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職人の街ドワーレ(6)
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「はっはっはっ。なんだか楽しくなってきたぞぉ俺!」
大盾と剣で文字通り道を作っていく高井坂がそんな事を言い出した。
「見なさいジャンヌ。アレが狂気に狩られた人間の末路よ」
「台詞もそうだし返り血に染まってたら完璧ヤバい人種よな……」
幸い、ロキに血は通っていない為、そんな事態は起きていないが、発言そのものは十分に狂気を感じさせる。
「俺頑張ってるんだけど!? ぴえんなんだけど!」
「頑張ってる人はぴえん、とか言わないと思うんだよね」
一條達が三人掛かりで突撃を敢行した直後、周囲からの圧力が増し、目の前に居る人型ロキの所へすら易々と近付けなくなった。
――でも、これって警戒されてるって事だよなぁ。
思うが、ロキがお互いにどうやって意思疎通をしているのかは不明だ。
一度、金管楽器の様な音を慣らしていたが、それだけでここまで統制を取っているとは考えづらい為、一條達人間では把握出来ない意思疎通手段を持っていると考えるのが妥当である。
最も、その正体が分かった所でどうにか出来るとは思えないのだが。
「こいつらで、ラストかぁ!?」
飛んできた黒犬を大盾で防ぎ、高井坂がそのまま盾毎、勢い良く前に倒れていく。
「りゃああっ! ぶっ潰れろぉぉ!」
見れば、走り込んで来た二つ首も巻き込んでいる。
とはいえそれも完全ではなかったのか、盾の外へ這い出ようと別々の方を向いている二本の首を一息に撫で斬った一條は、視線を改めて人型ロキに定めた。
自身の回復に注力している様で、先程の位置から動いている様子はなく、ただしきりに頭部が前後左右に揺れているのが、相当に不気味さを助長している。
「……正直、遠慮したいんだが。アレ」
「うーん。それは私も賛成なんだけどねぇ」
紀宝も頭を掻きつつ、唸った。
「まぁ、言っても終わらないし、行くけど」
「三対一か。三国志でこんな展開あったよな。虎牢関の戦い、だっけ」
「だとしたらこの戦い互角でこっちの負けなんだが?」
一條の言葉に、高井坂が相槌もそこそこに天を見上げる。
「壁役改め張飛、一番槍は譲るわよ」
「……あ、張飛って俺なん?」
「サシで倒せれば英雄ね。私とジャンヌの評価もうなぎ登り」
「いや、うん。確かに一人で討ち取ったら見直すけども」
一條が言い終わるより先に、呂布役となった人型ロキの大将首を挙げるべく大盾と剣を担いだ壁改め、張飛が動き出した。
恐らく話半分だろうが、特段止める理由も見当たらない。
高井坂が一人で討伐出来る未来は見えてこないが、隣でからからと笑う少女に、一條も肩を竦める他なかった。
「さっきも言ったけど、生身であの攻撃耐えるんだし。ホントに優秀なのは認めるしかないのよね。通訳も出来るし」
「って言うか、俺らの中じゃ一番本体スペック高いぞあいつ。運動は勿論、勉強も出来てた」
「あー……私ら試験徹夜組はねー……」
二人して感慨に耽るが、そうこうしている間に、張飛と呂布の一合目が始まる。
「んじゃ、二番手関羽行きまーす」
言い残して、颯爽と関羽役がロキをぶん殴りつつ、出陣する。
――……あ、俺劉備なのかー。
身の丈に合ってるとは思わないが、ともあれ、一條も後ろで戦闘している集団に一瞥をくれ、走り出した。少なくとも、ランスの無事だけは確認する。
器用にロキの突撃を躱しながら、周囲を半包囲する様に展開している者達へも視線を飛ばす。
全員の表情までは勿論見えないものの、誰も彼もが武器を振るい、少しでも注意を引こうと必死だ。所々、人の壁が途切れている箇所も散見され、歯噛みする。
元が無茶な作戦の上に成り立っているのもあり、人的被害も無視出来ない程度には出ているのだ。
その事に後ろ髪を引かれる思いだが、不意を突いてきたであろう一匹を踏み付け、集中する。
一條は念の為、二刀を構える事にした。
「合同訓練の成果をこんなに早く試せるとは思わなかったけど」
三人同時での戦闘は初めてだが、不思議と高揚感の様なものを感じる。
一條が剣の手解きを受ける様になってからは、互いに動きを合わせる訓練も行っている為、これから出向く事に不安は然程ない。
