上 下
1 / 21
聖女降臨? 編

ミラクル0 スーパーブルーマンデー

しおりを挟む
どこにでもいるブラック勤務のアラサー事務職、御手洗清美(みたらいきよみ)は困惑していた。朝から35度越えで汗が止まらない真夏日、混雑する駅のホームで満員の通勤電車を待っていた筈なのに、気付けば見知らぬ真っ白な空間に立っていたからだ。

「やあ、気分はどうだい?」

目の前には胡坐を掻いて空中に浮かんでいる、どこか胡散臭そうな銀髪糸目のイケメン青年。ひょっとして私は立ったまま寝る術を体得したのだろうか、と夢を疑う清美は分厚い眼鏡を外して目を擦り、またかけ直す。

「残念ながら夢でも幻覚でもないんだなコレが。突然だけど、君には今から救いの聖女として滅びかけの異世界に召喚されてもらいます。乙女の夢だよやったね清美ちゃん!」

「……い」

「い? イヤッホー?」

「嫌じゃー! 会社にも行きたくないが、エアコンもシャワーもウォシュレットもない異世界になんかもっと行きたくないわー!」

まだ理解が追い付かないものの、とりあえず即答で拒否する清美。彼女はエアコンがなければ生きられず、ウォシュレットのないトイレでは極力用を足したくない女である。そして毎晩熱いお風呂に浸かって一日の疲れを綺麗サッパリ洗い流すことをこよなく愛する人間だ。そんな彼女に異世界に行けというのは死刑宣告に等しい。

「エアコンとシャワーとウォシュレットがあればいいんだね? よーし、君の聖女チートは『エアコン完備のユニットバス使い放題』に決定!」

だが目の前の銀髪糸目の不審なイケメンは我が意を得たとばかりに胡散臭い笑みを浮かべ、手を叩く。すると清美の手の甲に銀色の紋章のようなものが浮かび上がり、足元には銀色に輝く魔法陣が一瞬で展開され、そこからいかにも神々しい感じの銀色の光と強風が溢れ出したではないか。

「聖女(チート)の力で恩着せがましく世界を救って、後はより取り見取りのイケメン達にチヤホヤされてのイージーモードな逆ハースローライフの始まりだ! 冴えない君の人生も一発逆転サヨナラ満塁ホームラン! 誰もが羨む勝ち組になれるんだよ嬉しいだろう?」

「嬉しくねー!」

「まあまあ、あのまま熱中症で倒れて に転落して ぬよりは、余程有意義な の きが送れるんだからいいじゃない? それじゃあ、頑張ってねー!」

神様野郎が何かを言っているが、轟々と吹き荒ぶ風音のせいでよく聞き取れない。光も風もどんどん強まって、逃げ出したいのに何故か足も動かない。そうしてそのまま清美は光の塵となって霧散し、気付いた時にはどこかお城のような場所で、大勢の人間達に囲まれていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

元の世界には戻れない?戻れますけど。

ファンタジー
 グランズデール皇国に《聖女》が召喚された。  皇国は300年ぶりに召喚の儀を行い、聖女を異界から召喚する事に成功したのだ。  召喚されたのは、12才の幼き少女。  就寝中にいきなり身体が熱くなり、熱が引いたと思ったら異世界に居たという。 元の世界に帰して!少女は泣き喚き、盛大に嘆いた。 召喚の儀を執り行ったこの国の皇弟であり魔法術騎士団総長は憐みの表情をしてーーーー 「異界渡りは召喚は出来ても、戻す方法はないのです。最上位の聖女として、何不自由なく慈しみますから、皇国を救ってください」 と、大きな不安に体を震わせる少女に語った。  少女は泣き顔を伏せ蹲り、表情を見せない様にして動かなくなった。  伏せた顔の本当の表情はーーーーー 『残念でした!いつでも帰れますけど?』 悪い顔をして嘲笑う。 何も知らない、知ろうとすらしない人たち。 好きの反対は無関心だというけれど、私はこの人たちから無関心な存在だったのかもしれない。 もう二度と心を開いたりしない。  実はこの召喚の儀によってこの場所へ現れるのは、少女は二度目である。  一度目は思い出したくもない惨めな結末だった。  全てを失い連れて来られた知らない世界で、生涯笑う事などないだろうと嘆いた世界で、やがて自分の全てで支えたいと愛した人の裏切りを知り、自害したのだ。 神は見ていた。 少女の激しい苦悩の痛みを天界からずっと。 その可哀そうな魂を救い上げ癒し、また少女の望む逆行させた時の中に送り出した。 神は、少女の憂さ晴らしのついでに、捩れた世界の調整を頼んだ。  ――――今度は間違えない。  全てを失ったあの時のように泣いたりはしない。 心許す事も、愛すこともない。  異世界と現世を行ったり来たりして何も失うことなく、今度は熨しをつけてくれてやるのだ。 ーーー違う国が召喚した聖女もどきに、あの人なんてくれてやるわ。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。 突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。 ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。 喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。 強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。 そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。 自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない! と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。 地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。 ※ざまあ展開、ストレス展開はありません。 ※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【本編完結】異世界に召喚されわがまま言ったらガチャのスキルをもらった

れのひと
ファンタジー
 ガチャのために生き、ガチャのために人は死ねると俺は本気でそう思っている…  ある日の放課後、教室でガチャを引こうとすると光に包まれ見知らぬ場所にいた。ガチャの結果をみれず目の前の人に文句を言うとスキルという形でガチャが引けるようにしてくれた。幼女のなりして女神様だったらしい?  そしてやってきた異世界でガチャのために働き、生きていくためにガチャを引く、ハッピーガチャライフ(俺にとっては)が始まるのだった。 初回公開日より1年以内に本編完結予定です。現在他視点の追加を始めています。

処理中です...