30 / 35
4
しおりを挟む
それは質問というよりは、確認作業だった。ソラはほとんど確信していたのだ。けれど、イズミは頭を投げ出すように上を向くと、ぷは、と、吹き出して笑った。
「まさか。あの聖人がガキと寝るはずない。ユウがあそこで寝たのは、俺だけだよ。あのふたりは、精神的なゴカンケイってやつ。」
でも、ねぇ、と、イズミは天井からソラに視線を移した。その視線の強さに、ソラはたじろいだ。精神的なゴカンケイ。イズミの視線に押されるみたいに、口の中で繰り返す。イズミはソラを見つめたまま、続けた。
「でも、ねぇ、そういうのが一番、いやらしいよねぇ。」
軽く語尾を上げた、からかうような物言い。でも、視線の強さは変わらない。物言いが軽ければ軽いほど、イズミは痛々しく傷ついて見えた。
「あの聖人と寝られない代わりに俺と寝て、俺が出て行ったらあんたと暮らし始める。……ユウって、そういうやつなんだよ。」
そういうやつ。
そう言われても、上手く話しの芯を食い損ねて、ソラは戸惑って立ち尽くす。
ユウに他にも男がいて、その男と寝るために今夜は帰りが遅くなる。または、もうここには帰ってこない。
それなら理解できた。簡単に了解できた。永遠なんてないのだから、ユウがソラではない誰かほかの人間を選んだとしても、それを受け入れて、ソラはひとりで生きていくしかない。結局誰かの代用品でしかなかった自分を少し憐れんで、ここを出ていくことは、容易くできるはずだ。
でも、イズミが言うには、そうではないのだ。ユウは、男と寝ていない。聖人、とか言われるような男と今、寝もしないで一緒にいる。一緒にいる、そのためだけに、もうここには戻ってこない。そういうのが一番、いやらしい。その通りだと思った。
深く長い息をついた後、イズミが言った。
「あんた、ここに来るべきじゃなかったよ。」
ここに来るべきじゃなかったと言われても、ソラには他に、行く場所なんかなかった。どこにも行けなかった、あの雨の中、一人店の軒先で膝を抱えているしかなかった。
「住込みの仕事、いくつか目星は付けてる。中華屋か塗装業かタイル職人。」
さらにイズミが言葉を接ぐ。さらさらと、流れるように、それはおそらく、ソラに考えるいとまを与えないように。考えてしまうと、なおさら辛い。それはソラにも分かった。考えずに今は機械的に動いてしまえば楽だと。でも、どうしてもそれはできなかった。
「まさか。あの聖人がガキと寝るはずない。ユウがあそこで寝たのは、俺だけだよ。あのふたりは、精神的なゴカンケイってやつ。」
でも、ねぇ、と、イズミは天井からソラに視線を移した。その視線の強さに、ソラはたじろいだ。精神的なゴカンケイ。イズミの視線に押されるみたいに、口の中で繰り返す。イズミはソラを見つめたまま、続けた。
「でも、ねぇ、そういうのが一番、いやらしいよねぇ。」
軽く語尾を上げた、からかうような物言い。でも、視線の強さは変わらない。物言いが軽ければ軽いほど、イズミは痛々しく傷ついて見えた。
「あの聖人と寝られない代わりに俺と寝て、俺が出て行ったらあんたと暮らし始める。……ユウって、そういうやつなんだよ。」
そういうやつ。
そう言われても、上手く話しの芯を食い損ねて、ソラは戸惑って立ち尽くす。
ユウに他にも男がいて、その男と寝るために今夜は帰りが遅くなる。または、もうここには帰ってこない。
それなら理解できた。簡単に了解できた。永遠なんてないのだから、ユウがソラではない誰かほかの人間を選んだとしても、それを受け入れて、ソラはひとりで生きていくしかない。結局誰かの代用品でしかなかった自分を少し憐れんで、ここを出ていくことは、容易くできるはずだ。
でも、イズミが言うには、そうではないのだ。ユウは、男と寝ていない。聖人、とか言われるような男と今、寝もしないで一緒にいる。一緒にいる、そのためだけに、もうここには戻ってこない。そういうのが一番、いやらしい。その通りだと思った。
深く長い息をついた後、イズミが言った。
「あんた、ここに来るべきじゃなかったよ。」
ここに来るべきじゃなかったと言われても、ソラには他に、行く場所なんかなかった。どこにも行けなかった、あの雨の中、一人店の軒先で膝を抱えているしかなかった。
「住込みの仕事、いくつか目星は付けてる。中華屋か塗装業かタイル職人。」
さらにイズミが言葉を接ぐ。さらさらと、流れるように、それはおそらく、ソラに考えるいとまを与えないように。考えてしまうと、なおさら辛い。それはソラにも分かった。考えずに今は機械的に動いてしまえば楽だと。でも、どうしてもそれはできなかった。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
スパダリショタが家庭教師のメスお兄さん先生と子作り練習する話
さくた
BL
攻め:及川稜
DS5。文武両道、とてもモテる
受け:狭山由貴
稜の家庭教師。文系。数学は苦手
受けの名前出てないことに気づいたけどまあええやろ…
週末とろとろ流されせっくす
辻河
BL
・社会人カップルが週末にかこつけて金曜夜からいちゃいちゃとろとろセックスする話
・愛重めの後輩(廣瀬/ひろせ)×流されやすい先輩(出海/いずみ)
・♡喘ぎ、濁点喘ぎ、淫語、ローター責め、結腸責めの要素が含まれます。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる