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第3章 ~よう
■⑮
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《sideメハ
永い時間あやされていたんだと思う。泣き疲れて余裕ができたのがわかってか、絶妙なタイミングで言葉をかけてくれる。
「今、メハは。記憶が欠けてるの」
「…ぅん」
それくらいは自分でも分かっていた。悪魔に精神破壊をされるだけでなく、記憶まで蝕まれていた。まぁ記憶が蝕まれたんだから精神を破壊されたって言っても過言じゃないけど……。
<だって、懐かしいと肌で感じるあなたの名前すら思い出せずにいるんだよ……もどかしいな…。あんなやつにこうもあっさりと、奪われてしまうなんて……>
「気にしないで。誰だって、こうなって仕方ない」
「……」
少女はずっとずっと大人だった。眩しすぎて、私とは比べ物にならない。何も言えずにいる私に少女は続ける。
「…どうしたい?メハは」
「…どうって…?」
多少は勘づいていても、少女の方の視野とは確実に違うことが分かってしまう。
「メハは記憶がない。今のままがいいならそれでもいいし、取り戻したいならできるように頑張る」
「………」
<今のまま……>
それがどこまでを指すのか分からなかった。
〈記憶のこと?〉〈独りの世界のこと?〉〈アピスが帰ってくるの?〉〈少女はどこかに行くの?〉
ギュッ……!
「大丈夫。独りにさせない」
少女から抱きつかれる。複雑な感覚が入り乱れる。後から思い返せば、答えは出ていたのかもしれない。
「知りたい」
反射的に口から漏れていた。
「……記憶…?」
「あ、えっとあんま考えずにポロっと出ちゃった。あは…ははは」
嘘じゃ…ない。けど、知らない方が後悔しそうと言いたげな『もやもや』がどんどん重くなる。どの答えが正解か分からなかった。悩んでいると少女は切り出す。
「いいよ。無理に、答えなくていい。後悔…して欲しくないから」
少女のその寛容な心構えといい、優しいのだろうと、何より、懐かしさが安心していいと物語っている。ただただ、このような和解したように見せかけた精神破壊もされてたので、自分から近寄るのが未だできずにいた。
「……リン」
「…え?」
「名前」
「そ、そうなんだ……。いい名前だね!」
聞き覚えがあるようでない。気まずい空気にならないように作り笑いと共に言葉を繋ぐ。
「……」
リンに変な顔をさせてしまう。それが耐えられず口早に話題を振る。
「リ,リンさんは、どうやって来たの?」
「さんはいい」
「あ、ごめんなさい」
「敬語も、いや」
「ぅ…ごめん」
「……時間を遡って、来たの」
<へ…?>
理解できなかった。でも、そうなんだろうなと信用しきった自分もいた。
「力を貸してくれる、友達がいたの。頼ってもいいって言ってくれる大人ができたの」
ガコン…
その瞬間、歯車が回りだした音を確かに聞いた。幻聴でもおかしくない…というか、たぶんそう。でも、世界の見え方が鮮明に変わるような、そんな決定的瞬間を感じ取ったんだと思う》
永い時間あやされていたんだと思う。泣き疲れて余裕ができたのがわかってか、絶妙なタイミングで言葉をかけてくれる。
「今、メハは。記憶が欠けてるの」
「…ぅん」
それくらいは自分でも分かっていた。悪魔に精神破壊をされるだけでなく、記憶まで蝕まれていた。まぁ記憶が蝕まれたんだから精神を破壊されたって言っても過言じゃないけど……。
<だって、懐かしいと肌で感じるあなたの名前すら思い出せずにいるんだよ……もどかしいな…。あんなやつにこうもあっさりと、奪われてしまうなんて……>
「気にしないで。誰だって、こうなって仕方ない」
「……」
少女はずっとずっと大人だった。眩しすぎて、私とは比べ物にならない。何も言えずにいる私に少女は続ける。
「…どうしたい?メハは」
「…どうって…?」
多少は勘づいていても、少女の方の視野とは確実に違うことが分かってしまう。
「メハは記憶がない。今のままがいいならそれでもいいし、取り戻したいならできるように頑張る」
「………」
<今のまま……>
それがどこまでを指すのか分からなかった。
〈記憶のこと?〉〈独りの世界のこと?〉〈アピスが帰ってくるの?〉〈少女はどこかに行くの?〉
ギュッ……!
「大丈夫。独りにさせない」
少女から抱きつかれる。複雑な感覚が入り乱れる。後から思い返せば、答えは出ていたのかもしれない。
「知りたい」
反射的に口から漏れていた。
「……記憶…?」
「あ、えっとあんま考えずにポロっと出ちゃった。あは…ははは」
嘘じゃ…ない。けど、知らない方が後悔しそうと言いたげな『もやもや』がどんどん重くなる。どの答えが正解か分からなかった。悩んでいると少女は切り出す。
「いいよ。無理に、答えなくていい。後悔…して欲しくないから」
少女のその寛容な心構えといい、優しいのだろうと、何より、懐かしさが安心していいと物語っている。ただただ、このような和解したように見せかけた精神破壊もされてたので、自分から近寄るのが未だできずにいた。
「……リン」
「…え?」
「名前」
「そ、そうなんだ……。いい名前だね!」
聞き覚えがあるようでない。気まずい空気にならないように作り笑いと共に言葉を繋ぐ。
「……」
リンに変な顔をさせてしまう。それが耐えられず口早に話題を振る。
「リ,リンさんは、どうやって来たの?」
「さんはいい」
「あ、ごめんなさい」
「敬語も、いや」
「ぅ…ごめん」
「……時間を遡って、来たの」
<へ…?>
理解できなかった。でも、そうなんだろうなと信用しきった自分もいた。
「力を貸してくれる、友達がいたの。頼ってもいいって言ってくれる大人ができたの」
ガコン…
その瞬間、歯車が回りだした音を確かに聞いた。幻聴でもおかしくない…というか、たぶんそう。でも、世界の見え方が鮮明に変わるような、そんな決定的瞬間を感じ取ったんだと思う》
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~このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係なく、すべて空想です~ 敬語や言葉選びはよく考えてはいるつもりだが、拙い文は長い目で見てやって欲しい。更新は調整中だが、頑張って完結予定。 X始めました!!! →https://x.com/kahiketu 世界観は独特で人を選ぶかもだけど、結構ジャンルは荒ぶると思う。ただ、単純にホラーとミステリーは得意じゃないから触れないかも。好きなのは、ファンタジー、異能、神、科学、記憶、(デス)ゲームなど。幽霊や呪いも使いはする(ホラーにはならないはず)。 辻褄を合わせたがるので、凝り性。設定チュウ(毒) 得意でないのは、恋愛やミステリー(=謎解き)、あとハーレムとか、R18系は基本無理。
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