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後日談
7 既婚者か……
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アーネストの説明(回想風)――
執務室にて話し合うグリフィスとアーネスト。
「情報を売り渡したのは明らかにイーサンだ。我々に協力をさせ、どうにかしてR商会の尻尾を掴みたい」
「そうですな。しかし、イーサンが盗んだという証拠がありません」
グリフィスが嘆息する。
「一度取引をしたイーサンなら、R商会もすぐに乗ってくる筈……ギャンブルか何か、金が掛かるものに手を出していないのか?」
「残念ながら、全く……」
イーサンは、基本真面目人間で、文官として与えられる給与で満足している。伯爵家の借金を返した今、アール商会と取引する必要がないのであった。
「女性関係は? 貢ぎたくなるほど好いている女性はいないのか?」
「そちらも残念ながら、思い当たりません」
使いから帰ってきたレオナルド(文官の青年)が、ノックの音と共に顔を覗かせた。
「グリフィス様。ただいま帰りました」
「ご苦労だった。入れ」
「レオナルド。ノックの後、グリフィス様が”入れ”と仰ってから、扉を開けるのだぞ?」
「はい。以後気を付けます!」←殆ど少年に近い年齢
「返事だけはいつもいいのだな」
顔を顰めてみせるアーネストに、クスッと笑うグリフィス。レオナルドから書類を受け取りながら、グリフィスは期待せずに聞いてみた。
「ところでレオナルド、イーサンの想い人を知らないか?」
「知って……ますけど……」
「――っ誰だ!?」
息を呑んだグリフィスとアーネストの声が重なる。レオナルドが一瞬驚き、言いにくそうにもじもじとした。
「……ひ、人妻です」
「既婚者か……」
「真面目に見えて、実は熟女好きなのでしょうか?」
「よし。その相手の女性には申し訳ないが、訳を話して協力をしてもらおう。もちろんご主人にも話して、危険が無いように護衛もつけて、礼金も弾もう」
「一体何の話をしているんですか?」
「その既婚者とは誰だ?」
「クリス様です」
「なん、だと?」
グリフィスもアーネストも顔色を変える。アーネストが 気遣わしげにグリフィスの様子を窺いながら、レオナルドに尋ねた。
「他に好いた女性はいないのか?」
「真面目な人間ですから、クリス様だけです。あっ、でもイーサンも、クリス様とどうこうなろうとは思っていませんよ? 王子妃でありますし、憧れているだけです」
「………クリスでいこう」
「えっ? グリフィス様、……今なんと?」
「クリスにしよう。他にイーサンが金を使うところは思いつかない」
「しかし、」
「俺の部下だったんだ」
「えっ、?」
「R商会を摘発しようとして、無残に殺されたのは俺の…直属の部下だった」
「存じませんでした」
「俺が立てた作戦の、R商会への潜入役に志願してくれた。市井出身だが優秀な奴で、”身分の低い自分を取り立ててくれた恩に報いたい”と、……だから、きっと無理をしたんだろう」
「………」
「家族思いで……小さくて可愛い娘さんに、優しい奥さんがいて…」
グリフィスが苦しそうに顔を歪め、破れそうなほどにきつく書類を掴んだ。
「父親の亡骸に縋り付いて泣く、あの小さな背中と…泣き声が……今も忘れられない」
「グリフィス様……」
「この機会を逃したら、勢いづいているR商会をもう潰せないかもしれない」
アーネストは一度俯くと、意を決したように顔を上げた。
「分かりました。何か良い考えがおありですか?」
「決して良い考えではないが、……ある」
「クリス様に危険はないのですか?」
「大丈夫だ。R商会と接触するのはイーサンだし、俺達も可能な限りクリスの身辺を警護しよう」
「はい」
記憶喪失の振りをしたグリフィスは、心を鬼にしてクリスに辛く当たった。辛く当たられれば、当たられるほど、人は誰かに頼りたくなるものだ。
そして男は頼られると弱い、それが好いた女性であれば尚更である。イーサンの恋心は、日に日に、順調に募っていった。
グリフィスは地獄を見るような思いであった。まるで逢瀬のような二人の様子を、柱の陰から覗き見なければならない。見る度にぎりぎりと歯ぎしりをして、折れんばかりに柱を掴む。
ある日クリスが髪飾りをしてきた。イーサンからプレゼントされた品だ。嫉妬心が湧きおこり、感情のままにパンの篭を叩き落としてしまった。
泣きながら病室を出ていくクリス――
自分の大人げない所業のために、クリスを傷つけてしまい胸が痛んだが、なぜか心の奥底で”これでいい”という声が囁いた。
普段は愛らしくて大人しい、プリシラの怒りが爆発する。
「ちょっと兄様! 今日こそは言わせてもらうわよ!!」
