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第3章 ~よう
器⑥
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☆sideシン
悪魔はニュースを口にする。
「先日のカーセ家放火事件及び前国王グルバンの自死、そして、電波塔の倒壊。とんだテロリストもいたものだと。さぞみなさんの不安を煽ってしまったことでしょう。その点につきましては私たちの対応が遅く、後手に後手にと回ってしまい容疑者の特定に至れずにいました。この場をお借りして謝罪申し上げます」
何も事情を知らなければ、真っ当なことを言っているようで背筋が凍る。次に来る台詞を予期してしまっている。
「これらのすべてに関わっていてその真実を知るとされる人物がいます。ですが!!証拠不十分で、大々的に指名手配をかけることはできずにいました。結論から言いましょう。重要参考人はリン・カーセ。私の義妹です」
<…やりやがった……>
「リンが犯人だなんて思っていません。これまでも、非力で、病弱な彼女にできることなどたかが知れています。彼女の執事達は皆行方をくらませているんですね。…はい。リンなら、何か知っているかもしれない。私が事件直後に会った時に、何か言いたかったのかもしれません」
顔を覆って、苦しそうに、ハキハキとありもしない話を紡ぐ。指名手配をしなかったことに、こうも辻褄が合うように話されると…妙な錯覚すら感じるほどよくできている。
「私は、後悔しています!前王グルバンは養親です。血の繋がりのない父上ではありましたが、愛情は注いでいただきました。そして、国王に推薦していただけるほどに、私を、認めてくれました!」
紙切れを掲げる。
「父から私に向けての遺書は、真実の懺悔と苦悩、自死の決断と独白されたものでした。最後に書き添えられたのは、リンを頼む、です。そうです、託されたのです。これに報いずになんていられますか!!?」
<本当によくできている…>
紙を伏せて話を続ける。
「唯一の家族を白日の下に晒すのは、その後の人生にも関わってしまうかもしれないと……ずっとずっと…渋っていました。ですが、私の愚かな日々の行いが、彼女に逃亡生活をさせてしまったんです。仕事に熱心になりすぎたあまりに……。話し相手や相談相手といった…『家族』とは認められなくなったんだって……今さら…遅いですよね」
濡れ衣を着せられたのだ。話し相手を引き裂いたのは、お前じゃないかと言いたくなるが、言っても仕方がない。リンとケイトの顔はある程度、予想していたようだが、警官は青ざめていた。正直、オレもそうしたい側だ。耳障りな放送は最高潮に達する。
「…私はァ!彼女と話がしたいだけなんです!!そのために、お金だって惜しみません。警察や探偵、知り合いへの協力はもちろん要請しています。ですが、一秒でも早く、リンを引き留めたいんです!危ない道へ行かせないためにも…!どうか…!!力を貸していただけませんか?警察や役所など、どこに連絡しても構いません!目撃情報だけでも、報酬は出します!もし…身柄を押さえることができたなら……」
報酬の話が出る前までは、街の雰囲気は同情するような空気感を帯びていた。が、静まり返っていた。嵐の前の静けさ。デザートを待つような、聞こえないはずの舌なめずりが耳元で聞こえる幻聴。静寂が故に、爆発的ポテンシャルを秘めていることをひしひしと感じるせいだ。
「20億……出します」
ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!
皆が声に出しているわけじゃない……。目撃情報だけでも報酬がある上に、もし、保護できたのなら、一生分のお金が手に入るかもしれない……。しかも、どう見ても悪いことをしてないために罪悪感もない。歯止めなんか効くはずがない…!
まだ、オレの許容範囲内だった。現状アピスの取れる最善手であるため…割り切れた。
ふと、誰も見ていないパネルのアピスと目が合う。そんな気がした。
ば ー か
悪意たっぷりに煽ってきた。それも一瞬。即座に泣きの演技に戻る。
「ぜってぇえ許さねぇええええ!!!ぶち殺してやる!!!!!!!!」
〔……〕
「まぁまぁまぁ」
オレは自分以上に憤慨している者を見て冷静さを取り戻し、リンがルピカを宥め、ケイトが全体を見守る珍しい構図となっていた。リンから頭を撫でられ、恥ずかしそうにルピカがごにょごにょとこぼす。
「……あの、申し上げにくいのですが、頭ナデナデなどは…やめて頂きけませんか……」
「ん」
「しねるよ…(グルバンや社会によって)」と顔に書いてあるルピカからリンはそっと離れる。一旦、空気が和み、ケイトが切り出す。
「戦況は?」
ケイトはもはや、戦況をどう捉える?という旨さえ端的に聞く。軍人じゃないかと疑うレベルだ。
悪魔はニュースを口にする。
「先日のカーセ家放火事件及び前国王グルバンの自死、そして、電波塔の倒壊。とんだテロリストもいたものだと。さぞみなさんの不安を煽ってしまったことでしょう。その点につきましては私たちの対応が遅く、後手に後手にと回ってしまい容疑者の特定に至れずにいました。この場をお借りして謝罪申し上げます」
何も事情を知らなければ、真っ当なことを言っているようで背筋が凍る。次に来る台詞を予期してしまっている。
「これらのすべてに関わっていてその真実を知るとされる人物がいます。ですが!!証拠不十分で、大々的に指名手配をかけることはできずにいました。結論から言いましょう。重要参考人はリン・カーセ。私の義妹です」
<…やりやがった……>
「リンが犯人だなんて思っていません。これまでも、非力で、病弱な彼女にできることなどたかが知れています。彼女の執事達は皆行方をくらませているんですね。…はい。リンなら、何か知っているかもしれない。私が事件直後に会った時に、何か言いたかったのかもしれません」
顔を覆って、苦しそうに、ハキハキとありもしない話を紡ぐ。指名手配をしなかったことに、こうも辻褄が合うように話されると…妙な錯覚すら感じるほどよくできている。
「私は、後悔しています!前王グルバンは養親です。血の繋がりのない父上ではありましたが、愛情は注いでいただきました。そして、国王に推薦していただけるほどに、私を、認めてくれました!」
紙切れを掲げる。
「父から私に向けての遺書は、真実の懺悔と苦悩、自死の決断と独白されたものでした。最後に書き添えられたのは、リンを頼む、です。そうです、託されたのです。これに報いずになんていられますか!!?」
<本当によくできている…>
紙を伏せて話を続ける。
「唯一の家族を白日の下に晒すのは、その後の人生にも関わってしまうかもしれないと……ずっとずっと…渋っていました。ですが、私の愚かな日々の行いが、彼女に逃亡生活をさせてしまったんです。仕事に熱心になりすぎたあまりに……。話し相手や相談相手といった…『家族』とは認められなくなったんだって……今さら…遅いですよね」
濡れ衣を着せられたのだ。話し相手を引き裂いたのは、お前じゃないかと言いたくなるが、言っても仕方がない。リンとケイトの顔はある程度、予想していたようだが、警官は青ざめていた。正直、オレもそうしたい側だ。耳障りな放送は最高潮に達する。
「…私はァ!彼女と話がしたいだけなんです!!そのために、お金だって惜しみません。警察や探偵、知り合いへの協力はもちろん要請しています。ですが、一秒でも早く、リンを引き留めたいんです!危ない道へ行かせないためにも…!どうか…!!力を貸していただけませんか?警察や役所など、どこに連絡しても構いません!目撃情報だけでも、報酬は出します!もし…身柄を押さえることができたなら……」
報酬の話が出る前までは、街の雰囲気は同情するような空気感を帯びていた。が、静まり返っていた。嵐の前の静けさ。デザートを待つような、聞こえないはずの舌なめずりが耳元で聞こえる幻聴。静寂が故に、爆発的ポテンシャルを秘めていることをひしひしと感じるせいだ。
「20億……出します」
ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!
皆が声に出しているわけじゃない……。目撃情報だけでも報酬がある上に、もし、保護できたのなら、一生分のお金が手に入るかもしれない……。しかも、どう見ても悪いことをしてないために罪悪感もない。歯止めなんか効くはずがない…!
まだ、オレの許容範囲内だった。現状アピスの取れる最善手であるため…割り切れた。
ふと、誰も見ていないパネルのアピスと目が合う。そんな気がした。
ば ー か
悪意たっぷりに煽ってきた。それも一瞬。即座に泣きの演技に戻る。
「ぜってぇえ許さねぇええええ!!!ぶち殺してやる!!!!!!!!」
〔……〕
「まぁまぁまぁ」
オレは自分以上に憤慨している者を見て冷静さを取り戻し、リンがルピカを宥め、ケイトが全体を見守る珍しい構図となっていた。リンから頭を撫でられ、恥ずかしそうにルピカがごにょごにょとこぼす。
「……あの、申し上げにくいのですが、頭ナデナデなどは…やめて頂きけませんか……」
「ん」
「しねるよ…(グルバンや社会によって)」と顔に書いてあるルピカからリンはそっと離れる。一旦、空気が和み、ケイトが切り出す。
「戦況は?」
ケイトはもはや、戦況をどう捉える?という旨さえ端的に聞く。軍人じゃないかと疑うレベルだ。
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