5 / 11
5
しおりを挟む
茉莉花は当たり前みたいな顔で紘一について電車に乗り込み、紘一とともに電車を降り、紘一のアパートまでついてきた。紘一は、ずっと戸惑っていたのだけれど、ついてくるな、とは言えなかった。相手は、あの茉莉花だ。紘一の胸の中に、見るたびに新たな火をつけて行く、唯一の踊り子。
「ごめんねー、押しかけてきちゃって。」
狭い紘一のアパートに、茉莉花がいる。座椅子に腰掛けて、紘一が出したビールを飲んでいる。それが、不思議で仕方がなかった。
茉莉花に座椅子を明け渡したので、フローリングに直で座りながら、紘一は自分の緊張を押し隠すみたいにビールを飲んだ。酒は、強くない。ビールも、以前遊びに来た友人が置いて行ったものが、そのまま残っていた。
「店の側に部屋借りてるんだけど、そこでお客が張ってるのね。もう、困っちゃって。カレシとも別れたばっかだし、帰れる実家もないしね。行くとこなくて、どうしようかと思ってたのよ。そしたらお兄さんが歩いてたから、ついね。」
そう言って、茉莉花は屈託なく笑った。紘一は、大変でしたね、とだけ返した。それ以上の言葉が浮かばなかった。もともとそこまで喋る方ではないし、相手が相手だ。身体は硬くなっていた。そんな紘一を見て、茉莉花はけらけら笑った。
「お兄さん、いい人なのね。踊り子相手にそんな緊張しなくていいのよ。」
その言葉に乗っかった自虐的な色に、紘一は一瞬意識を奪われた。だから、その後に続けて茉莉花が放った、する? の二文字の意味を取り損ねた。
する? するって、なにを?
茉莉花は笑っていた。笑いながら、紘一の顔をじっと見ていた。
「することなんて、一個しかないでしょ。」
「え、いや、」
「私、病気は持ってないよ。」
「そういうんじゃ、なくて、」
「じゃあ、なに?」
なに、と訊かれると、答える言葉が見つからなかった。いつも、茉莉花の舞台を見にバーに足を運んだ。何度も何度も見て、脳裏に刻まれた茉莉花の裸体。真っ白い肌と、しなやかに動く手足。
黙り込んだ紘一に、茉莉花は煙草の煙でも吐くみたいに笑った。
「そうよね、嫌よね、お兄さん、まともそうだもん。踊り子なんかと寝たくないよね。」
やはり、今度の台詞も自虐的に。
座椅子の上で膝を抱えた茉莉花は、ごめんね、と、小さく微笑んだ。
「お金、店にはいつも持ってかないことにしているから、今持ってないの。お礼、今度店に来てくれたらボーイにでも預けとくよ。」
「ごめんねー、押しかけてきちゃって。」
狭い紘一のアパートに、茉莉花がいる。座椅子に腰掛けて、紘一が出したビールを飲んでいる。それが、不思議で仕方がなかった。
茉莉花に座椅子を明け渡したので、フローリングに直で座りながら、紘一は自分の緊張を押し隠すみたいにビールを飲んだ。酒は、強くない。ビールも、以前遊びに来た友人が置いて行ったものが、そのまま残っていた。
「店の側に部屋借りてるんだけど、そこでお客が張ってるのね。もう、困っちゃって。カレシとも別れたばっかだし、帰れる実家もないしね。行くとこなくて、どうしようかと思ってたのよ。そしたらお兄さんが歩いてたから、ついね。」
そう言って、茉莉花は屈託なく笑った。紘一は、大変でしたね、とだけ返した。それ以上の言葉が浮かばなかった。もともとそこまで喋る方ではないし、相手が相手だ。身体は硬くなっていた。そんな紘一を見て、茉莉花はけらけら笑った。
「お兄さん、いい人なのね。踊り子相手にそんな緊張しなくていいのよ。」
その言葉に乗っかった自虐的な色に、紘一は一瞬意識を奪われた。だから、その後に続けて茉莉花が放った、する? の二文字の意味を取り損ねた。
する? するって、なにを?
茉莉花は笑っていた。笑いながら、紘一の顔をじっと見ていた。
「することなんて、一個しかないでしょ。」
「え、いや、」
「私、病気は持ってないよ。」
「そういうんじゃ、なくて、」
「じゃあ、なに?」
なに、と訊かれると、答える言葉が見つからなかった。いつも、茉莉花の舞台を見にバーに足を運んだ。何度も何度も見て、脳裏に刻まれた茉莉花の裸体。真っ白い肌と、しなやかに動く手足。
黙り込んだ紘一に、茉莉花は煙草の煙でも吐くみたいに笑った。
「そうよね、嫌よね、お兄さん、まともそうだもん。踊り子なんかと寝たくないよね。」
やはり、今度の台詞も自虐的に。
座椅子の上で膝を抱えた茉莉花は、ごめんね、と、小さく微笑んだ。
「お金、店にはいつも持ってかないことにしているから、今持ってないの。お礼、今度店に来てくれたらボーイにでも預けとくよ。」
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる