禁猟区

美里

文字の大きさ
上 下
11 / 31

しおりを挟む
降りしきる雨音を聞きながら、万里とカレーを食った。甘口のルーにさらに牛乳を入れて作る、超甘口のカレー。
 施設にいた頃、小さな子供でも食べられるように、カレーはいつも超甘口だった。万里は今でも、その頃の味を作る。彼にとってあの頃は、決して嫌な記憶ではないのだろう。
 「みんな、どうしてるかな。」
 ぽつりと万里は、そんなことまで言う。
 みんな。
 あの施設で一緒に育ったたくさんの子供たち。
 ひとり、またひとりと施設を出ていった彼ら、彼女らと、連絡を取りあったりしたことはなかった。兄弟みたいに育ったのに、それでもなぜか。
 「それなりにやってるよ。多分。」
 俺は曖昧に答え、甘いカレーを頬張る。
 部屋が狭すぎ、テーブルをいれるスペースがないので、飯を食うのは布団の上だ。3大欲求の全てをこの上で満たしているのだな、と思ったりするのだが、万里がこの部屋で女を抱いたことがあるのかどうか、俺は知らない。
 「今度行ってみようか。施設に。」
 何気ない口調で、万里が言う。
 「先生は今でも残ってるだろうし、懐かしいじゃん。」
 俺はカレーのスプーンを一瞬取り落としそうになりながらも、そうね、と応じた。何気ない口調を装って。
 懐かしいあの施設。
 冗談じゃない。
 その感情がどこからか伝わったんだろう。万里が悲しげに眉を寄せた。
 「海里は施設が嫌いだね。」
 そんなことないよ、と、俺は答える。
 そんなことない。あの、女の匂いを教え込まれた俺の故郷。
 嫌い。
 その一言では、俺の感情は表しきれない。
 確かに恨んだし、確かに恐れた。それでも、俺はあの場所を嫌いだとは言いきれない。
 狭い個室に押し込まれた二段ベッド。段差と雨漏りだらけの廊下やホール。薄暗い蛍光灯に、常に響いていた子どもたちの声。
 嫌いだと言い切れたら、どんなに楽だろう。
 行ってみようよ、と万里が言い、そうだね、俺が応じる。
 何度か繰り返されたやり取りだ。そうだね、と俺が応じたところで、万里は俺を無理に施設に里帰りさせはしない。
 多分、万里も俺の感情に気がついている。俺の身に起こったこと自体には気がついていないとしても。
 甘口のカレーを食い終わり、キッチンに皿を置きに行く。
 布団の上に戻り、座り直すともう、万里は施設の話をしなかった。
 察しが良いな、と思う。俺がもうあの頃を思い出したくないことをちゃんと理解している。
 黙ったまま二人で、深夜の映画を見た。
 セックスをしない相手の家で過ごすのは久しぶりすぎて、なにをしたらいいのかよく分からなかった。
 布団に転がり、足元のテレビを見ていた万里が、やがて小さな寝息を立て始める。俺は小柄なその体に布団をかけてやり、テレビと電気を消した
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

監禁小屋でイかされ続ける話

てけてとん
BL
友人に騙されて盗みの手助けをした気弱な主人公が、怖い人たちに捕まってイかされ続けます

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

土方の性処理

熊次郎
BL
土方オヤジの緒方龍次はある日青年と出会い、ゲイSEXに目醒める。臭いにおいを嗅がせてケツを掘ると金をくれる青年をいいように利用した。ある日まで性処理道具は青年だった、、、

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

騎士団長が民衆に見世物として公開プレイされてしまった

ミクリ21 (新)
BL
騎士団長が公開プレイされる話。

処理中です...