踊り子・若葉

美里

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 茉莉花姐さんが消えた。
 若葉がそれに気が付いたのは、秋のはじめだった。彼女が茉莉花を追ってストリップバーで踊るようになったのが夏のはじめだったから、たった三か月で茉莉花は消えたことになる。
 今日も今日とてセーラー服姿で舞台に上がりながら、若葉は舞台袖に茉莉花の姿を探してしまう。いつもなら、若葉の次が彼女の出番だった。だから茉莉花は毎日のように舞台袖で若葉の舞台を見ていてくれたのだ。時々は、踊りのアドバイスをくれることもあった。かっこよく踊るもの良いけど、最後のオープンの時はお客が勃起するくらい色っぽくね、なんて。若葉が知っている限り、誰よりもかっこよく踊っていたのも、誰よりも客を勃起させていたのも、茉莉花だった。
 その茉莉花が、消えた。
 若葉はどうしていのか分からなくなった。茉莉花を追って、この世界に入った。茉莉花がいなくなれば、もうここにいる意味もなくなる。なのに、若葉はまだここにいる。かぶりつきの男たちを煽るみたいに股を開いている。茉莉花はちょっと風邪でもひいて休んでいるだけで、ひょっこり舞台に戻ってくるのではないのかと思っている自分がいた。
 そのうち、若葉の耳に噂話が届くようになった。
 茉莉花は客にストーキングされていた。それから逃げるために、街を出たのだ。茉莉花の男は街を出ずにまだ残っている。その男は、電車で二駅行ったところの住宅街のアパートに一人で住んでいる。そのうち、茉莉花の後を追っていくだろう。
 妙に具体的な噂だった。若葉は、こんな噂は、完全に嘘か、完全に本当かのどちらかだと知っていた。だから、バーのオーナーに直談判しに行ったのだ。
 舞台裏手の階段を上った先にあるオーナー室は、狭い。一階の舞台が見下ろせる位置に大きな窓があり、立派なチェアがそちらを向いておかれているけれど、窓にはいつもブラインドが下りている。その茶色い革張りのチェアに、オーナーは今日も座って、煙草をふかしながら新聞を読んでいた。
 「オーナー。」
 ノックもそこそこにドアをぶち開け、呼びかけると、オーナーは驚いた様子もなく椅子をこちらに向けて半周させ、若葉と向き合った。それでも視線は、まだ夕刊に落とされている。
 「どうした、若葉。」
 若葉はオーナーの態度に構わず、勢いよく口を開いた。いつだって気のない態度だけれど、この人が踊り子の話を無視したことはこれまでなかった。
 「茉莉花姐さんは、どうしたんですか? もう、店は辞めたんですか? なんか、恋人が二駅先に住んでるとかいう噂もあるけど、本当ですか?」
 
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