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森の民・ガティネ(12)
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「少しは躊躇しなさいなっ!」
叫ぶと同時、柱を豪快に叩き割った剣が降ってきた。
それに対して舌打ちしつつ、一條は溜めを作ってから後方へ。
半分以下となった柱へ飛び、へばり付く様にして一撃目を際で回避。
蹴り飛ばした丸太があったからこその、僅かなズレ。
「っ!」
そのまま三角飛びの要領で、アシュールの頭上を越えて行く。
直後には、足場にした柱も続く二発目で真一文字に叩き斬られていた。
――ああはなりたくないなぁっ。
身体を捻り、思う矢先の着地。滑走する中で見る彼は、もうこちらへ向けて疾走体勢。
追い縋る様に来た。
続く刹那で、剣戟音が二度。
三発目は回避。
一息の後、互いに一歩を踏み込んでの四度目。
「まだ余裕そうで何よりっ」
一條が体勢を整える為に一歩後退するのに対し、アシュールは体勢を維持する為に一歩前進。
「慣れているっ」
期待していなかった問い掛けに、期待したくない答えが、片手突きと共に返ってきた。
「っ、そうですかっ」
外へ弾いた攻撃が、即座に一回転からの叩き付けに繋がってくる。
回避。そこからすぐに跳躍を追加した。
――アランさん以上に隙がないなっ。
確実に両足を持って行かれる攻撃。
地表を這う様な斬撃は、実に容赦がない。
「のっ」
間隙を縫う反撃も、完璧とまでは行かないが、それなりに防がれ始めている。
「対応が早いっ」
「嘗ての友が似た事をしていたのでなっ」
「……次は三刀流でもやらなくっちゃダメかっ!?」
入れ替わり立ち替わり、一刀と二刀が交差していく。
「「っ!」」
一條もアシュールも、時折身体をぶつけ、攻撃に際して優位を取ろうとする動きも追加される。
至近距離での差し合いと斬り結びがそれまでの最長時間を遙かに更新した所で、
「あっ!?」
思わず、一條は叫んだ。
刃での攻撃を反らしたが、そこから、瞬時に峰での打ち返し。
巻き込む様な技巧的一撃で、右の鞘が空を舞ったからである。
――しま……。
「った」
口に出た時には、もう両者の大勢は決まっていた。
元々、一回り以上大きい彼の体躯が、更に大きく見える。
当然だ。
今まさに、彼は最初の一撃と同じ構えを取ったからである。
恐らくは、アシュール・ドゥルにとっての、必殺の型。
対して一條は、片膝を着いた様な形。
即応出来る格好ではない。
最も、初撃はどうにか躱せても、続く二撃目は無理と判断。
ならば、
――やるしかないっ!
即断する。
左手一本だった剣に右手も添え、限界まで身体を捻った。
一瞬の後、再びの音。
ぎしり、と。
みしり、と。
今度は一條も、その正体を認識した。
アシュールが、身体を引き絞ったが故の、筋肉の声。
アシュールが、破壊する勢いで握り込んだ、柄の声。
それらを耳に入れながら、歯を食いしばる。
後は、合図を待つのみだった。
「「……」」
数秒の静寂。
二度目の試合開始の合図が鳴った。
「ああああああぁぁっ!!!」
「おおおおおおぉぉっ!!!」
裂帛の気合と共に、同時の射出。
下段から伸び上がる最大の一撃と、上段から打ち下ろす必殺の一撃。
瞬き以下の時間で、激突する。
今日一番の撃音が大気を震わせた。
「「っ!?」」
一條は、目を見開いて、確認する。
向こうも、同じ表情を見せていた。
決着。
両者の武器が、盛大に破砕した事で、だ。
が、そんなお互いの剣だった破片舞う中。
「っ」
一條は構わず動いた。
「オラァッ!」
がら空きの胴体へ、渾身の前蹴りを叩き込んだのだ。
一歩どころではない反応の遅れたアシュールは、身体をくの字にして吹っ飛んで行く。
仮の話だが、闘技場に壁があったのなら、彼はそこへ背中から激突し、そこで止まっていたろう。
だがしかし、現実にそんな物はない。
境界線を越え、更に飛んで行く彼は、やがて背中から地面に落着。
更に二度三度と跳ね、漸く勢いが無くなった。
「……」
行く末を見届けてから、ゆっくりと、一條は立ち上がる。