詰め寄るプリシラを相手にせず、グリフィスは跳ね起きて上着を羽織った。
執務室にて話し合うグリフィスとアーネスト。
「情報を売り渡したのは明らかにイーサンだ。我々に協力をさせ、どうにかしてR商会の尻尾を掴みたい」
「そうですな。しかし、イーサンが盗んだという証拠がありません」
グリフィスが嘆息する。
「一度取引をしたイーサンなら、R商会もすぐに乗ってくる筈……ギャンブルか何か、金が掛かるものに手を出していないのか?」
「残念ながら、全く……」
イーサンは、基本真面目人間で、文官として与えられる給与で満足している。伯爵家の借金を返した今、アール商会と取引する必要がないのであった。
「女性関係は? 貢ぎたくなるほど好いている女性はいないのか?」
「そちらも残念ながら、思い当たりません」
使いから帰ってきたレオナルド(文官の青年)が、ノックの音と共に顔を覗かせた。
「グリフィス様。ただいま帰りました」
「ご苦労だった。入れ」
「レオナルド。ノックの後、グリフィス様が”入れ”と仰ってから、扉を開けるのだぞ?」
「はい。以後気を付けます!」←殆ど少年に近い年齢
「返事だけはいつもいいのだな」
顔を顰めてみせるアーネストに、クスッと笑うグリフィス。レオナルドから書類を受け取りながら、グリフィスは期待せずに聞いてみた。
「ところでレオナルド、イーサンの想い人を知らないか?」
「知って……ますけど……」
「――っ誰だ!?」
息を呑んだグリフィスとアーネストの声が重なる。レオナルドが一瞬驚き、言いにくそうにもじもじとした。
「……ひ、人妻です」
「既婚者か……」
「真面目に見えて、実は熟女好きなのでしょうか?」
「よし。その相手の女性には申し訳ないが、訳を話して協力をしてもらおう。もちろんご主人にも話して、危険が無いように護衛もつけて、礼金も弾もう」
「一体何の話をしているんですか?」
「その既婚者とは誰だ?」
「クリス様です」
「なん、だと?」
グリフィスもアーネストも顔色を変える。アーネストが 気遣わしげにグリフィスの様子を窺いながら、レオナルドに尋ねた。
「他に好いた女性はいないのか?」
「真面目な人間ですから、クリス様だけです。あっ、でもイーサンも、クリス様とどうこうなろうとは思っていませんよ? 王子妃でありますし、憧れているだけです」
「………クリスでいこう」
「えっ? グリフィス様、……今なんと?」
「クリスにしよう。他にイーサンが金を使うところは思いつかない」
「しかし、」
「俺の部下だったんだ」
「えっ、?」
「R商会を摘発しようとして、無残に殺されたのは俺の…直属の部下だった」
「存じませんでした」
「俺が立てた作戦の、R商会への潜入役に志願してくれた。市井出身だが優秀な奴で、”身分の低い自分を取り立ててくれた恩に報いたい”と、……だから、きっと無理をしたんだろう」
「………」
「家族思いで……小さくて可愛い娘さんに、優しい奥さんがいて…」
グリフィスが苦しそうに顔を歪め、破れそうなほどにきつく書類を掴んだ。
「父親の亡骸に縋り付いて泣く、あの小さな背中と…泣き声が……今も忘れられない」
「グリフィス様……」
「この機会を逃したら、勢いづいているR商会をもう潰せないかもしれない」
アーネストは一度俯くと、意を決したように顔を上げた。
「分かりました。何か良い考えがおありですか?」
「決して良い考えではないが、……ある」
「クリス様に危険はないのですか?」
「大丈夫だ。R商会と接触するのはイーサンだし、俺達も可能な限りクリスの身辺を警護しよう」
「はい」
記憶喪失の振りをしたグリフィスは、心を鬼にしてクリスに辛く当たった。辛く当たられれば、当たられるほど、人は誰かに頼りたくなるものだ。
そして男は頼られると弱い、それが好いた女性であれば尚更である。イーサンの恋心は、日に日に、順調に募っていった。
グリフィスは地獄を見るような思いであった。まるで逢瀬のような二人の様子を、柱の陰から覗き見なければならない。見る度にぎりぎりと歯ぎしりをして、折れんばかりに柱を掴む。
ある日クリスが髪飾りをしてきた。イーサンからプレゼントされた品だ。嫉妬心が湧きおこり、感情のままにパンの篭を叩き落としてしまった。
泣きながら病室を出ていくクリス――
自分の大人げない所業のために、クリスを傷つけてしまい胸が痛んだが、なぜか心の奥底で”これでいい”という声が囁いた。
普段は愛らしくて大人しい、プリシラの怒りが爆発する。
「ちょっと兄様! 今日こそは言わせてもらうわよ!!」
詰め寄るプリシラを相手にせず、グリフィスは跳ね起きて上着を羽織った。
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