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ウネリカの戦い(11)

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「じゃ、ま、だぁ!」
 一條は叫び、蹴り飛ばした先で縺れる様に転がった三つ首を二匹、一緒くたになで切りにした。
 更に普通の黒犬を踏み砕いて、その勢いのまま加速。
 今まさに突撃を仕掛けていた黒猪の横腹へ、跳び蹴りを叩き込んだ。
「ジャンヌ!?」
 驚いた表情のラトビアを始めとしたスカルトフィ麾下の者達を尻目に、大立ち回りを演じ、瞬く間に場を収める。
 どうにか道と呼べる物を作り、指差した。
「負傷者から先に! これ以上、乱戦になったら逃げ場が無い!」
 ラトビアが促される様に数名で先頭を行き、道を広げ、後続も付いて行く。
 それを見ながらも一條は、飛び出してきた三つ首を一刀両断にしながら、退避させる為の時間を作る。
 戦場となって久しい、ウネリカの南広場は今や、混乱の渦中にあった。
 紀宝・香苗型貫徹弾により、二頭を持つ鰐は蛇型尻尾二本、その象徴たる二つある頭の内、左首を根元から爆散させたものの、消滅するまでには至っていない。
 が、その修復もままらないのは、直前まで一條の水の槍で固定されていた事、今も断続的に紀宝を相手取っている事とが重なった状況故だろう。
 しかし、同時に時折聞こえる咆哮に呼び寄せられたかの様に、街の各所から三つ首や猪型を含めた新手が参戦してきていた。
 この為、大型ロキの一軍を完全包囲していた事が逆に仇となり、特に左右それぞれの部隊が挟撃される形となってしまっている。
「クラウディーさんっ」
「ダルク殿っ!? ……いえ、こちらも手一杯でしたっ。ありがとうございます」
 言葉に一條は苦笑。
 彼女からしてみれば、予期せぬ来訪者であったろう。
「一応の道は作りました。ラトビアさん達は先に出ましたっ。クラウディーさん達も一旦外へっ」
 ファウスに送り出された一條が進路を取ったのはスカルトフィの側だった。
 彼女の部隊は攻めに特化しているのもあり、一度守勢に回ると厳しい。特に逃げ場を失う事は、一番苦しい局面と言える。
 その上、大型ロキに最も肉薄している所為もあってか、ロキからの攻撃が激しい。
 一匹を斬り、更に一匹を無造作に蹴り出す。
「えぇ、此方も立て直し次第っ。……もう一度あれに突撃します」
 馬上から器用に直剣を振り下ろし、或いははたき落とし、迎撃していくスカルトフィ。
 その瞳は既に次を見据えている。激情に流されての言葉ではないだろうが、
――負けず嫌いなんだよなぁ。
 考えるに留める。
 とはいえ、現状でその発言が出来る辺り、彼女には頭が上がらない。
「シャラ!」
「わぁってる! ここじゃ唯一のタンクみてぇなもんだからよ! ……俺の盾ベッコベコだけどなぁ!?」
 勢い良く走り出したスカルトフィらを背に、親友が答えた。
「文句はミラに言ってくれ!」
 上空であの紀宝の足場として蹴り出されれば、大抵の物は破損の憂き目にあう。
 とはいえ、一番の原因はその後だ。
 一條がスカルトフィの側に回ってきた理由の一つでもあったが、落下してくる高井坂を受け止めに入ろうとしたのもある。
 だが、それは脆くも崩れさった。
 紀宝が大型ロキとの戦闘もそこそこに、落ちてくる高井坂へ向けて、周囲に居たであろう黒犬型を射出していったからである。
 的確に、そして連続で当てていけば、なるほど、その衝撃で多少なり落下の威力も削げると言うものであろう。
 かくして親友は、その大盾を半分犠牲にして無事に地上へと降り立つに至った。
――まぁ、特に約束した訳でもないし。
 言わぬが華である。
「本体の方が硬いし、それで良しとしとこうや」
「もうちょっとこう、優しくしてくれても良いんじゃないかなぁ!?」
 尚も食い下がろうとするロキを相手取りながら、高井坂も応戦。
 大盾こそ役目を果たすには少々形が悪いが、彼とていつまでも盾一辺倒ではない。
 剣の腕は、一條は勿論、大抵の軍人貴族にも劣るものの、一匹程度であればどうにか出来る範疇である。
「ジャンヌ姉ちゃん助けてー!」
 高井坂が叫ぶとほぼ同時、剣で突き刺したロキをそのまま力任せに回転させ、
「どっせい!」
 そのままロキだけを投げ付けた。
 一匹に当たったが勢いは止まらず、二匹、三匹と巻き込んで行く。
「もう全部ジャンヌだけで良いんじゃないかな」
「やかましい。……ゼルフったって無限じゃないんだ。クラウディーさんも一旦引けたし、今度はアランさんの方に合流するぞ」
「合点承知」
 格闘していた一匹を片付け、決め顔と決め台詞と共に親指を上げる親友への反応はあえてしない。
 丁寧に剣を収めつつ、踏み込む。
「んじゃ、レッツゴー!」
 代わりと言う様に、一條は一旦、彼の後ろに回り込んだ。
 左腕で両足を支え、右腕で背中を。左脇に身体を通して持ち上げれば、丁度、全女子憧れのお姫様だっこの完成である。
「逆ぅ! 立場逆だよーぅ!」
「え、投げた方が良かった?」
 大男は沈黙した。
 それに苦笑しながら、一條は一息入れ、加速。
 紀宝の様に上手くは立ち回れない為、この状態では基本的に敵は無視する。
「ほい、ほい、ほいっと」
「さも当然の様に踏み砕いてるの怖すぎんだろ」
「近道、近道」
 地面を蹴り砕く勢いで跳ね飛ぶ。
 目標地点は目の前だが、もう一歩足りない。
「おっ邪魔ーっ」
 鰐の右頭に着地して、そのもう一歩を埋めた。
「……あっ、こういう時に言うべき台詞を思い出したぜっ」
「聞きたくないけど聞きましょう」
 高井坂が二度頷いてから、良い笑顔で告げる。
「昨日はお楽しみでしたねっ!」
「わりぃ手が滑った」
 柔やかな笑みを浮かべ、しかし、親指は立てたまま、するり、と親友が地面に落ちていった。
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