最近はそれこそ、今日度々起こっている二人同時で相手に掛かるものもやっている。
さしあたって、問題はその長いとは言えない訓練期間で得られたものがどこまで通じるかであった。
「ミラ! 俺は右から!」
声を掛けたその先で、紀宝は無言ながら左側へ進路を変える。
「どっせい!」
正面では、再び、高井坂が大盾でロキの片腕を受け止め、拮抗状態を作り出した。
容易には動けない状況を好機と捉えたのか、彼目掛けて数匹の黒犬型も動き出す。
「あ、嘘マジ!?」
それを見てか、紀宝は地面を蹴り砕く勢いで一息に加速。
先頭を行く一匹を踏み台にすると、そのままの勢いで人型へ向かってかっ飛ぶ。
「シャーイニング!」
言葉と同時、人型ロキの頭部へ、強烈な膝を叩き込んだ。
全体像は一條からは見えないものの、衝撃音からして相当な威力なのは明白だが、この程度で倒せれば苦労はしていない。
「人間だったら頭吹っ飛んでる感触なのになぁ! もう!」
空中で猟奇的な事を宣う格闘家だが、
「俺は破裂したんじゃねぇかと思ったわっ!」
一條の心を代弁するかの様に高井坂が叫び、当てずっぽう気味に左手の剣を振るった。
狙いは自身へ向かってくる黒犬達の方だが、倒す為ではなく、紀宝が着地する際の安全を確保する行動だろう。
それを確認し、一條も改めて右へと進路を取った。
ついでと言う様に、二匹を立て続きに斬り捨てながら、突き進む。
「シャラ! 左腕狙うぞ! 合わせろ!」
一條の目指す場所に先客が居た為、蹴り飛ばして強引に配置へ着いた。
高井坂の右手前。
目の前には、頭部が直角に折れ曲がり、体勢を崩しつつある全身が黒く、人に似た異生物。
紀宝の攻撃で蹌踉けたのを高井坂が見逃さず、左腕を狙いやすい位置にまで誘導している。間近で見た腕は、既に完治はしている様だ。
若干、前に比べて太くは見えるが、向こうの剣は振り下ろされており、一條もそれに続く。
「ふっ」
一呼吸置いてから、二刀同時の切り上げ。
鈍い音が響き、一瞬の後、腕を輪切りにする。
「よしきたっ!」
高井坂の声には反応せず、一條は今度こそ首を両断する一撃を放つ。
「これでっ」
先程とは違い、今はロキの両腕が消失している。
腕で防がれていたのであれば、これで首を落とせるのは道理と言うものだ。
だからそうした。
が、またしても一條の目論見は破綻。
「こいつ、よりにもよって……っ」
眉根を詰め、思わず唸る。
「きもちわっるっ!」
続けて叫んだ高井坂の言葉は最もだ。
一條の攻撃は防がれた。単純にそれだけなら、まだいかようにも対応出来たのだが、その方法には流石に思考が麻痺してくる。
「昔やりあった鼠じゃあるまいしっ!」
言う程昔ではなかったが、そんな悪態も吐きたくなった。
人型ロキは、あろうことか口を目一杯に開き、歯に似たそれで、綺麗に剣を受け止めたのだ。
――真剣白歯取り、ってかっ。面白くねぇよ!
一人心中で突っ込みまで終えて、直後に剣が噛み砕かれる。
「ですよね!」
最早笑うしか無い当然の帰結だった。
折られた剣を八つ当たり気味に近くの的に目掛けて放り投げ、一條は残された最後の剣をしっかりと両手持ち。
「泣きたい!」
ホリマーの腰の一本も持ってくるべきだったと思うが、後の祭りである。
敵も両腕を失ったが、今ので妙な確信を得たのか、一條目掛けて振ってきたのは口を開けた顔だ。
「しつけぇ!」
横から割り込んできた大盾に阻まれ、結果として頭突きの様な形になる。
受けた体勢が不利だったとはいえ、高井坂が蹌踉けたのだから、相応の威力も伴っている筈だ。
しかし、崩れたのは相手も同じな為、一條も即座に動いた。
「らぁ!」
剣を左足の脛部分へと突き立て、その場に固定させる。
それを見てか、紀宝が右足を蹴り飛ばした。
膝部分から着地するが、人型は倒れる事もせずに、もう一度一條へと噛み付き攻撃を敢行してくる。
――意に介してないにも程があんだろ!
頭突きで反撃を試みようと構えたものの、声が飛んでくる。
「っとに、こいつはっ!」
言葉と同時の踏み込みから、紀宝の鋭い掌底が開いた口の下側、顎部分を正確に打ち抜いた。
両足が動かない中で、衝撃が上手く逃げなかったのだろう。頭だけが反時計回りに捻れていく。
逆さになった頭部を見ながら、一條はもう一本の剣を手に取った。
「離れろ!」
何か言いたそうな二人に対して、機先を制する様に叫ぶ。
――一か八かだ!
