解放

かひけつ

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第2章 ■なきゃ

オオカミ クライ

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私は夜通しで、よく彼らを観ていた。そのため身体が休みを求めていたのだろう。私は映らないモニターにも、暗闇の襲来にも気付けなかった。詰まる所、寝ていた。寝ていても、水晶を落とさないように、離さないように、しっかりと抱いていた。



《私は龍成との朝を楽しむために朝早くから教室で待っていた。

 「あの……流行るこちゃん。お話いいかな……」

振り返ると海月うづきがそこにいた。関りがないため、不信感を抱いてしまいそのまま口に出してしまう。

 「何か用かしら?」

 「ヒッ!」

どうにも顔が強張こわばっていたようだ。

 「どうかしたの?海月さん」

私は少しぎこちない笑顔で海月に話しかける。申し訳なさそうに話しを続ける。

 「あ、あのね……。流行ちゃんと仲良くなりたくて……」

 〈何のために?〉

 〈こっちの何のメリットg〉

龍成の言葉を思い出す。

 《考えるな!!とは言っちゃいけないな……。でも、今は考えすぎ、背負いすぎだよ……》

 〈はぁ……。ダメだ〉

 ふぅーーー

私は軽く頭を振りながら、小さな息で熱を吐き出す。

 「あら、海月うづきさん、何の用かしら」

できるだけ柔らかい表情と声音、おしとやかな仕草を意識する。

 「えっと、その……同じ境遇ってこともあって……。将来の夢とかあるの……?」

 〈他の人もいるd、ダメ!悪い癖だな〉

 「私は特に決まっていません。あなたはどうですか?」

 「えっと、その……薬剤師とかかな……」

 「へぇ~そうなんだぁ~」

私は思ったことを表情に出さないことに必死だった。

 〈早く龍成来ないかな〉

 「あっ、龍成君を待っているんでしょ?」

 「っ!!」

唐突な問いに反射的に立ち上がってしまう。

 「顔に出てたの……?」

 「分かりやすかったよ……。やっぱり、龍成君を狙っているの?」

 「ハハハ、違うよ…………」

 ズキッ……

胸の何処かが痛むのとは別に、違和感を覚えたがはっきりとしなかった。こんな話をしていても彼は来なかった。

 「学習を始めてくださ~い」

監督の先生のような人が呼び掛けられたので、席に着く。程なくして、後ろのドアが開く。すぐさま、その正体を確認すると期待は落胆に変わった。

 天子バカである。

見たくもない顔を眼にして無意識に舌打ちしてしまう。結局、この日、龍成が教室に来ることはなかった。



放課後になり他の子ども達がまだ遊ぶことを考えていたり、あのバカ共のようには能天気にドッヂボールなどを校庭で遊んでいたりした。そんなのには目もくれず、いち早く龍成の部屋に足を運び、チャイムを鳴らす。

 ピンポーン……

返事がない。でも、龍成の気配はなんとなく感じる。

 「龍成~~流行だよ。開けてよ~病人なら食べ物必要でしょ?」

 「……」

 「……違うなら、私に相談してくれない……?」

 「ごめん……。明日にはちゃんと登校するから……ね?」

その声音から恐怖や自責の念をどことなく感じる。「私には何もできないのか?」という無力感や「頼らないのではなく、(私なんかじゃ……)頼れないのでは?」という深読みが疎外感をあおるのだ。奥歯をみ締めていた。

 ガリィ………

 「…………ルコ?」

〈考えろ。何故、龍成がこんな目に遭っている?〉〈これは人為じんい的か、そうじゃないか〉〈人為的でないなら、きっと打ち明けてくれる。第一に隠す理由がない。つまり、人為的なことだろう〉〈龍成がこうなって得するのは?〉〈間接的に何が起こる?〉〈そもそも、原因は?〉〈誰かが愉悦ゆえつに浸るため?〉〈私がいるうちに龍成が陰ることはなかった。つまり一緒じゃないときになにかあった。私たちは登下校以外はほとんど一緒〉〈犯人はそれを知っている?〉〈犯人は身近にいる?〉

 〈もしかして…………〉



――ルコはたぶん気づかれているけど、僕は脅された。怪我していなかった。いや、無かったことにされた・・・・・・・・・・。だから、登校はできた。けど、勘のいいルコを巻き込みたくなかった。一生懸命、考えた。円滑に回る解決策を……。僕にはその頭はなかった

 ガリィ………

玄関前にいるルコから妙な音がする。

 「…………ルコ?」

ルコは聞く耳を持たなかった。それに気づいた時には……。

 「オオカミか……」

ぼそりと怒りと殺意などがい交ぜになった声音だった。

 ガチャ!

