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ジャンヌ・ダルク、皇都にて(4)
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「ミランヌ・カドゥ・ディー、シャラ・ディノワ、そして、ジャンヌ・ダルク……? 出身はローンヴィーク……確か、泉かなにかで有名な……。なるほど。皇都の者でないなら、その目立つ風貌に活躍も、聞いた事がないのも納得するしかないわね」
まるで自分に言い聞かせる様にして呟いたのは、銀髪を肩口で揃えた女性の軍人貴族だ。
傍目にも目立つ端麗な容姿。
全体的に細身ながら、そこに居るだけで非常に存在感を放つ人物である。
いつの世も、有名人とはそう言うものなのだろう。
「アルベルト様の報告にもありませんでしたが」
「私だけの評価で話す事でもなかったのでな」
嘯くアルベルトにも、彼女は思う所は無かったらしく、表情にも変化は見られない。
ただ、対面に座る一條を数秒、睥睨したのみだ。
「人の噂を聞くより人に会え、文字を見るより人を見ろ。スカルトフィ様もその口では?」
図星を突かれたのか、難しい顔になったのは女性の方である。
同時に、一條も難しい表情になった。
それを見てか、両隣から友人に小声で話し掛けられる。
「スカルトフィ・クラウディー。噂に違わず美人な事で」
「ジャンヌ姉、今度は何した? 言うてみぃ。話だけは聞きますぜ」
「うーん。突発イベントかなぁ」
適当な発言をしてみたものの、一條には特にこれと言った報告はない。
あえて言うなら、皇都での知名度を上げすぎた点なのだろうが、悪名でもないので言うだけ損だった。
――それにしても、本当にその日に乗り込んでくるとは思わなかった……。
頭を抱えたくなるが、なんとか踏み留まる。
背筋を伸ばし、視線も前に。所作も優雅そのものと言って良い彼女こそ、ヴァロワ皇国が誇る軍人貴族達の頂点、十二皇家の一つにして筆頭とも呼べる名家、クラウディーの現当主、スカルトフィ・クラウディーその人であった。
ルッテモーラ曰く、両家がそんなに離れていない、と言うのは正にその通りである。
皇都・グランツェの構造はそれほど複雑ではない。
中央に位置してるヴァロワ城。
これを円状に囲う様にしてヴァロワ十二皇家有する十二の屋敷が点在し、大貴族達の家、市場通りや平民達の家々が軒を連ね、貴族達の住む区画へと続く。
皇都の全周囲にある城壁にも見えるのが、貴族達の家なのだ。
勿論、全員が全員、強固な壁の中に住んでいる訳ではないが、どちらにせよ、街の一番外に彼らは住まなくてはならない。彼らは待遇の良い支配階級ではなく、民や皇を守護する存在なのだ。
とはいえ、一條達の思い描く情景とはかなり異なった様相を呈していたのは事実である。
そして、ヴァロワ城を囲う十二皇家の屋敷、ランス家とクラウディー家はお隣同士、と言う事であった。
市場での出来事から、恐らく半時と経たない内にここまで話が進んだのだから、迅速果敢と評する他ない。
「モーラさんとデートしてきたかと思ったらすぐさまこれだもん。イベントには事欠かないよねホント」
「嫌味が凄い」
「嫌味だもの」
我慢していたため息が思わず出てしまい、アルベルトとクラウディーから視線を貰う。
一つは苦笑、もう一つは苦虫を噛み潰したような表情だ。
「……すいません」
素直に謝っておく。
言われた当人は肩を竦めて一息吐いただけだが、それだけでも様になるので最早卑怯ですらある。
「本物の令嬢、って凄いんだなぁ」
「嫌味が凄い」
「別に嫌味ではないよ?」
紀宝が見た事もない表情をしているが、その意味する所は一條には不明だった。
「ラトビアも一体何処を気に入ったのか……」
言葉と共に、スカルトフィがこめかみを押さえる。
――それは俺関係無いけど。
全くの無関係ではないが、彼女の言うラトビア・ハイカーとは市場で出会った、黒の長髪が印象的な軍人貴族の女性だ。
双方から理由を聞くと、即座に駆け出して事の次第は伝わり、一條とルッテモーラが屋敷へと帰宅する頃には既に手筈は整っていた、と言う訳である。