等と言えば、何かしら反論されそうであった為、心中に留めておく。
試しに剣を前後左右に動かしてみるが、完全に胸と合体している様で、びくともせず、逆に都合が良い。
一條は、目を閉じ、剣を握る手に力を込めた。
深呼吸を一つ。
「『我が力を此処に、腕を伝え、剣を糧に、顕現するは炎の塊』」
詠唱する。
それに合わせる様に、身体の芯が熱くなるのを感じた。
ゼルフによるものだけではない。
だが、その感覚がどういう類いのものかまでは、一條にも分からなかった。
「『集まれ力よ、収束せよ炎』」
剣が動く。
正確には、突き刺さっている本体が動こうとしている為、それにつられる様に振動しているだけだ。
一條が瞳を開けば、人型ロキが逆さになったままの頭を頻りに伸ばし、噛み付こうとしている。幾ら人とは違う体型をしているとはいえ、首が伸び縮みする訳ではない。
どうあっても、剣の柄を握っている一條に、その攻撃は届かないだろう。
「『炸裂せよ力よ、爆ぜろ業火』」
腕のみならず、全身に力を込める。
衝撃に備える為だ。
「『我が眼前に最早敵は無く、燃やし尽くせ! 業火裂波陣!』」
静寂が辺りを包み、刀身が朱に染まる。
一瞬の後、炎が轟音と共に吹き出し、上へ上へと、人型ロキの身体を食い破りつつ、広がっていく。
「くっ……おっ」
圧を受けた一條が思わず更なる力を込めた直後、臨界に達したかの様に爆発。
湧き上がった炎が、津波の如き勢いで放射状に飛ぶ。前方に居た数十ものロキ達を瞬く間に飲み込んだ。
単なる生物であれば、炭化なりして、多少は痕跡も残っていたのだろうが、そういうものは一切残されていない。常であれば、大なり小なり落ちている紫色の石すらなかった。
ほんの十数秒の出来事であったが、全ては終わっている。
一條の眼に映るのは、一帯が焼け野原と言うには程遠い有様が広がっているだけだ。
「は、ぁ」
極大の火炎放射による殲滅を見届けると同時、その場に片膝を付く。
まるで、最初から最後まで全速力で長距離走をやり切った感覚。今の女性体になってから感じる、初めての脱力だった。
「す、すげ……」
高井坂の声も聞こえるが、それ以上に、上半身を中心に跡形無く消し飛んでいる人型ロキが目に入って仕方ない。
とはいえ、手にしている剣は刀身が丸々消えている為、抵抗しようにも鞘のみと心許ないのだが。
――流石に、ここまですりゃあ再生もしないだろ。
そんな心の声に呼応する様に、下半身部分が霧散した。こちらも、鉱石すら消し飛んだらしい。
まだ息は若干乱れているが、それを押して立ち上がる。
「一……ジャンヌ。大丈夫?」
膝に手を付きながらの体勢である為、紀宝も気が気ではないのだろう。
「んあ、なんとか。でもまだだな。犬の方が残ってる」
二人に声を掛ければ、周囲の黒犬型が再び動き始めていた。
大将格と同時、かなりの数を巻き込んだ筈だが、その全てを倒した訳ではない。
そして、今のゼルフを目の当たりにしても戦意を失う事が無い、と言うのは、やはり生物として別種である。
「お、おぅ。そだな……そうだな。いやマジでか」
頭を掻く高井坂が、ぐるりと周囲を見渡す。
「うーん。ざっ、と、見積もって……百……五、六十位……?」
「なら、もう一踏ん張りだな」
「その一踏ん張りが大変なんだけど……はぁ、仕方ないか」
紀宝も周囲へと睨みを利かせつつ、身体を解すように軽い準備運動。
「ジャンヌは暫く役立たず、と」
「言い方よ」
人型ロキ含め、あらかた吹き飛ばす程のゼルフを放った反動が多少なりある上、武器も品切れと来れば、紀宝が言う事も最もではある。
だが、一條には悲観する程ではない。
先程のゼルフは、威力以上に見た目も派手だったのだ。
「ジャンヌ リスタル!」
ランスの声が微かに届く。
流石に先程の爆発を無視する訳にもいかず、その中心地たる一條達の元へ掛けてくるのも頷けようものだ。
彼を先頭にした一団が黒い道を割ってくるのを遠目に確認。ロキと交戦しつつではあるが、そう時間は掛からないだろう。
「手でも振ってあげれば?」
「え、いや別に……何で怒ってんの?」
「別に怒って、ません」
言葉尻と同時に肘鉄や回し蹴りで難なく迎撃していく様は、改めて近くで見れば英雄と呼ぶに相応しい。
「そうかな……そうかも?」
「そう、なん、です」
紀宝の若干鬼気迫る言葉に一條も頷く。
とはいえ、ここで一度部隊と合流出来れば、後は最大戦力の彼女を中心に据え、残りのロキ集団もそれほど苦ではないだろう。
多少押される心配はあれど、致命的な状況は脱したと見るべきだ。
高井坂が再び剣と大盾を突き合わせつつ、何事か叫び、歩みを進めていく。
目指す先は言わずともだ。
「またアランさん達に迷惑かけちゃうかなぁこれ」
手元で遊ばせていた剣の柄を見ながら、ため息。
足の固定に使用していた物も、余波を受けた所為か、見るからに崩れそうだった。
これにて、一條は今回の戦場で見繕って貰った七本もの剣を、全て破壊した事になる。
――いや、一本あいつに渡したから六本だな。六本!
自分を納得させようと思案したが、逆に軽く目眩がしてきた。
「多分ね。にしても、あのゴリラのドラミングみたいなのどうにかなんないわけ」
紀宝の言葉には苦笑するしかないが、気合いを入れ直して、一條は今度こそすっくと立った。
一息入れようとした瞬間、高井坂の声が響く。
「おい、ジャンヌ! また妙なのがランスさんとこ向かってるぞ!」
ランスの方へ視線を向ける。
この戦場で何度も見た三つ首型だ。
但し、今までより一回り以上大きい。
それが、脇目も振らず、他の犬型すら気にせずに踏み込み、跳ね飛ばして一直線に精鋭部隊へと後方から食らい付こうとしていた。
と言うより、一條達の所へ向かってる途上の寄り道にも思える。
「いや待て、あんなの居なかったろ!」
咄嗟に突っ込みとも取れる愚痴を吐いたが、最早そんな事は後回しと言えた。
「え、一條、どーする!? 私走ろうか!?」
紀宝だけでなく、高井坂の視線も一條に向く。
――そう言われても……!
決定権を委ねられ、何通りか手段を模索するが、どれも現実味がないものばかりだ。
それでも、一條はその内の一つの案に腹を括る。
「シャラ! 任せたぞ!」
「……なるほど! 俺の出番だな!」
恐らく高井坂と思ってる事は違ってるだろうが、この際、彼の了承を得た事にした。
一條は、自慢の長身を誇る様に背伸びした首根っこを徐に鷲掴みにする。
「ひゃい」
声を無視して今一度集中し、構えを取った。
ほぼ同時に、後ろからの存在にランスの部隊が気付いたらしく、慌てた様子なのも確認出来る。
――今日は出たとこ勝負ばっかりだ!
力を込めた。
「『身体の奥より生まれよ我が力、誇るは無双、一瞬にて強大、なればこれに勝る者無し!』」
二度目の詠唱。
先程よりも、明確に内から湧き上がるものを感じる。
ゼルフの効果だろう、一條はそれにただ身を委ねるだけだ。
「行くぞ、シャラ!」
言葉と共に、一瞬で軽くなった長身の盾役を持ったまま一回転。
速度を増した二回転目。
目の端で、今までのどんなロキよりも高い飛び込みを見せた三つ首を捉える。
「あああぁぁっ!」
どちらのものか分からない裂帛の声を轟かせ、
「飛べよぉぉぉっ!!!」
ゼルフの上乗せも混じった、渾身の投擲を決めた。
高井坂と言う名の弾丸がぐんぐん加速。
叫びと怨嗟が入り交じった声がドップラー効果で低くなっていった次の瞬間、盛大な爆発音が辺りを包む。
勿論、本当に爆発した訳ではなく、寺にある大鐘を、一秒の誤差なく一瞬で数十回と叩き込んだ様な音の暴力と言って差し支えない。
そして、そんな威力の砲弾に迎撃された三つ首は地面に落ちる事なく消えていく。
弾の方もそれで役目を終え、何度か回転しながら墜落。
再び派手な着地音が聞こえた。
「……はっ、はっ。ふぅー。……ふへぇ、なんとかなったよ」
それを合図に、一條の方もその場に尻から着地。
「……ナイピッチー」
紀宝の気の抜けた様な声と拍手。
それに応える様に、彼女へ向けて親指を上げて見せた。
「いやー……その発想はなかったわ……」
「さっきの紀宝の、対人型なんちゃら見て」
「いやそうはならんでしょ」
「うん。まぁ、でもなっちゃったんだよね、今」
「可愛く言ってもダメだと思うなー私」
――ですかねー。
正直、今の一條にはあれ以外の選択肢が思い付かなかったのだが、予想以上に上手い事運んだ為、今後の戦術の幅が広がった事にする。
何せ弾自体は頑丈な上、手元に戻ってくるのだ。一発しか撃てないのだが、それこそ奥の手と言うやつである。
「はぁ……しょうがない。おぶって行きましょうか。王子様のとこに」
「面目ない。……アランさんのとこだよね?」
紀宝は答えず、一條はされるがまま彼女に背負われる。
なんともな図となったが、今回ばかりは文句や体裁等忘れる事にした。
「空飛ぶ大盾、か。これでジャンヌ伝説に新たな一ページが刻まれた訳ね」
「そんなしょうもない伝説は刻みません」
「どうだかー」
苦笑しつつも、紀宝の足取りは軽やかである。
一條自身、体重等測る機会は巡ってきていない為、知る由もないのだが、一人を背負って尚、彼女の歩みは通常のそれと大差は感じられない。
――素でこれだからなぁ。
思い、歩みを邪魔しない様、身体を密着させる。
