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「できたぞー。」
健吾が台所からチャーハンを運んでくる。彬は入れ違いに台所に入って、冷蔵庫から缶ビールを一本出してきた。健吾は酒を飲まないので、自分の分だけ。
いただきます、と二人で手を合わせる。この習慣は、健吾に言われて身についたものだ。地元では、彬はいつも家で飯を食うとき一人だったから、こんなことはしなかった。食い物には感謝しろよ、と、健吾は言った。健康で、律儀な健吾。
飯を食っている最中、健吾のスマホが何度かラインの着信音を鳴らした。でも、飯中はスマホを触らないと決めているらしい健吾はそれを無視した。
誰だろう。バイト先の友達だろうか。それとも、女か。
彬がそんなことを考えているとは、もちろん露ほども思っていないであろう健吾が、なんの気なしに口を開く。
「彬さ、最近時々帰り遅いよな。飯食ってくるし。」
「……あー。」
それは、おっさんだ。おっさんと飯を食って、おっさんとセックスしている。
もちろん健吾にそんなことは言えないので、彬は適当に口の中で言葉をごにょごにょかきまわした。こういう態度を見せると、健吾は大抵引く。それ以上言いつのってきたりはしない。今回も、そうだった。どこで誰となにをしているのか、そんなことは訊かず、チャーハンをかきこむ。
「まあいいんだけどさ、飯いらないときはラインしろよ。」
「……ごめん。」
「あと、電話。誘拐されてたら怖いから、一回出ろ。」
冗談めかした健吾の台詞。分かった、と彬は頷いた。でも、次からも彬は、健吾の電話に出ないだろう。健康で律儀な健吾。電話を繋ぐことで、それを汚すような気がして。
「今日のチャーハン、美味くね?」
「なに、自信作?」
「卵の黄身だけで作ってみた。なんとなく。」
「……それ、白身どうすんだよ。」
「確かに……。」
「いいよ。明日卵焼きでも作れば。」
「卵焼き……巻けるかな……。」
「俺は、できない。」
「自信満々に言うな。」
そんな通常運転の会話をいくつか重ね、飯を食い終わる。彬が皿を洗っている間に健吾がシャワーを使い、終わったら彬が使う。二人で暮らし始めたばかりの頃は、健吾の気配が残るシャワーブースで胸が苦しくなったりもしたけど、もう慣れた。なにも感じないし考えない。脳死で頭を洗える。
髪を乾かして部屋に戻ると、健吾がローテーブルを部屋の端っこに片して、布団を二組敷いている。
「さんきゅ。」
「おう。」
布団に入って、電気を消して、数分で健吾の寝息が聞こえてくる。こういうときだって、はじめの頃はいっそ死にたいくらいそわそわしたけれど、もう今はそんなこともない。目を閉じて、当たり前に眠るだけだ。この当たり前が、いつまで続くのだろうか、と、そんなことだけは考えないように意識をそらしながら。
健吾が台所からチャーハンを運んでくる。彬は入れ違いに台所に入って、冷蔵庫から缶ビールを一本出してきた。健吾は酒を飲まないので、自分の分だけ。
いただきます、と二人で手を合わせる。この習慣は、健吾に言われて身についたものだ。地元では、彬はいつも家で飯を食うとき一人だったから、こんなことはしなかった。食い物には感謝しろよ、と、健吾は言った。健康で、律儀な健吾。
飯を食っている最中、健吾のスマホが何度かラインの着信音を鳴らした。でも、飯中はスマホを触らないと決めているらしい健吾はそれを無視した。
誰だろう。バイト先の友達だろうか。それとも、女か。
彬がそんなことを考えているとは、もちろん露ほども思っていないであろう健吾が、なんの気なしに口を開く。
「彬さ、最近時々帰り遅いよな。飯食ってくるし。」
「……あー。」
それは、おっさんだ。おっさんと飯を食って、おっさんとセックスしている。
もちろん健吾にそんなことは言えないので、彬は適当に口の中で言葉をごにょごにょかきまわした。こういう態度を見せると、健吾は大抵引く。それ以上言いつのってきたりはしない。今回も、そうだった。どこで誰となにをしているのか、そんなことは訊かず、チャーハンをかきこむ。
「まあいいんだけどさ、飯いらないときはラインしろよ。」
「……ごめん。」
「あと、電話。誘拐されてたら怖いから、一回出ろ。」
冗談めかした健吾の台詞。分かった、と彬は頷いた。でも、次からも彬は、健吾の電話に出ないだろう。健康で律儀な健吾。電話を繋ぐことで、それを汚すような気がして。
「今日のチャーハン、美味くね?」
「なに、自信作?」
「卵の黄身だけで作ってみた。なんとなく。」
「……それ、白身どうすんだよ。」
「確かに……。」
「いいよ。明日卵焼きでも作れば。」
「卵焼き……巻けるかな……。」
「俺は、できない。」
「自信満々に言うな。」
そんな通常運転の会話をいくつか重ね、飯を食い終わる。彬が皿を洗っている間に健吾がシャワーを使い、終わったら彬が使う。二人で暮らし始めたばかりの頃は、健吾の気配が残るシャワーブースで胸が苦しくなったりもしたけど、もう慣れた。なにも感じないし考えない。脳死で頭を洗える。
髪を乾かして部屋に戻ると、健吾がローテーブルを部屋の端っこに片して、布団を二組敷いている。
「さんきゅ。」
「おう。」
布団に入って、電気を消して、数分で健吾の寝息が聞こえてくる。こういうときだって、はじめの頃はいっそ死にたいくらいそわそわしたけれど、もう今はそんなこともない。目を閉じて、当たり前に眠るだけだ。この当たり前が、いつまで続くのだろうか、と、そんなことだけは考えないように意識をそらしながら。
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