解放

かひけつ

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第2章 ■なきゃ

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☆side流行
周りの異常現象たち(火、雨、風、雷)が静まり返った後も龍成は『龍』となったソレに眩しい視線を送っている。その間に私はケイトから意識を譲ってもらった。砂塵だけが時間差の如く辺りをひらひらと舞っていたが、先ほどと比べると大したことはない。龍成のお陰か冷静さを取り戻した私はハキハキと尋ねた。

 「名前はないの?」

 〔そこまで、動じないなんて肝が据わりすぎだろ。情けなくなるだろ……〕

 「龍成がいたから……。話反らさないで、質問にお答えください」

 〔……。遠い…昔に言われていた名前が『シン』だった………〕

 「よろしく、シン」

 〔……よろしく。流行るこ

 「そんな体があるなら、『カーセ家』くらい互角以上に渡り合えそうだけど…?」

 〔これは流行の夢の中だからね。あっちの世界じゃこの体を維持するのは難しいのと…。基本的に異能は、人間を介さないとあっちの世界にできないんだ〕

シンは姿を人型に戻して私に向き直る。どこか重みのある声音でシンは言った。

 〔さて、今からは未来に繋がる話をしよう〕

私と龍成は頷いた。一瞬、ほんの一瞬。龍成は苦い顔をしたのが見え、胸を痛める。

 〔流行の過去は大体分かったが、オレの『異能』の話をしよう〕

 「そうですね」

 〔もう敬語はやめてくれ。他人行儀すぎる〕

 [他人行儀…①親しい間柄にもかかわらず、他人のように振る舞うこと。②打ち解けないこ]
 
 [他人…①他の人。自分以外の人。②その事に関係のない人③つながりのない]
 
 <『他人行儀』の①の『他人』は③に近いかしら>
 
そんなことを考えたせいか、慣れた口調で応えそうになった。
 
 「分かり、ったわ」
 
 〔よろしい。じゃあ、龍児の過去を振り返ろうか〕
 
龍成が生唾を飲んだのが伝わった。
 
 
 
龍児の一生を知った。そして、隣で胸を苦しそうに押さえる龍成を見ると辛さが伝播でんぱした気がしたが、すぐ首を横に振る。
 
 [伝播…①伝わって広まること②波動が広まること]
 
 <私なんかに量れるものじゃない……>
 
 〔…龍児の生まれた間もない時からの話をして欲しい〕
 
 「ちょっとどういうつもり!」
 
私はキツそうにしている龍成を庇うようにシンに歯向かう。その話を広げてしまえば、龍成はもっと傷つくだろう。そんなことをさせるわけにはいかない。そこで横やりを入れたのは龍成だった。
 
 「僕のことは気にしないで」
 
 〔悪いな……〕
 
シンと龍成はまるで心が通じ合っているかのように対応する。私は慌てて龍成を説得する。
 
 「龍成は一度時間をおかないt!」
 
 「ルコ!もう、僕らだけの問題じゃないんだ」
 
龍成の叱責しっせきが私に飛ぶ。
 
 〔オレらは仲間だ。そして、もう情をかけあっている状態では勝てないヤツらを相手にしているんだ〕
 
 「……それは」
 
 <私もよく知っているよ……>
 
 「だから、気にせずにこの計画を練ろうよ……ね?」
 
 <なにをしているんだ!>
 
自分を責めた。こんなに龍成が無理してくれているというのに……。強い思いが浮き上がる。
 
 <もう足手纏いにはなりたくない……>
 
 「ごめん……。私は……龍成の生誕直後と………アイナの死の現場を見たわ」
 
龍成の嘆きや叫びが飛んできそうな瞳から強い力を感じ取る。そして、龍成は頭を下げる。
 
 「ありがとう。喋る気になってくれて……」
 
 <感謝なんてされていい立場じゃない………>

複雑な感情を抱き、龍成の顔を見られないまま語り始める。



《☆side流行
逃走日の前日に私の自宅に誰かが入ったのを知った。

 発狂してもおかしくなかった

瞬時に理解した。それが『カーセ家』の仕業であることを。幸か不幸か思考よりも体が動いており、気づけば龍成の自宅付近の物陰にいた。龍成の家の前で施設の連中が群がっている白衣たちを目視して、既視感を覚えた。経験や本能から諦めの指示が来ていたのか。もう立ち尽くすことしかできなかった。



