19 / 136
インターミッション
■を受け入れるモノ
しおりを挟む
☆side流行
私は夢の中にいた。それは自覚できていた。なぜなら、夢じゃなければ……。有り得ない光景だったから。
目の前には、見覚えのある少年が男女の大人に手を繋いで笑っている家族の姿があった……
「……っ」
ずっと画面越しで見ていたかわいそうな少年。自分がそこにいると錯覚しそうな容姿だが、私にはない雰囲気を発する女性。……そして、見続けた親友の背中。その全てが…胸のどこかを締め付けるのだ。私は彼らの姿を見続けることができず、俯く。
「#%」
あの声で呼ばれた気がした。見上げれば、龍成がこちらに手招きしている。
行きたいよ、すぐにでも…
歩み寄ろうとした。行く資格ができたと、全ての責務は果たしたという想いと、シンとケイトが交差する。シンを思い出したからなのか、それとも、ただの勘や虫の知らせか、ある言葉を思い出す。
《君たちの不運も、オレらの頑張りもあいつらの思い通りでいいのか!龍児たちの生は無意味だと言うのか!?》
そんなことないと断言できるほど、行動はしたつもりだった。だから、そんな言葉を無視した。
「ま、待って!!」
私が龍成に追いつく前に闇が辺りを覆っていく。龍成との距離はいじらしい程に縮まらない。
「…嫌だ……」
<やっと終わったのに…「無意味でした」なんて「ドッキリでした」で終わっていいわけない!感謝されるためにやったわけではない……。でも、認めてもらえないのは………違う…!!>
存在も、過去も、今も………否定されたら、壊れてしまう
「#%」
私の体の8割は闇に覆われて、機動力を失う。龍成たちもまた闇に覆われていく。気が付けばすぐ傍で、ケイトとグルバンが何かを待つように、身を寄せ合って闇に包まれてしまう。
「…だめ。止めてっ……!」
報われないじゃないか。命を懸けて子供を、自然を、愛を信じた家族を蔑ろにするのは……。歪んでしまった愛が時空を超えて復活した。周りに迷惑をかけたし、多少悪ではあったが、再び通じ合えたんだ。やっと理解し合えた、そんな二人をこうも簡単に潰してしまうなんて、
あんまりじゃないか!
自分を重ね合わせてしまうせいか、気持ちが強くなる。でも、どこか冷静な自分もいた。結局、独りにはなれないんだ、私は。
「#%!」
雑音が大きくなっていく。正気か狂気か、心身、外的環境、いずれかの要因でこの夢から解放される。その直前で見てしまう。独り闇に飲まれない人型の影。…暗い表情のシンを。
私は頭を抑えて起き上がる。
「大丈夫かい?うなされていたようだが…」
「…問題ないわ。……ただの悪夢よ」
夢そのものを闇が包んでいるかの如く思い出せない。少なからず顔を顰めていたせいか、シンが心配してくる。
〔大丈夫?…『夢』が気になるなら、見る?〕
〈大丈夫。……好き好んで悪夢を見ないわよ〉
グルバンは純粋に心配している。何を思ったのか、ふと言葉が漏れる。
「心配なのは、ケイトでしょ?安心s」
「わしは、ルコに言っているんだ。娘のようで、妻に迎えようとした人物で、対等な隣人だろ?」
「……」
「…あっ、君がわしの家族として見て欲しくないのかと思って言わなかったg……」
私が押し黙っていたのは、実感が湧いたと言った方が適している。認めて貰えた。どことなく、シンやケイトとの話が夢物語やゲームのようで、そして、謎の悪夢のせいか終わりじゃないという予感があってしまった。それ故に、変えられたんだと……。自身の人生に意味があったのだと感じることができた。グルバンを、カーセ家を、私自身を救えた気がして気が安らぐ。
「隣人でいいわよ。丁度良さそうだし……。とりあえず」
私は『カーセ家』のグルバンの自室のソファーで寝ていた。随分、時間が経ったようだ。私はフラフラと立ち上がり、壁に近寄る。
「…もう、職務はない?」