ついた埃や破片類を手で払い、自らの象徴でもある薄紫色の長髪を梳いていきながら、
「なんとかなった……」
呟く。
「えぇーっ!?」
親友の、耳をつんざく声が響いた。
「アシュール!?」
次いで、いつの間にか起き上がっていたらしいルツ・ナミルが、そんな言葉と共に早足で呼んだ人物の元へ駆けて行く。
紀宝よりも目覚めは遅かったものの、やはり耐久力の面では相応の物を持っているらしい。
――回復魔法か。私のはホントにおまじないみたいな感じだしなぁ。
等と思う。
治療出来るのも、やはり精々が擦り傷程度。
それ以上となると、詠唱の長さからは中々難しくなってくる。
一條自身の適性とも言えるかも知れないが、やんちゃ盛りの子供相手ならこれでも十分に治療出来たりするので、それはそれで重宝していた。
名目上は貴族でもあり、街中だろうが気にせず使えるのは良いのだが、時折子供の列に大人が混ざっていたりもする為油断ならない事も多い。
「え!? あれ!? なんっ、えっ? なんで最後蹴ったのジャンヌさんっ!?」
毎回その列に加わってくる輩の問い掛けに答える様に、身体毎向き直る。
視線の先、皆一様に唖然としていた。
一人、誇らしげに頷いている者も居るが。
「なんで、って。そりゃあお前さん……」
逡巡。
「……」
腕を組み、小首を傾げた。
「……なんでだ?」
「知らんわっ! 聞いてんの俺だよっ!!」
突っ込みに対し、両手で制する仕草を返す。
「ホント、うちには蛮族系しかおらん……」
「野蛮人ですってよミラさん」
告げた先、やおら臨戦態勢を取った人物へ向けて、親友が見事な飛び込み式土下座を披露。
――私には無しかー?
腕を組んだ状態で待っていたが、
「ジャンヌ・ダルク」
それよりも早く声が掛かった。
「アシュール・ドゥル殿。……これでも本気で蹴ったんですけど……頑丈でなによりです」
彼は、やはり表情を変えぬまま。
言葉通りの蹴りが直撃した筈の腹を軽く摩りながらだが、目立った負傷は見られない。
「そうだな。だが、他の者にはしない方が良い」
――自慢話だろうか。
考えつつ、
「そうします……」
答える。
「私の負けだな。剣が折れた所で、貴女の様に手も足もあったのに、それをしなかったのだから」
「いえ。剣の勝負ではずっと私が負けていました。……結局、ああするしか無かった程に」
「今回、特に決め事はない。なら、負けは負けだとも。所で、ジャンヌ・ダルク。貴女の戦い方は誰かに習ったものなのか?」
「多くの人から学んだ結果です」
一條の答えに、納得半分、と言った表情を浮かべた。
「そうか……。いや、森や川を抜けた更に先、白く寒さの厳しい山の近くに、貴女と似た戦い方をする者達が居た、と。父の父が、その様な事を話していたのを今、思い出した」
彼の差した方向は、恐怖山脈の逆。
つまり西である。
正確に言えば、北西、となるだろうか。
しかし、アシュールの言う事が事実であるならば。
「ジャンヌの戦い方は蛮族のそれ、って事!?」
「お前ちょっと後で覚えてろよマジで」
釘を刺したが、親友の言葉はもっともである。
常々思っていた事ではあるが、一條の戦い方は大凡真っ当なそれとはかなり違った方向性を持っていた。
明確に突き付けられた気もして、ため息一つ。
「……えぇと。私のは……そうですね」
言いながら、頭の中で考えを纏める。
「私はアシュール・ドゥル殿の様な、剣使いとは、違います」
軽く一息。
「私は、戦う者、です」
告げた。
「戦う者……」
「はい。なので、剣も使います。それ以外のものも。使えるものは全てを使って戦う。……それが、私なんだと思います」
言い切ってから、一條は口元が緩んだのを自覚する。
――なんでもあり、か。やりたい事が見えてきた気もする。
「ふふっ」
漏れ出た笑いに、ガティネ人の二人が互いに顔を見合わせたのを見て、咳払い。
「所で、試験……いえ、試練の様なものは、これで突破した、と見て良いんでしょうか」
一條側としては、唐突に吹っ掛けられたものではあったが、ガティネの有り様を鑑みれば、問題は解決したと見て良いだろう。
