仮面を外しませんから、こうやってクリス様に甘えさせて頂くのは、グリフィス様にとって良い事だと思います……私は30分かと」
(クリス様は襲われてるのではなく、甘えさせているのか?)
と騎士、兵士達は思う。
「よし! (30分待つ間を利用して)出発の用意に取り掛かる!」
「はい!」
隊長の号令を元に、皆がR商会捕縛の準備に取り掛かったところで、…
「ちょっと優しくしただけで、しな垂れかかってきた尻軽女が……」
しゃがれた声が聞こえてきた。
昨日はすいませんでした。<(_ _)>
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