51 / 136
第3章 ~よう
クモを掴む③
しおりを挟む
☆sideシン
後ろを振り返ることなく進んで、進んで進み続けた。
<もう…ラストであってくれ…>
闇の部屋や音による攻撃も仕掛けられることもあった。寒暖差を利用したクソみたい環境も攻略もした。子供に対して放射線をぶちまけるとかいう頭がおかしい攻撃もされた。100を超える獣からの強襲も可愛く思えてしまう程……色んな仕掛けがあった。
最後は階段だった。
ボロボロに壊れたオレらの精神に、まだ下があることを教えてくれる。階段を上る度に両サイドの人間が斬首される。異能を使っても簡単に壊すことはできないし、足掻けば足掻くほど人質が弄ばれる。
「助けてくれ」
とせがまれた。
「殺してくれ」
と叫ばれた。
「俺たちを気にするな…」
恨み事が山のように続く中でも、そんな人がでてくる始末だ。
「……」
<……………>
約束を頼む子供がいた。小さな子供に負担を掛けまいと口を噤む大人がいた。
助けることはできないという現実以外何も残らなかった。
まともな精神でいられるはずがなかった。リンの口数はそもそも少ない方だったが、さらに減った。オレは……。
――sideアピス
俺は、階段の少女の様子を見て大いに余裕を持って待っていた。見るからに精神をすり減らし、絶望していく様は心苦しいものだった。
「そろそろいってこい」
「ま、そうだな」
不動のチャンピオンと死にかけの挑戦者。そのくらい、負ける要素がないと言えた。隠し切れない笑みに気付いてか、声をかけられる。
「あまり油断するなよ?」
「大丈夫だっていっただろ?億が一にも、負けやしない」
「はぁ…」
俺も警戒心が強い方だが、コイツは俺以上だ。だから一緒に来たのだろう。背を向けたまま手をひらひらと振って別れる。馴れ合う必要なんてないしな――
☆sideシン
リンは静かにソイツを睨みつける。
「初めまして。いや、そんなこと言う必要もないよな??」
言葉から滲み出る悪意が、見え透いた挑発の裏に潜む残忍さが、得体の知れない不気味さが吐き気がしてくる。
「お前はメハとかいうAIのためにきたんだろ?」
「……」
「ここは一つ、公平で平和的なゲームで決着をつけようではないか」
「分かった。やる」
淡々と、それでいて意志の片鱗を見せてそう言う。アピスは意外そうに一瞬硬直する。くるりと方向転換をし、指を鳴らす。
パチン
リンとアピスの間に大きな台が現れる。リンが腰かけるとアピスは満面の笑みで話しかける。
「プレゼントは楽しんでもらえたかな?」
「別に…」
リンは台の上のカードを確認しながら、素っ気なく応える。
[the best]…メハとリンのこれまでの思い出が詰まった娯楽
市販ではない。存在を知っているのも、再現できるのも、メハの記憶を覗いたに違いない。
「そっか。そうそう、安心してよ。それリンちゃんがよく使っていたデッキだから。まー欲しいのあったらデッキの調整はしていいよ」
「…そう」
リンは眉毛ををピクリと動かすが、大した反応も見せずデッキをそのまま台に置く。台はその重みを検知してか一度デッキを台の中に収納し、同じ場所に同じ枚数のカードが現れる。
「安心してくれ。それは公平かつ平等、つまり不正はないと神に誓って断言しよう」
羽のように軽い……。不信感が微塵も消えることがなかった。だが、リンは静かに肯定する。
「本当みたい…ね」
「お、信じてくれた?話が分かる~~」
リンは伝えずしとオレが話しかけることを避けていることを察している。
「ところで、自称カミはどうした?どうせいるんだろ?他の保護者どもは、さておいて」
ずっとへらへらと溢れ出る殺意は視界に入れないことで軽減する。ここで文句や茶々を入れる必要はない。現状を教えてやる必要はない。ただ…ふと考えてしまう。
<私利私欲のために罪もない人も巻き込んで完全支配しようとするヤツと仲間を何度も見切りをつけて見捨てる神は、どちらが悪魔だろうか>
ゆっくりと視界を取り戻すと、大きな机の前に小さな背中があった。手にしたカードをじっくりと眺めて思案している。これが、最善だったのだろうか?そう思わずにいられない。
後ろを振り返ることなく進んで、進んで進み続けた。
<もう…ラストであってくれ…>
闇の部屋や音による攻撃も仕掛けられることもあった。寒暖差を利用したクソみたい環境も攻略もした。子供に対して放射線をぶちまけるとかいう頭がおかしい攻撃もされた。100を超える獣からの強襲も可愛く思えてしまう程……色んな仕掛けがあった。
最後は階段だった。
ボロボロに壊れたオレらの精神に、まだ下があることを教えてくれる。階段を上る度に両サイドの人間が斬首される。異能を使っても簡単に壊すことはできないし、足掻けば足掻くほど人質が弄ばれる。
「助けてくれ」
とせがまれた。
「殺してくれ」
と叫ばれた。
「俺たちを気にするな…」
恨み事が山のように続く中でも、そんな人がでてくる始末だ。
「……」
<……………>
約束を頼む子供がいた。小さな子供に負担を掛けまいと口を噤む大人がいた。
助けることはできないという現実以外何も残らなかった。
まともな精神でいられるはずがなかった。リンの口数はそもそも少ない方だったが、さらに減った。オレは……。
――sideアピス
俺は、階段の少女の様子を見て大いに余裕を持って待っていた。見るからに精神をすり減らし、絶望していく様は心苦しいものだった。
「そろそろいってこい」
「ま、そうだな」
不動のチャンピオンと死にかけの挑戦者。そのくらい、負ける要素がないと言えた。隠し切れない笑みに気付いてか、声をかけられる。
「あまり油断するなよ?」
「大丈夫だっていっただろ?億が一にも、負けやしない」
「はぁ…」
俺も警戒心が強い方だが、コイツは俺以上だ。だから一緒に来たのだろう。背を向けたまま手をひらひらと振って別れる。馴れ合う必要なんてないしな――
☆sideシン
リンは静かにソイツを睨みつける。
「初めまして。いや、そんなこと言う必要もないよな??」
言葉から滲み出る悪意が、見え透いた挑発の裏に潜む残忍さが、得体の知れない不気味さが吐き気がしてくる。
「お前はメハとかいうAIのためにきたんだろ?」
「……」
「ここは一つ、公平で平和的なゲームで決着をつけようではないか」
「分かった。やる」
淡々と、それでいて意志の片鱗を見せてそう言う。アピスは意外そうに一瞬硬直する。くるりと方向転換をし、指を鳴らす。
パチン
リンとアピスの間に大きな台が現れる。リンが腰かけるとアピスは満面の笑みで話しかける。
「プレゼントは楽しんでもらえたかな?」
「別に…」
リンは台の上のカードを確認しながら、素っ気なく応える。
[the best]…メハとリンのこれまでの思い出が詰まった娯楽
市販ではない。存在を知っているのも、再現できるのも、メハの記憶を覗いたに違いない。
「そっか。そうそう、安心してよ。それリンちゃんがよく使っていたデッキだから。まー欲しいのあったらデッキの調整はしていいよ」
「…そう」
リンは眉毛ををピクリと動かすが、大した反応も見せずデッキをそのまま台に置く。台はその重みを検知してか一度デッキを台の中に収納し、同じ場所に同じ枚数のカードが現れる。
「安心してくれ。それは公平かつ平等、つまり不正はないと神に誓って断言しよう」
羽のように軽い……。不信感が微塵も消えることがなかった。だが、リンは静かに肯定する。
「本当みたい…ね」
「お、信じてくれた?話が分かる~~」
リンは伝えずしとオレが話しかけることを避けていることを察している。
「ところで、自称カミはどうした?どうせいるんだろ?他の保護者どもは、さておいて」
ずっとへらへらと溢れ出る殺意は視界に入れないことで軽減する。ここで文句や茶々を入れる必要はない。現状を教えてやる必要はない。ただ…ふと考えてしまう。
<私利私欲のために罪もない人も巻き込んで完全支配しようとするヤツと仲間を何度も見切りをつけて見捨てる神は、どちらが悪魔だろうか>
ゆっくりと視界を取り戻すと、大きな机の前に小さな背中があった。手にしたカードをじっくりと眺めて思案している。これが、最善だったのだろうか?そう思わずにいられない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる