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第3章 ~よう
クモを掴む⑥
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――sideソウ
ぼくはメハとリンと遊んでいた。この場において最年長者であるぼくは、リンに兄気取りをしていたと言っても過言ではない。
「こう?」
「そうそう。さっすがリン!じゃあこれなら、どうすると思う?」
メハがゲームのチュートリアル代わりに丁寧に説明する。所々リンをべた褒めしたりするが、媚びへつらうといった表面上のものではなく、メハの本心からの声ゆえに不快感を与えることはない。
「…?」
「えっとね、こういった場合。つまり、ジョーカーがだった時はここに貯められたカードを全部引き受けなきゃいけないの」
「分かった」
メハはリンに楽しさを作り上げた。リンが元々興味を引かれないものも、メハだから楽しませることができた。でも、メハはリンに害をなすかもしれないものを遠ざける癖がある。それを知らないまま生きるのはよろしくない。それを教えるのが、兄の役目としよう。
『リン』
「?」
補足すると、ぼくの声はリンはリンが反射レベルの翻訳で手話のように合図し、メハが音声として変換してくれている。
<ぼくの生前の眼と似た眼をしていた。でも、そのスペックは…>
『嘘って知ってるか?』
「…うん」
「……」
『でも、欺かれたことや欺こうとしたことはないだろ?』
「…うん」
ゴクッ……。
メハが息を飲むのに気が付く。
『嘘ってのは、必ずしも悪ではない。当たり前だろぅ?だって定義から、嘘=悪なんて言ってるやつは聞いたことないさ。刃は人を傷つけることもあるが、包丁として料理に使える。毒も量が違えば薬になり得るんだよ』
「…うん」
リンの表情は変わらない。まるで凪。確かに達観した節はある。
<でも、子供だ>
『そして、嘘を有効に活用するには工夫が必要に』
「ちょ!ソウ!リンに嘘の吐き方教える気!?」
「……」
反応が良すぎるメハを宥めるように続ける。
『メハ。過保護はダメなんだ。嘘の本質を知ってるのと知らないのでは可能性は大いに異なる』
「でも……」
『リンは相手が嘘をついたら見抜くだろう』
「なら!!」
『基本的には、な』
「……」
『嘘だとしても、それの意図が読めない時もあるだろうし……。自分が嘘を吐いたら大事なものを守れる時もある』
「リンには…純粋でいて欲しいの……辛いことや汚いことを知らなくても困らないなら……そうしたい……!」
メハが内に秘めていた強いエゴの片鱗である。
<悪いというつもりはないのだがな…>
『……』
「……」
「教えて」
「!り、リン!!」
<あぁ、そうだった>
沈黙を破るのはいつもリンだった。メハほどではないが、リンもまたエゴをもっているということだ。ぼくの会話を媒体するリンの手をメハは優しく包み込む。
「こ、この話は終わり!ね?リン」
なかったことにしようとするメハの気持ちも分からないわけではなかった。それ以上何もなければ、ぼくは何も言わない。
<だけど…>
「メハ…」
リンは表情で訴えかける。目が見えなくとも、表現はできる。
「……」
その勢いでぼくに教えを請う。
『…天然とは常に無知や求心力がないが故に在る振る舞いだ。知ってしまえば、少々、考えが淀んd』
「いい。教えて」
揺るぐことのない歩みを止めることなんてできやしない。もし、ここでぼかしても他で知ることになる。遅かれ早かれ知ることではあったとも言えた。
『人を騙すってのには、下準備や心構えが大事だ。時にはアフターケアも必要になる。面倒で日常的に使うにはあまりにもバカげた代物だ……』
「……」
リンもメハも何も言わない。聞き入ってくれている。くどい前置きはしなくても良かった。が、言葉には細心の注意を払いたかった。
『嘘を吐く時は、現実に溶け込ませると良い。ぼくはそう思っている』
少々くさい演技も混ぜさせてもらった。常人には計り知れない情報量の中で生きるリンに、少しでも印象的であるために――
ぼくはメハとリンと遊んでいた。この場において最年長者であるぼくは、リンに兄気取りをしていたと言っても過言ではない。
「こう?」
「そうそう。さっすがリン!じゃあこれなら、どうすると思う?」
メハがゲームのチュートリアル代わりに丁寧に説明する。所々リンをべた褒めしたりするが、媚びへつらうといった表面上のものではなく、メハの本心からの声ゆえに不快感を与えることはない。
「…?」
「えっとね、こういった場合。つまり、ジョーカーがだった時はここに貯められたカードを全部引き受けなきゃいけないの」
「分かった」