仮でもなく、国を代表する者が持つ行動力ではなかった。
「えっと……クラウディー、さん?」
「様、様」
「ん、んんっ。クラウディー様。俺には話が見えてこないんですけど」
「俺……?」
クラウディーの眉根がつり上がる。
――何かマズったかも。
思ったが、一條の表情から何かを察したのか、彼女は頭を横に振った上で、
「いえ、なんでも」
とだけ答えた。
「……それで、ですが。私達も今後はロキです。それに足る人物が居るのなら、下級士だろうと欲しい所。そんな折り、街でこれほど噂になっていれば気になるでしょう?」
「そういうもの、ですかね」
「そういうもの、です」
あまりの目力に、一條は思わず怯む。
嫌われてる雰囲気はないが、かと言って気に入られている、と言う訳でもなさそうである。
ヴァロワ十二皇家に関して、一條が知ってる事はまだまだ少ない。
――国の重責を担うって年齢じゃないよなぁ。
それも女性の身で、だ。
聞けば、老齢の父親に代わって当主の座に自ら志願したらしく、そういう意味でも変わり者ではあるようだった。
「まさかランス家の者とは知りませんでしたが」
「うーん。微妙に違うんですけど」
「ロキの襲撃にあって生き残ったのです。運が良かった、と言うべきですかな」
アルベルトの横やりにも、彼女は居住いを正しただけで、視線自体は常に一條の方を向いている。
「……。」
十数分程度の顔合わせではあるが、一條もことここに至って、スカルトフィ・クラウディーの人物像をなんとなく掴んだ気がした。
それが的外れだったら笑い者なのだが、彼女相手であれば、それならそれで構わないと思える。
「クラウディーさん。何か、聞きたい事が?」
両隣からは特にこれと言った反応は無かったものの、件の人物も、出されていたオックス茶を一息に飲み干しただけだった。
その後も何も言ってはこないが、それが言いたいけど言わない事なのか、この場で言うべき事ではないのか、判断は難しい所である。
「……いえ、今は止めておきます」
一條は、それを聞いて、ひとまず肩を竦めるに留めた。
「所で、ダルク殿。剣は誰かに教えて貰ったのですか? ラトビアからは相当に腕が立つと聞いてますが」
「えーと……それがですね。皇都に来て、アルベルトさ……ま、から本格的に教えて貰っている所です。なので、それほど大したものでもないんですよ」
思う以上に実力は上がっていたのだが、経緯に関して噓は言っていない。
「皇都に来てから剣を覚えた……? それでリョーカ殿らを簡単に倒していると?」
が、クラウディーは目を見開いたまま固まっている。
彼女が名前を知ってる以上、先程の軍人貴族はやはり、相応の実力者であった様だ。
「……代わりに言うけど全然大した事ある」
「でも、それ位やって貰わないと私も困るしアルベルトさんも困るでしょ」
方や呆れ顔、方や苦笑。
見れば、師匠は少しばかり誇らしげにすら思える表情をしている。
間接的に、彼自身の能力を示している事になる為、そういった面もあるのだろう。
――まぁ、単純に弟子の活躍が見れて嬉しいんだろうなぁ。
ほのぼのとそんな事を思うが、
「アルベルト様。これが普通なのでしょうか?」
「ふむ。しかし、これからの相手を考えれば、心強くはあるな」
方や引き攣った笑み、方や微笑。
最早、部屋の中に緊張感と言うものは存在していない。
「……では、アルベルト様。今日の所はこれで。突然の訪問、失礼しました」
立ち上がりつつ、クラウディーが告げる。
それに対して、アルベルトは左手で制する様な動きを見せながら、
「スカルトフィ様が気にする事ではないでしょう。ランス家は末席も末席。私の功績一つで皆とここに住まわせて貰っているのです。今日のも本来であれば、呼ばれる側でしたが」
「その功績が大きいのです! アルベルト様! 貴方はその腕一つで国を救ったも同然なのですから!」
謙遜する様な物言いをするが、即座に反論されていた。
しかし、それ以上に彼女の声量に驚かされる。
部屋全体が揺れたのかと思う程だ。
調子が上がってくると声量も上がる性質の人なのかも知れないが、建物内だろうと関係無いらしい。
「うるっさ、と、は、おっきく言えないけど」
