解放

かひけつ

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第3章 ~よう

閑話~あのヒ、あのトキ、あのバショで~

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《朝早起きをして、いつも欠かさずにあの人の側で仕えた。そういう風に体ができてしまったのは、プロ意識と心の底からの敬愛によるものであり、寝過ごすなんてあり得なかった………。

パチパチ…ゴゥ!!

よくよく考えれば、いつもデレがない妻があのように甘えてくるなどオカシイ…。いつも以上の幸せが誰かに仕組まれたもの作り物であったことを悟る。

ガラガラ…

 「はぁはぁ…」

喧騒が遠くで聞こえる。どの時代でも、野次馬は湧くものだ。あの方々の気品には似ても似つかない。

パラパラ……

 「用意周到な奇襲…」

あれもこれも、思い出深いものばかりで感傷に浸りたくもなるが…あの人には代えられない。だが、それらがこうも無残に火の海にさらされているのは少々滅入る。邸宅をくまなく探したつもりだが、あの人の死は確認できなかった…。逆に生きてるかも分からなかった…。

 <最悪の連続だ…>

自分が薬や違和感に気づけていたら、結果は変わっただろう…。過去は変えられない……

 「私は私のできることをやろう」

そう胸に決め、焔と闇に混じるようにその場から姿を消した》





――今回もまた、ずっと、遠くから見ているだけだった。手を出そうにも邪魔でしかないと分かっていたから、ぼくは見守るくらいしかできなかったんだ。

 だが、それも今日まで、だ。

やっと講釈垂れる役に立てる機会が来たというのだ。この世界線は、アタリだ。もっと語弊がないに言うなら、ここまでの選択肢は外していない。ハッキリ言って、アピスに対抗できるのは、リン達・・・以外にいない。みんなの力で、アピスに教えてやるんだ……。

 <…しまった>

メッセージの取捨選択をし、一発撮りを成功させるまでのタイムリミットが限られていたのだ。急がねばならない。

 「………」

ふと心が凪ぐ。彼を思うときはいつもこうなってしまう。

 「がんばってくれよ……シン」

ぼくも頑張るからと、笑みを浮かべながら最後の大仕事に取り掛かる――
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