直後に、必要性の感じられない攻撃がロキに二度、三度放たれ、一條は眉根を詰めた。
大盾と剣で文字通り道を作っていく高井坂がそんな事を言い出した。
「見なさいジャンヌ。アレが狂気に狩られた人間の末路よ」
「台詞もそうだし返り血に染まってたら完璧ヤバい人種よな……」
幸い、ロキに血は通っていない為、そんな事態は起きていないが、発言そのものは十分に狂気を感じさせる。
「俺頑張ってるんだけど!? ぴえんなんだけど!」
「頑張ってる人はぴえん、とか言わないと思うんだよね」
一條達が三人掛かりで突撃を敢行した直後、周囲からの圧力が増し、目の前に居る人型ロキの所へすら易々と近付けなくなった。
――でも、これって警戒されてるって事だよなぁ。
思うが、ロキがお互いにどうやって意思疎通をしているのかは不明だ。
一度、金管楽器の様な音を慣らしていたが、それだけでここまで統制を取っているとは考えづらい為、一條達人間では把握出来ない意思疎通手段を持っていると考えるのが妥当である。
最も、その正体が分かった所でどうにか出来るとは思えないのだが。
「こいつらで、ラストかぁ!?」
飛んできた黒犬を大盾で防ぎ、高井坂がそのまま盾毎、勢い良く前に倒れていく。
「りゃああっ! ぶっ潰れろぉぉ!」
見れば、走り込んで来た二つ首も巻き込んでいる。
とはいえそれも完全ではなかったのか、盾の外へ這い出ようと別々の方を向いている二本の首を一息に撫で斬った一條は、視線を改めて人型ロキに定めた。
自身の回復に注力している様で、先程の位置から動いている様子はなく、ただしきりに頭部が前後左右に揺れているのが、相当に不気味さを助長している。
「……正直、遠慮したいんだが。アレ」
「うーん。それは私も賛成なんだけどねぇ」
紀宝も頭を掻きつつ、唸った。
「まぁ、言っても終わらないし、行くけど」
「三対一か。三国志でこんな展開あったよな。虎牢関の戦い、だっけ」
「だとしたらこの戦い互角でこっちの負けなんだが?」
一條の言葉に、高井坂が相槌もそこそこに天を見上げる。
「壁役改め張飛、一番槍は譲るわよ」
「……あ、張飛って俺なん?」
「サシで倒せれば英雄ね。私とジャンヌの評価もうなぎ登り」
「いや、うん。確かに一人で討ち取ったら見直すけども」
一條が言い終わるより先に、呂布役となった人型ロキの大将首を挙げるべく大盾と剣を担いだ壁改め、張飛が動き出した。
恐らく話半分だろうが、特段止める理由も見当たらない。
高井坂が一人で討伐出来る未来は見えてこないが、隣でからからと笑う少女に、一條も肩を竦める他なかった。
「さっきも言ったけど、生身であの攻撃耐えるんだし。ホントに優秀なのは認めるしかないのよね。通訳も出来るし」
「って言うか、俺らの中じゃ一番本体スペック高いぞあいつ。運動は勿論、勉強も出来てた」
「あー……私ら試験徹夜組はねー……」
二人して感慨に耽るが、そうこうしている間に、張飛と呂布の一合目が始まる。
「んじゃ、二番手関羽行きまーす」
言い残して、颯爽と関羽役がロキをぶん殴りつつ、出陣する。
――……あ、俺劉備なのかー。
身の丈に合ってるとは思わないが、ともあれ、一條も後ろで戦闘している集団に一瞥をくれ、走り出した。少なくとも、ランスの無事だけは確認する。
器用にロキの突撃を躱しながら、周囲を半包囲する様に展開している者達へも視線を飛ばす。
全員の表情までは勿論見えないものの、誰も彼もが武器を振るい、少しでも注意を引こうと必死だ。所々、人の壁が途切れている箇所も散見され、歯噛みする。
元が無茶な作戦の上に成り立っているのもあり、人的被害も無視出来ない程度には出ているのだ。
その事に後ろ髪を引かれる思いだが、不意を突いてきたであろう一匹を踏み付け、集中する。
一條は念の為、二刀を構える事にした。
「合同訓練の成果をこんなに早く試せるとは思わなかったけど」
三人同時での戦闘は初めてだが、不思議と高揚感の様なものを感じる。
一條が剣の手解きを受ける様になってからは、互いに動きを合わせる訓練も行っている為、これから出向く事に不安は然程ない。
最近はそれこそ、今日度々起こっている二人同時で相手に掛かるものもやっている。
さしあたって、問題はその長いとは言えない訓練期間で得られたものがどこまで通じるかであった。
「ミラ! 俺は右から!」
声を掛けたその先で、紀宝は無言ながら左側へ進路を変える。
「どっせい!」
正面では、再び、高井坂が大盾でロキの片腕を受け止め、拮抗状態を作り出した。
容易には動けない状況を好機と捉えたのか、彼目掛けて数匹の黒犬型も動き出す。
「あ、嘘マジ!?」
それを見てか、紀宝は地面を蹴り砕く勢いで一息に加速。
先頭を行く一匹を踏み台にすると、そのままの勢いで人型へ向かってかっ飛ぶ。
「シャーイニング!」
言葉と同時、人型ロキの頭部へ、強烈な膝を叩き込んだ。
全体像は一條からは見えないものの、衝撃音からして相当な威力なのは明白だが、この程度で倒せれば苦労はしていない。
「人間だったら頭吹っ飛んでる感触なのになぁ! もう!」
空中で猟奇的な事を宣う格闘家だが、
「俺は破裂したんじゃねぇかと思ったわっ!」
一條の心を代弁するかの様に高井坂が叫び、当てずっぽう気味に左手の剣を振るった。
狙いは自身へ向かってくる黒犬達の方だが、倒す為ではなく、紀宝が着地する際の安全を確保する行動だろう。
それを確認し、一條も改めて右へと進路を取った。
ついでと言う様に、二匹を立て続きに斬り捨てながら、突き進む。
「シャラ! 左腕狙うぞ! 合わせろ!」
一條の目指す場所に先客が居た為、蹴り飛ばして強引に配置へ着いた。
高井坂の右手前。
目の前には、頭部が直角に折れ曲がり、体勢を崩しつつある全身が黒く、人に似た異生物。
紀宝の攻撃で蹌踉けたのを高井坂が見逃さず、左腕を狙いやすい位置にまで誘導している。間近で見た腕は、既に完治はしている様だ。
若干、前に比べて太くは見えるが、向こうの剣は振り下ろされており、一條もそれに続く。
「ふっ」
一呼吸置いてから、二刀同時の切り上げ。
鈍い音が響き、一瞬の後、腕を輪切りにする。
「よしきたっ!」
高井坂の声には反応せず、一條は今度こそ首を両断する一撃を放つ。
「これでっ」
先程とは違い、今はロキの両腕が消失している。
腕で防がれていたのであれば、これで首を落とせるのは道理と言うものだ。
だからそうした。
が、またしても一條の目論見は破綻。
「こいつ、よりにもよって……っ」
眉根を詰め、思わず唸る。
「きもちわっるっ!」
続けて叫んだ高井坂の言葉は最もだ。
一條の攻撃は防がれた。単純にそれだけなら、まだいかようにも対応出来たのだが、その方法には流石に思考が麻痺してくる。
「昔やりあった鼠じゃあるまいしっ!」
言う程昔ではなかったが、そんな悪態も吐きたくなった。
人型ロキは、あろうことか口を目一杯に開き、歯に似たそれで、綺麗に剣を受け止めたのだ。
――真剣白歯取り、ってかっ。面白くねぇよ!
一人心中で突っ込みまで終えて、直後に剣が噛み砕かれる。
「ですよね!」
最早笑うしか無い当然の帰結だった。
折られた剣を八つ当たり気味に近くの的に目掛けて放り投げ、一條は残された最後の剣をしっかりと両手持ち。
「泣きたい!」
ホリマーの腰の一本も持ってくるべきだったと思うが、後の祭りである。
敵も両腕を失ったが、今ので妙な確信を得たのか、一條目掛けて振ってきたのは口を開けた顔だ。
「しつけぇ!」
横から割り込んできた大盾に阻まれ、結果として頭突きの様な形になる。
受けた体勢が不利だったとはいえ、高井坂が蹌踉けたのだから、相応の威力も伴っている筈だ。
しかし、崩れたのは相手も同じな為、一條も即座に動いた。
「らぁ!」
剣を左足の脛部分へと突き立て、その場に固定させる。
それを見てか、紀宝が右足を蹴り飛ばした。
膝部分から着地するが、人型は倒れる事もせずに、もう一度一條へと噛み付き攻撃を敢行してくる。
――意に介してないにも程があんだろ!
頭突きで反撃を試みようと構えたものの、声が飛んでくる。
「っとに、こいつはっ!」
言葉と同時の踏み込みから、紀宝の鋭い掌底が開いた口の下側、顎部分を正確に打ち抜いた。
両足が動かない中で、衝撃が上手く逃げなかったのだろう。頭だけが反時計回りに捻れていく。
逆さになった頭部を見ながら、一條はもう一本の剣を手に取った。
「離れろ!」
何か言いたそうな二人に対して、機先を制する様に叫ぶ。
――一か八かだ!
等と言えば、何かしら反論されそうであった為、心中に留めておく。
試しに剣を前後左右に動かしてみるが、完全に胸と合体している様で、びくともせず、逆に都合が良い。
一條は、目を閉じ、剣を握る手に力を込めた。
深呼吸を一つ。
「『我が力を此処に、腕を伝え、剣を糧に、顕現するは炎の塊』」
詠唱する。
それに合わせる様に、身体の芯が熱くなるのを感じた。
ゼルフによるものだけではない。
だが、その感覚がどういう類いのものかまでは、一條にも分からなかった。
「『集まれ力よ、収束せよ炎』」
剣が動く。
正確には、突き刺さっている本体が動こうとしている為、それにつられる様に振動しているだけだ。
一條が瞳を開けば、人型ロキが逆さになったままの頭を頻りに伸ばし、噛み付こうとしている。幾ら人とは違う体型をしているとはいえ、首が伸び縮みする訳ではない。
どうあっても、剣の柄を握っている一條に、その攻撃は届かないだろう。
「『炸裂せよ力よ、爆ぜろ業火』」
腕のみならず、全身に力を込める。
衝撃に備える為だ。
「『我が眼前に最早敵は無く、燃やし尽くせ! 業火裂波陣!』」
静寂が辺りを包み、刀身が朱に染まる。
一瞬の後、炎が轟音と共に吹き出し、上へ上へと、人型ロキの身体を食い破りつつ、広がっていく。
「くっ……おっ」
圧を受けた一條が思わず更なる力を込めた直後、臨界に達したかの様に爆発。
湧き上がった炎が、津波の如き勢いで放射状に飛ぶ。前方に居た数十ものロキ達を瞬く間に飲み込んだ。
単なる生物であれば、炭化なりして、多少は痕跡も残っていたのだろうが、そういうものは一切残されていない。常であれば、大なり小なり落ちている紫色の石すらなかった。
ほんの十数秒の出来事であったが、全ては終わっている。
一條の眼に映るのは、一帯が焼け野原と言うには程遠い有様が広がっているだけだ。
「は、ぁ」
極大の火炎放射による殲滅を見届けると同時、その場に片膝を付く。
まるで、最初から最後まで全速力で長距離走をやり切った感覚。今の女性体になってから感じる、初めての脱力だった。
「す、すげ……」
高井坂の声も聞こえるが、それ以上に、上半身を中心に跡形無く消し飛んでいる人型ロキが目に入って仕方ない。
とはいえ、手にしている剣は刀身が丸々消えている為、抵抗しようにも鞘のみと心許ないのだが。
――流石に、ここまですりゃあ再生もしないだろ。
そんな心の声に呼応する様に、下半身部分が霧散した。こちらも、鉱石すら消し飛んだらしい。
まだ息は若干乱れているが、それを押して立ち上がる。
「一……ジャンヌ。大丈夫?」
膝に手を付きながらの体勢である為、紀宝も気が気ではないのだろう。
「んあ、なんとか。でもまだだな。犬の方が残ってる」
二人に声を掛ければ、周囲の黒犬型が再び動き始めていた。
大将格と同時、かなりの数を巻き込んだ筈だが、その全てを倒した訳ではない。
そして、今のゼルフを目の当たりにしても戦意を失う事が無い、と言うのは、やはり生物として別種である。
「お、おぅ。そだな……そうだな。いやマジでか」
頭を掻く高井坂が、ぐるりと周囲を見渡す。
「うーん。ざっ、と、見積もって……百……五、六十位……?」
「なら、もう一踏ん張りだな」
「その一踏ん張りが大変なんだけど……はぁ、仕方ないか」
紀宝も周囲へと睨みを利かせつつ、身体を解すように軽い準備運動。
「ジャンヌは暫く役立たず、と」
「言い方よ」
人型ロキ含め、あらかた吹き飛ばす程のゼルフを放った反動が多少なりある上、武器も品切れと来れば、紀宝が言う事も最もではある。
だが、一條には悲観する程ではない。
先程のゼルフは、威力以上に見た目も派手だったのだ。
「ジャンヌ リスタル!」
ランスの声が微かに届く。
流石に先程の爆発を無視する訳にもいかず、その中心地たる一條達の元へ掛けてくるのも頷けようものだ。
彼を先頭にした一団が黒い道を割ってくるのを遠目に確認。ロキと交戦しつつではあるが、そう時間は掛からないだろう。
「手でも振ってあげれば?」
「え、いや別に……何で怒ってんの?」
「別に怒って、ません」
言葉尻と同時に肘鉄や回し蹴りで難なく迎撃していく様は、改めて近くで見れば英雄と呼ぶに相応しい。
「そうかな……そうかも?」
「そう、なん、です」
紀宝の若干鬼気迫る言葉に一條も頷く。
とはいえ、ここで一度部隊と合流出来れば、後は最大戦力の彼女を中心に据え、残りのロキ集団もそれほど苦ではないだろう。
多少押される心配はあれど、致命的な状況は脱したと見るべきだ。
高井坂が再び剣と大盾を突き合わせつつ、何事か叫び、歩みを進めていく。
目指す先は言わずともだ。
「またアランさん達に迷惑かけちゃうかなぁこれ」
手元で遊ばせていた剣の柄を見ながら、ため息。
足の固定に使用していた物も、余波を受けた所為か、見るからに崩れそうだった。
これにて、一條は今回の戦場で見繕って貰った七本もの剣を、全て破壊した事になる。
――いや、一本あいつに渡したから六本だな。六本!
自分を納得させようと思案したが、逆に軽く目眩がしてきた。
「多分ね。にしても、あのゴリラのドラミングみたいなのどうにかなんないわけ」
紀宝の言葉には苦笑するしかないが、気合いを入れ直して、一條は今度こそすっくと立った。
一息入れようとした瞬間、高井坂の声が響く。
「おい、ジャンヌ! また妙なのがランスさんとこ向かってるぞ!」
ランスの方へ視線を向ける。
この戦場で何度も見た三つ首型だ。
但し、今までより一回り以上大きい。
それが、脇目も振らず、他の犬型すら気にせずに踏み込み、跳ね飛ばして一直線に精鋭部隊へと後方から食らい付こうとしていた。
と言うより、一條達の所へ向かってる途上の寄り道にも思える。
「いや待て、あんなの居なかったろ!」
咄嗟に突っ込みとも取れる愚痴を吐いたが、最早そんな事は後回しと言えた。
「え、一條、どーする!? 私走ろうか!?」
紀宝だけでなく、高井坂の視線も一條に向く。
――そう言われても……!
決定権を委ねられ、何通りか手段を模索するが、どれも現実味がないものばかりだ。
それでも、一條はその内の一つの案に腹を括る。
「シャラ! 任せたぞ!」
「……なるほど! 俺の出番だな!」
恐らく高井坂と思ってる事は違ってるだろうが、この際、彼の了承を得た事にした。
一條は、自慢の長身を誇る様に背伸びした首根っこを徐に鷲掴みにする。
「ひゃい」
声を無視して今一度集中し、構えを取った。
ほぼ同時に、後ろからの存在にランスの部隊が気付いたらしく、慌てた様子なのも確認出来る。
――今日は出たとこ勝負ばっかりだ!
力を込めた。
「『身体の奥より生まれよ我が力、誇るは無双、一瞬にて強大、なればこれに勝る者無し!』」
二度目の詠唱。
先程よりも、明確に内から湧き上がるものを感じる。
ゼルフの効果だろう、一條はそれにただ身を委ねるだけだ。
「行くぞ、シャラ!」
言葉と共に、一瞬で軽くなった長身の盾役を持ったまま一回転。
速度を増した二回転目。
目の端で、今までのどんなロキよりも高い飛び込みを見せた三つ首を捉える。
「あああぁぁっ!」
どちらのものか分からない裂帛の声を轟かせ、
「飛べよぉぉぉっ!!!」
ゼルフの上乗せも混じった、渾身の投擲を決めた。
高井坂と言う名の弾丸がぐんぐん加速。
叫びと怨嗟が入り交じった声がドップラー効果で低くなっていった次の瞬間、盛大な爆発音が辺りを包む。
勿論、本当に爆発した訳ではなく、寺にある大鐘を、一秒の誤差なく一瞬で数十回と叩き込んだ様な音の暴力と言って差し支えない。
そして、そんな威力の砲弾に迎撃された三つ首は地面に落ちる事なく消えていく。
弾の方もそれで役目を終え、何度か回転しながら墜落。
再び派手な着地音が聞こえた。
「……はっ、はっ。ふぅー。……ふへぇ、なんとかなったよ」
それを合図に、一條の方もその場に尻から着地。
「……ナイピッチー」
紀宝の気の抜けた様な声と拍手。
それに応える様に、彼女へ向けて親指を上げて見せた。
「いやー……その発想はなかったわ……」
「さっきの紀宝の、対人型なんちゃら見て」
「いやそうはならんでしょ」
「うん。まぁ、でもなっちゃったんだよね、今」
「可愛く言ってもダメだと思うなー私」
――ですかねー。
正直、今の一條にはあれ以外の選択肢が思い付かなかったのだが、予想以上に上手い事運んだ為、今後の戦術の幅が広がった事にする。
何せ弾自体は頑丈な上、手元に戻ってくるのだ。一発しか撃てないのだが、それこそ奥の手と言うやつである。
「はぁ……しょうがない。おぶって行きましょうか。王子様のとこに」
「面目ない。……アランさんのとこだよね?」
紀宝は答えず、一條はされるがまま彼女に背負われる。
なんともな図となったが、今回ばかりは文句や体裁等忘れる事にした。
「空飛ぶ大盾、か。これでジャンヌ伝説に新たな一ページが刻まれた訳ね」
「そんなしょうもない伝説は刻みません」
「どうだかー」
苦笑しつつも、紀宝の足取りは軽やかである。
一條自身、体重等測る機会は巡ってきていない為、知る由もないのだが、一人を背負って尚、彼女の歩みは通常のそれと大差は感じられない。
――素でこれだからなぁ。
思い、歩みを邪魔しない様、身体を密着させる。
直後に、必要性の感じられない攻撃がロキに二度、三度放たれ、一條は眉根を詰めた。
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