蜂蜜の君と

まきまき

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第二章

夜会の後で・・・・・

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後日、ランはイツの生家であるシライシの地にいた。

元々、辺境にあるシライシ領を治めていたダグス・ラルズ家公爵は、王家に隠れて街を発展させ莫大な財産を築いた。

田舎貴族と揶揄されているが、生活水準はかなり高い。


今、ランは、シライシ領の経理の手伝いをしていた。

辺境の地と言われているが、大量の蔵書がダグス・ラルズ家にはあり、ランは仕事の合間に読みふけっていた。


広い中庭で、ランは優雅にお茶をのんでいる。

「平和だ・・・・・・」

「平和ですね」

ミリがうふふと笑う。

「ラン、おかわりはいかが?」

ミリがポットを持ちながら、尋ねる。

「いただきます」

琥珀色の液体を注ぎ、ミリはにっこりと笑う。

前の職業のメイドに戻り、ミリが楽しそうにランの世話をしている。


シライシ領は王都よりも高山部にあり、気温は平均的に低い。

代わりに豊富な水と大地がある。

昔からいる使用人がダグス・ラルズ家の生家を守っているお陰で、屋敷は王都と遜色ない姿をしている。

むしろ芸術的には、こちらの屋敷の様相の方が豪奢なかもしれない。

特に庭が素晴らしく、何時でも花が咲き乱れている。

イツの母親が何時でも帰って来ていいように、オリオン公が庭師を配備しているときいた。

ミリは、うっとりといつも花を見ている。

女性は花が好きなのだなと、ランは観察していた。


ラン達にとって、ここの滞在は、休暇そのものだった。

貴族筋の人間が少ないのか、訓練されているのか蜜人と認識してくる人間はおらず、適度に距離を保ってくれて居心地がいい。


イツは、気に入った人間をどこまでも甘やかす。

隔絶された世界の中、ランとミリは穏やかな箱庭の中で過ごしていた。

サウスからの連絡も、特に妨害は無いように見える。

欲しいものを何気に配置する。

貴族の癖で、囲い込みを行うと聞くが、誰よりもスマートだと感心する。


今日、イツはいない。

シオンと一緒に、狩りをしに行った。

イツも王都に比べて、生き生きしているように見える。

ランのここでの日課は、イツに贈られてきた上等な白い紙で、王家印が封印されている封書を、庭師と執事と一緒に燃やすことだ。

王族関係の書類を燃やして大丈夫なのかと思うが、一応、執事が見極めて燃やしているらしい。

『サルタン王子の謝罪の戯言だから、イツ様の目が腐らないように燃やしています』


ダグス・ラルズ家の家人たちは、基本王族を嫌悪している。

過去にお家騒動に巻き込まれたせいだと思うが、容赦がない。

ただ毎日、かなりの厚さの手紙が贈られて来るのは、側で見ているランにとって恐怖であった。

たまに、ラン宛にもサルタン王子本人から手紙が来ているが、読む前にイツと執事達に燃やされている。

読むと後悔する、と言われたので、そのままにしている。

焚き火にあたりながら、ぼんやりと炎を見ている。

このまま、ここに定住しようかしら。

なんだか、もう疲れた。

ランは、治っている噛まれた手の傷痕を探しながら、そんな事を思っていた。




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