50 / 97
第3章 ~よう
クモを掴む②
しおりを挟む
意を決して部屋に入る。程なくして明かりがつき、何度も見た親子がその場には居た。現状がわからず、警戒している母親が目を一切開けない少年を大事に抱えている。
〔リン、できれば友好的に〕
リンは小さく頷き、息を吸う。静寂なこの空間に小さな呼吸音ではあるが、どうしても際立つ。
「わt」
パンッ!
発砲音のような乾いた音に場が凍る。刹那、少年が泣き叫ぶ。
「ぁあああああああ!!」
「きょう!きょう!」
あまりの唐突さにリンは硬直する。母親は必死に少年の手を抑えている。抑える手からだらだらと漏れ流れる血液は、非現実的に思えるかもしれない。
「た、助けて下さい!この子を助けて」
自分の力に及ばないことを悟った母親はこちらに顔を向ける。リンはそこでようやく頭が再起動される。冷静に判断を下すために、再度深く呼吸する。
パン!
「…っあ゛ぁ……!!」
母親が抑えていなかった方の手からも出血し始める。少年は徐々にその痛みに耐えきれず痙攣する。
「きょう!!きょう…!」
「……!」
頭が真っ白になって。過呼吸になりそうなリンをすんでのところで『風』の手で抑止する。
ダン!
母親の左手の指が吹き飛ぶ。
「ぃったいいい……」
少年を抱えながら出血部を右手で抑える。
「…ま、ま?」
明らかに意識朦朧な少年が目を開けずに母親の心配をする。隣に居ても聞こえるレベルで速く鳴っている拍動は、酸素を欲していた。
オレは、異能で酸素を体内でうまく循環させられるように異能を使った。
ダン!!
母親の右手の指がなくなる。それでも、彼女はその右手で、血が付かないようにぎこちなく少年を撫でる。
「…大丈夫……。大丈夫だから」
ズキズキと心が蝕まれていくのを客観的に理解する。覚悟を決めた雰囲気を感じ取り、リンは息を飲む。その間にオレはタブレットの画面をまとめ、リンに伝える。
[二人の内どちらかは助けてやる。選べ。
*呼吸をする度に子どもを、異能を使う度に親を甚振る]
「……。【水】」
バリィィィィン!!!
ガラスは想像以上に脆い。あえて視界が悪くなるようにガルスを割り、『風』を使いながら救出し一度外に出る作戦だった。
抱えている母親には太股から下がなく、少年は口から大量に吐血していた。
助かる見込みがないに等しかった。それに気付いていないかのようにリンは壁に『水』を構えて脱出を試みる...が、
リンの加速度を逆転させる。
リンをこのまま直進させるわけにはいかなかった。リンの鼻先まで迫る針に、本人は特にリアクションを示さなかった。剣山や針地獄を想像させる大量の針は、殺意をむき出しにしていた。針はそれ以上飛び出ることはなく、リンと親子は床にへたり込むことになる。
「…ごめん」
既に冷たくなり始めている親子をそっと離す。
ボトボチャァ…ジュゥウウー!!
高温の液体と固体、溶岩だ。この部屋を文字通り火の海に変える気なのだ。リンはこの場に置いていきたくない一心で、『風』に彼女らを乗せる。が、
ボンボボン!!…………ゴトォン!
親子の骨格が崩れ、頬は爛れ落ち、腹部から臓物の残骸が零れる。その全てが最悪だった。
〔…アピス、お前は…どこまで冒涜するつもりだぁ!!!!〕
「うっ…」
リンは口元を抑え、膝立ちになる。遺体は揺らぐ。異能のコントロールが甘くなったのだろう。
〔無理するな!オレらだけでいこう。誰も悪くない。悪いのはアピスだけなんだ〕
リンは意地で持ち直し、階段に繋がる出口に走る。落ち着ける場所まで進み、その遺体を簡易的に弔った。外に出るのをアピスに阻まれ、邪魔され、何よりもう一度ここに戻ることの難しさが出てくる。現実的ではない。それが結論。どうしようもない結果だった。
〔リン、できれば友好的に〕
リンは小さく頷き、息を吸う。静寂なこの空間に小さな呼吸音ではあるが、どうしても際立つ。
「わt」
パンッ!
発砲音のような乾いた音に場が凍る。刹那、少年が泣き叫ぶ。
「ぁあああああああ!!」
「きょう!きょう!」
あまりの唐突さにリンは硬直する。母親は必死に少年の手を抑えている。抑える手からだらだらと漏れ流れる血液は、非現実的に思えるかもしれない。
「た、助けて下さい!この子を助けて」
自分の力に及ばないことを悟った母親はこちらに顔を向ける。リンはそこでようやく頭が再起動される。冷静に判断を下すために、再度深く呼吸する。
パン!
「…っあ゛ぁ……!!」
母親が抑えていなかった方の手からも出血し始める。少年は徐々にその痛みに耐えきれず痙攣する。
「きょう!!きょう…!」
「……!」
頭が真っ白になって。過呼吸になりそうなリンをすんでのところで『風』の手で抑止する。
ダン!
母親の左手の指が吹き飛ぶ。
「ぃったいいい……」
少年を抱えながら出血部を右手で抑える。
「…ま、ま?」
明らかに意識朦朧な少年が目を開けずに母親の心配をする。隣に居ても聞こえるレベルで速く鳴っている拍動は、酸素を欲していた。
オレは、異能で酸素を体内でうまく循環させられるように異能を使った。
ダン!!
母親の右手の指がなくなる。それでも、彼女はその右手で、血が付かないようにぎこちなく少年を撫でる。
「…大丈夫……。大丈夫だから」
ズキズキと心が蝕まれていくのを客観的に理解する。覚悟を決めた雰囲気を感じ取り、リンは息を飲む。その間にオレはタブレットの画面をまとめ、リンに伝える。
[二人の内どちらかは助けてやる。選べ。
*呼吸をする度に子どもを、異能を使う度に親を甚振る]
「……。【水】」
バリィィィィン!!!
ガラスは想像以上に脆い。あえて視界が悪くなるようにガルスを割り、『風』を使いながら救出し一度外に出る作戦だった。
抱えている母親には太股から下がなく、少年は口から大量に吐血していた。
助かる見込みがないに等しかった。それに気付いていないかのようにリンは壁に『水』を構えて脱出を試みる...が、
リンの加速度を逆転させる。
リンをこのまま直進させるわけにはいかなかった。リンの鼻先まで迫る針に、本人は特にリアクションを示さなかった。剣山や針地獄を想像させる大量の針は、殺意をむき出しにしていた。針はそれ以上飛び出ることはなく、リンと親子は床にへたり込むことになる。
「…ごめん」
既に冷たくなり始めている親子をそっと離す。
ボトボチャァ…ジュゥウウー!!
高温の液体と固体、溶岩だ。この部屋を文字通り火の海に変える気なのだ。リンはこの場に置いていきたくない一心で、『風』に彼女らを乗せる。が、
ボンボボン!!…………ゴトォン!
親子の骨格が崩れ、頬は爛れ落ち、腹部から臓物の残骸が零れる。その全てが最悪だった。
〔…アピス、お前は…どこまで冒涜するつもりだぁ!!!!〕
「うっ…」
リンは口元を抑え、膝立ちになる。遺体は揺らぐ。異能のコントロールが甘くなったのだろう。
〔無理するな!オレらだけでいこう。誰も悪くない。悪いのはアピスだけなんだ〕
リンは意地で持ち直し、階段に繋がる出口に走る。落ち着ける場所まで進み、その遺体を簡易的に弔った。外に出るのをアピスに阻まれ、邪魔され、何よりもう一度ここに戻ることの難しさが出てくる。現実的ではない。それが結論。どうしようもない結果だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる