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第3章 ~よう
ご機嫌
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――順調だ。可能性は無限大と聞くが、とある事実でかなり広がった。思わず口角が上がってしまう。いや、いつも上がっていたか、思い通りに行き過ぎて…。
「…」
歪んだ口元に手を当てて、コンマ一秒も満たない一瞬で無表情にする。油断は良くない。ダムの決壊は小さな亀裂から始まる。地震には初期微動がある。大きな異変の前には些細な異変はあるものだ。さぁ、確認しようか――
オレは電脳世界に入って、二人に話しかける。
〔見つかっちゃったみたいだね。初めまして、オレの名はシンだ〕
一人は多少驚いているようだが、そこまで衝撃ではないようだ。もう一人、いや、一体はと言った方が正しいのだろうか、人工知能がグルバンの娘の後ろにいた。
〔きみがリンかい?〕
少女が小さく頷いた。人工知能が流暢にしゃべりながら前に出る。
「あなたは何者ですか?何しにきたんですか?それ以上近寄らないで下さい」
少女を庇うように立つ姿は血のつながった姉のようだった。
〔あー…危害を加えるつもりはない。お話したいだけだよ〕
「大丈夫。嘘じゃない…から」
「…リン」
「現実で…」
「わかった…。リンは現実で話したがってるからログアウトさせるつもり。あなたもくるでしょ?」
〔あぁ、構わないよ〕
少女たちの身体は光り始め粒子となって消える。勝手に侵入したように脱出すればいいだけだ。
丁寧に清掃されていて、綺麗なのだが、どこか生活感のない…殺風景な病室だった。高級そうなベッドでリンは眠っていた。時が止まったかのように静かで何も動くものがない部屋だった。が、ゆっくりと静かに瞼を開けることなく起き上がる。
〔おはよう〕
「うん」
リンの枕もとの小さな機械が動く。丸っこいボディで愛嬌があるのだが、とげとげしい視線を感じた。
「変なこと言い出したら人呼ぶから」
〔分かったって。身構えないでくれよ〕
「気にしないで…。こういう子だから……」
「リン!多少は警戒しなさいよ!嘘をついてなくても裏切られることはあるんだからね!」
「ん」
微笑ましい気持ちになる。アピスへの憎悪が少し薄れる。少なくともこんな警戒がかわいらしく見える内は、平和で幸福な時間なのだろう。オレは…この子達を守らなければならない。この幸せを壊しちゃいけない。
〔フーーッ〕
この子を見守るんだと覚悟を決め、リンと向かい合おうとリンのいた場所を見るが、いない?
「…大丈夫?」
死角から手が伸びる。リンはベッドに膝立ちでオレの顔に手を添え、顔色を伺ってきたのだ。
「ちょっ、リン触ってるでしょ!不用意に触らないの!」
〔なんでもな!〕
周りの景色が変質する。オレが無意識に、別視点の感覚が混じる。
<こ、これは…?!!>
「?」
間違いない。リンの視点だ。運命的な出会いを感じた時、自律神経などの作用で想像力が刺激される現象にも似ているが、これはレベルが違う。
<偶発?不安定な条件?関係ない。これは、超能力の域だ>
「はーなーれーるーの」
リンは丸っこいAIに体を押し付けられているが、気にも留めていない。ゆっくりと理解する。リンがオレを認識できたのは、盲目でも音などを頼らずにオレの顔に触れられたのも……。そして、この光景には見覚えがあった。
「…」
歪んだ口元に手を当てて、コンマ一秒も満たない一瞬で無表情にする。油断は良くない。ダムの決壊は小さな亀裂から始まる。地震には初期微動がある。大きな異変の前には些細な異変はあるものだ。さぁ、確認しようか――
オレは電脳世界に入って、二人に話しかける。
〔見つかっちゃったみたいだね。初めまして、オレの名はシンだ〕
一人は多少驚いているようだが、そこまで衝撃ではないようだ。もう一人、いや、一体はと言った方が正しいのだろうか、人工知能がグルバンの娘の後ろにいた。
〔きみがリンかい?〕
少女が小さく頷いた。人工知能が流暢にしゃべりながら前に出る。
「あなたは何者ですか?何しにきたんですか?それ以上近寄らないで下さい」
少女を庇うように立つ姿は血のつながった姉のようだった。
〔あー…危害を加えるつもりはない。お話したいだけだよ〕
「大丈夫。嘘じゃない…から」
「…リン」
「現実で…」
「わかった…。リンは現実で話したがってるからログアウトさせるつもり。あなたもくるでしょ?」
〔あぁ、構わないよ〕
少女たちの身体は光り始め粒子となって消える。勝手に侵入したように脱出すればいいだけだ。
丁寧に清掃されていて、綺麗なのだが、どこか生活感のない…殺風景な病室だった。高級そうなベッドでリンは眠っていた。時が止まったかのように静かで何も動くものがない部屋だった。が、ゆっくりと静かに瞼を開けることなく起き上がる。
〔おはよう〕
「うん」
リンの枕もとの小さな機械が動く。丸っこいボディで愛嬌があるのだが、とげとげしい視線を感じた。
「変なこと言い出したら人呼ぶから」
〔分かったって。身構えないでくれよ〕
「気にしないで…。こういう子だから……」
「リン!多少は警戒しなさいよ!嘘をついてなくても裏切られることはあるんだからね!」
「ん」
微笑ましい気持ちになる。アピスへの憎悪が少し薄れる。少なくともこんな警戒がかわいらしく見える内は、平和で幸福な時間なのだろう。オレは…この子達を守らなければならない。この幸せを壊しちゃいけない。
〔フーーッ〕
この子を見守るんだと覚悟を決め、リンと向かい合おうとリンのいた場所を見るが、いない?
「…大丈夫?」
死角から手が伸びる。リンはベッドに膝立ちでオレの顔に手を添え、顔色を伺ってきたのだ。
「ちょっ、リン触ってるでしょ!不用意に触らないの!」
〔なんでもな!〕
周りの景色が変質する。オレが無意識に、別視点の感覚が混じる。
<こ、これは…?!!>
「?」
間違いない。リンの視点だ。運命的な出会いを感じた時、自律神経などの作用で想像力が刺激される現象にも似ているが、これはレベルが違う。
<偶発?不安定な条件?関係ない。これは、超能力の域だ>
「はーなーれーるーの」
リンは丸っこいAIに体を押し付けられているが、気にも留めていない。ゆっくりと理解する。リンがオレを認識できたのは、盲目でも音などを頼らずにオレの顔に触れられたのも……。そして、この光景には見覚えがあった。
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