「モンスターの咆哮かと思ったわ」
「君ら同性に対しても容赦ねぇのな。しかも偉い人」
固い表情をしている友人を他所に、一條と紀宝は落ち着く為にオックス茶を同時に飲みに行く。
少し南下していった所に見える、オーレ山の中程で栽培している茶葉を使った物だ。所謂、紅茶に近いのだろうが、一條には若干香りの良いお茶程度にしか分からない。
他にもウネリカのさらに先、恐怖山脈、等と呼ばれる辺りでは、もっと良い茶葉も取れた様だが、現在ではそれも不可能である。
「情報量が多いんだか少ないんだか」
一條は、クラウディーの言葉を軽くいなしているアルベルトを見て、改めて立場を思う。
「……まぁ、凄い人に戦い方教わってるんだなぁ俺」
アルベルトとて、元から右手が無かった訳ではない。
ガティネとの戦争にて大将格の一人を相手に戦い、右腕一本を失ったものの、見事に討ち取ったのだ。
それまでの長い月日、辛酸を舐める事が多かったヴァロワ皇国において、これは正に値千金。
二国間で休戦となったのも、ロキの出現もあろうが、彼の功績が大きいのも事実である。
それを以て、ランス家は十二皇家に抜擢。
同時に、現在となっては使われていないこの屋敷を宛がわれた、と言う訳だ。家の広さに対して、使用人の人数等がちぐはぐなのもその所為である。
ランス家を想定して作られていないのだから、当然であろう。
そこから、暫くした後で、今の左手一本の剣術を独自に磨いてきたのだから、武術に関しては天才に違いない。昔はアランと同じく槍を使っていたと聞けば、更に一條の中で評価は上がる。
「何よ今更。後、私も一応武術教えてるんですけど」
「分かってるよ。せき……何だっけ」
「赤掌少林拳」
「そうそう。何か変身出来そうなやつ」
紀宝に首を傾げられた。
高井坂に視線を送れば、納得した様に頷いている。
違いの分かる男は違う。
「ダルク殿。私はこれで引き上げさせて貰う」
「え。あ、はい」
急に話し掛けられて何事かと思ったが、帰り際の挨拶の様なものだろう。
「次に戦場に向かう際は会える事を期待している。それと」
「……それと?」
「ラトビアが戦いたがっていてね。日を改めるが、是非ともお願いしたい」
「うーん。やっぱ軍人貴族って皆バーサ―カーなのかな?」
腕組みして問うが、答えは返ってこなかった。
まるで自分に言い聞かせる様にして呟いたのは、銀髪を肩口で揃えた女性の軍人貴族だ。
傍目にも目立つ端麗な容姿。
全体的に細身ながら、そこに居るだけで非常に存在感を放つ人物である。
いつの世も、有名人とはそう言うものなのだろう。
「アルベルト様の報告にもありませんでしたが」
「私だけの評価で話す事でもなかったのでな」
嘯くアルベルトにも、彼女は思う所は無かったらしく、表情にも変化は見られない。
ただ、対面に座る一條を数秒、睥睨したのみだ。
「人の噂を聞くより人に会え、文字を見るより人を見ろ。スカルトフィ様もその口では?」
図星を突かれたのか、難しい顔になったのは女性の方である。
同時に、一條も難しい表情になった。
それを見てか、両隣から友人に小声で話し掛けられる。
「スカルトフィ・クラウディー。噂に違わず美人な事で」
「ジャンヌ姉、今度は何した? 言うてみぃ。話だけは聞きますぜ」
「うーん。突発イベントかなぁ」
適当な発言をしてみたものの、一條には特にこれと言った報告はない。
あえて言うなら、皇都での知名度を上げすぎた点なのだろうが、悪名でもないので言うだけ損だった。
――それにしても、本当にその日に乗り込んでくるとは思わなかった……。
頭を抱えたくなるが、なんとか踏み留まる。
背筋を伸ばし、視線も前に。所作も優雅そのものと言って良い彼女こそ、ヴァロワ皇国が誇る軍人貴族達の頂点、十二皇家の一つにして筆頭とも呼べる名家、クラウディーの現当主、スカルトフィ・クラウディーその人であった。
ルッテモーラ曰く、両家がそんなに離れていない、と言うのは正にその通りである。
皇都・グランツェの構造はそれほど複雑ではない。
中央に位置してるヴァロワ城。
これを円状に囲う様にしてヴァロワ十二皇家有する十二の屋敷が点在し、大貴族達の家、市場通りや平民達の家々が軒を連ね、貴族達の住む区画へと続く。