アイナはアピスの尋問じんもんが脅し、そして拷問に成り果てていた。当時【土】のNo.1の『隣人』を使った脅迫であんなに耐えるのは、称賛したいと思ったほど。私が出てもどうしようもない状況だった。アピスは私に気付いていたけど、無視したのが何よりの証と言える。

 そんな時、状況を打破したのが、龍児

龍成の自宅から飛び出した龍児はたどたどしくも、強い意思でアイナの元へ歩いた。龍児は【土】のNo.1に歯向かい、打ち勝ってしまう。さらに、後から分かったがNo.1を『隣人』から降格・・・・・・・・させていた。異能が使えなくなるという異例中の異例。

 そこで龍児はアピスに気に入られてしまう

アピスはレールガンで龍児を狙い撃った。読唇術どくしんじゅつとアピスとの関りを思い返すに、『試験』とか言って一撃をなせるか、で測ろうとしたのだろう。

 レールガンは、アイナが龍児を庇った

目の前で母を失い、動転した龍児をアピスは気絶させ、連れていった》



☆side流行
話終わると、龍成の方から長い息を吐くのが分かった。私はひっそりと龍成の様子を盗み見る。

 「そっか……。ありがとうね、ルコ。やっぱり聞いてて良かった」

龍成は拳を作って、無理して笑うが、意外にも本心のようなのだ。割り切り方が切なすぎて……。私はやはり直視できなくなる。そんな私たちの空気に気づいているのか、いないのか不意に声が飛び込む。
 
 〔龍児が産まれて一ヶ月程度だろ?オレの記憶じゃ、その時は既に成人してなかったか?〕

 「……。それはわての創作物の一つやな」

再度、ケイトが私の体を乗っ取り問いに答える。私はほぼ無抵抗に彼女に渡してしまう。

 〔……えっと、ブツとか言っていたやつのこと?〕

 「……そうね」

私はケイトに体を譲ってもらって呟く。

 <もう大丈夫……>

それはケイトに、いや、自分に言い聞かせる言葉だった。私はそんなことを考えながら、口では既にまるでベテランのセールスマンを思わせる、流れるような説明を始める。


[今となっては、子どもに肉体の成熟の時間をなるだけ減らすことに重きが置かれた成長加速カプセル。通称『カプセル』。『カプセル』は本来、医療分野で脚光を浴びていた。保存状態を良好に保ちやすい点や入浴・栄養・排泄の管理などが高く評価され、救急車を始め、希少だが、極めて有用な存在。そうされていた。

ある時、『カーセ家』は人の選定をするかのように、子どもと暮らすことへ大きな税を発生させるように促し、同時に『孤児院』を立ち上げた。王族や貴族以外の大抵は子を捨てざるを得なかった。『カーセ家』は『施設』や『孤児院』、『学校』を裏から操り、資質のある有能だと認めた子を優遇し、それ以外をどう扱っているのかは明かされていない。

 『カーセ家』の当主、グルパンは『カプセル』を普及させた

それは、子の選定をより多く、効率良くするためである。『カーセ家』は狙ってか、国内の技術力は跳ね上がった。軍事力も言わずもが……]