「そうだな。しかし、元々通すつもりではあった。私はな。アプラの話は聞いていたし、これでもガティネを束ねている。見る目はあるとも」
「えぇ……」
少々笑う様な物言いに、思わず眉根を詰めた。
「見ていた、と言ったろう。あれだけの戦い振りだ。招く事を嫌う理由にはならない」
口の端を上げながら、アシュールの一歩引いた位置へ、アプラ・イディが陣取る。
「そういえばそうでしたね……」
苦笑いするしかなかった。
「皆も納得するしかないだろうがな。……出発は日が昇ってからにするとして、歓迎させて貰おう。ヴァロワの強き戦士、ジャンヌ・ダルク」
アシュールは、握った右拳と広げた左手を胸の前で合わせる。
「改めて、名乗らせて頂く。……ガティネ・ガト・ドワクロフの一人として、ガティネの代表を務めている。アシュール・レア・ドゥル、だ。……長い親交を期待する」
「……同じく、ガティネ・ガト・ドワクロフの一人。ルツ・ナッツィン・ナミル」
ルツが続いた。
「アプラ・ナアマ・イディ」
アプラも最後に続く。
一條も、逡巡した後、彼らと同じ格好を取る。
「……えと。宜しく、お願いします?」
――あっ。
と、心中で声を上げたのは、アシュールが一瞬、笑った様に見えたからだ。
「では、親交を深めるとしよう。ヘヌカ酒もある」
「アルベルトさん。それは贈り物、と言うか、交易品なのでは……」
「だからこうして開けるのだ。皆で飲み交わす為にな」
「へ、屁理屈っ。何という屁理屈をっ」
「確かにそれでは親交も深められない」
「ですよねっ」
アシュールの言葉にこれ幸いと飛び付く。
が、振り向いた先で彼は、真顔で続ける。
「ヴァロワの酒は弱い。アプラ、ヘツーヴィを」
「くそぅ! 突っ込みが! 突っ込みが追いつかない!」
一條の叫びは、空へ霧散した。
叫ぶと同時、柱を豪快に叩き割った剣が降ってきた。
それに対して舌打ちしつつ、一條は溜めを作ってから後方へ。
半分以下となった柱へ飛び、へばり付く様にして一撃目を際で回避。
蹴り飛ばした丸太があったからこその、僅かなズレ。
「っ!」
そのまま三角飛びの要領で、アシュールの頭上を越えて行く。
直後には、足場にした柱も続く二発目で真一文字に叩き斬られていた。
――ああはなりたくないなぁっ。
身体を捻り、思う矢先の着地。滑走する中で見る彼は、もうこちらへ向けて疾走体勢。
追い縋る様に来た。
続く刹那で、剣戟音が二度。
三発目は回避。
一息の後、互いに一歩を踏み込んでの四度目。
「まだ余裕そうで何よりっ」
一條が体勢を整える為に一歩後退するのに対し、アシュールは体勢を維持する為に一歩前進。
「慣れているっ」
期待していなかった問い掛けに、期待したくない答えが、片手突きと共に返ってきた。
「っ、そうですかっ」
外へ弾いた攻撃が、即座に一回転からの叩き付けに繋がってくる。
回避。そこからすぐに跳躍を追加した。
――アランさん以上に隙がないなっ。
確実に両足を持って行かれる攻撃。
地表を這う様な斬撃は、実に容赦がない。
「のっ」
間隙を縫う反撃も、完璧とまでは行かないが、それなりに防がれ始めている。
「対応が早いっ」
「嘗ての友が似た事をしていたのでなっ」
「……次は三刀流でもやらなくっちゃダメかっ!?」
入れ替わり立ち替わり、一刀と二刀が交差していく。
「「っ!」」
一條もアシュールも、時折身体をぶつけ、攻撃に際して優位を取ろうとする動きも追加される。
至近距離での差し合いと斬り結びがそれまでの最長時間を遙かに更新した所で、
「あっ!?」
思わず、一條は叫んだ。
刃での攻撃を反らしたが、そこから、瞬時に峰での打ち返し。
巻き込む様な技巧的一撃で、右の鞘が空を舞ったからである。
――しま……。
「った」
口に出た時には、もう両者の大勢は決まっていた。
元々、一回り以上大きい彼の体躯が、更に大きく見える。
当然だ。
今まさに、彼は最初の一撃と同じ構えを取ったからである。
恐らくは、アシュール・ドゥルにとっての、必殺の型。
対して一條は、片膝を着いた様な形。
即応出来る格好ではない。
最も、初撃はどうにか躱せても、続く二撃目は無理と判断。
ならば、
――やるしかないっ!