 「ダメだ!ルコ!!」

衝動しょうどう的にドアを開けるものの、ルコはその場にいなかった――



私は全力で走った。本気で考え、走って、キレたのは……。校庭に着くと案の定クラスの連中と共にバカはいた。苛立ちは加速する。声を荒げながら駆け寄る。

 「おい………何、暢気のんきに遊んでんの!?」

脚でバカを蹴ろうとするのだが、バカは微動だにしない。蹴りを入れる数瞬で相手をよく観察し、頭を働かせた。より確実に倒すために

 〈広い校庭で早い段階で視認できたはずなのに、動かない?〉

蹴りがバカに吸い寄せられるようにヒットする軌道だった。でも、咄嗟とっさに脚をひいた。

 「ほう?よく避けたな」

バカのかげから剣が伸びていた。それは見るからに鋭そうで脚をひかなければ今頃脚は……。剣の主は忍者を思わせる服装をしていた。全身黒衣装で小さな剣を構えていた。

 〈十中八九じっちゅうはっく、バカの護衛である〉

 「そいつは並みの運動神経だし、さっきの回避は偶々だろう」

バカの発言に心中で嘲笑する。忍は「こいつ正気か?」と言わんばかりにバカをガン見する。

 「テキトーに遊んでやれ」

忍は仕方なさそうに命令に従うようだ。思うとこがあっても、容赦はしないだろう。お互いに。

 〈何のために実力隠してきたと思っているの?〉

いつもするテストも、運動も、遊戯ゆうぎも全て本気を隠してきたのだ。

 今思えばこのためではと思うのだが……。

真の実力でも、体格や性別、技量、経験では明らかに負けているため苦戦を強いられる。徐々に押されてしまう…。こちらの切り札を切らざるを得ない。

 私には擬似的に未来が見えるのだ。

五感で手に入れた情報をリアルタイムで更新し、未来を予測する。攻撃の加速減速などでのフェイントに対しても僅かな筋肉の弛緩しかんからその動きを予測する。

 「……」

 「……!」

顔は無表情だが、明らかに警戒されている。隙を突こうとする忍の攻撃に対処する意思表示。通じ合う。下手な踏み込みや牽制は命とりだとお互いが感じ取る。

 よし、通用する。

一人取り残されたバカを横目に見ると、拮抗した戦闘にイライラしているのが顔から分かる。これまでの実力を信じてたバカを愚弄したくもなるが、それ以上に、龍成に手を出したのだけは許さない。その気持ちを改めて確認する。死角を突くつもりだったであろう攻撃をさらりと躱し、そこで近寄る。こちらこそ、忍が使いそうな猫だましを用いて、急所を狙う。僅かではあるが、効果はあった。

 <集中…>

まばたき程度のこの数瞬。そこで全身の筋肉を無駄なく、余すことなく使い、骨や拳の角度を考えて最高を一撃を、完璧なルートで繰り出す。

 「っ!!」

 「……!!」

そのストレートが当たる寸前に、今度は右腹から左に持っていかれる。慣れない方向からの力の介入。私が通った軌道は、急加速したのも相まって対数グラフのようで、バカとの距離がまた空いてしまった。体には『砂』がこびり付いている。かすむ視界で元の位置に見ると、『砂』柱・・・・ができていた。即座に理解する。

 <龍成が来てしまった。あの砂柱は龍成ではない。龍成が私を助けた>

 「くっ…」

 「ほう……来やがったか。またやられたいのか?」

バカの視線の先には龍成がいた。彼はバカなど目もくれず、私を見つめて叫ぶ。

 「君は『力もないのに歯向かうやつがあるか?バカでしょ?』って言ったけど……。僕はえるよ……。暴力に屈しない。大事なのは……気持ちだろ……?」

 〈あぁ……あんなやつらに構わなければ良かったんだ。選択肢を間違えた……〉

我に返る。もうこいつに構う時間が無駄だと、今になって気づく。彼に歩み寄り、迷惑をかけたことを自覚したため泣きつき……。

 「分かった……。ごめんね……。もう帰ろう……」

 「ルコ!後ろ!」

 〈大丈夫。見なくとももう動きは読める。忍者はもうサンプリングが済んだから〉

彼が引っ張る方向とは逆向きに、彼の体をらせる。まるで踊るように攻撃を避ける。

 「龍成。【砂】をお願いできる?」

 「ごめん。無理だよ……」

彼は暗い顔をして俯く。

 「どうしt」

 ドコォッ……

 「かっはぁ……」

 「ルコッ!」

また『砂』が私を吹き飛ばす。先ほどの龍成の『砂』とは異なり明確な敵意を感じる。そして、その予兆なしの『砂』柱は予測できなかった。つまり、物理演算では説明できない事象。隣人伏兵だ。聞きたくもない声が大きく囀る。

 「『人衆ければ則ち狼を食らう』って知ってるかァア?」

 [人衆ければ則ち狼を食らう…人が多ければ人を襲う狼をも殺して食べられる。 多数の力の恐r]

 〈知ってるさ!〉

苛立ちが先に来てしまうため、バカを無言で睨みつける。

 「おい。『龍』になりたいのに、『隣人』にさえ勝てないのか?口ばっかり……」

 〈バカの言葉なんか聞かない……。2人で幸せに過ごすだけでいいのに……〉

 〈とりあえず、あいつらを無力化する〉

私は隙を見て逃げることだけを考えたが、『砂の隣人』が邪魔すぎる……。私達は小声で話し合う。

 「ごめん……。僕には『親和力』が負けているようなんだ……」

 「『親和力』……?」

多少待っても、辞書の『引用』に引っかからない……。

 〈常識的な一般知識ではないものなのだろう……〉

 「あぁ……簡単に言えば、『隣人』同士でも異能の優先度と言うものがある。それであいつに劣っている……」

 「完全に異能が封じられるの?」

 「あくまで優先度が低いだけで、使えはする……」

龍成は手元で小さな『砂嵐』のようなものを作り出す。現状の悪さに思わず舌打ちをする。忍が私達に駆け出し、剣を振り回す。それの合間から『砂』が襲い掛かる……。

 「……龍成……お願い」

 「…!」

龍成にだけ聞こえるくらい小さな声で言うと、龍成は小さく顎を引く。忍がかすように詰め寄る。私は忍の斬撃を紙一重で躱す。躱す、躱す、躱す。届かなかった一撃の重みを忍は知っている。故に警戒レベルを吊り上げており、接近が難しい。急所も狙いにくくなっている。だからこそ、身をかがめ雰囲気を装う。左手と左足を忍を待ち構えるように伸ばし、『砂』埃が自然な感じで絡みつくことで異様な雰囲気を醸し出すことに成功する。

 「……」

 「………」

距離を取られる。忍は警戒中。オオカミの仲間である『隣人』は様子見。オオカミは「やれ!今がチャンスだ」などと野次を飛ばす。完全に勝機。忍には勝てはしなくても、『隣人』さえ行動不能にできれば、逃げられる。

 角度、足運び、投げ方、リリースポイント、パワー、風向き、行動予測……きた!!

忍の体で見えない位置関係。故に誘導できたこのライン。それに乗ろうとする重心移動を見逃さなかった。

 脳内で描いていた完璧なアクションを再現する。

『隣人』がラインにのり、ソレを気づくまでのラグが予想より随分遅い。忍は投『石』に気付いていても、最適な判断が下せていない。そこでほくそ笑む。龍成がアドリブを利かせて、『隣人』に妨害をかけていた。周りの『砂』をこっそりどけたり、集まろうとする『砂』を邪魔したりと最高の仕事をする。

 <あぁ…最高のチームワークじゃないか>

素直にそう思う。もう勝ちを確信しているのだ。現在進行形で行われる予測もそう言っている。避けられたらお終いだったのはそうだ。目星が付いていたのだ。あんな能力だけに過信してそうなやつが、身体を鍛えていないやつが、避ける技術を持ちえないだろう。

 <何より…それを嘲笑う攻撃。無回転投法だ>

 [無回転投法…主に球技のサーブで用いられる技法。シュートにも同じ技法が存在する。原理は無回転のボールの背後の乱流が]

癖で引用をキャンセルしてしまうが、説明を聞いても良かった。もちろん、理屈は知っているし、説明もできるが、それほどまでに余裕がある。

 「ガッハ……!!」

 <クリーンヒット……!ただ………>

 「……無能が…」

『隣人』によるガードも虚しく、意識を刈り取り、バカはご立腹。そんなことより…。

 <良くも悪くも……殺してはないみたいね>

急所が人体にいくつもあってよかった。今回は死なせることよりも、急所に当てる確率を最優先した結果だけど……。下手に殺してしまっても、龍成に気負わせてしまうし仕方ない。

 <まぁ殺した方が復活や因縁の可能性がなくなるから、合理的ではあるんだけど…まぁ充分でしょ>

 「…うん。百点」

 「…す、すごいね……」

龍成はちょっと引き気味で返す。ブレが生じるこの投『石』は回避不可が、コントロールも難しいが、やろうと思えば、遠距離から無回転投法でのピンポイントヒットは可能だということだ。パターンを絞っていたからこそ、できる神業。いや、二人だから勝ち得た勝利である。

 <これで…安全へ大きく近づいた。逃げられさえすれば、追手の状況次第ではあるがこの国から脱出するのもアリ。別に、愛着も何もないし……。へぇーー>

ザッ…、ズァアン!!

