姉弟

美里

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 弟。
 その単語は、シュンの胸にぐさりと突き刺さった。
 血縁。
 自分が得られなかったもの。失い続け、求め続け、やっぱり得られずにいるもの。今後得られる見込みもないもの。
 美沙子には、それがある。健少年がいる。だったら、無関係だとは言えない、それがなんだったとしても。それが、性交という、ごく個人的なことだとしても。
 「……きみは、美沙子にこんなこと知られたくないかもしれないね。それでも、ごめん、話さないではいられないんだ。……きみが、美沙子の弟である限りは。」
 シュンが喉から絞り出した言葉に、健少年はしばらくの無言の間の後、小さく頷いた。
 「……シュンさんが、どうしてもって言うなら。」
 「うん。ごめん。」
 シュンは、自分はこの少年に謝ってばかりいるな、と思った。正確には、謝らないといけないことばかりしているな、と。
 昔、と、健少年が呟いた。それは、シュンになにかを伝えようとしていると言うよりは、独り言の類に思われるトーンだった。
 だからシュンは、言葉に出して先を促したりはせず、ただ少年の方に視線を投げた。
 昔……、と、少年が繰り返す、それは、陰鬱に降り続く、細く長い雨みたいな調子で。
 シュンは、どうしていいのかいまいち分からなかったので、黙ったまま軽く顎を引くように頷いてみせた。
 すると、健少年は、かすかに笑った。それは、彼特有の明るい日差しみたいな微笑みではなく、やはり陰鬱な雨を思わせた。
 「昔、俺、姉ちゃんとしたことがあるんです。……姉ちゃんは、もう覚えてないと思うけど。」
シュンは、かつて弟を犯したと、そう美沙子が言っていたことを思い出した。
 美沙子は、それを覚えている。それも、とてもはっきりと。
 シュンはそのことを知っていたが、それを健少年に伝えることなど到底できなくて、黙ったままでいた。
 健少年は、眉根を寄せて微笑んだ顔のまま、言葉を続けた。
 「俺が、本当にガキだった頃の話です。何歳だったかも……覚えてないなぁ。……でも、姉ちゃんとしたことは確かなんです。……なんでだろう。こんなことシュンさんに話したって、シュンさん、困るだけですよね。」
 困らないよ、と、シュンはなんとか言葉をひねり出した。出てきた言葉はそれだけで、どうしようもなくて、両腕で健少年の身体を抱きしめた。
 怒りから弟を犯したと言っていた美沙子。シュンだって、やったことは同じだ。
 ……ごめんね。
 シュンの中から出てきた言葉は、やはりその一言だけだった。
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