「……あとは、死ぬだけじゃないか?」
「…そう」
壁の中には電気を運ぶ線が入っている。それを利用する。本来、機械なしでできはしないが、『異能』を用いる。
「ハック」
〈こう…して……こぅ。…よし、これで………〉
異能の仕上げ途中に、嫌な予感と言うべきか、視界が揺らぐ。
「ルコ!」
何とか堪える。激しい動悸が徐々に収まっていく。私がグルバンに突き出した手に察したグルバンは私が落ち着いたころを見計らって言葉を投げかける。
「……お疲れ様」
「……そんなことより、もう終わりよ」
「まず、キミが落ち着いてから…」
「……分かったわ」
連続使用の方が負荷が大きいそうだとグルバンに思われているだろう。ソファーにグルバンと間隔を空けて座る。静かになるのを嫌ってか、グルバンが喋りだす。
「…さっきの配線ハックで具体的に何をしたんだ?」
「まず前提として、発電所から電気は運ばれている。つまり、配線は発電所と繋がっている」
「あぁ」
「配線に沿って、とある命令を送りつける。たったそれだけで、この国の電気製品の使用はかなり厳しくなる」
「…ほぅ。例の異能か」
「そ。命令は至極単純。『配線に繋がった電気製品に自壊プログラムを送る』ただそれだけ」
<……うん、それだけ>
「……恐ろしいな。それを発電所に送り付ける。事実上の電気供給の終了。そこまで、するとは容赦ないな。……本当にケイトが許可したのか?」
「嘘だったらどうなるか分かっているか」と言わんばかりにグルバンが殺気を飛ばす。
「落ち着け。わてが許可した。シンの異能を知って、アイナの夢も叶えてやりたくなった。それだけよ」
《できるだけ自然がいいの…》
「……」
自分のことは二の次で、眩しくて、優しくて、強いアイナの言葉にケイトも惹かれるものがあったようだ。私は…なんとも言えない。
「良かった…。疑ってすまない」
「…別にいいよ」
グルバンはケイトや自分を利用されていることを危惧したようだ。素直に安堵する。私は話が切れたのを見計らって立ち上がり、手を差し伸べて切り出す。
「…さて、そろそろね」
「その前に、シンに話をさせてくれないか……?」
言われるがままにシンに意識を預ける。シンが一言二言、言葉を交わすとすぐに意識を戻してくれる。
「……もう、やり残したことはない?」
私は再度手を差し出す。
「あぁ」
グルバンは反射的にハグをしかけたが、自制し、握手を求める。その手を受け取り、異能を発動する。
「【時間加速】」
『異能』で時間の経過を加速させた。それだけである。減速や巻き戻しは難しくても、加速は案外簡単なものだ。私たちの周りの速度が遅く感じる。目の前の青年の姿をしたグルバンは確実に老化していく。私もまた、立つのが辛くなっていく。
「…ルコ。最期に……」
絶対時間的には数秒。それでも数十年の重みがあるのだ。
「……なに?」
お互いぼやけた視界の中で、確かな存在を確認し合った。
「…ありがとう」
私はこの人生を満足して、安らかに息を引き取った。
☆sideシン
オレはルコとグルバンの最期を見届けた。過度な贖罪と思うかもしれないが、ある種の救いだ。二人は生きる目的を失くしてしまった。逆にこれ以上、罪を背負え(生きながらえろ)という方が酷だと思わずにはいられない。オレはルコ、グルバン、ケイトの魂があるべき場所へ送り届けようと決心した。不意に機械音声が部屋に響く。
「今日国王へとなったグルバン王から急遽、会見を開くためマスコミを招集しました」
グルバンの覚悟を感じたいがために、逆にお願いしたのがこのラジオである。
「わしは国王の『資格』がなかったんだ。愛する妻を失って、勘違いを科学に押し付け、現実から目を背けたんだ。科学で子どもたちを、守るべき自然を、様々な人生を潰してしまったんだ。科学が悪いわけじゃない。わしは悪用してしまったんじゃ。現在、機械に頼り切っている者がいると思うが、機械の使用を極力制限させてもらう。機械で延命、救助できる命には悪い話かもしれない。だが、元々なかった物なんだ。人間は強欲すぎるんだよ。永遠に存在するものなんてない…ハズなんだ。多少自分勝手ではあるが、機械の制限、そして、国王を辞職する」