 〔なるほど。それが龍児のちぐはぐの正体か……〕

 「……そ。体細胞分裂を促進させる電流やバランスの取れた栄養剤、摂取した栄養を効率よく体に行き渡らせるための薬……」

 <ホント……子どもに何させてんのよ………>

 「……ごめん」

龍成は私が無意識に力んだのに気付いたようで謝罪を零した。慌てて否定する。

 「龍成は悪くないよ!」

そんな状況まで追い込むグルパンがおかしいのだ。機具にも、製作者にも、龍成だって悪くない。空気を変えたく、とある疑問を問う。

 「質問!異能の範囲はどうなっているの?」

 〔ほう……『親和力』にも関わるが、龍児だと3m程度。良くて5mいくかも〕

 「おかしいよね?だって、あの時の【土】のNo.1は5mよりも離れていたはず。もっと言えば、VS.アピスの時は『星』でしょ?明らかに有効範囲がおかしい!」

シンはまるでその疑問を待っていましたと言わんばかりに余裕の笑みを浮かべていた。

 〔龍児のカードはオレの『異能』だけじゃない。龍児は『妖精』に愛されているんだよ。実際にどうしたかって言うと、『妖精』が意思を持ったと考えた方が分かりやすい。本来、『隣人』の命令を従ってあげている状態だったが、『親和力』で従わない場合はある。それの極端なパターンだ。そのNo.1?の命令を無視した挙句、嫌いになって『隣人』であることを拒んだんだよ〕

 「え?」

私もそれなりに(龍成のために)『隣人』や『神子』の情報を仕入れている方だと自負していたが、『妖精』にそこまで明確な自我があるなんて聞いたことがなく愕然としていた。

 「じゃ、じゃあ、他の『隣人』と龍児が戦った時になんで『隣人』のままなの?」

 〔【土】じゃないからだよ。龍成に溺愛した『妖精』が龍児を護ろうと傍に居てNo.1の『土』の『妖精』と交渉したみたい。属性ごとに言語が違うらしくて同族しか話が通じなかったらしい。はい、再会遅れてごめんね〕

シンはそんなことを言いながら龍成に何かを手渡した。龍成はそれを見るや、涙をこぼした。

 「つっちゃん!」

 〔アイナも龍児も護衛できずに自ら命を絶とうともしたらしい……〕

 「…そんな……。これまで、ありがとね……」

イイ感じの雰囲気がなくもないのだが、私は『妖精』見えずに展開についていけなかった。龍成はこちらに気づいてか、満面の笑みと共に告げる。

 「ルコ!ほら、つっちゃんだよ!」

 <知らないなぁ……>

思ったことを顔に出す訳にもいかないのだが、困惑を隠せなかった。少なからず顔をしかめてしまったようだ。龍成はあたふたと伝えようと試みる。

 「ルコ?ほら…初めて会った時も一緒にいたじゃん!」

そう言うと、龍成の手元に見覚えのある泥だんごができる。そこまでの様子で察する。この泥だんごが『つっちゃん』であり、龍児を護ったのだと……。

 なんて顔をしたらいいのだろうか……?

私がリアクションに困り、またしても顔を顰めそうになった時、横やりが入る。今回は、助け舟となるが……。

 〔悪いが、そこまで。龍児はつっちゃんのお陰でとりわけ【土】と相性が良くなった。ルコ。ここからが発展だ。龍児は『隣人』のように『頼み事』ができた。まぁ見えてたわけじゃないから、無意識だろうが『頼み事』ができたのだ。その影響は伝播していった〕

 「ま…さ……か」

そんな訳ないと考えを否定するが、シンは恐らくそれを伝えたいのだろう。夢の中とは言え冷や汗が流れるのを感じた。

 〔伝播が『星』を。つまり、龍児は『妖精』のネットワークを使いこなしたんだ〕

 「なっ…!」

 「……」

龍成は感情を隠さず驚きをあらわにする。対照に私は押し黙る。

 <この程度で驚いていられない……。全情報を冷静に、客観的に、収集しなければならない……。龍成の家族やケイト、シンのためにも、私自身のためにも……>

龍成が直接的に絡んでいないからだろうか、先ほど以上に冷静になれる。私の事前情報の真偽を確かめる。

 [異能の効果:知覚・操作できるようだ。異能の発動条件:流動性を認識すること。但し、『親和力』によっては『隣人』に一部の異能を無効化される場合もある]