メハはリンに楽しさを作り上げた。リンが元々興味を引かれないものも、メハだから楽しませることができた。でも、メハはリンに害をなすかもしれないものを遠ざける癖がある。それを知らないまま生きるのはよろしくない。それを教えるのが、兄の役目としよう。
『リン』
「?」
補足すると、ぼくの声はリンはリンが反射レベルの翻訳で手話のように合図し、メハが音声として変換してくれている。
<ぼくの生前の眼と似た眼をしていた。でも、そのスペックは…>
『嘘って知ってるか?』
「…うん」
「……」
『でも、欺かれたことや欺こうとしたことはないだろ?』
「…うん」
ゴクッ……。
メハが息を飲むのに気が付く。
『嘘ってのは、必ずしも悪ではない。当たり前だろぅ?だって定義から、嘘=悪なんて言ってるやつは聞いたことないさ。刃は人を傷つけることもあるが、包丁として料理に使える。毒も量が違えば薬になり得るんだよ』
「…うん」
リンの表情は変わらない。まるで凪。確かに達観した節はある。
<でも、子供だ>
『そして、嘘を有効に活用するには工夫が必要に』
「ちょ!ソウ!リンに嘘の吐き方教える気!?」
「……」
反応が良すぎるメハを宥めるように続ける。
『メハ。過保護はダメなんだ。嘘の本質を知ってるのと知らないのでは可能性は大いに異なる』
「でも……」
『リンは相手が嘘をついたら見抜くだろう』
「なら!!」
『基本的には、な』
「……」
『嘘だとしても、それの意図が読めない時もあるだろうし……。自分が嘘を吐いたら大事なものを守れる時もある』
「リンには…純粋でいて欲しいの……辛いことや汚いことを知らなくても困らないなら……そうしたい……!」
メハが内に秘めていた強いエゴの片鱗である。
<悪いというつもりはないのだがな…>
『……』
「……」
「教えて」
「!り、リン!!」
<あぁ、そうだった>
沈黙を破るのはいつもリンだった。メハほどではないが、リンもまたエゴをもっているということだ。ぼくの会話を媒体するリンの手をメハは優しく包み込む。
「こ、この話は終わり!ね?リン」
なかったことにしようとするメハの気持ちも分からないわけではなかった。それ以上何もなければ、ぼくは何も言わない。
<だけど…>
「メハ…」
リンは表情で訴えかける。目が見えなくとも、表現はできる。
「……」
その勢いでぼくに教えを請う。
『…天然とは常に無知や求心力がないが故に在る振る舞いだ。知ってしまえば、少々、考えが淀んd』
「いい。教えて」
揺るぐことのない歩みを止めることなんてできやしない。もし、ここでぼかしても他で知ることになる。遅かれ早かれ知ることではあったとも言えた。
『人を騙すってのには、下準備や心構えが大事だ。時にはアフターケアも必要になる。面倒で日常的に使うにはあまりにもバカげた代物だ……』
「……」
リンもメハも何も言わない。聞き入ってくれている。くどい前置きはしなくても良かった。が、言葉には細心の注意を払いたかった。
『嘘を吐く時は、現実に溶け込ませると良い。ぼくはそう思っている』
少々くさい演技も混ぜさせてもらった。常人には計り知れない情報量の中で生きるリンに、少しでも印象的であるために――
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~このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係なく、すべて空想です~ 敬語や言葉選びはよく考えてはいるつもりだが、拙い文は長い目で見てやって欲しい。更新は調整中だが、頑張って完結予定。 X始めました!!! →https://x.com/kahiketu 世界観は独特で人を選ぶかもだけど、結構ジャンルは荒ぶると思う。ただ、単純にホラーとミステリーは得意じゃないから触れないかも。好きなのは、ファンタジー、異能、神、科学、記憶、(デス)ゲームなど。幽霊や呪いも使いはする(ホラーにはならないはず)。 辻褄を合わせたがるので、凝り性。設定チュウ(毒) 得意でないのは、恋愛やミステリー(=謎解き)、あとハーレムとか、R18系は基本無理。
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このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。
※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。
※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!
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