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後日談
6 気の強いところも素敵だ
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イーサンが壊れていないか確認をしたのは、グリフィスが試行錯誤していた、あの温泉の融雪に使う仕掛けであった。
他に書類らしき物も、落ちたカバンから覗いている。
「なぜ、それを貴方が……? そういえば、グリフィスが以前言っていたわ。”発明の盗用がある”って……」
「これは……! 貴方と共に暮らすために、必要な物なんです!!」
クリスが後ずさると、イーサンが飛びかかってきた。
「一緒に来て頂きます!!」
「やめてイーサン!!」
「クリス危ない!!」
クリスは飛びかかってきたイーサンの片手を、ガシッと掴んで捻り上げると、易々と地面にねじ伏せた。うつ伏せに押さえつけたまま、掴んだ片手が痛むように捩じって脅す。
「じっとして。関節を外されたくはないでしょう?」
元は両方の性を併せ持ち、男性になるべく鍛えていたクリス。そこら辺の貴族の子息などでは、彼女の相手にならない。
「今、プリシラに名前を呼ばれたような……」
クリスの注意が逸れて隙ができた瞬間、イーサンが反撃に出た。掴まれていた腕を振り払い、逆にクリスを押し倒す。
「――っ!!」
悔しそうに足掻くクリスを、馬乗りになって宥めるイーサン。
「お願いです。大人しくしてください」
「どきなさい! 痛い目に合わせるわよ!!」
イーサンが目を細めてうっとりとする。
「気の強いところも素敵だ……愛してます」
紅潮したクリスの頬に手を伸ばそうとした。
「俺もだ――」
バキッ――!!と派手な音と共に、イーサンの身体が宙を飛ぶ。
「………えっ?」
状況を把握できないクリスがキョロキョロと辺りを見回すと、殴り飛ばしたイーサンを、グリフィスがガシガシと踏みつけていた。
「グリフィス様、手加減して下さい。この後イーサンに取引させて、敵を一網打尽にするのです。傷ついたイーサンを見たら、相手が怪しんで手を引いてしまいます」
「顔を避けて、身体だけ踏んでいる」
「殆ど蹴りつけてますよね、それ」
いつの間に傍にきたのかアーネストがクリスを助け起こしながら、グリフィスに注意している。やっとグリフィスが、足を止めた。
「グリフィス……?」
「クリス――」
近付いてきたグリフィスが抱き締めようと伸ばしてきた手を、クリスがバシィッ!と払いのける。彼の背後には、武装した騎士にプリシラとデイヴィッド、それに何故だか医師までもいた。
「どういう事……? きちんと説明をして」
怒りを抑え、静かに話すクリスは正直怖い。誰もが息を詰めて、じっと二人を見つめている。
「悪かった。君に酷い真似をして」
「私は囮だったの?」
「――そうだ。イーサンが君に好意を持っていたから、その気持ちを利用した。ちょうど都合が良かったから」
息を呑んで、髪の毛を逆立てるクリス。
「グリフィス様、なぜそのような言い方を…」
言いかけてふと、腑に落ちた顔をしたアーネストが、ずいっと二人の間に身体を割り込ませた。
「私が説明を致しましょう」
「イーサンが発明の盗用をしていたのね」
信頼するアーネストに代わった為、少々怒りが鎮まったクリスは、落ちている仕掛けや書類に視線を落とした。
「さようでございます。設計図や取引先リストに、重要書類も含まれております」
「いい人だと思っていたのに……」
ボロボロになったイーサンが、騎士に拘束されている。
「実は半年ほど前から、機密書類や設計図がちょこちょこ紛失しておりました。時を同じくして、我が国の取引先からいきなり契約を打ち切られ、……まぁ、盗んだ機密情報を使って、何者かが取引先を横取りしていた訳です。情報を盗み出した者は誰か、調査を開始したところで、ある伯爵家の借金が綺麗さっぱり支払われている事が判明しました」
「それがイーサンの実家だったのね」
「仰る通りです」
「それなら、イーサンを捕まえて、問い詰めれば良かったのではない?」
「何分証拠がありませんし、R商会が絡んでいる事が分かりまして」
「R商会……」
「イーサンから情報を買い上げて、取引先を横取りしたのはR商会だと思われます。」
黒い噂が絶えないR商会。かつてR商会を摘発しようとした人物が、見るも無残な殺され方をした。以来、誰も手を出さなくなったのだ。
「俺も話に入る」
腕を組んだグリフィスが、苛立ちを露わにして傍らに立つ。クリスがつん、と顔を逸らした。
「貴方とは話したくないわ」
「仕方がなかったんだ。早くけりをつけたかったし、君があいつにもらった髪飾りをしているのを見たら、頭に血が上って」
「それにしたって!」
まあまあ、とアーネストが間に入る。
「クリス様、あの場合はしようがなかったのです。クリス様を追い込んで、イーサンが付け入る隙を作らなければいけませんでしたから……。それに、グリフィス様も苦渋の決断だったのです」
クリスがちらっとグリフィスを見た。
他に書類らしき物も、落ちたカバンから覗いている。
「なぜ、それを貴方が……? そういえば、グリフィスが以前言っていたわ。”発明の盗用がある”って……」
「これは……! 貴方と共に暮らすために、必要な物なんです!!」
クリスが後ずさると、イーサンが飛びかかってきた。
「一緒に来て頂きます!!」
「やめてイーサン!!」
「クリス危ない!!」
クリスは飛びかかってきたイーサンの片手を、ガシッと掴んで捻り上げると、易々と地面にねじ伏せた。うつ伏せに押さえつけたまま、掴んだ片手が痛むように捩じって脅す。
「じっとして。関節を外されたくはないでしょう?」
元は両方の性を併せ持ち、男性になるべく鍛えていたクリス。そこら辺の貴族の子息などでは、彼女の相手にならない。
「今、プリシラに名前を呼ばれたような……」
クリスの注意が逸れて隙ができた瞬間、イーサンが反撃に出た。掴まれていた腕を振り払い、逆にクリスを押し倒す。
「――っ!!」
悔しそうに足掻くクリスを、馬乗りになって宥めるイーサン。
「お願いです。大人しくしてください」
「どきなさい! 痛い目に合わせるわよ!!」
イーサンが目を細めてうっとりとする。
「気の強いところも素敵だ……愛してます」
紅潮したクリスの頬に手を伸ばそうとした。
「俺もだ――」
バキッ――!!と派手な音と共に、イーサンの身体が宙を飛ぶ。
「………えっ?」
状況を把握できないクリスがキョロキョロと辺りを見回すと、殴り飛ばしたイーサンを、グリフィスがガシガシと踏みつけていた。
「グリフィス様、手加減して下さい。この後イーサンに取引させて、敵を一網打尽にするのです。傷ついたイーサンを見たら、相手が怪しんで手を引いてしまいます」
「顔を避けて、身体だけ踏んでいる」
「殆ど蹴りつけてますよね、それ」
いつの間に傍にきたのかアーネストがクリスを助け起こしながら、グリフィスに注意している。やっとグリフィスが、足を止めた。
「グリフィス……?」
「クリス――」
近付いてきたグリフィスが抱き締めようと伸ばしてきた手を、クリスがバシィッ!と払いのける。彼の背後には、武装した騎士にプリシラとデイヴィッド、それに何故だか医師までもいた。
「どういう事……? きちんと説明をして」
怒りを抑え、静かに話すクリスは正直怖い。誰もが息を詰めて、じっと二人を見つめている。
「悪かった。君に酷い真似をして」
「私は囮だったの?」
「――そうだ。イーサンが君に好意を持っていたから、その気持ちを利用した。ちょうど都合が良かったから」
息を呑んで、髪の毛を逆立てるクリス。
「グリフィス様、なぜそのような言い方を…」
言いかけてふと、腑に落ちた顔をしたアーネストが、ずいっと二人の間に身体を割り込ませた。
「私が説明を致しましょう」
「イーサンが発明の盗用をしていたのね」
信頼するアーネストに代わった為、少々怒りが鎮まったクリスは、落ちている仕掛けや書類に視線を落とした。
「さようでございます。設計図や取引先リストに、重要書類も含まれております」
「いい人だと思っていたのに……」
ボロボロになったイーサンが、騎士に拘束されている。
「実は半年ほど前から、機密書類や設計図がちょこちょこ紛失しておりました。時を同じくして、我が国の取引先からいきなり契約を打ち切られ、……まぁ、盗んだ機密情報を使って、何者かが取引先を横取りしていた訳です。情報を盗み出した者は誰か、調査を開始したところで、ある伯爵家の借金が綺麗さっぱり支払われている事が判明しました」
「それがイーサンの実家だったのね」
「仰る通りです」
「それなら、イーサンを捕まえて、問い詰めれば良かったのではない?」
「何分証拠がありませんし、R商会が絡んでいる事が分かりまして」
「R商会……」
「イーサンから情報を買い上げて、取引先を横取りしたのはR商会だと思われます。」
黒い噂が絶えないR商会。かつてR商会を摘発しようとした人物が、見るも無残な殺され方をした。以来、誰も手を出さなくなったのだ。
「俺も話に入る」
腕を組んだグリフィスが、苛立ちを露わにして傍らに立つ。クリスがつん、と顔を逸らした。
「貴方とは話したくないわ」
「仕方がなかったんだ。早くけりをつけたかったし、君があいつにもらった髪飾りをしているのを見たら、頭に血が上って」
「それにしたって!」
まあまあ、とアーネストが間に入る。
「クリス様、あの場合はしようがなかったのです。クリス様を追い込んで、イーサンが付け入る隙を作らなければいけませんでしたから……。それに、グリフィス様も苦渋の決断だったのです」
クリスがちらっとグリフィスを見た。
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