そう言ったところだった。私の解釈を確認すべく、異能の大本に尋ねる。

 「流れるモノならなんでも操れるってことでいい?」

 〔そう認識できるならね……〕

中々、いや非常に強力だ。納得できた。この異能を制すれば、確かに世界一の国家も夢じゃない……。どこか他人事のように捉え、なんとなく感じていた疑問が氷解した。

 「どちらのもあなたの仕業でしょ?」

 〔あぁ…〕

 「そして、龍成を連れて来たのもあなた……」

 〔……〕

 「……」

シンだけでなく、龍成もどこか察して口をつぐむ。私の『夢』を流動的に認識し、異能を使ったとすれば、この妙な空間もあの明らかに違和感のあった夢も、頷ける。龍成は本物だから、当然生きていない。意識だけを持ってきているはずだ。おそらく、『魂』を流動的に捉えて、龍成をこの空間に運ばれたのだろう……。

 どうしても考えずにはいられない……

 「…【魂】を使えば、龍成は蘇るの……?」

 〔………〕

シンは腕を組んだまま、その人型の瞼と口を閉じたまま開かない。ここで確信する。

 できないじゃなくて、していないだけ

シンの異能の性能が回復したのならソーを助けに行ってもおかしくない。もしかしたら、死後の魂は早めの段階でなければ異能の対象を外れるのかもしれないが、それは現在達成していないみたい。決定的なのは、さっきの私の問いを即座に否定しなかった点。

 「お願い……。龍成を宿す器がないなら、用意する。わたしでもいい!……だから、お願い……」

シンは微動だにしない。

 「そうだ。この夢非現実で見た夢の内容は、私の末路だった。あなたの異能から考えるに『時間』を操作したんでしょ?その『情報』を私にインプットしたってところかしら?なら、時間は戻せるんでしょ?」

 〔………〕

無言を貫こうとするシンに泣きつく。

 「お願い。龍成は悪くないの……!だから、だから……!!」

 「…ルコ。シンは僕の体を使って言っていたじゃないか…」

 《君たちの不運も、オレらの頑張りもあいつらの思い通りでいいのか!龍児たちの生は無意味だと言うのか!?》

 <私は龍成さえ幸せだったr……>

そこで気づく、私の考えの根底が覆りそうになった。

 <龍成は死にたくて死んだわけじゃないけど、死を恐れていたわけじゃない。また、どこか死にたがっていた節もなくはない。そして何より、家族が揃った魂を引き離すという、非道な行為をしていないだろうか?>

全身があわ立つ。眩暈めまいさえしてくるのだ。

 <私は龍成が死んでも迷惑をかけるクズ女ってとこかしら……>

龍成は私の顔色を心配しながら、話し出す。

 「ルコ。僕はもう大丈夫だから、ルコはルコのために生きて欲しい。ほら、シンが時間遡行を今、してないのは、まだ希望があるからだよ!」

 《オレたちは生きてんだろうが!》

龍成とシンの言葉が私を熱くする。彼らと会わずにただ龍成の死と向き合っていたら、それこそ、『施設』への嫌がらせ放火と自殺程度しかできなかったと自分でも分かる……。

 龍成の最高の妹であるためにも、私が『カーセ家』を正さなきゃいけないんだ。

強く、深くそう決意した。シンには小声で2人っきりにして欲しいと頼んだ。流石に空気を呼んでくれたシンは夢の中からそっと姿を消した。一言残して……。

 〔龍成の最期の言葉はな……〕

 「っやめ」

龍成は必死に止めようとしたが、その抵抗は虚しく、私はシンの言葉に釘付けになる。しばらくして、この夢はずっと残っていた『砂』塵は消え去り、龍成が一時は望んだ宇宙に似た暗闇が訪れた。そこにあるのは虚しさではない……。そこにいた2人はそれぞれの行くべき場所に移っただけなのだから……。



目を覚ました私はヒビの入った水晶を強く抱え、ある人に再会すべく準備し始める。
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