皇都の全周囲にある城壁にも見えるのが、貴族達の家なのだ。
勿論、全員が全員、強固な壁の中に住んでいる訳ではないが、どちらにせよ、街の一番外に彼らは住まなくてはならない。彼らは待遇の良い支配階級ではなく、民や皇を守護する存在なのだ。
とはいえ、一條達の思い描く情景とはかなり異なった様相を呈していたのは事実である。
そして、ヴァロワ城を囲う十二皇家の屋敷、ランス家とクラウディー家はお隣同士、と言う事であった。
市場での出来事から、恐らく半時と経たない内にここまで話が進んだのだから、迅速果敢と評する他ない。
「モーラさんとデートしてきたかと思ったらすぐさまこれだもん。イベントには事欠かないよねホント」
「嫌味が凄い」
「嫌味だもの」
我慢していたため息が思わず出てしまい、アルベルトとクラウディーから視線を貰う。
一つは苦笑、もう一つは苦虫を噛み潰したような表情だ。
「……すいません」
素直に謝っておく。
言われた当人は肩を竦めて一息吐いただけだが、それだけでも様になるので最早卑怯ですらある。
「本物の令嬢、って凄いんだなぁ」
「嫌味が凄い」
「別に嫌味ではないよ?」
紀宝が見た事もない表情をしているが、その意味する所は一條には不明だった。
「ラトビアも一体何処を気に入ったのか……」
言葉と共に、スカルトフィがこめかみを押さえる。
――それは俺関係無いけど。
全くの無関係ではないが、彼女の言うラトビア・ハイカーとは市場で出会った、黒の長髪が印象的な軍人貴族の女性だ。
双方から理由を聞くと、即座に駆け出して事の次第は伝わり、一條とルッテモーラが屋敷へと帰宅する頃には既に手筈は整っていた、と言う訳である。
仮でもなく、国を代表する者が持つ行動力ではなかった。
「えっと……クラウディー、さん?」
「様、様」
「ん、んんっ。クラウディー様。俺には話が見えてこないんですけど」
「俺……?」
クラウディーの眉根がつり上がる。
――何かマズったかも。
思ったが、一條の表情から何かを察したのか、彼女は頭を横に振った上で、
「いえ、なんでも」
とだけ答えた。
「……それで、ですが。私達も今後はロキです。それに足る人物が居るのなら、下級士だろうと欲しい所。そんな折り、街でこれほど噂になっていれば気になるでしょう?」
「そういうもの、ですかね」
「そういうもの、です」
あまりの目力に、一條は思わず怯む。
嫌われてる雰囲気はないが、かと言って気に入られている、と言う訳でもなさそうである。
ヴァロワ十二皇家に関して、一條が知ってる事はまだまだ少ない。
――国の重責を担うって年齢じゃないよなぁ。
それも女性の身で、だ。
聞けば、老齢の父親に代わって当主の座に自ら志願したらしく、そういう意味でも変わり者ではあるようだった。
「まさかランス家の者とは知りませんでしたが」
「うーん。微妙に違うんですけど」
「ロキの襲撃にあって生き残ったのです。運が良かった、と言うべきですかな」
アルベルトの横やりにも、彼女は居住いを正しただけで、視線自体は常に一條の方を向いている。
「……。」
十数分程度の顔合わせではあるが、一條もことここに至って、スカルトフィ・クラウディーの人物像をなんとなく掴んだ気がした。
それが的外れだったら笑い者なのだが、彼女相手であれば、それならそれで構わないと思える。
「クラウディーさん。何か、聞きたい事が?」
両隣からは特にこれと言った反応は無かったものの、件の人物も、出されていたオックス茶を一息に飲み干しただけだった。
その後も何も言ってはこないが、それが言いたいけど言わない事なのか、この場で言うべき事ではないのか、判断は難しい所である。
「……いえ、今は止めておきます」
一條は、それを聞いて、ひとまず肩を竦めるに留めた。
「所で、ダルク殿。剣は誰かに教えて貰ったのですか? ラトビアからは相当に腕が立つと聞いてますが」
「えーと……それがですね。皇都に来て、アルベルトさ……ま、から本格的に教えて貰っている所です。なので、それほど大したものでもないんですよ」
思う以上に実力は上がっていたのだが、経緯に関して噓は言っていない。