 「……!!」

私は忍の刀を何後もなかったように避けつつ、その回避行動の勢いで反撃する。流れるような蹴り技で我ながら惚れ惚れする。思った以上にあっけなく忍は再起不能に陥る。

 「ルコ!!」

が、同時に背後から早く、鋭い、大きな払い切り。それすらも、紙一重で躱す。背後からもう一人の忍が来ていることには気付いていた。この位置取り、この間合い、重心、余力。

 いけるっ!!

 〈返す刀…!〉

視界の隅で刃が逆さになるのを確認する。この刃は私を目がけて進行方向を逆転させるのだ。

 〈踏み込みからの払いはフェイントということらしい……それでも……〉

私は敢えて踏み込む。この一手さえ防げれば私の間合い。お互いがカウンター狙いで間合いを詰める。

 「ルコ!」

龍成の『砂』が忍者の足元に悪戯いたずらを謀る。踏み込めなくなった忍は、清々しい顔で

 「見事」

とだけ言って私に意識を預ける。脚が容赦なく顎を捉える。即座に、忍の手から剣を奪い取ると、右に転がる。

 これは勘だ。

忍の体を『砂』が覆う。どういうわけか……。敵さんは倒せていなかったらしい。今度こそはと、血走った眼をこちらに向ける『隣人』。転がった直後、すぐさま立ち上がり、走り出す。『砂の隣人』に剣を陽動に投げ、剣の進行方向と直角なるように走る。

 <これで『砂』を使わせて、一度龍成と戦線離脱しよう。まずはそこから>

そのつもりが、『砂』は剣を飲み込んで尚、勢いを緩めず私に襲い掛かる。

 〈うそ……〉

不意を突かれた。予想を上回ってきたのだ。一手、間違えたようだ。あの砂は剣も混じっている。怪我で済むかも怪しい。勝ち目が見えなかった。

 〈これは……。もう……。龍成ごめんね……〉

私は諦めに移行し、そして、龍成に謝罪が浮かんだ。

 〈何もできなくて〉〈独りにさせて〉〈巻き込んで……〉

 〈私達は会わない方が良かったかな?〉

 ドザァアアア!!

もう視覚を放棄していた。『砂』がトドメを刺しに来たようだがいくら待っても痛みが来ない……。そして察する。

 「笑ってた方がいいって言ったじゃんか……だから……泣かないでくれよ」

彼の脇には剣が刺さっていた……。

 「なんで……。そこまで私に与えてくれるの……」

 「あはは……。君が言うか……。妹を身をていして守るのが兄の役目だと思っちゃうからかな……」

分からない……。言葉にならないなんとも言えない気持ちに苦悶していたが、相手には関係ないようだ。

 「おうおう、盛り上がっているようだが、もうフィナーレだぜ?同族隣人さんよ」

『砂の隣人』からの終了宣言で冷静になる。私が立ち上がろうとすると、足に痛みが走る。どうにも捻ったようだ。私は何もなかったかのようにうそぶく。

 「まだやれるよ……」

 「嘘を吐くのが下手なんだよ。いっつも……」

 「でも……!」

 「僕に任せて……」

そういう彼の方が……無茶しているようにしか見えなかった。

 「無理しないでよ!!」

 「そんなことで終わらないよな?同族」

 「僕は……まだ戦うさ。君にここまでやってもらったんだ。危険を冒してまで……」

 「だめ……行ったら……」

分からないけど、ここで行かせてしまったら……もう会えないんじゃないのかなって……。変な危険察知能力が警鐘を鳴らしている……。

 「大丈夫……。ほら笑って……もう、泣かせないから」

覚悟を決めた彼には何を言ってもいけないと感じた。だから……。何も言えず彼の背中を見ていた。

 「自己紹介が遅れたな。No.3の【土】の!」

 「もう……。喋るな……!」

彼は脇に刺された剣を抜いて、それを構える。既に彼の体は………。

 「同族よ!楽しませてくれよ!」

『砂』でできた蛇のような塊が彼を襲う……。彼は成すすべもなく飲み込まれる。砂埃が晴れると、そこには彼が立っているものの…、ダメージはしっかり通っていた。

 「……もう」

彼は進もうとする。『砂』や傷が身体に纏わりつこうが……。彼はあの『隣人』に近づいていく。

 「………もういいんだよ……」

彼がボロ雑巾のような扱いをされるのは見ていられなかった……。

 「もう止めてよ……!」

考えるより早く、足を引きずって彼に寄る。もう戦うつもりもなくない。

 〈龍成さえ無事なら…いいのに………これじゃあ笑えないよ……〉

『砂』の標的にされる……。もう避ける機動力もありはしない……。

 そんなことはどうでもいい。

私は泣きそうになりながら、ひざまずいて乞う。

 「降参するからぁ……龍成を……龍成だけは助け……」

またしても、『砂』に呑まれることはなかった……。

 「言っただろ……泣かせないって……」

 「嘘だr…、うぅ…!!」

『砂』は壁のように私の周りに展開され、『隣人』を『砂』の手で掴んでいた。状況を把握する。恐らく、龍成の『親和力』が上がったんだろう。

 「良かった……」

私が言ったのか……。彼が言ったのか……。関係ない。

 〈龍成は確かにボロボロだが、異能は使えるようだし、それに対する疲労は少なそうだ。つまり、この場を収束する程度の行使はできそうなので、もう勝てる盤面のはず……〉

 「もう終わったんだ……」

そう安堵のため息を吐こうとすると、

 ドォン!

校庭にはほとんど人はおらず残っているのは、私と龍成、忍者(→気絶)、No.3、バカだけである。音の主はバカのようだ。どうやら、拳銃を持っていたようだ。銃弾の着弾点は足元……。所謂いわゆる威嚇いかく射撃である。

 「どいつもこいつも使えない!!もう失望した。この手で殺してやる……」

 〈考えるに、バカは人に撃ったことはないようだが、この錯乱状態とバカの後ろ盾なども考慮すると撃ってもおかしくない……〉

それでも、撃つタイミングは手の動きで、銃口が軌道を教えてくれるのだ。当たるわけg

ガクッ…ドサァ

 「ハハハハハ!!」

バカは高笑いを始める。私の平衡感覚は狂いに狂い、バランスを崩す。なんとか意識すると、身の周りには『砂』埃とは別に妙な煙が混じっていた。

 「嘘っ……薬……」

初めの銃弾はどうも威嚇射撃ではなく正確に当てるための布石というわけだ。揺らぐ視界から回避の困難さがうかがえる。

 「撃つなら……僕だけにしてもらえないか……?」

龍成が私を庇うように立ちはだかる。

 〈大量出血の上、足も動きにくいはずなのに……〉

 「っ……あっ!」

最早、舌も回らない……。

 「お前が不満だったのは、ルコの笑顔だろ……?僕がいなくなれば、しばらくは笑えなくなるんじゃないか………?」

 〈嫌だ……!!〉

必死に訴えているつもりだが、伝わる気配がない……。

 〈泣かせないって言ったでしょ……〉

 「ほら…撃てよ……」

 〈嘘つき!〉

 タァーン

銃音が校庭に響き渡る。

 辛うじて見えた視覚には右腕を失くしたバカが映った。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ」

 〈………は?〉

バカは敵意を失ったように泣き叫んでいた。

 「……」

 「龍成?」

 「……」

 龍成は私を庇うように立ったまま動かない……。

腕は動いたので這って龍成の元に行くと脈は確認できた。失神しているようだ。とりあえず、無事なのを確認して安堵した。

 〈良かっt……〉

安堵した直後、意識が薄れた。緊張の糸は今にも切れそうで倒れてもおかしくなかったのだが、

 「起きろ。迎えに来たぞ」

視界がクリアになる。疲労感がなくなり、元気になる。足の捻りなど微塵も感じない。現状の異常さに理解してしまい驚きが隠せなくなる。

 「えっ……」

先ほどの声の主に顔を向けると、10人以上の黒服集団と場違いを思わせる白衣の2人組が目に付く。一方の白衣には、胸元に名札のようなものがあり、『アピス・カーセ』それ気が付くと、『引用』される。

 [カーセ家…大陸一の大貴族。科学力、経済力など他の追随ついずいを許さない。その技術は武力、医療、不老不死、異能研究などに通じると嘘か真かうわさs…]

突然のビッグネームに額に冷や汗を僅かに滲ませる。アピスはニヤニヤといやらしい笑みと共に言い放つ。

 「先に言っておくが拒否権はない。さぁ、選択の時だ」

私はできるだけ冷静さを保つ。これまでの経験がここからの選択肢を間違えるとしに直結しかねないことを悟る》
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