即断する。
左手一本だった剣に右手も添え、限界まで身体を捻った。
一瞬の後、再びの音。
ぎしり、と。
みしり、と。
今度は一條も、その正体を認識した。
アシュールが、身体を引き絞ったが故の、筋肉の声。
アシュールが、破壊する勢いで握り込んだ、柄の声。
それらを耳に入れながら、歯を食いしばる。
後は、合図を待つのみだった。
「「……」」
数秒の静寂。
二度目の試合開始の合図が鳴った。
「ああああああぁぁっ!!!」
「おおおおおおぉぉっ!!!」
裂帛の気合と共に、同時の射出。
下段から伸び上がる最大の一撃と、上段から打ち下ろす必殺の一撃。
瞬き以下の時間で、激突する。
今日一番の撃音が大気を震わせた。
「「っ!?」」
一條は、目を見開いて、確認する。
向こうも、同じ表情を見せていた。
決着。
両者の武器が、盛大に破砕した事で、だ。
が、そんなお互いの剣だった破片舞う中。
「っ」
一條は構わず動いた。
「オラァッ!」
がら空きの胴体へ、渾身の前蹴りを叩き込んだのだ。
一歩どころではない反応の遅れたアシュールは、身体をくの字にして吹っ飛んで行く。
仮の話だが、闘技場に壁があったのなら、彼はそこへ背中から激突し、そこで止まっていたろう。
だがしかし、現実にそんな物はない。
境界線を越え、更に飛んで行く彼は、やがて背中から地面に落着。
更に二度三度と跳ね、漸く勢いが無くなった。
「……」
行く末を見届けてから、ゆっくりと、一條は立ち上がる。
ついた埃や破片類を手で払い、自らの象徴でもある薄紫色の長髪を梳いていきながら、
「なんとかなった……」
呟く。
「えぇーっ!?」
親友の、耳をつんざく声が響いた。
「アシュール!?」
次いで、いつの間にか起き上がっていたらしいルツ・ナミルが、そんな言葉と共に早足で呼んだ人物の元へ駆けて行く。
紀宝よりも目覚めは遅かったものの、やはり耐久力の面では相応の物を持っているらしい。
――回復魔法か。私のはホントにおまじないみたいな感じだしなぁ。
等と思う。
治療出来るのも、やはり精々が擦り傷程度。
それ以上となると、詠唱の長さからは中々難しくなってくる。
一條自身の適性とも言えるかも知れないが、やんちゃ盛りの子供相手ならこれでも十分に治療出来たりするので、それはそれで重宝していた。
名目上は貴族でもあり、街中だろうが気にせず使えるのは良いのだが、時折子供の列に大人が混ざっていたりもする為油断ならない事も多い。
「え!? あれ!? なんっ、えっ? なんで最後蹴ったのジャンヌさんっ!?」
毎回その列に加わってくる輩の問い掛けに答える様に、身体毎向き直る。
視線の先、皆一様に唖然としていた。
一人、誇らしげに頷いている者も居るが。
「なんで、って。そりゃあお前さん……」
逡巡。
「……」
腕を組み、小首を傾げた。
「……なんでだ?」
「知らんわっ! 聞いてんの俺だよっ!!」
突っ込みに対し、両手で制する仕草を返す。
「ホント、うちには蛮族系しかおらん……」
「野蛮人ですってよミラさん」
告げた先、やおら臨戦態勢を取った人物へ向けて、親友が見事な飛び込み式土下座を披露。
――私には無しかー?
腕を組んだ状態で待っていたが、
「ジャンヌ・ダルク」
それよりも早く声が掛かった。
「アシュール・ドゥル殿。……これでも本気で蹴ったんですけど……頑丈でなによりです」
彼は、やはり表情を変えぬまま。
言葉通りの蹴りが直撃した筈の腹を軽く摩りながらだが、目立った負傷は見られない。
「そうだな。だが、他の者にはしない方が良い」
――自慢話だろうか。
考えつつ、
「そうします……」
答える。
「私の負けだな。剣が折れた所で、貴女の様に手も足もあったのに、それをしなかったのだから」
「いえ。剣の勝負ではずっと私が負けていました。……結局、ああするしか無かった程に」
「今回、特に決め事はない。なら、負けは負けだとも。所で、ジャンヌ・ダルク。貴女の戦い方は誰かに習ったものなのか?」
「多くの人から学んだ結果です」
一條の答えに、納得半分、と言った表情を浮かべた。
「そうか……。いや、森や川を抜けた更に先、白く寒さの厳しい山の近くに、貴女と似た戦い方をする者達が居た、と。父の父が、その様な事を話していたのを今、思い出した」
彼の差した方向は、恐怖山脈の逆。
つまり西である。
正確に言えば、北西、となるだろうか。
しかし、アシュールの言う事が事実であるならば。
「ジャンヌの戦い方は蛮族のそれ、って事!?」
「お前ちょっと後で覚えてろよマジで」
釘を刺したが、親友の言葉はもっともである。
常々思っていた事ではあるが、一條の戦い方は大凡真っ当なそれとはかなり違った方向性を持っていた。
明確に突き付けられた気もして、ため息一つ。
「……えぇと。私のは……そうですね」
言いながら、頭の中で考えを纏める。
「私はアシュール・ドゥル殿の様な、剣使いとは、違います」
軽く一息。
「私は、戦う者、です」
告げた。
「戦う者……」
「はい。なので、剣も使います。それ以外のものも。使えるものは全てを使って戦う。……それが、私なんだと思います」
言い切ってから、一條は口元が緩んだのを自覚する。
――なんでもあり、か。やりたい事が見えてきた気もする。
「ふふっ」
漏れ出た笑いに、ガティネ人の二人が互いに顔を見合わせたのを見て、咳払い。
「所で、試験……いえ、試練の様なものは、これで突破した、と見て良いんでしょうか」
一條側としては、唐突に吹っ掛けられたものではあったが、ガティネの有り様を鑑みれば、問題は解決したと見て良いだろう。
「そうだな。しかし、元々通すつもりではあった。私はな。アプラの話は聞いていたし、これでもガティネを束ねている。見る目はあるとも」
「えぇ……」
少々笑う様な物言いに、思わず眉根を詰めた。
「見ていた、と言ったろう。あれだけの戦い振りだ。招く事を嫌う理由にはならない」
口の端を上げながら、アシュールの一歩引いた位置へ、アプラ・イディが陣取る。
「そういえばそうでしたね……」
苦笑いするしかなかった。
「皆も納得するしかないだろうがな。……出発は日が昇ってからにするとして、歓迎させて貰おう。ヴァロワの強き戦士、ジャンヌ・ダルク」
アシュールは、握った右拳と広げた左手を胸の前で合わせる。
「改めて、名乗らせて頂く。……ガティネ・ガト・ドワクロフの一人として、ガティネの代表を務めている。アシュール・レア・ドゥル、だ。……長い親交を期待する」
「……同じく、ガティネ・ガト・ドワクロフの一人。ルツ・ナッツィン・ナミル」
ルツが続いた。
「アプラ・ナアマ・イディ」
アプラも最後に続く。
一條も、逡巡した後、彼らと同じ格好を取る。
「……えと。宜しく、お願いします?」
――あっ。
と、心中で声を上げたのは、アシュールが一瞬、笑った様に見えたからだ。
「では、親交を深めるとしよう。ヘヌカ酒もある」
「アルベルトさん。それは贈り物、と言うか、交易品なのでは……」
「だからこうして開けるのだ。皆で飲み交わす為にな」
「へ、屁理屈っ。何という屁理屈をっ」
「確かにそれでは親交も深められない」
「ですよねっ」
アシュールの言葉にこれ幸いと飛び付く。
が、振り向いた先で彼は、真顔で続ける。
「ヴァロワの酒は弱い。アプラ、ヘツーヴィを」
「くそぅ! 突っ込みが! 突っ込みが追いつかない!」
一條の叫びは、空へ霧散した。
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