「皇都に来てから剣を覚えた……? それでリョーカ殿らを簡単に倒していると?」
が、クラウディーは目を見開いたまま固まっている。
彼女が名前を知ってる以上、先程の軍人貴族はやはり、相応の実力者であった様だ。
「……代わりに言うけど全然大した事ある」
「でも、それ位やって貰わないと私も困るしアルベルトさんも困るでしょ」
方や呆れ顔、方や苦笑。
見れば、師匠は少しばかり誇らしげにすら思える表情をしている。
間接的に、彼自身の能力を示している事になる為、そういった面もあるのだろう。
――まぁ、単純に弟子の活躍が見れて嬉しいんだろうなぁ。
ほのぼのとそんな事を思うが、
「アルベルト様。これが普通なのでしょうか?」
「ふむ。しかし、これからの相手を考えれば、心強くはあるな」
方や引き攣った笑み、方や微笑。
最早、部屋の中に緊張感と言うものは存在していない。
「……では、アルベルト様。今日の所はこれで。突然の訪問、失礼しました」
立ち上がりつつ、クラウディーが告げる。
それに対して、アルベルトは左手で制する様な動きを見せながら、
「スカルトフィ様が気にする事ではないでしょう。ランス家は末席も末席。私の功績一つで皆とここに住まわせて貰っているのです。今日のも本来であれば、呼ばれる側でしたが」
「その功績が大きいのです! アルベルト様! 貴方はその腕一つで国を救ったも同然なのですから!」
謙遜する様な物言いをするが、即座に反論されていた。
しかし、それ以上に彼女の声量に驚かされる。
部屋全体が揺れたのかと思う程だ。
調子が上がってくると声量も上がる性質の人なのかも知れないが、建物内だろうと関係無いらしい。
「うるっさ、と、は、おっきく言えないけど」
「モンスターの咆哮かと思ったわ」
「君ら同性に対しても容赦ねぇのな。しかも偉い人」
固い表情をしている友人を他所に、一條と紀宝は落ち着く為にオックス茶を同時に飲みに行く。
少し南下していった所に見える、オーレ山の中程で栽培している茶葉を使った物だ。所謂、紅茶に近いのだろうが、一條には若干香りの良いお茶程度にしか分からない。
他にもウネリカのさらに先、恐怖山脈、等と呼ばれる辺りでは、もっと良い茶葉も取れた様だが、現在ではそれも不可能である。
「情報量が多いんだか少ないんだか」
一條は、クラウディーの言葉を軽くいなしているアルベルトを見て、改めて立場を思う。
「……まぁ、凄い人に戦い方教わってるんだなぁ俺」
アルベルトとて、元から右手が無かった訳ではない。
ガティネとの戦争にて大将格の一人を相手に戦い、右腕一本を失ったものの、見事に討ち取ったのだ。
それまでの長い月日、辛酸を舐める事が多かったヴァロワ皇国において、これは正に値千金。
二国間で休戦となったのも、ロキの出現もあろうが、彼の功績が大きいのも事実である。
それを以て、ランス家は十二皇家に抜擢。
同時に、現在となっては使われていないこの屋敷を宛がわれた、と言う訳だ。家の広さに対して、使用人の人数等がちぐはぐなのもその所為である。
ランス家を想定して作られていないのだから、当然であろう。
そこから、暫くした後で、今の左手一本の剣術を独自に磨いてきたのだから、武術に関しては天才に違いない。昔はアランと同じく槍を使っていたと聞けば、更に一條の中で評価は上がる。
「何よ今更。後、私も一応武術教えてるんですけど」
「分かってるよ。せき……何だっけ」
「赤掌少林拳」
「そうそう。何か変身出来そうなやつ」
紀宝に首を傾げられた。
高井坂に視線を送れば、納得した様に頷いている。
違いの分かる男は違う。
「ダルク殿。私はこれで引き上げさせて貰う」
「え。あ、はい」
急に話し掛けられて何事かと思ったが、帰り際の挨拶の様なものだろう。
「次に戦場に向かう際は会える事を期待している。それと」
「……それと?」
「ラトビアが戦いたがっていてね。日を改めるが、是非ともお願いしたい」
「うーん。やっぱ軍人貴族って皆バーサ―カーなのかな?」
腕組みして問うが、答えは返ってこなかった。
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