解放

かひけつ

文字の大きさ
上 下
48 / 136
第3章 ~よう

始め⑤

しおりを挟む
☆sideシン
だから、オレは止めた。そして、冷静に諭す。

 〔リン一回休憩しよう。万全な体勢でいくのが最善だ。そうだろ?〕

 「頭が痛くても…歩ける。警戒できる。早く行かなきゃ」

 〔………分かった。でも、リニには栄養を取ってもらうし、霊に先行をお願いする〕

 「…うん」

オレ達はゆっくりと進んだ。霊の先行のおかげで、休みながら進められる。暗闇やブラックボックスなところを探れるわけではないが、ないよりは圧倒的にマシ。心理的負担として死なない先導者がいるのは心強い。



程なくして、階段に繋がる部屋を見つける。リンと共に中を覗くと警戒せざるを得ない光景が広がっていた。

 厚くて防音、耐熱、撥水など性能てんこ盛りだが、無機質な壁。

なぜか檻を連想してまうまでにどこか悪趣味な匂いがする。最悪、それは良いとしても……。

 親子がいるのだ。

さっきと似たように、ただうずくまっている。いや、抱きしめあっている。「さっきと同じでホログラムだよ」なんて言える心なんてない。オレはなんて言えばいいのか分からなかった。

 <リンが、オレが、何かをしたら…アピスの罠で殺されてしまうかもしれない。選択を間違えれば、リンの純粋な心は壊れてしまう……オレが、オレが!!>

 「これこれ、二人共。考えすぎじゃ」

ケイトが急に現れオレらを諭す。

 〔そうは言っても……〕

事実は、変わらない。

 「無駄口は要らんじゃろ。まずは、足掻き用意が必要じゃ」

その瞬間悟る。

 〔リン、行こう〕

 「…うん」

ケイトに背を向ける。リンはオレを信用して無条件について来てくれる。彼女らの期待に応えなるんだ。



リンと一緒に片っ端から二階のフロアを調べる。上の階への隠しルートなるものは見つからなかったが、アピスのいやらしい罠を次々と発見した。毒の入った水槽や人質を使った入室禁止トラップ、爆弾がそこらじゅうにあって下手な侵入経路は建物の倒壊の恐れがある。あの部屋を覗いて3階へ上がるのが難しそうだ。

 〔回り道やスキップは無理ってことか…〕

 「中には二人の人質とタブレット端末。人質とはガラス張りで仕切りはされてるけどそれほど厚くない」

オレらの代わりに中の様子を詳しく見てくれていたルコが様子を教えてくれる。

 〔タブレットには何が……?〕

何が表示されているのか。そして、タブレット内のデータを調べられるハズだと踏んでそう聞いた。

 「ごめん。調べられなかった」

ルコが申し訳なさそうにそう言う。神だったが故の全能感や万事順調といった感覚とは本当に無縁だと感じてしまう。

 〔…理由を聞いていいか?〕

感情を表に出さないために機械的に問う。

 「私たちはあそこ以上の部屋に入ろうとすれば意識が薄れていくそんな気がするの…」

ルコの意味ありげな間でルコとオレ、リンは同じ考えを共有する。

 <アピスは除霊の手段を持っているかもしれない>

手痛い戦線離脱。例が先駆けとして行ってくれるからより安全に進める部分も多々あった。それと同時に至る可能性は、霊との会話でさえも盗聴されるかもしれない。

 「っ!!」

ルコの霊体が後退あとずさりする。

 〔ルコ!大丈夫か!〕

 「や、ばいね。さっき言ってたアレの範囲が広がっていってるみたい」

万全な準備の上でのお別れではなく、強制離脱で条件付きの復帰不可。オレは顔が有れば酷い顔をしていたと思う。

 「いいよ」

リンは軽くそう言う。

 「不可避だし…」

それは諦めや失望などではなく、リンなりの気遣いだとここにいる誰もが察した。

 「リン、味方がいるからね。それだけ忘れないでね。……じゃあ…またね」

 「ん」

ほとんどの霊が、小走りで簡素な言葉や身振り手振りで別れを告げる。ケイトはゆっくりと後ろも振り向かずに皆が後退する方向に歩む。

 〔おい、ケイト!何も言わなくていいのかよ?〕

オレが声をかけて初めて歩みを止めず振り返る。穏やかで控えめな笑顔だった。

 「信じておるからのぅ…リンに心配などないわ。強いて言うならお主の方が心配されることをしておるじゃろ?」

 〔……〕

オレは声を出せずに立ち止まってしまう。しばしの間で、場は完全に静寂になる。

 「……シンもキツいの?」

リンはオレを心配する。

 〔大丈夫。大丈夫だよ。進もう〕

 「……」

 <そう大丈夫だ。とっておきだってある>

言い聞かせるように、リンに聞かれないように心で呟く。リンはそれ以上言及することなくドアを開ける。瞬間、走馬灯を思わせる映像が、濁流の如く流れ込む。
しおりを挟む
~このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係なく、すべて空想です~                                                    敬語や言葉選びはよく考えてはいるつもりだが、拙い文は長い目で見てやって欲しい。更新は調整中だが、頑張って完結予定。 X始めました!!! →https://x.com/kahiketu                                                   世界観は独特で人を選ぶかもだけど、結構ジャンルは荒ぶると思う。ただ、単純にホラーとミステリーは得意じゃないから触れないかも。好きなのは、ファンタジー、異能、神、科学、記憶、(デス)ゲームなど。幽霊や呪いも使いはする(ホラーにはならないはず)。 辻褄を合わせたがるので、凝り性。設定チュウ(毒)                                                    得意でないのは、恋愛やミステリー(=謎解き)、あとハーレムとか、R18系は基本無理。
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...