<オレには…伝わったぞ……グルバン>
しみじみと感傷に浸っていた。そんな中、場違いな声が部屋に響く。
「っちわーーっす。元気やってる?」
聞きたくない声だった。何度も焼き付いたその声の主は…完全に憎悪の対象であった。
<死んだと思っていたのに………>
元凶的存在であり、ソーの、龍児の、龍成の……無念の、積年の、雪辱の仇なのに……。
「案の定、死んでんじゃん。これ、死因なんだ?変死?」
挙動の一つ一つが神経を逆撫でする。何と言っても、グルバンとルコの死を冒涜するようなマネ許されるわけがない。アピスにずかずかと歩み寄り、拳を固める。
〔…なんで……生きてんだよぉ!!アピス!!!〕
虚空を殴り続けることしかできないのだ……。オレも知っていた。龍児やルコのような適合者が近くにいないと、異能は発動できない。物質のある、愛すべき、そして、怨敵がいるその世界に干渉することさえ叶わないのだ。
あんなヤバイ奴が安全策を用意せずに『神子』に近づくか…
<頭では分かっていた。でも、でも……!!>
「ふむ。腕は二つあるし、一個くらいいいか」
ルコの腕を無造作に引きちぎる。怒りの沸点が爆発する。
〔ってめぇ!!〕
<報われなさすぎるだろ。誰が望むというんだ。こんなっ、こんなやつの一人勝ちなんて!!……許されないんだ。許せるわけがないだろうがっ………!!!>
いくら吠えても何もできない無力感と、何もせずにはいられない衝動がオレを襲う。泣いていたかもしれない。情緒なんてとっくに壊れてしまっていた。オレらの状態なんて関係なくラジオは続ける。
「次国王は前国王の息子さんに継がせることを提案する。これは血縁や忖度などを度外視した純粋な評価として彼は有能だからだ。また、外交や業務についても安心してほしい。前国王に直接教わったその手法をまとめたノートを……」
この空間に留まらず、ラジオからも異変が生じる。
「あーあー。俺はアピス・カーセ。現在放送をジャックしてまーす」
〔は?〕
<この放送自体が過去のものだったのは分かる。それをジャックするのもまた、過去にプログラムしていたというのか?>
「俺が国王になりまーーす。彼らが保証してくれまーす」
〔ふざけんなっ!これ以上…命を懸けたあの子たちを侮辱するのh〕
そこまで、叫んだ時だった。
「前々国王だ。アピスは頭が切れる。何より、【雷】の『隣人』のNo.1であることも相まって、この国一の天才だろう」
「前国王のグルバンだ。わしの自慢の息子だ。人類の叡智を飛躍させる技術者にして、異能を管理する『施設』の最高責任者。勤勉で博愛的、史上最高の王になることを保証する」
〔なんで…だよ。……グルバン〕
理解不能。いや、理解したくのないともいえる。頭がまともに働かない。
「ふ~ん♪」
上機嫌にソファーでグルバンのものらしきノートを読む姿があまりにも憎たらしかった。同時に、何もできない自分もまた殺したくなるほど恨めしかった。
一言も言葉を発せずに、誰もいなくなったグルバンの私室で独り黄昏ていた。理解した。ただ手を貸すだけじゃ、少々時間をいじろうが、絶望的な結果は変えられないことに………。
必ず、アピスは潰す
クールダウンする。状況を理解したから、誰よりも状況を把握しているオレが、アピスとオレのせいで滅茶苦茶になってしまった世界に対して、オレにも責任があったのだ。緻密な計画な基で決行するとして、もう一つやることがあるのだ。グルバンの頼みを叶えなければ、本当にグルバンが報われないと思い、とにもかくにも会いに行くのだった。
《side??
ぼくは白めの部屋にいた。まぁ、ぼくは物質界や現世とも言える世界に干渉することは、ほとんどできやしない。ましては、なんの力も持たないただのガキだし、当然と言える。そんな死んだような日々でも対話ができる彼女と会えた。至福の時間。それだけで、幸せといえるほどに……。それが極上なのか、飢えているだけかは分からないけど、ただただ幸せだった。ぼくは日に日に悪化する彼女の容態を無視することなんてできやしない。
ぼくは病室の窓から外を見ていた。静かでどこか眠気を誘う夜風はぼくには影響せず、ボーっと月を見ながらつい願ってしまった。
<神様、彼女をどうか助けて下さい>
どこか既視感を覚えたんだ。どれだけ昔のことかは覚えているはずもない。でも、忘れるわけがなかった。
<”&…きみとの出会いもこんな夜だったっけ……>
現実に目を向ける。ベットに眠る儚い彼女の存在は無慈悲な現実を突きつける。
「……」
黙り込んだ。思考も限りなく無に近い。微かな希望なんて辛いだけだから……。言い慣れた現実逃避のフレーズを口に出す。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」
感情の死んだ声が辺りに虚しく響いた気がした……》
私は夢の中にいた。それは自覚できていた。なぜなら、夢じゃなければ……。有り得ない光景だったから。
目の前には、見覚えのある少年が男女の大人に手を繋いで笑っている家族の姿があった……
「……っ」
ずっと画面越しで見ていたかわいそうな少年。自分がそこにいると錯覚しそうな容姿だが、私にはない雰囲気を発する女性。……そして、見続けた親友の背中。その全てが…胸のどこかを締め付けるのだ。私は彼らの姿を見続けることができず、俯く。
「#%」
あの声で呼ばれた気がした。見上げれば、龍成がこちらに手招きしている。
行きたいよ、すぐにでも…
歩み寄ろうとした。行く資格ができたと、全ての責務は果たしたという想いと、シンとケイトが交差する。シンを思い出したからなのか、それとも、ただの勘や虫の知らせか、ある言葉を思い出す。
《君たちの不運も、オレらの頑張りもあいつらの思い通りでいいのか!龍児たちの生は無意味だと言うのか!?》
そんなことないと断言できるほど、行動はしたつもりだった。だから、そんな言葉を無視した。
「ま、待って!!」
私が龍成に追いつく前に闇が辺りを覆っていく。龍成との距離はいじらしい程に縮まらない。
「…嫌だ……」
<やっと終わったのに…「無意味でした」なんて「ドッキリでした」で終わっていいわけない!感謝されるためにやったわけではない……。でも、認めてもらえないのは………違う…!!>
存在も、過去も、今も………否定されたら、壊れてしまう
「#%」
私の体の8割は闇に覆われて、機動力を失う。龍成たちもまた闇に覆われていく。気が付けばすぐ傍で、ケイトとグルバンが何かを待つように、身を寄せ合って闇に包まれてしまう。
「…だめ。止めてっ……!」
報われないじゃないか。命を懸けて子供を、自然を、愛を信じた家族を蔑ろにするのは……。歪んでしまった愛が時空を超えて復活した。周りに迷惑をかけたし、多少悪ではあったが、再び通じ合えたんだ。やっと理解し合えた、そんな二人をこうも簡単に潰してしまうなんて、
あんまりじゃないか!
自分を重ね合わせてしまうせいか、気持ちが強くなる。でも、どこか冷静な自分もいた。結局、独りにはなれないんだ、私は。
「#%!」
雑音が大きくなっていく。正気か狂気か、心身、外的環境、いずれかの要因でこの夢から解放される。その直前で見てしまう。独り闇に飲まれない人型の影。…暗い表情のシンを。
私は頭を抑えて起き上がる。
「大丈夫かい?うなされていたようだが…」
「…問題ないわ。……ただの悪夢よ」
夢そのものを闇が包んでいるかの如く思い出せない。少なからず顔を顰めていたせいか、シンが心配してくる。
〔大丈夫?…『夢』が気になるなら、見る?〕
〈大丈夫。……好き好んで悪夢を見ないわよ〉
グルバンは純粋に心配している。何を思ったのか、ふと言葉が漏れる。
「心配なのは、ケイトでしょ?安心s」
「わしは、ルコに言っているんだ。娘のようで、妻に迎えようとした人物で、対等な隣人だろ?」
「……」
「…あっ、君がわしの家族として見て欲しくないのかと思って言わなかったg……」
私が押し黙っていたのは、実感が湧いたと言った方が適している。認めて貰えた。どことなく、シンやケイトとの話が夢物語やゲームのようで、そして、謎の悪夢のせいか終わりじゃないという予感があってしまった。それ故に、変えられたんだと……。自身の人生に意味があったのだと感じることができた。グルバンを、カーセ家を、私自身を救えた気がして気が安らぐ。
「隣人でいいわよ。丁度良さそうだし……。とりあえず」
私は『カーセ家』のグルバンの自室のソファーで寝ていた。随分、時間が経ったようだ。私はフラフラと立ち上がり、壁に近寄る。
「…もう、職務はない?」
「……あとは、死ぬだけじゃないか?」
「…そう」
壁の中には電気を運ぶ線が入っている。それを利用する。本来、機械なしでできはしないが、『異能』を用いる。
「ハック」
〈こう…して……こぅ。…よし、これで………〉
異能の仕上げ途中に、嫌な予感と言うべきか、視界が揺らぐ。
「ルコ!」
何とか堪える。激しい動悸が徐々に収まっていく。私がグルバンに突き出した手に察したグルバンは私が落ち着いたころを見計らって言葉を投げかける。
「……お疲れ様」
「……そんなことより、もう終わりよ」
「まず、キミが落ち着いてから…」
「……分かったわ」
連続使用の方が負荷が大きいそうだとグルバンに思われているだろう。ソファーにグルバンと間隔を空けて座る。静かになるのを嫌ってか、グルバンが喋りだす。
「…さっきの配線ハックで具体的に何をしたんだ?」
「まず前提として、発電所から電気は運ばれている。つまり、配線は発電所と繋がっている」
「あぁ」
「配線に沿って、とある命令を送りつける。たったそれだけで、この国の電気製品の使用はかなり厳しくなる」
「…ほぅ。例の異能か」
「そ。命令は至極単純。『配線に繋がった電気製品に自壊プログラムを送る』ただそれだけ」
<……うん、それだけ>
「……恐ろしいな。それを発電所に送り付ける。事実上の電気供給の終了。そこまで、するとは容赦ないな。……本当にケイトが許可したのか?」
「嘘だったらどうなるか分かっているか」と言わんばかりにグルバンが殺気を飛ばす。
「落ち着け。わてが許可した。シンの異能を知って、アイナの夢も叶えてやりたくなった。それだけよ」
《できるだけ自然がいいの…》
「……」
自分のことは二の次で、眩しくて、優しくて、強いアイナの言葉にケイトも惹かれるものがあったようだ。私は…なんとも言えない。
「良かった…。疑ってすまない」
「…別にいいよ」
グルバンはケイトや自分を利用されていることを危惧したようだ。素直に安堵する。私は話が切れたのを見計らって立ち上がり、手を差し伸べて切り出す。
「…さて、そろそろね」
「その前に、シンに話をさせてくれないか……?」
言われるがままにシンに意識を預ける。シンが一言二言、言葉を交わすとすぐに意識を戻してくれる。
「……もう、やり残したことはない?」
私は再度手を差し出す。
「あぁ」
グルバンは反射的にハグをしかけたが、自制し、握手を求める。その手を受け取り、異能を発動する。
「【時間加速】」
『異能』で時間の経過を加速させた。それだけである。減速や巻き戻しは難しくても、加速は案外簡単なものだ。私たちの周りの速度が遅く感じる。目の前の青年の姿をしたグルバンは確実に老化していく。私もまた、立つのが辛くなっていく。
「…ルコ。最期に……」
絶対時間的には数秒。それでも数十年の重みがあるのだ。
「……なに?」
お互いぼやけた視界の中で、確かな存在を確認し合った。
「…ありがとう」
私はこの人生を満足して、安らかに息を引き取った。
☆sideシン
オレはルコとグルバンの最期を見届けた。過度な贖罪と思うかもしれないが、ある種の救いだ。二人は生きる目的を失くしてしまった。逆にこれ以上、罪を背負え(生きながらえろ)という方が酷だと思わずにはいられない。オレはルコ、グルバン、ケイトの魂があるべき場所へ送り届けようと決心した。不意に機械音声が部屋に響く。
「今日国王へとなったグルバン王から急遽、会見を開くためマスコミを招集しました」
グルバンの覚悟を感じたいがために、逆にお願いしたのがこのラジオである。
「わしは国王の『資格』がなかったんだ。愛する妻を失って、勘違いを科学に押し付け、現実から目を背けたんだ。科学で子どもたちを、守るべき自然を、様々な人生を潰してしまったんだ。科学が悪いわけじゃない。わしは悪用してしまったんじゃ。現在、機械に頼り切っている者がいると思うが、機械の使用を極力制限させてもらう。機械で延命、救助できる命には悪い話かもしれない。だが、元々なかった物なんだ。人間は強欲すぎるんだよ。永遠に存在するものなんてない…ハズなんだ。多少自分勝手ではあるが、機械の制限、そして、国王を辞職する」
<オレには…伝わったぞ……グルバン>
しみじみと感傷に浸っていた。そんな中、場違いな声が部屋に響く。
「っちわーーっす。元気やってる?」
聞きたくない声だった。何度も焼き付いたその声の主は…完全に憎悪の対象であった。
<死んだと思っていたのに………>
元凶的存在であり、ソーの、龍児の、龍成の……無念の、積年の、雪辱の仇なのに……。
「案の定、死んでんじゃん。これ、死因なんだ?変死?」
挙動の一つ一つが神経を逆撫でする。何と言っても、グルバンとルコの死を冒涜するようなマネ許されるわけがない。アピスにずかずかと歩み寄り、拳を固める。
〔…なんで……生きてんだよぉ!!アピス!!!〕
虚空を殴り続けることしかできないのだ……。オレも知っていた。龍児やルコのような適合者が近くにいないと、異能は発動できない。物質のある、愛すべき、そして、怨敵がいるその世界に干渉することさえ叶わないのだ。
あんなヤバイ奴が安全策を用意せずに『神子』に近づくか…
<頭では分かっていた。でも、でも……!!>
「ふむ。腕は二つあるし、一個くらいいいか」
ルコの腕を無造作に引きちぎる。怒りの沸点が爆発する。
〔ってめぇ!!〕
<報われなさすぎるだろ。誰が望むというんだ。こんなっ、こんなやつの一人勝ちなんて!!……許されないんだ。許せるわけがないだろうがっ………!!!>
いくら吠えても何もできない無力感と、何もせずにはいられない衝動がオレを襲う。泣いていたかもしれない。情緒なんてとっくに壊れてしまっていた。オレらの状態なんて関係なくラジオは続ける。
「次国王は前国王の息子さんに継がせることを提案する。これは血縁や忖度などを度外視した純粋な評価として彼は有能だからだ。また、外交や業務についても安心してほしい。前国王に直接教わったその手法をまとめたノートを……」
この空間に留まらず、ラジオからも異変が生じる。
「あーあー。俺はアピス・カーセ。現在放送をジャックしてまーす」
〔は?〕
<この放送自体が過去のものだったのは分かる。それをジャックするのもまた、過去にプログラムしていたというのか?>
「俺が国王になりまーーす。彼らが保証してくれまーす」
〔ふざけんなっ!これ以上…命を懸けたあの子たちを侮辱するのh〕
そこまで、叫んだ時だった。
「前々国王だ。アピスは頭が切れる。何より、【雷】の『隣人』のNo.1であることも相まって、この国一の天才だろう」
「前国王のグルバンだ。わしの自慢の息子だ。人類の叡智を飛躍させる技術者にして、異能を管理する『施設』の最高責任者。勤勉で博愛的、史上最高の王になることを保証する」
〔なんで…だよ。……グルバン〕
理解不能。いや、理解したくのないともいえる。頭がまともに働かない。
「ふ~ん♪」
上機嫌にソファーでグルバンのものらしきノートを読む姿があまりにも憎たらしかった。同時に、何もできない自分もまた殺したくなるほど恨めしかった。
一言も言葉を発せずに、誰もいなくなったグルバンの私室で独り黄昏ていた。理解した。ただ手を貸すだけじゃ、少々時間をいじろうが、絶望的な結果は変えられないことに………。
必ず、アピスは潰す
クールダウンする。状況を理解したから、誰よりも状況を把握しているオレが、アピスとオレのせいで滅茶苦茶になってしまった世界に対して、オレにも責任があったのだ。緻密な計画な基で決行するとして、もう一つやることがあるのだ。グルバンの頼みを叶えなければ、本当にグルバンが報われないと思い、とにもかくにも会いに行くのだった。
《side??
ぼくは白めの部屋にいた。まぁ、ぼくは物質界や現世とも言える世界に干渉することは、ほとんどできやしない。ましては、なんの力も持たないただのガキだし、当然と言える。そんな死んだような日々でも対話ができる彼女と会えた。至福の時間。それだけで、幸せといえるほどに……。それが極上なのか、飢えているだけかは分からないけど、ただただ幸せだった。ぼくは日に日に悪化する彼女の容態を無視することなんてできやしない。
ぼくは病室の窓から外を見ていた。静かでどこか眠気を誘う夜風はぼくには影響せず、ボーっと月を見ながらつい願ってしまった。
<神様、彼女をどうか助けて下さい>
どこか既視感を覚えたんだ。どれだけ昔のことかは覚えているはずもない。でも、忘れるわけがなかった。
<”&…きみとの出会いもこんな夜だったっけ……>
現実に目を向ける。ベットに眠る儚い彼女の存在は無慈悲な現実を突きつける。
「……」
黙り込んだ。思考も限りなく無に近い。微かな希望なんて辛いだけだから……。言い慣れた現実逃避のフレーズを口に出す。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」
感情の死んだ声が辺りに虚しく響いた気がした……》
0
~このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係なく、すべて空想です~ 敬語や言葉選びはよく考えてはいるつもりだが、拙い文は長い目で見てやって欲しい。更新は調整中だが、頑張って完結予定。 X始めました!!! →https://x.com/kahiketu 世界観は独特で人を選ぶかもだけど、結構ジャンルは荒ぶると思う。ただ、単純にホラーとミステリーは得意じゃないから触れないかも。好きなのは、ファンタジー、異能、神、科学、記憶、(デス)ゲームなど。幽霊や呪いも使いはする(ホラーにはならないはず)。 辻褄を合わせたがるので、凝り性。設定チュウ(毒) 得意でないのは、恋愛やミステリー(=謎解き)、あとハーレムとか、R18系は基本無理。
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる