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決戦(1)

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「ロキケトー! 例の巨竜が先頭に出てきましたっ!!」
 人とロキの睨み合いが続く戦場から、ほんの少し後方へ位置する指揮所の天幕。
 そこへ飛び込んで来た男性の叫びに対し、一條含む者達は悠然と動きを作る。
「漸くか。しかし、まだ始めるつもりは無いようだな」
 今回の戦闘における、総指揮官、ローデルファー・ヨーリウが重々しく告げた。
 夜明けと共に、ロキは動き始め、数時間程が経過しての出来事。
 戦闘開始の声や熱が無い事からも、彼の言は正しいのだろう。
「待たせてくれるものだ」
 口の端を上げながらの一言は、一條としても、少しは分かる。
「こちらとしては、攻めてくるのを待っている状態ですからね」
 スフィがこちらに視線を送りつつ告げたので、肩を竦めるに留めた。
――折角の埋設式が勿体ないしねぇ。
「ご飯代も掛かりますしねぇ」
 声に一瞬皆の視線が突き刺さったが、それもすぐに真犯人の所へ向かう。
「……戦闘前ですが一人討ち死にするのを許可して頂きたく」
 恭しく頭を下げた一條に対し、隣のスフィが無言で腰の剣を抜きに掛かった。
「あ、これガチか……。すいません。重苦しい雰囲気だったのでつい」
 親友が綺麗に腰を直角にしたが、ヨーリウ他はあまり気にする事はない。
 と言うより、彼の台詞に対して苦笑すら見せている。
「はっは。慣れましたな」
「笑うとこじゃないでしょ……いやお前だよシャラ」
 笑っていた高井坂が真顔になった。
「相手は人間ではない故、作戦通りにはいかない事を前提として対応せよ。……いやはや、まだミラリヤと戦っていた方が楽だな」
 スフィとファウスが苦笑い。
 つい先日知った事ではあるが、このヨーリウと言う人物。
 少数精鋭を率いる事で有名なのだが、問題はその戦闘力と胆力だ。
 件のミラリヤ戦線では、その精鋭の中から更に勇士を募り、千にも満たない人数で万の軍に奇襲突撃。
 危うく総大将を討ち取る寸前にまで追い詰めて潰走せしめた、と言う武勇伝は頭を抱えたくもなろう。
――ウルド・ラッファあやかし上手って、そこからじゃないよね……?
 自身が戦場で子育てをもしていた事からついたらしいものの、それを聞けば真相はどうやら、である。
 どこぞの英雄譚そのままだった。
「ジャンヌ・ダルク。勝てると思うか?」
「あの。それを私に聞くのはどうかと思うのですけど……?」
 言いつつ、周囲に視線を飛ばしてから、ため息。
。……後、私はこう見えて負けるのが嫌いなので」
「それは全員知っている」
 眉根を詰めたが、総大将に言われては最早言うべき事はない。
「よし。各員、持ち場へ。最初はダルク殿の策を。それを合図にしてから、戦争開始だ」
 言うが早いか、我先にと駆け足だ。
 一條と高井坂もそれに混じって行く。
 特に、その一番槍を担っているこちらとしては、早めの出陣は悪い事ではない筈である。
「お疲れ」
「疲れるのはこれからだよミラ」
 暢気な返事にも、苦笑を返しつつ、足は緩めない。
 愛剣は戦場の最前線にて突き立って待機。
 その少し先に、例の円環魔法陣だ。
 そして、そここそがジャンヌ・ダルクの持ち場となる。
「にしても、もうメッチャ目立つわねぇ。あちらさん」
 人の間、と言うより、整列した部隊の脇を走って行く中で、は、否が応でも注目を集めた。
 嘗ての折、ウネリカで倒した存在よりも遙か上空に頭を有する黒色の竜。
 尻尾までを含めれば、目測だが全長は五十メトルを優に越えている。
 翼は折り畳まれている為、正確な大きさまでは分からないが、少なくともその見た目はいずれの存在よりも極々普通の形状に見えた。
「アタシ待ち、って事かな。全く嬉しくないけど……」
 とりあえず、と言う様に愚痴をこぼしてみたが、黒竜は動かない。
 尻尾どころか、頭の位置すら微動だにしていないのだ。
 それが逆に、恐怖心を煽っている。
 いや、事実として、ただそこに居るだけで多くの将兵が気圧されていた。
 一條としては、寧ろ、威容を誇っている様にすら思えてくるのだから、不思議なものではあるが。
――分かってての事だとしたら、嫌になるね……。
 思案する間に、
「っ」
 人垣を抜けて先頭へ。
「おっかな」
 軽口を叩く義妹を他所に、深呼吸一つ。
「……ふー……」
 そこで、気付いた。
 黒竜の頭が、目、と呼べるかは不明だが、それは間違い無く
「――」
 口が開き、合わせる様にして、首が傾いた。
 悠然とした仕草で。
 まるで、待っていた、とでも言わんばかりに。
「……?」
 認識する。
 爬虫類然とした頭部。
 耳は定かでは無いが、その口も、その鼻も、そしてその目も、一直線上に揃っている。
 
――こいつが、ロキの親玉……っ。
 単眼の黒い竜、一つしかない眼と、確かに視線がかち合った瞬間、
「っ!?」
 声にならない声。抵抗する間も、そんな余裕すらも無く。
 一條の視界が、黒に染まる。
 意識が、ぷっつりと、世界から切り離された。
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